タイトル詐欺の停止教室編、終了です。
一万三千文字。
結局のところ、出した結論は簡単だった。
詳細不明のテロ集団に目を付けられた現状、周囲の人間に危険が及ぶ、かもしれない。
それがただの可能性であれ、大切な人達が危ないのであれば手段を選ぶつもりは無い。
――護れないのなら、護って貰う。
ジョン・オーリッシュは楽観しない。期待しない。だから、早々に切り捨てる事を決断した。
差し当たっては、自分自身の将来を。
今のジョンは無所属であり、悪魔との契約によって立場の保障を受けている。
何も無ければ現状維持で良かったのだが、事実として、公爵家次期当主の眷属用住居に容易く侵入してくる難敵が居り、何の因果かあからさまな熱意を持って勧誘してくる。目を付けられている。
力尽くで振り払おうにも、簡単に消えてくれるとは思えなかった。
逃げるか、守るか、いっそ飛び込み食い破るか。
逃げるのは不可能、と敢えて仮定する。曹操の説明はあくまでジョンを勧誘するための誘い文句であって、内部の詳細は不明なままだ。何も知らないのに相手を低く見るような楽観思考、護るべきものを持つ臆病なジョンには到底出来ない。
単身であれば、件のテロリスト集団に合流しても問題無かった。自分自身の安全のみなら、万が一何かがあっても彼は容易く割り切れる。自業自得だ、残念だった、とそれだけで。他人の気持ちなど考えもせず。
ジョンの主観では理由が謎だが、相手側からの熱意を強く感じた。あの聖槍使いと手を取り合った際、キラキラと、まるで夢見る少年のように輝く相手の瞳を間近で見ている。正直不気味でさえあったが、信頼を勝ち得た事実は認識していた。
ゆえに潜入自体は叶うだろう。あとは内側から情報を抜いて横流ししたり、機会があれば背中を刺して、任意のタイミングで組織を抜け出せば問題無い。
事前に、直接的な伝手のあるリアスと、癪ではあるがミカエル辺りに「スパイするから根回しヨロ^^」みたいな事を頼んでおけば、色々と片付いた後に何食わぬ顔で出戻り出来る、かもしれない。
彼にしては随分と曖昧且つ他人任せな部分が目立つが、あのポンコツ悪魔、もといリアスという個人ならば、能力はともかくとして、人格的には信頼しても良いかな、とこっそり思うジョンである。気付けば中々に絆されていた。
ちなみに本気で禍の団に所属する意思は全く無い。
所詮は泥舟。少なくとも彼はそう見る。
問題は、その泥舟がジョンを乗せようと正面衝突しに来ている点だ。実に勘弁して欲しいところだが、あの強い期待の視線を思い返すに、きっと逃がしてはくれないのだろう。
逃げるのは、敵が未知数で不安が残る。
泥舟に乗り込み頃合いを見て逃げ出そうにも、曹操の執着が少し怖い。機を見誤れば一緒に沈むし、三人を危険に誘うわけにもいかないからこそ、乗り込むのは彼一人。必然距離は離れてしまい、傍に居る事も叶わなくなる。
離れている間に何かあったら、と不安だった。単純に寂しくもある。
子供のような物言いではあるが、傍に居た上で護れるのなら、彼は喜んでその選択肢を選びたかった。目立ったデメリットが自身の悪魔化以外に見えないのなら、尚更だ。
なので護る。身を守る。彼にとっての大切な三人、ついでに自分の周囲を固める。
リアス・グレモリーの眷属になって、元72柱次期当主、兼、将来有望な上級悪魔である彼女の庇護下に皆で入る。
――要するに身売りだ。精々高く買って貰いたい。
無論現魔王とのコネへの期待もありはしたが、そこに関してはわざわざ言う事でもないだろう。
元々友人関係を構築していたジョンとアーシアに対して、御人好しのリアスは随分気にかけてくれてはいたが、身内と友人ではやはり比較して距離があり、扱いも異なる。ならば開き直って人をやめ、上級悪魔の傘下に入り、身の安全を買ってしまおう。眷属の身内ならばより直接的な庇護も得られるし、当人次第でアーシアも眷属化すれば良い。
イリナに関してはそこまで心配していない。
ゼノヴィアの持つデュランダルのような、唯一無二の価値を持たない、元教会の戦士。外から見ても手出しするだけの価値が無く、ジョンから飛び火する危険性にしても、身を守る事さえ出来ないアーシアと比べれば、余程心配が要らなかった。
教会を出ても、親子である紫藤トウジとの繋がりはある。最悪、父親を頼って教会の庇護下に逃げ込む事が出来るのが、イリナの強みだ。ジョンはそのように考えている。
今最も危うい立場に居るのはゼノヴィアだ。
あの話し合いに同席していた、デュランダル使い。英雄派に関する多少の情報を記憶し、何よりも現状最強の破壊力を有する聖剣の持ち主。
彼女は紛れも無く逸材だ。それが人であろうと剣であろうと、手に入るのならば、如何なる手段を用いてでも手に入れたいと思うのは至極当然。だから早急に彼女の、ゼノヴィアの身の安全を確保する必要があった。
次は危険性から言ってジョン自身の番ではあるが、こちらに関してはあまり心配していない。
先の説明の通り、自分の事ならどうにでもなる。能力的にも、心情的にも、然して考慮に値しない。自分の周囲に大切な人が三人居て、個人として幸せならば。本当に、望むものはそれだけだ。
しかし現実というのはどこまでも彼にとって都合が悪い。
平穏な生活に耽溺し、このまま時が過ぎれば良いとさえ思って流されていたが、決断するべき時が来てしまったのだ。根無し草のままでは、大事なものを護れない。個人の力、だけでは足りない。もっと大きな、彼にとっての大事な全てを纏めて護れる力が欲しい。
だから彼は、悪魔に転生した。
事情を聞いた上で笑って受け入れてくれた、人の良いリアスには感謝している。
今まで散々素っ気無く断ってきたのに、彼の申し出に彼女は喜び、悪魔の駒を取り出した。
残念ながら、本来の適正とは異なる駒を担う事になったが、兵士三つ分で足りないのならば仕方ない。ここは才があった事を喜ぼう。
――リアス・グレモリーの『
それが、今後彼の背負い続ける肩書きだ。
「ふふっ、これからよろしくねジョン、ゼノヴィア。困った事があったら何でも言うのよっ!」
「サンキューリアス」
「せめて『部長』って呼んでくれない???」
無邪気に喜ぶ主を前に、新たな眷属悪魔は相変わらずの無表情で、感謝の言葉を口にする。
イッセーにもまだ呼ばれてないのに……、などと小さく呟くリアスだったが、乙女な台詞を聞き届けてくれる人は全く関心の無いジョンと、ドSな朱乃くらいしか居なかった。
後で己が『女王』に散々からかわれる事が決定した かわいそうな『王』を尻目に、新たな仲間を迎えた眷属一同は和気藹々と言葉を交わす。
「改めて、これから宜しくねジョン君」
「これでやっと俺にも後輩が……。しかも一人は美少女! これは吹いてるな、風が!」
「よ、よろしくお願いしますぅ~……っ」
にこやかに手を差し伸べる木場と、外面だけなら美人なゼノヴィアの眷属化に喜びの声を上げる一誠。なお、後者の女子への幻想が砕け散るのは、割とすぐの事である。
そしてジョンを含めた男子三名の足元には謎の段ボール。
先頃封印を解かれたグレモリー眷属一人目の『僧侶』、ギャスパー・ヴラディが新顔二人に怯えながらも、少々聞き取り辛い小さな声で挨拶していた。
男女でそれぞれ分かれて暫しの歓談。
その、悪魔同士の輪から外れたオカ研部室の一角で、金色の少女が思い詰めた表情でジョンの横顔を見つめていた。
彼女の名前はアーシア・アルジェント。彼にとって、今最も身近な存在。
話を、しなければならない。
だってまだ、彼女には何も話していないのだ。
□
「こうして一緒に歩くの、なんだか凄く久しぶりみたいです」
夕方、グレモリー眷属が開いた新人歓迎会からの、帰路。
ジョンとアーシアは二人並んで自宅への道を歩いていた。
彼等の擦れ違いを知っているリアスが気を利かせて、今日は初日だから悪魔の仕事は御休み、という事で早めの時間に帰してくれたのだ。
アーシアは一緒に歩くのが久しぶりだと言っているが、実際には一週間も経っていない。
とはいえ、ヴァチカン追放直後からずっと一緒だった二人だ、離れていたのがほんの数日の間だとしても、見慣れた姿が傍に居ない事に違和感を覚えるのはおかしくない。
コカビエルの時でさえ半日も離れていなかったのだ。常にべったり、というのが二人を表すのには適切だろうか。
かつて聖女だった頃は一人で居るのが当然だったのに、随分と贅沢になったものだ、とアーシア自身も笑ってしまう。
が、不意に笑みを止めて、彼女がジョンへと身体を向けた。
言うべきか、言わざるべきか。悩むような仕草の後に、ようやく口を開いて彼へと訊ねる。
「ジョンさん。悪魔に、なった事。……私のせいですか?」
表情には、――期待があった。
自分のせい、と言ってはいるが。その実、自分のためだ、と言って欲しい。少女の声音には、そう懇願する響きが含まれていた。
何時も自分を助けてくれた人が、今回もまた、自分のために人間さえやめてしまった。――そんな、酷く浅ましい女の期待。
彼女自身に、自覚は無い。
かつて彼女は無垢だった。
知らないがゆえに純粋で、子供のような心と視点で世界を見ていた。
それを変えたのは、今目の前に居る少年だ。
人ではない、ただの象徴としての聖女であったアーシアを、組み敷いて穢し、時間を掛けて
少女は今でも優しいままだが、その心の内に入り込んだジョンという不純物が、聖女を魔女に、そして人間へと変えていたのだ。
もはや彼女は、清らかなだけの乙女ではない。好き嫌いはするし優先順位も当然付ける、自分以外のジョンに近しい女性に対して嫉妬だってする、ただの一人の女の子だ。彼女自身に自覚が無くとも、傷付き、汚れる事で成長していた。
だから期待する。夢を見る。
そしてそれを、裏切られる事だって、当然あった。
「みんなと一緒に居る為だ」
「みんな……」
その言葉に、少女の表情が悲しそうに歪む。期待を裏切られた顔だった。
『みんな』が誰かを、彼女は既に知っている。少なくとも、その一人だけは確実に。
ジョン・オーリッシュは誤魔化さない。全て言うのだと決めている。
だから、手を伸ばしてアーシアに触れた。
肩に手を置き、頬を擽る。しかし、何時もなら喜んだだろう触れ合いに、少女は僅かに首を振って拒絶した。
「アーシア?」
「……いやです」
聞きたくない。
首を振って、俯いた。視線を合わせず、呼び掛けを拒み、彼の言葉を否定する。
「アーシア」
譲れないものが三つある。
それら全てを大事にしたいと、少年はそんな贅沢な本音を言うつもりだった。そのために人間を捨てたのだと、今更、転生が成って、取り返しが付かなくなった後に説明するつもりだったのだ。
聞かされる側は、言葉の中身までは予測出来ない。それでも、きっと自分にとって嬉しくない事を言うつもりなのだと、少女はなんとなくだが理解している。
だから拒んだ。
拒む度に、アーシアの中の汚くなった部分が浮かび上がるように姿を見せる。
「嫌。いやです。そんな言葉、聞きたくないです」
両手を捕まえて顔を寄せるが、少女は俯いたまま首を振る。振り回される金髪が、少年の顔に当たって音を立てた。
どうにか宥めようと言葉をかけても、彼女は全く聞いてもくれない。
「わたし、私、もう、絶対我儘言いませんから。ジョンさんが言うなら、なんでも出来ます」
追い詰められたような翠の視線が、地面だけを睨み付けている。
握った手首が、酷く細い。簡単に手折ってしまえそうなそれは、戦う事を知らない少女のものだ。
だが、気のせいでなければ、引き篭もる以前に見た時よりも、全体的に線が細い。
たった一週間足らず。何処にでも居る一般人の少女よりも一層脆く、日々を穏やかに生きる事しか出来ないアーシアには、たったそれだけの短い期間でも抱えた負担が大き過ぎた。
離れ離れになった事による心労と寂しさ、元より健啖家ではなかったが、更に減退した食欲。自分の拒絶がジョンの家出の理由と考え、ずっとずっと気にしていたのだ。
友人であるリアスや小猫に相談して買い揃えた、街中に居る普通の女の子みたいな可愛らしい装いが、夕日の中で赤く染まっていた。
その下の身体も、きっと手首のように細くなってしまっているのだろう。
「お料理も沢山練習してるんです。家の掃除だって欠かしませんし、可愛いって言って貰えるように、リアスさん達とファッションの勉強もしました。まだ、慣れないですけど、きっとすぐに」
髪の手入れも肌の磨き方も、全然知らなかった色んな事を、教えて貰いながら頑張っている。
既に好きな人の居るリアスと、まだ居ない小猫、時折茶化すだけの朱乃も混ざって、三人もの友達と一緒に、女性陣みんなで恋の話を膨らませていた。
そういう雑誌に目を通し、性的な知識も蓄えている。
一言シたいと言われれば、きっと何だって出来るだろう。
全部、目の前に居る彼のためだ。
好きになって欲しいから。好きだと言って欲しいから。イリナよりも、他にも居るだろう誰かよりも。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、――もっと。
「わたしの、ことっ、好きになってください! ――誰よりも!!」
泣きながらアーシアが叫びを上げた。心の底からの、生まれて初めての我儘だった。
みんなの為だなんて言わないで欲しい。自分だけを、とそう言っている。
覗き込むように近く、寄り過ぎた顔が互いに触れ合う。
少年の唇が少女に当たり、溢れる涙の味がした。何時かの嬉し涙よりもずっと辛い、彼女の悲しみの味がする。
不意に起こった僅かな接触。それを、アーシアが拒んだ。首を振って、顔を離す。
「駄目っ! だって、誤魔化す奴です、それ。キス、今されたら私っ」
――誤魔化されてしまう。だって、好きだからだ。好きだから、自分から進んで馬鹿になる。誤魔化されたいとさえ思ってしまう事を、彼女は既に知っている。だから唇を、触れ合いを拒む。両手を離せと身を捩った。
涙を流しながら声を上げる。精一杯の怒鳴り声。
それを少年が、口で塞いで全て飲み込む。
力尽くで押さえ込みながら、怪我だけはしないようにと気遣って。何度も何度もキスをした。
理由は無い。誤魔化すつもりは特に無かった。ただ、泣きじゃくる彼女を止めてしまいたいと、それだけで。子供にも出来る精一杯の自己表現の手段をもって、未熟な少年が何度も触れる。
「どうしてっ」
どうして自分だけでは駄目なのかと、少女が泣いて叫んでいる。
夕暮れ時の帰り道。疎らにある人通りなんて気にならない。大きな声に視線を向けてくる人が幾らか居ても、そんなものは目に映らない。
目の前の少年以外、どうでも良かった。要らなかった。大切な、やっと出来た友達の事だって、今だけは頭の中から消えている。
たった一人が居るだけで満たされていたのに、なのに相手は他にもと欲張る。それは、あまりにも酷い話じゃないか。少女をこんな風にしたのは、彼だというのに。
「私じゃ、駄目ですか……?」
何度も叫び、嗄れた声音でアーシアが訊ねた。
答えは返せない。
だって、どう考えても少女の方が正論だった。冷静に考えて、否、冷静に考えずとも、三股なんてクズの所業だ。大事だから、好きだから、そんな子供の理論で誰を納得させられる。
ジョンが言おうとした言葉なんて、まさしく子供の我儘なのだ。
みんな一緒で、みんな幸せ。
言葉面だけなら綺麗であるが、こうして、全力で嫌だと言う一人の少女を前にすれば、薄っぺらい事この上無い。何も言えずに、ただ見つめ返すのが精一杯だ。
彼の知る、他の二人よりも細い身体を抱き締める。泣き喚く彼女は、今度こそ抵抗出来なかった。
流石に見かねたのだろう、周りから掛けられる誰かの声が耳に届いた。が、応える余裕なんて二人揃って欠片も無い。
偶然その場を通りかかったイリナが来るまで、二人はずっと、人に囲まれ抱き締め合っていた。
□
「ジョン、悪魔になったんだ」
「……ん」
数日振りに合う友人からの問い掛けに、少年が短く返事を返す。
先程の場所から遠く離れて、町の公園まで逃げてきた。
備え付けのベンチの上、ジョンを挟んで両隣に少女が二人。その内片方とは正式な恋人ではない肉体関係、もう片方とは強姦された間柄。どちらとも、少し特殊で無駄に生々しいベッド上での真実を除けば、両手に花と言えなくもなかった。
「良かったの? その、悪魔になったら、やっぱり色々と……」
視線を合わせず、イリナが言う。
が、逆レイプ事件以降初めての会話だ。緊張していて上手く言えない。
声色も所々乱れ気味で、今の話題もほとんど誤魔化し。心配自体はしているが、本当に言いたい事、訊くべき事はそれでは無かった。
なのに、言葉が口から出て来てくれない。
しどろもどろに言葉を重ねるイリナの話が、やがてぷっつりと途切れてしまった。
そうして生まれた沈黙を、最初に破ったのはアーシアだった。
「イリナさん」
つい先程の泣き声とは似ても似つかない、平坦な声。
呼びかけられた側は応えない。しかし聞こえているのは確かだろう、ジョンの傍らにあるイリナの肩がぴくりと動いたのを確かに感じた。
反応はしたが、返事は無い。
「わたし、ジョンさんとセックスしてます」
その一言で、空気が冷えた。
風が止む。七月も近いというのに、暖かさが感じられない。
アーシアの爆弾発言に、渦中のジョンは何と言えばいいのかも分からない。
イリナが、口を開いた。
「わたしもシたわ、セックスくらい」
お前のはレイプだ、とは今のジョンにはツッコめなかった。
「毎日沢山、ジョンさんに中に出して貰ってるんです。もう妊娠してるかも知れません」
「……そう。私も中に出して貰ったわ。奇遇ね、アーシアさん」
今度の会話は、間が少なかった。
イリナとアーシアが交互に言う。徐々に声の響きが強くなる。口調は大人しいのに、台詞の中身は生々しかった。
攻撃的な空気の中で、次から次へと性的な話題で二人が言い合う。挟まれる位置に居るジョンは、ただひたすらに口を噤んで、何も言えずに俯いていく。何を言えば良いのか分からない、実に無力な姿であった。
「わたし。……私、初めて会った時にジョンさんに押し倒されたんです。無理矢理キスされて、胸も、一杯揉まれて。痛くて、すごく強引でした。抵抗なんて出来ませんでした」
「そうなの。それは怖かったわね。これからは私がジョンにしてあげるから、もうアーシアさんは無理しなくて良いのよ。お疲れ様」
かつてのジョンの行いが暴露され、しかしこの場の誰一人として動揺しない。
初めて聞いたイリナでさえも、あっさり頷き、言葉面だけは優しく言い返す。
「……そういう意味じゃありません」
「じゃあどういう意味かしら。ああ、別に気遣ってくれなくても良いのよ? 私なら嬉しいくらいだもの。――貴女と違って」
バン、と大きな音を立てて木製のベンチが音を鳴らした。
ジョンの右側で立ち上がったアーシアが、ジョンを挟んでイリナを睨む。
ジョンの左側で立ち上がったイリナが、ジョンを挟んでアーシアを睨む。
向かい合った二人共が、眦を吊り上げて相手を、
「私がします!! 私がッ、私がジョンさんにしてあげるんです! ――邪魔しないで!!!」
「後からしゃしゃり出て来て何!? あんたッ、貴女だって後出しで、私からジョンの事奪ったじゃない!! ――邪魔なのは貴女でしょ、魔女のくせに!!!」
言葉に熱が入る。口調が早くなっていく。
アーシアは始めから、イリナはそれに釣られるように。頭の中はぐちゃぐちゃだった。
牽制と拒絶から入り、執着心と独占欲が表れる。そして次に、酷く強い、対抗心。
目の前の女が、一番要らない。どうしようもなく邪魔だった。
「良いじゃないですか、魔女でッ!! 魔女だから、魔女だからジョンさんと会えたんです、抱いて貰って、キスも沢山して、わた、わたしっ、この人と結婚しますから!!!」
「ふざけないでよ!! ジョンのキャリアが貴女のせいで台無しになったのよ! ずっと、ずっと頑張ってたの私が一番知ってるんだから!! なに勝手な事言ってるのよ!!!」
少年の頭上で、女同士の言い争いが
頭の中に、昼間の、歓迎会での記憶が蘇る。――俺はハーレム王になる! という兵藤一誠の言葉。それに、ジョンは思った、やめとけ、と。少なくとも、教会育ちの彼にこの修羅場を治める手段は思いつかなかった。
やはりゼノ助の意見は当てにならない。
好きだからセックスをする、それだけで良い、なんて嘘っぱちだ。全然駄目だ。森の理論はコンクリートジャングルでは通じない。ジョンは言い争う二人の事が大好きだったが、好意だけでは現状の打開が出来ない事を知ってしまった。それと同時に、自分の想定が如何に甘々だったかを自覚する。
――ああゼノ助。助けてゼノ助。もうどうすれば良いのか分からないんだ。
奴は今日の歓迎会でもひたすら肉ばかりを貪って、ジョンから上質な動物性蛋白質を摂取する機会を奪っていったのだ。脳内でゴリラの服を剥いて辱め、煩悩によって女の戦いから目を逸らす。逸らしてはいけないのだが、本当に、どうすれば良いのか彼にはさっぱり分からなかった。幼児並の恋愛観では、女の戦いには参戦出来ない。
戦い以外の役には立たない己の脳味噌を強く呪う。
だが逃避など許されない。何故なら彼は、この場の主役の一人なのだから。
俯いて顔を両手で覆うジョン。その襟首を、――横から強引に引っ張られた。
「あっ。ああ゛――っ!!?」
視界に翠の瞳が映る。柔らかな感触を口元に感じ、自分がキスされているのだと理解した。
湿った唇と、口内を嘗め回す舌の動き。それに反応した少年の身体がひくひくと動く。
左隣、首を捻らされているせいで背後になったイリナの方から、醜い叫び声が消えてくる。
ぷは、と互いの唇が離された。
見上げたアーシアの顔は、彼の事など見ていない。視線の先はイリナの居る方向だ。
挑むように睨む、常の彼女には決して似合わないだろう強い敵意を感じさせる表情。その中に、僅かながらの優越感が見て取れた。口端が歪んで、笑っている。
「――このッ!」
再度、今度は背後からジョンの襟首が掴まれた。
強引に、ベンチの上に仰向けになる形で引き倒される。
今まで彼を掴んでいたアーシアは、戦士であるイリナとは膂力の差が大き過ぎ、あっさりと男を奪われ慌て出す。
しかし、取り返すための手が届くよりもずっと早く、少年の唇を奪われた。
舌が捻じ込まれ、口内をまさぐる。キスをしながら上になったイリナが首を捻って、その度に角度を変えながら、舌、歯列、頬、上顎、と別の場所を舐めては愛撫する。
歯の裏側を彼女の舌先で擽られ、その度にぞくぞくとした快楽に腰が引くつき、言葉にならずに小さく呻く。
彼の身体に飛びついて来たアーシアが精一杯引っ張ったが、力の差は歴然だ。押しても引いても動かせず、栗毛の少女は悠々と彼の内側を味わい続けた。
引っ張りだこ となった少年は、抵抗も何も出来ないままだ。
もう頭の中が真っ白だった。せめて怪我をするような事だけはしないで欲しいと切に願うが、それを言葉にするだけの余裕も無い。
だって悪いのは自分なのだ。
アーシアにした事は忘れていないし、イリナが暴走した事だって、自分に非があったのだろうと考えている。この場に居る二人共が己にとっての大事な相手だからこそ、責任を押し付けるような事が出来ない。
それが優しさではなく甘さ、あるいは優柔不断と呼ばれるような選択だろうと、二人の内どちらかを責めるよりはずっとずっと楽だった。楽な方に、逃げていた。
股間の辺りがまさぐられている。
かちかちと金属音が小さく鳴って、次いで感じたのは開放感。
キスを続けるイリナが気付き、責めるような唸り声を上げた。
「むっ!? むぅ――!!」
露出させた少年の股間を、金色の少女が顔と両手で愛撫していた。
未だ膨らんでいない小さな一物を両手で掬って、柔らかな頬に摺り寄せる。時々唇を棒の表面にそっと寄せ、その度に軽く食むように口で性器を味わった。
熱と、ぬめりと、吸い込むような口での愛撫。細い指先が肉棒を撫で上げ、先走ったものが溢れ出しては、少女が つるりと飲み込んだ。
上からはイリナの口淫が。下からはアーシアからの口淫が。
天国と天国が上下にあって、なのに心は昂ぶってくれない。身体、というか股間はしっかり反応し、徐々に膨れて勃ち上がり、それに喜ぶアーシアが、笑みを浮かべてイリナを嗤う。
「わたしの方が良いみたいですね。ね、ジョンさん?」
「っこの……!」
ちゅ、と肉棒に少女のキスが落とされる。
敏感な部分への明確な刺激。びくりと震える堪え性の無い男性器に、少年はもはや事態の解決を諦めた。
対抗心を剥き出しにした少女達は、目の前の敵を打ち負かすためだけに、彼の身体を使って競う。夕暮れ時の公園の一角、男一人と女が二人。一種異常な光景だったが、頭に血が上った彼女達は止まる事など考えられずに、ただ行動ばかりが加速する。
上半身の衣服を脱がされ、身を乗り出したイリナの口が、彼の胸板を舌先で舐める。刷毛で引き伸ばすように彼女の唾液が胸板を濡らし、外気に触れてひやりと冷える。くすぐったいくらいの力加減、乳首をちろちろ舐められると、おかしな感覚が背筋を走った。
少女の両手が素肌をすべり、臍や脇腹、くぼんだ脇の辺りまでを広げた手の平で撫で回す。
ぞくぞくする。不快ではないが、慣れない刺激だ。
伸びたイリナの舌が少年の臍に差し込まれ、痛くないように優しく穿る。不快かと思えば気持ち良く、熱されたような朱色の肉が臍の内側をじゅぶじゅぶと、音を立てながら愛撫した。
仰向けの彼の上に身を乗り出した姿勢ゆえ、豊かな双丘が顔面に着地し、彼女が身体を動かす度に、温かく柔らかな肉饅頭が押し付けられて形を変えた。嗅覚を刺激する蒸れたような匂いが、どこか甘い。
乳房の形が頬や目蓋、鼻の頭で撓む度、言葉に出来ない男性特有の喜びを覚える。
下のアーシアだって負けていない。
大きく深く、喉まで咥え込んだ陰茎を扱く。慣れていない動きのために幾度も嘔吐き、その都度動きを僅かに変えて、休む事無く口での抽挿を繰り返す。
熱い。柔らかい。ぬるぬるとした唾液たっぷりの口内が、酷く気持ちの良い穴となって彼の性器を刺激する。どろどろに温まった上の性器で肉棒を洗われ、腰が幾度も震えて跳ねる、もはや射精が目前だった。
この公園に人目が無い事が唯一の救いだ。
口元を塞ぐ乳房を噛んで、イリナの身体に顔を押し潰されながらも大きく唸る。
耐える事無く吐き出して、喉奥目掛けて真っ直ぐ飛び出す精液で、アーシアが強く咳き込んだ。
思わず口を離してしまい、こぼれた陰茎からは臭い白濁が少女の顔へと何度も飛び散る。
それを、イリナが捕まえる。
身を乗り出していた先の姿勢も完全に変わって、もはや69の体勢だった。勿体無いとばかりに射精途中の性器を咥え、自身の身体を下になった少年の身体に何度も何度も擦り付ける。少年の視界は、衣服越しのイリナの股間で埋め尽くされていた。
雌の匂いが、酷く強い。
「――はっ」
鼻で笑う声がした。少年ならば聞き間違えない、イリナのものだ。
奉仕の一つも満足に出来ないのか、と股間に顔を埋めたままのイリナが、アーシアを笑う。自分だって生まれて初めて男のモノを咥えたくせに、それを おくびにも出さずに優位を気取った。
笑われたアーシアは悔しそうな顔で、座り込んだまま顔に飛び散った精液を舐め取る。
場所も弁えず、金色の少女が衣服を脱いで上半身を露出した。
見下す視線で、栗毛の少女もまた晒す。先の少女よりも全体的に肉付きの良い、より魅力的な女の肢体を。
どちらも、心の奥底にあるものは全く同じ。
――渡さない。
身体を使った男の取り合い。当の少年が完全に置いてきぼりであるという事実を除けば、あるいはこれは、男の夢と呼ぶべき光景だった。一誠辺りが知れば、恐らくは泣いて喜ぶほどの。
けれど現実は非情である。
彼への恋情を種火として、対抗心ばかりが燃え上がる。想い人の心象さえもを脇に置き、二人の少女は生まれて初めての恋の鞘当てに意識の全てを囚われていた。
やがて夕日が西へと沈む。
美しい少女二人に貪られながら、少年の悪魔生活初日は更けていくのであった――。
□
初日だからと悪魔の仕事を免除されたゼノヴィアが、何時まで待っても帰って来ないイリナを心配して、夜の駒王町を走っていた。
そんな彼女も、悪魔に転生した事を実は結構気にしていたが、他ならないジョンの頼み。自分を心配しているという言葉も貰えて御満悦な青毛の少女は、転生初日にして、割と素直に新たな人生に順応し始めていた。
と、彼女の視線が知り合いの姿を一つ捉える。
「塔城、だったな。何をしているんだ?」
「ぁ。……ゼノ、ヴィアさん」
猫のような耳と尻尾を生やして座り込んでいる彼女は、赤らんだ顔で公園の奥を見つめながら、余り得意ではない人除けの結界を維持し続けていた。
悪魔の仕事だろうか、と首を傾げたゼノヴィアが、公園の入り口に座り込む塔城小猫の視線を追った。
――少女が腰を振っている。
少年の身体に跨って、見知った栗毛の少女が騎乗位の姿勢で腰を振っていた。
傍らには金髪の少女。こちらは全裸で仰向けになる少年に向かって、何度もキスをしながら己の乳房を掴ませている。
夜の公園、星空の下。全裸で踊る男女の宴。
端的に言えば、それは乱交の現場だった。
「成程」
「違うんです」
なるほど、と頷くゼノヴィアに、月が昇るまで乱交を眺め続けていた小猫が言い訳する。
友人のアーシアが暗い顔をしていた事が心配で、リアスに許可を取ってまで追いかけて、割って入れる空気ではなかったので見守っていたら、――乱交を始めて。
止めるべきか立ち去るべきか。悩んだ末に、現場を他人に見られないように、と友達想いな彼女は結界を張ってこの場を死守した。死守しながら、死守しているからこそ、離れる事も叶わずに、ずっと現場を見守る破目に陥っていた。
ちょっと当てられて発情しかけたが、距離もあるので、ギリギリ我慢の出来る範疇だ。
別に、覗き見が目的ではない。本当である。
ちなみにゼノヴィアは小猫の事など疑っていない。
ただ単に、「青姦、そういうのもあるのか!」とセックスの新たな可能性に気付いただけだ。
「そうか」
「はいっ、そうなんです」
ゼノヴィアの相槌に、食い気味の小猫が頷いた。
そしてそのまま、青毛の野性が公園の中へと入り込む。
「!?」
小猫は驚愕した。
まさかあの場に足を踏み入れようとする痴女、もとい馬鹿が居るとは、想像だにしていなかった。
いや違う、そうではない。友人の邪魔を、させるわけにはいかないのだ。むしろ邪魔した方が良いくらいに倫理観の欠如した光景だったが、生の乱交を見過ぎて脳が茹だった状態の淫乱猫ショウは、謎の使命感に燃えていた。あの乱交を、最後まで守護らねばならぬ、と。
「――大丈夫だ、ちょっと混ざって来るだけさ」
「全然ダイジョブじゃにゃいです!?」
ニヒルな笑みを浮かべて親指を立てたゴリラが一頭、白猫の制止も聞かずに、渦中の三人へと近付いていく。
声を掛けても止められず、ならば直接、と思い立っても動けない。発情しきっていないと自分では言うが、情事に当てられた未だ幼い小猫の身体は、初めての感覚に戸惑っている。耳も尻尾も出しっ放しで仕舞いきれずに、腰にも力が入らない。股間は既に湿ってぬるい。
やがて遠くから見守るだけの小猫の視界で、新たな参加者が乱交に混じって絡みだす。
「ああ……」
哀れむような、諦めるような吐息が漏れた。
本来ならば女の敵だと蔑む所だが、見ている限り、主導権はジョンに無い。一方的に少女二人に絞られて、今また更に、追加でゼノヴィアが彼の裸体に取り付いた。
せめて見ないであげようか、などと考え星を見上げて。しかし生来の優れた聴覚で何が起きているかは丸分かりだ。
「がんばってくださいね……」
新たに加わった仲間に向けて、『戦車』の先輩が小さく励ます。届かない事は承知の上で。
この翌日から激化する、ジョンに対する性的なアプローチ。
非情に生臭い紆余曲折はあったが、結果としてアーシアの涙は止まり、イリナとの複雑な関係も形を変えた。しかし、彼の受難は正に此処からが本番なのだ。
やがて訪れる己の未来を知らぬまま、生まれたての転生悪魔ジョン・オーリッシュは死んだような目で少女三人に弄ばれていた。
助けは、来ない。
彼は結局、朝までずっと、休まず絞られ続けるのであった。
吹っ切れたからと言って上手く行くとは限らないオリ主が、修羅場で役立たずっぷりを晒す話。
修羅場を予定してから実際到達するまでに十話以上。長かった……。
あとは四人で適当にズブズブしながらストーリーを消化するだけです。
以下、設定メモ。
オリ主
幼稚園児~小学校低学年並。
肉体関係はあれど、本質的には「すき!」で全部済む子供恋愛。
流され系主人公。人の心が分からない修羅場製造機。
「どうしてこうなったのか本当にわからない……(真顔」
アーシア
中高生並の発展途上。
一夫一妻が当然という常識的思考。聖女様は汚れる事で大人になりました。
「大丈夫です、子供の名前はもう決めてますから!」
イリナ
高校生。年齢相応。
手酷いNTR経験によって拗らせた。ある意味最も警戒すべきゼノヴィアに気付いていない。
「――私の方が先に好きになったのに!!!」
ゼノヴィア
森の理、野性の掟。あと本能。
ハーレム? 何か問題あるのか? な安全地帯。ただし倫理観ガバガバの両刀(無自覚)。
「ウホ? ウホウホホ、ウホ?」