ストーリーも特に進まない閑話回です。
「ねえジョン。貴方、私の眷属になる気はないかしら?」
「
両の掌をリアスに向けて、絶妙に嫌そうな顔をしたジョン・オーリッシュが言葉を返す。
それに、紅髪の悪魔は仕方ないわねと苦笑を一つ。勧誘自体に嘘はなかったが無理強いする気も無いのだろう、気を悪くした様子も見せず、手元の紅茶を口にした。
彼とアーシアの二人が駒王町に腰を落ち着けて以降、時折こうして顔を合わせて話す機会が幾度かあった。
リアス・グレモリーは駒王町を領地とする上級悪魔である。
個人的には彼等の事を気に入っていたが、それはそれとして二人が問題を起こさぬようにと目を光らせるのも仕事の内だ。人となりに関しても、より詳しく知っていて損が生じる事は無い。そういうわけで主な仕事場であるオカルト研究部の部室に呼んで、他愛の無い茶飲み話をする日があった。
――が、リアスにとっての最たる理由は、ジョン達ではなく己の側にこそ存在していた。
ちらりと動いた彼女の視線。その先には、じっと口を噤んだ木場が居る。
過去体験した悲劇がゆえに、聖剣に対して並ならぬ想いを抱く眷族。聖剣使いであるジョン・オーリッシュに対しても複雑な感情があるようで、接触自体を持とうとしない。
ジョンという個人を憎んでいるわけでも嫌っているわけでもないのだが、それはそれとして聖剣に関わる者だから、という割り切れない感情があるという。最近彼に近い位置に居る小猫からの又聞きだ。
先日の契約でジョンから貰い受けた聖剣も、大事な眷族の気持ちを考えれば右から左へ気軽に動かすわけにもいかない。リアスにとっては剣一本よりも眷属優先、だから件の聖剣に関する詳しい調査も冥界に向けた報告も、今のところは差し止めている。上級悪魔なので権限的にもそれくらいなら問題無いのだ。
そういった理由で、長年の相棒に売られてしまった『天閃の聖剣』は今現在ほぼ完全に放置された状態であり、本当の名前もリアス達には知られぬままに、単なる聖剣その一、程度の扱いで駒王学園旧校舎の地下倉庫にて厳重な封印を施されていた。悪魔的には無名扱いでさえ消滅レベルの危険物なので、割と妥当な判断である。
話を戻すが、リアスは木場の事が心配だった。凄く凄く心配だった。
過去の事情は彼自身からも聞いている、それを忘れろなどと言う気は無い。かと言って、復讐心を煽るのだって諸々の事情から見て憚られる。
悪魔と天使、ついでに堕天使。三大勢力は過去の停戦以降、命の遣り取りそのものは小競り合い止まりの、唾を吐き合う犬猿の仲――未満、という些か微妙な関係なのだ。
大戦争から早千年、という長い冷却期間があったがゆえに、歯切れが悪いのも仕方無し。
が、魔王の妹であり元72柱の公爵家次期当主であるリアス御嬢様の眷属が、仮に正当な理由があったとしても教会相手に血みどろの復讐劇なぞ始めた日には、各勢力の戦争再開派が活気付く燃料を投じるだけ、だ。復讐相手の顔も名前もろくに知らない木場一人で、一体何を成せるというのか。
そして何より、如何なる流れが生じようとも彼の命の保証が出来ない。
リアスの思考は単純だ。
危ない。
やめよう。
しかしそれを口にしてしまえば木場の心を踏み躙るだけ。
彼女は彼を傷付けたくない。だけど彼の大切なものを蔑ろにしたくもない。ならばどうするか。
――何も思い付かなかったので、かしこいリアスさまは聖剣に関わる新たな友人に、何か、こう、良い感じの変化を期待していた。
「ねえジョン、貴方やっぱり悪魔にならない???」
「あ、蝶々」
ずずず、と品のない音を立てながら紅茶を啜る、リアスにとっての蜘蛛の糸。
もう少し丁寧に飲んでくれないかしら、と紅茶の御代わりを用意していた朱乃が思う。客人の相手をしながら頭の中は最近暗い顔ばかり見せる木場の事で一杯一杯なリアスは、多少のマナー違反程度気にする事も無く、似たような勧誘文句を繰り返していた。答えは当然、拒否一択。
そんな部室の一角で、最近仲良くなったらしいアーシアと小猫が二人で甘味を楽しんでいる。
木場はジョンに対する複雑な感情を整理しきれずに、視線を逸らしてだんまりだ。
一誠は新入りらしく勉強中。彼の知るべき悪魔に関する一般常識を教本片手に自習しながら、リアスや朱乃に囲まれて談笑しているジョンの姿に嫉妬の炎を燃やし始めていた。
これがここ最近の彼等の日常、その一幕。
後々思い返しても何ら特別なものなど見えない、当たり前の光景だった。
□
もそりと衣擦れの音を立て、少年が少女の傍へ行く。
契約した悪魔リアス・グレモリーの好意によって宛がわれた彼等の住居は、グレモリー家名義で駒王町の一角に建てられているマンションの一室だ。
隣接する部屋には監視名目の木場や小猫が住んでいたりもするが、これに関しては然して語る事も無いので割愛する。
恋人同士であると誤解されているジョンとアーシア。同棲中。
当たり前のように二人を同じ部屋に押し込んだ若干恋愛脳なリアスはともかく、彼等としても不平不満を口にはしない。
ジョンはアーシアを遠くへ手離すつもりが無くて、アーシアの側も拒否権があると思っていない。
前者としては、無意味に反対意見をぶつけて悪魔の機嫌を損ねたくないという考えもあって。
後者としては、最近彼の顔を見ていると変な気分になったりするので嫌だと言う事も出来なくて。
結局二人は同じ部屋に住み、割と当たり前のように寝食を共にする生活を送っていた。同室に住んでいるから、間取りの都合で寝室だって同じ部屋。
なので、就寝時間の訪れた今、ジョンはアーシア用の寝台の上へと我が物顔で身を乗り出した。全裸で。
「な、なんで入ってくるんですかぁ……っ」
深夜だから、という理由で小声に絞ったアーシアが言う。
実は防音に関してもしっかりしているので、多少アンアン騒いだところで御近所に御住まいの木場祐斗くん(童貞)や塔城小猫さん(処女)には彼等の声など聞こえないのだが、無駄に箱入りな境遇ゆえに生まれはともかく育ちの良かったこの魔女は、近所迷惑というものを重視していた。
無論、訊かれたジョンは一切構わず毛布を捲って潜り込む。
ついでに「ちんちんムラムラするから」と恥じる事無く少女に告げた。羞恥心など彼には無い。
赤裸々な告白に両手で顔を覆う少女が、諦めたように息を吐く。そして身体の力も抜いた。拒否したところでされる事には変わりがないから。わたし諦めましたよ、と態度で語る彼女の顔は、未だ性的な行為に慣れきる事無く羞恥に染まって赤らんでいた。無理をしているのがバレバレである。
そういった擦れていない所がまた異性の情欲を誘うのではあるが、幸か不幸かアーシア自身に自覚は無い。
せめてもの抵抗とでも言うかのように、ジョンへ背を向けて横たわる。
その背後から少年が身を寄せ、細身の身体を抱き締めた。
「ぅんっ」
無反応、というわけにもいかなかった。
最近慣れてきた特定の異性との接触に、思わず少女が吐息を漏らす。するりと伸ばされた彼の手が、卸し立てのピンクのパジャマの裾へと入った。
下腹の辺りから指先が侵入し、アーシアの腹部へ僅かに触れた。適度な脂肪で細くなり過ぎない綺麗な御腹の肉を撫で、臍の窪みと腰のくびれを両手で気儘に擽っていく。ふうふうと少女が息を吐き、くすぐったさに声が出るのを我慢していた。
それが少々気に食わない。より強く深く抱き締めて、少年が綺麗な耳に顔を寄せた。
「ぴっ!」
唇で耳朶を食み、舌先でちらりと縁を舐める。下手に我慢しようとしたせいで、妙な悲鳴を少女が漏らした。
パジャマの中に潜り込ませた両手が更に動いて、下から登って鳩尾を越えると乳房を覆ったブラジャーの元まで這い上がる。寝る時も下着を着けているのか、と少年が聞けば、口を噤んで少女が黙った。
その頬は赤い。が、元々赤かったので目立たなかった。現に少年も気付かない。
――夜も襲われるかもしれないのだからと諦め半分のアーシアが、就寝時に着ける下着をわざわざ選別していたなどと、知ったところで然したる変化は無いだろう。精々が彼の興奮を煽るだけ。
下着越しに乳房を撫でて、包み込みきらない部分の膨らみに指を突き立て刺激を与える。
少女の腰から下には、衣服越しとはいえ裸の下半身が押し付けられていた。
足を絡めて布地の向こうの、細い生脚を味わうように擦り付けられて。既に勃起していた彼の陰茎がパジャマの尻の部分に汁を塗り付け、臀部の丸みが軽く凹むほど強く押し付けて己の興奮を彼女に伝える。
あつい、と。されるがままの少女が思う。大きくなり始めた荒い呼吸が彼の耳へと届かぬように、袖口を押し付け羞恥を耐える。その間にも、止まる事無く彼の両手が彼女の身体を這い回る。
捲り上げられたブラジャーの奥から、彼以外の誰も知らない乳房が零れた。
乳房の丸み、肌表面の滑らかさから先端に飾られた乳首の形まで、やや繊細さを覚えた少年の手と指が撫で摩りながら時には抓み、指先で跳ねさせて弄ぶ。少女の耳元に添えられた口からは全力疾走した後のような強い吐息が何度も何度も繰り返された。
毛布で隠れた二人の身体が、がたがたと寝台を揺らしながらぶつかって。
出る、と言って少女の臀部に熱い体液が飛び散った。
布地に染み込み肌まで届いた熱に反応して、アーシアの全身が痙攣するように弱く震える。
今、自分の身体で射精した。それを理解して僅かに感じる何かがあった。上昇した体温で熱く感じる布団の中だが、肩や背筋にぞくりと走るものがある。
精液を吐き出し終えた少年が、抱き締める少女の心を慮る事も無く更に動いた。
上半身を包むパジャマのボタンがもたもたと外され、毛布に包まれた狭苦しい空間の中にアーシアの裸身が晒される。襟元を大きく後ろに剥がされ少女が小さく声を上げたが、射精直後でも萎え切らない熱情に衝き動かされた彼は半端に脱がした身体に抱きつき、片手で乳房を揉みながら、彼女の素肌を隅から隅まで空いた片手で弄り続ける。
毛の生えていない綺麗な脇を四本揃えた指の腹で撫で回し、鳩尾から腹部、脱がしきっていないパジャマに隠れた背中まで。その度にか細く少女が鳴いた。
抱き締められた背後から、犬のような呼吸が聞こえる。絡まった金髪を除けて首筋にキスを落とすと、再度勃ち上がりだした陰茎を汚れたパジャマの臀部に押し付け、腰を振り、その動きだけで下半身を覆う衣服を脱がし始める。徐々にずらすように乱雑に。
「え!? あっ、ぁの、待」
これには声を我慢しているアーシアも思わず大きな声が出た。
腰の動きと肉棒一本で服を脱がす驚きの器用さも気持ち悪いが、それ以上に乙女の危機だ。
だって、まだ、――
「待ってください、あの、てっ、手で、いえでも、ぁああ、あのっ!」
はずかしい。
その一言が出ないまま。背後に振り向き彼の動きを止めようとした彼女の、抗議するための口が塞がれた。
んん、とくぐもった声が出る。
慣れてしまった柔らかさに、互いの性器がじわりと疼く。
時間が時間ゆえ部屋の照明は落としてあった。だが目の前にある少年の顔くらいは見えている。
両目を閉じて、唇を擦り合わせながら一心に求める、飾る事の無いジョンの素顔だ。
むう、と意味の無い音だけを零して、アーシアもまた目を閉じた。
両の乳房を揉まれているが、何時かのような痛みが無い。勢いはあっても雑ではない。荒々しくはあっても暴力ではない。きもちがいい、と彼女のどこかがそう言った。
互いの肌に浮かぶ汗が触れ合い混じり合い、少女の耳には重ねられた口元から生じる水音だけしか聞こえなくなっていく。
下ろされたパジャマの隙間から、棒が入り込んで下着に触れた。
そのまま、少女の秘された部分を擦る。背後から染み出した精液とそれ以外のもので湿った彼女の下着越し。暗がりで見えない尻の穴、両脚の間、恥骨の下の会陰と呼ばれる部位までを、前後に振れながら刺激していた。
尻の谷間から股間まで、幾度も突き出す性器の先端が、下着を間に挟んでとはいえアーシアの入り口に僅かに触れる。
上と下から種々の体液による音が鳴ったが、それを聞く者は誰も居ない。
「あっ、あ、ああ――っ」
何かが込み上げてくる。
そう理解したアーシアが、込み上げてくるものの正体を理解する、直前。
ジョンが二度目の射精を行った。
「あ。……、……え?」
十数秒間の痙攣じみた震えを最後に、力尽きたジョンが くたりと倒れる。
吐き出された多量の白濁液がべったりとアーシアの股座に張り付き、熱い吐息が呆けた彼女の耳朶を叩いたが気にするべきはそこではない。
何か。何かが。恥ずかしくて嫌がるだけ、ではない新しい何かがアーシアの目の前にあった。そんな気がするのだ。なのに、その直前で取り上げられた。
ふうふうと荒れる呼吸を整え終えた背後の彼が、やがて静かな寝息を立て始める。
えっ、という少女の声が、暗い寝室に一瞬響く。
半端に脱がされた新品パジャマの上下を引っ掛けたまま、背後から全裸の少年に抱き締められて、おっぱい揉まれながら一人状況に取り残された哀れな魔女が呟いた。
「……ぶっころ。でしたっけ」
つい先日、背後の彼が頭のおかしな神父に向けて口にした、暴言。
何故だかそれを言いたくなって、妙にむずむずする身体を持て余しながら虚空を睨む。
よく分からない。分からないのだが、何かこう、きっと自分は今、またも彼に酷い事をされたのだろう。それだけを辛うじて理解して、けれど先の一言のみで諦めたように目蓋を下ろす。
先の運動で上がった体温のせいで眠るに眠れぬ不快感を抱えたままに、眉根を寄せて不機嫌そうな顔をして。
――明日は絶対、なにがなんでも拒否しよう、と。
自分でも理解しきれない正体不明の不満を抱えた少女が、暗闇の中で、恐らくは実を結ばないだろう決意を固めた。
着々と調教が進んでいくアーシアさんの話。
次回からフェニックス編です(フェニックスに会うとは言ってない)。