ようやく二人の関係が進みます(どこまで進むかは言ってない)。
地に突き立てられた聖剣が輝き、グレモリー眷属の視界を照らす。
魔を祓い清める光の波動。悪魔である彼女達にとっては毒にしかならないソレを差し示し、聖剣使いの少年が朗々たる声音でもって短く言った。
――契約だ、と。
ソレの名が『天閃の聖剣』という伝説の一欠けらである事実を、悪魔側に立つ誰もが知らない。
かつて聖剣に纏わる死と慟哭を味わった木場でさえ、直接的に七つのエクスカリバーを目にした事など一度も無かった。だって所詮彼は、教会から見れば使い捨ての実験動物の一人に過ぎなかったのだから。
ゆえに。
ただただ今は、数多在る憎き聖剣の一振りであるという認識によって滾る憎悪に油を注ぐのみ。
ジョン・オーリッシュは聖剣を対価として、彼等駒王の者達に悪魔の契約を申し出る。
少年の傍らでは地に落とされたアーシアが、手荷物の如く振り回され過ぎたせいで込み上げる嘔吐感と現状に対する恐怖で涙目になりながら痙攣していた。リアスから見ればそれは、エクソシスト集団による追跡劇と迫り来る死への恐怖で泣いて震える悲劇の美少女そのものだ。
ちきちきと音を立ててリアス・グレモリーの聡明かもしれない悪魔的頭脳が回り出す。
各所に設置された小規模結界は、悪魔側に向けた精一杯の救援要請と視線の誘引。
目の前の二人は堕天使陣営に追われる可哀想な被害者、恐らくは互い愛し合う恋人同士。
上空でこちらを見下ろし嘲笑を浮かべる堕天使達も、あからさま過ぎる程に悪役だった。
以上。
――年若き領主リアス・グレモリーは利と情に因った思索の果てに、この場における決を下した。
「契約成立よ。――あとは私達に任せなさい!」
虚空に生じた駱駝の印章。紅き公爵を表す家紋が輝いた。
悪魔の契約が此処に成る。彼の願いは保護と助命、支払われる対価は聖剣一つ。
廻る魔法陣が契約の締結を盛大に知らせて、上空に浮かぶ『女王』はこの状況を作り出してしまった元凶二人に対するお優しい判断に苦笑を漏らしながらも、手の内から生じる雷音でもって己の賛意を主に伝えた。
対するエクソシスト達は僅かながらに志気が鈍った。
逃亡した新入り二人を追い立てるだけの仕事であった筈なのに、僅か一分未満の遣り取りのみで敵に悪魔が幾らか増えた。割に合わない、危険ではないか、と自己の保身に思考を囚われる者達がこの時点で早数人。
「狼狽えるな。貴様等には我等堕天使の加護がある」
上空で彼等エクソシストの監督をしていた男堕天使ドーナシークが一喝する。
わざとらしく口笛を吹いて真面目な同僚を揶揄うミッテルトと、早く帰りたいなとか考えながら月を仰いだカラワーナ。眼下のエクソシスト達は、グレモリー眷属という小勢相手ならばと武器を構えて対峙する。
そして始まったのは、乱戦だ。
まず最初に、聖剣を目にして常の冷静さを擲った木場祐斗が暴走する。
大恩ある主の命令。教会の信徒共を想起させるエクソシストに追われていた、被害者。忌々しい聖剣の、眩い光。――幾ら殺しても問題の無い、数多蠢く獲物達。
「ガアアアアアア――ッ!!」
胸中に封じ込めていた負の感情が暴れ狂い、駆け出す両脚に過剰なほどの力が篭る。
獣染みた雄叫びさえ上げて走り出し、神器で創った魔剣を振りかざすグレモリーの『騎士』。
この時点で、早くもリアス・グレモリーは己の失態を自覚する。大切な眷属悪魔である木場祐斗が心の内に抱えるものを知りながら、みすみす暴走を許してしまった。
制止する為の声を掛けるか追うべきか、行動に迷った僅か数秒で『騎士』の背中が遠ざかる。
続くように、木場を気遣う塔城小猫も前へ出た。
光の武器を持つエクソシストとの集団戦。一人孤立し包囲されれば、悪魔である木場は いとも容易く殺されるだろう。過去の経験から身近な相手を失う事に対して人一倍臆病な『戦車』が、先鋒に合わせて躍り出た。
上空の『女王』は堕天使三名を敵に回しての防衛戦。何よりも、眼下に向けた光力の流れ弾をこそ警戒しており、そのための牽制に忙しい。先走った木場と小猫が光の毒を食らわぬようにと、朱乃の攻め手はどうにも手ぬるくなっていた。
ゆえに下方への援護は不可能。
リアスの背後で一人出遅れた兵藤一誠。実戦経験皆無の彼は、瞬く間に変化していく目の前の状況に意識が付いていけないままだ。
視線のみでの右往左往。結果的には逸って進むよりも余程賢い、しかし役には立たない有り様だった。
「イッセー、貴方は此処に居なさい」
新人である『兵士』の事は心配だったが、今は何より前線で戦う『騎士』と『戦車』を支援せねばならない。二人の実力は信頼しているが、それとこれとは話が別だ。
ゆえに此処、後方での待機を命じ、『王』たるリアスも翼を広げてその身を宙空へと乗り出した。
乱戦に突入する、人と悪魔と堕天使の混成集団。
直接巻き込まれる事の無い位置に取り残されたのはリアスの『兵士』である一誠と、先に結んだ契約ゆえに結果として戦いそのものから遠ざけられる事となったジョンとアーシア。
其処に、今宵最後の登場人物が現れた。
「ようやく見つけたわよ、ジョン」
――わたしのかわいい聖剣使い。
ソレは黒い翼を背から生やした一人の女。
争いの渦中から僅かに離れた駒王学園正門前。一人、集団とは別の追跡経路での接近を成功させた堕天使レイナーレが、台詞とは裏腹な おどろおどろしい声音で逃亡者の名前を口にした。
「夕麻、ちゃん……?」
彼女を目にして、兵藤一誠が呆然と呟く。
身の内に宿る神器を理由として、彼の命を奪った女。仕事中の息抜き程度という軽い気持ちで恋人ごっこを演じた果てに、嗤いながら一誠の心を踏み躙っていった、彼にとっての初恋相手。
レイナーレは、数日前に使い捨てた己の偽名での呼び掛けに一度視線を向けて、逸らし、ふと思い出したかのようにもう一度、一人立ち尽くす一誠の元へと振り向いた。
「なに、悪魔になったの、貴方?」
不快な害虫を目にしたかのように吐き捨てる声。
軽く振るった左手に、堕天使の用いる光力が集った。
「――いけないっ!」
上空で堕天使三名を相手に、下方の戦場へ介入させない事を前提条件とした非常に地味で面倒な戦いを演じていた姫島朱乃が、逸早く気付いて声を上げた。
悪魔に対する光の毒が槍の形に成形されて、無防備な一誠を狙い撃つ。
朱乃の次にリアスが気付いて振り向いた。乱戦の最中で戦っている小猫と、持て余す激情に視界の曇った木場が続く。
が、間に合わない。
「素直に死んでおきなさいよ。――汚いわね」
レイナーレが口にしたのは、悪魔という種族に向けた飾り気の無い嫌悪の情。敵対集団の下っ端に向ける、傲慢ながらも、ゆえにこそ偽り無い彼女の本音だ。
きたない、と一誠の口が初恋相手の発言を繰り返す。少年の膝が折れて地を突いた。
その眼前で、直撃寸前だった堕天使の光槍が消し飛んだ。
「なんで……ッ!」
その光景を目にした木場が、歯を食い縛って怨嗟の声を吐き出した。
聖剣使いの癖に。服装からしても、きっと教会の信徒であった筈なのに。
――何故、お前が悪魔である兵藤一誠を庇うのだ、と。
視線の先、聖剣を手にするジョン・オーリッシュがレイナーレの前に立っていた。
地面に座り込んだ一誠の、眼前。刃を完全に振り切るでもなく、盾のように構えられた『天閃の聖剣』が夜空の下で薄っすらと輝く。背後に居る下級悪魔に悪影響を与えないくらいの低出力で。
「ッこのぉ!!」
どこまで自分に歯向かう気なのか。感情のままにジョンを怒鳴りつけたレイナーレが、再度光力を放出して武器とする。
対する聖剣使いの少年は、ろくに実力を発揮する事も無く、ただ攻撃を捌くのみで場を凌ぐ。
「夕麻ちゃん、おれっ、俺、は……」
兵藤一誠は呆然とそれらを眺めるだけだ。
殺されるだけでは終わらずに、存在そのものを否定された。汚いと。不愉快だと。死んでいなければならないのだ、とまで。
疑いようの無い殺意と共に、彼の心に皹が入った。
だが。
絶望と悲嘆に くずおれた一誠の左手を、シスター服を着た誰かの両手が包み込んだ。
誘われるように視線を向ければ、金色の髪の美しい少女が、彼の手を握ってふわりと笑う。
その少女、アーシアは亡羊とした視線で己を見つめる少年に対して何も言わない。口を開けば今にも吐瀉物を撒き散らしてしまいそうだったから。ジョンに抱えられ振り回された際に負った身体の不調は、未だ彼女から去っていないのだ。
だから、ただ微笑んだ。聖女アーシア、精一杯の痩せ我慢である。
お腹の辺りから上ってくる気持ちの悪さに肩を震わせ、生理的な反応で零れ落ちる涙を拭い取る程度の余裕も無くして。
迷子の子供のような顔をした兵藤一誠の左手を柔らかな両手で包み込み、傷付いた彼の心を守るため。何時かのように、何時も通りに、心からの優しさでもって。――救いたい、と心で伝えた。
目に見える傷の一つも無い一誠にとっては意味の無い、【聖母の微笑】の明かりが灯る。
温かな光だった。
身体ではなく心に届く、アーシア・アルジェントという人間の無垢な本質を映したような。
「おれは、」
薄翠色の温もりに照らされながら、一誠の瞳に光が戻る。
彼の視線の先には、かつて恋人だと思っていた女性と、自分を守るために堕天使と対峙しているらしい少年の背中。戦い続けるも決定打の全く見えない消耗戦が、此処からならば良く見えた。
輝く剣を手にした少年の肩を、堕天使の槍が僅かに掠める。
散った赤色に傍らの少女が小さな悲鳴を口にして。そこでようやく、覚悟を決めた。
「俺は――」
少女の両手に包まれた左手。その手の甲に、緑に輝く龍の紋章が浮き上がる。
次いで、力強い光と共に、一誠の所有する神器である赤色の篭手が姿を現す。
「まだだ。まだ、終わってねえ!!!」
兵藤一誠という人間は、あまり褒められた者ではない。悪魔となってもそれは同じ。
バカで、スケベで、才能も乏しく、欲望に素直で向こう見ずだ。
だけど。
美少女の涙を前にして。彼女の向けてくれる素直な優しさに触れて。折れた筈の心を瞬時に打ち直してもう一度立ち上がれる程度には、男気のある、少年だった。
『Dragon Booster !!』
赤色の神器、【赤龍帝の篭手】が宿主の想いに応えて形を変える。
その輝きに一瞥もくれずに、少年は己の立ち向かうべき相手の名を呼んだ。
「夕麻ちゃん――!!!!」
あとはもう、当たり前の結末が待つだけだ。
一歩を踏み出した若き龍帝が心の傷に立ち向かい、他の面々も勝利を手にして大団円。
たったそれだけの、何処にでもあるハッピーエンド。
今宵あった事件といえば、そんな有り触れた、何の変哲も無いものだった。
□
――終わった後の話をしよう。
契約者ジョン・オーリッシュとアーシア・アルジェントは、今後リアス・グレモリーの保護下で生活。教会出身という出自を理由に監視は付くが、それだってほとんど名目だけだ。
リアスの主観において、ジョンは愛する恋人との幸せのために聖剣という価値ある宝を惜しむ事なく差し出して、彼女の眷属である『兵士』兵藤一誠の身を守るために単身堕天使に立ち向かい、しかし力及ばず、手傷を負いながらも一誠が神滅具を覚醒させるまでの時間を見事凌ぎ切り事態の終息に貢献した、恩人にして契約者。
ただ一人、木場祐斗だけは聖剣使いであるジョンに対して思う所があるようだが。恋人の身の安全のために教会の怨敵である筈の悪魔に下る彼の覚悟と、仲間である一誠を庇った事実は無視出来ない。だから何も言わずに、リアスの決定に従った。
「勝ったなガハハ」
服を脱ぎながらジョンが言う。台詞の中身は上機嫌で、しかし声色だけは棒読みだ。
当面の生活費に加え、身分の保障もリアスが請け負うと言ってくれた。彼女は純血の上級悪魔であり、なのに冥界の貴族的思想に完全に染まり切っていない青臭さが実に良い。多少自分達の関係を勘違いされたが、それだって結果的にはプラスとなったのだから笑って受け入れ放置しよう。
無駄に手間を掛けた分だけグレモリー眷属からの受けは良かった。
目立つためだけの無駄結界を街中に設置する事で両陣営の注目を集め、『天閃』の速度で安全確実に誘導した『教会』の集団を悪魔にぶつけ、演技など ろくに出来ないアーシアを追い詰め心からの助命嘆願を口にさせ、聖剣の威光で悪魔の度肝を抜いた上で契約の対価として恭しくも献上する。――事の結果は、概ねジョンの描いた通りに収まった。
聖剣が一本減ったが、個人的には問題無い。
彼用の亜空間には、正教会からの去り際に盗んだもう一振りが残っているのだ。『天閃』は便利だが今後戦闘の予定は全く無いし、むしろ積極的に避けていくつもりなので高速剣など必要無い。
アーシアのものはともかくとして、彼の神器【聖母の微笑】の存在だって、悪魔にも堕天使にも知られずに終わった。
後半におけるレイナーレ相手の戦闘にしても終始手加減のし通しで、彼本来の実力は未だ半分も見せていない。
教会の内部情報が漏れさえしなければ、未だジョンの側には伏せ札が最低三枚も残ったままだ。
――全ては安住の地を手に入れるため。
第一候補の『教会』には馴染めなかったが、悪魔の下とはいえ此処なら長く続くだろう。
手札はしっかり手元に残った。此処が駄目になっても、次を選ぶための余力は充分。
人の良い、と言える性格の悪魔が相手で本当に良かった。下っ端を庇ってわざと怪我して恩も売れたし、小さいながらに負い目も持たせた。自分達に対して悪魔側は無体な扱いをしないだろう、と思える関係を構築出来たのは嬉しい誤算だ。実に実に運が良い。
逃亡中の身だが、住処を転々としながら生活するなんて御免被る。上級悪魔の後ろ盾さえあれば、教会もジョン・オーリッシュに対する追跡の手が鈍るだろう。衝動的に聖剣泥棒した過去の自分が悪い事は分かっているが、それはそれとして平和に暮らしたいのが本音であった。
「う、うぅう~……っ」
服を脱ぎ終え、全裸を晒す。彼の目の前にはアーシアが、何時ものシスター服の上だけを脱いだ姿で立っていた。
黒いスカートはそのままで、上半身を覆う全ての衣類を脱いだ彼女が恥ずかしそうに、交差した両手で乳房を覆って小さく唸る。
目に映る肌面積を少しでも減らそうと腕で隠すが、身体に押し付けた両手や上腕部分で潰れた乳房が柔らかく撓んで実に良い。部屋の照明で白い肌の色が煌いて、少年の股間を触れるまでもなく刺激する。
自ら立ち上がった肉棒が、高まる興奮によって びくりと震えた。
思えば、服を脱がしたのは初めてだ。
今までは服の上から触るだけ。それでさえ充分以上に興奮したが、直に目にしたアーシアの裸体は目を奪われるほど美しく、早く触りたいと両手が勝手に伸びていく。
自分の身体を ひしと抱き締めた金髪の美しい少女が、目を伏せて俯き首まで逸らし、羞恥に頬を染めながら逃げ出す事も無く少年からの接触を待っていた。
全裸の少年と半裸の少女。向かい合う二人が徐々に近付き触れ合った。
両掌で掴んだ彼女の二の腕は、酷く細くて華奢だった。肩まで撫でればより一層、未成熟な女の肢体が彼の五感を支配する。
すべすべとした肌を、掴んだままの手で味わう。身を寄せていけば勃起したモノが少女のスカートの股間近くに そっと触れ、小さく息を呑むのを確かに聞いた。
抱き締めるような距離で少女の身体を見下ろせば、彼女自身の腕で潰れた乳房が、照明に当たって輝いている。そこに滑らせた右手が触れて、柔らかさ以上に肌の瑞々しさに唾を飲んだ。ひくひくと しゃくり上げるように肩を震わせたアーシアの身体に更に近付き、両腕を彼女の背中に回して抱き締めた。
「んっ」
小さく、少女が吐息を零す。
もはや完全に押し付けられる形となった少年の肉棒が、黒いスカート地に先走りの染みを付けながら、秘された奥まで潜り込む。軽く腰を揺すれば、布地ごと、股間の下辺りの虚空へと角度を変えながらもモノが沈んだ。
それだけでもう、射精しそうな心地になった。
触れているのはただの衣服で、ただの布。けれどその奥にある少女の形が、間違いなく其処にあるのだと僅かな感触からさえ伝わってくる。興奮のまま上半身を抱き締めて、自分の胸板を相手の身体に擦り付けながら息を吐く。
はあ、とお互い同時に吐息を漏らした。
アーシアを見下ろせば、先程より更に赤く染まった顔で、恥ずかしげに唇を噛む様子が見える。
嫌々ながらに我慢する、清らかな少女が耐える様。
いじらしい、と言うべきだろうか。
最初に無理矢理行為を迫り、国を離れて以降もずっと、暇が出来る度に行ってきた。回を重ねる度に彼の行為は大胆になっていく。彼女は何時だって気の進まない様子で、時には声と仕草で制止して、けれど決定的な拒絶だけはしなかった。
彼女がジョンから逃げ出す機会が、全く無かったわけでもないのに。
「アーシア」
名前を呼べば、少女が呆けた。
何を言われたのか分からない。そんな顔だ。
一秒、五秒、そして十秒。幾らかの時間が過ぎた後に、ようやく彼女は自分の名前を呼ばれた事を理解した。
思えば初めて名前を呼んだ、ような気がする。
アーシアにとって目の前の少年は人の名前を呼んだりしない、純粋な性欲だけで動く妖怪か何かだったのかもしれない。
そんな妄想を勝手に浮かべて、ジョンは少しばかり腹を立てた。
「あっ、え、あ! ひぁっ! ちょ、ちょっと待ってくださ」
少女の腕を掴み上げ、強引に胸元から引き剥がす。
胸を、見られてしまう。羞恥心から抵抗を試みたアーシアだが、抗えるわけもない。あっさり腕を取られてまた好き放題に乳房を弄ばれるのだ、と考えていた彼女だが、掴まれた手の先に熱い何かが触れた所で思わず悲鳴を上げてしまった。
「あっ、あ、あああひああああぁああん……っ」
それこそ、食器より重い物を持った事さえ無いのかもしれない、元聖女様の綺麗な手。
触ってみればふにふにしており、荒れた部分など全然見えない。
そこに。熱く欲望で煮え滾る、己の陰茎を握らせた。
はわはわと狼狽えるアーシアを見ながら、棒を握らせた手を上から掴むと、彼女の手の平をもって扱かせる。少女の一部を使った自慰行為。ほんのり温かい上に柔らかく、自分のものよりずっと繊細な作りをした手が、今はただ男性器を刺激するために使われている。
抵抗するように動く細い五指も、不規則な動きそのものが彼の性感を刺激した。
アーシア、ともう一度彼が名前を呼んだ。
「ひいっ! ぅな、なんですかあっ!?」
これまでの彼女の人生に存在しなかった形状、臭い、未知の感触。
もはや気持ち悪いのか恥ずかしいのか怖いのか、はたまた別の何かかも分からない。えっちな事だ、と頭の何処かが理解していたが、混乱しきったアーシアには声を上げながら耐える以外に道は無い。
そんな状態で、問い掛けられた。
どうして己と一緒に居るのか、と。
□
――アーシア・アルジェントは魔女であり、独りぼっちであり、逃げ出す先さえ何処にも無かった。
無理矢理酷い事をした相手であるが、ジョン・オーリッシュは彼女と共に居てくれたのだ。
いやらしい事はやめて欲しかったが、何度も繰り返されれば慣れてくる。順応する。人間はそういう生き物だから。彼女もやはり、例外ではない。
自分のせいではあるが、自分と同じ、教会から追い出された人で。お互いに行く宛てなんて何処にも無くて。きっと恨み辛みが理由だろうけど、それでも傍に居てくれる。
それも、彼が彼女を離さない、というのが正確な所ではあったのだが。
嫌がってはいても、触れ合い自体は無意識の部分でアーシアの心を癒してくれた。
教会や周囲の人々に捨てられた彼女は内心では寂しがっていたから、間違いなく本当に心から嫌だと思っていたのに、それでも強引に触れて抱き締めてキスをしてくる彼の行動は、独りぼっちの魔女を独りではなくしてくれたのだ。しつこく染み付く精液の臭いはともかくとして。
毎日やっていれば、慣れていく。
抵抗の意思も拒絶する心も、幾度も触れられて徐々に花開いていく彼女の性感と共に、やがて解きほぐされて変わってしまう。それを成長と取るか堕落と取るかは、個々人の価値観に任せるしかないが。
「レイナーレ様の『教会』を出たの、私のため、ですよね」
アーシアは、悪魔祓いの仕事に同行してくれ、と言うフリードについて行った先で、惨殺された悪魔契約者の死体を目にした。
更に後から、死んだ被害者に召喚されたらしい悪魔も訪れ、嬉々として彼を殺そうとするフリード神父を、彼女が止めた。
悪魔だろうと、殺すばかりが人との関係の全てではない。
相も変わらぬ世間知らずが本心から言ってのけ、それに気を悪くした狂人フリードによって衣服を裂かれて襲われた、――が。
其処に壁を打ち破って乱入したジョンが、白髪の神父を殴り飛ばした。
守られた、と理解した時、アーシアにあったのは戸惑い以上の喜びだ。
何時も嫌な事をしてくる人が。最近はちょっと気持ち良くなってきた気もするけれど悪い人が。
身の安全を図るために必要な事だ、と言って陰で嫌そうな顔をしながらも、無駄に偉そうな堕天使相手に諂う事さえ我慢して行っていた少年が。
――自分を助けるために。今後の立場が不利になる事も厭わずに。
あの時から、どこかがおかしい。
アーシアの中の見えない何かが疼きながらも騒ぐのだ。
少年の陰茎を扱かされながら、荒れた呼吸に紛れるように、少女が続く言葉を濁す。少年は、先の独白染みた問い掛けに対して答えを返さず、無言のままで顔を寄せる。
小さく開いた唇が、近付いてくる彼のそれに合わせて舌を伸ばした。
初めて出会った時よりも、国を出たばかりの時よりも、昼間口付けた時よりも、ずっと――。
深く深く重なって、彼と彼女はキスをした。
※フリード君は学園到着前にバックレたので登場しません。