※この作品はR-18です。

トワイライトD×D   作:ENE

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性的な意味で成長していくオリ主が悪魔を苛めつつ風呂場でちゅっちゅする第六話。
合宿編前編です。


第六話 恋愛処女のフェニックス

その日、ジョンは大して汚れていない部屋の掃除をしているアーシアの、(まぁる)い御尻を見ていたせいで、非常に股間がムラムラしていた。

 

長い金髪を後ろで括った少女の様子は上機嫌。鼻歌を歌い出しそうなくらいに明るい笑顔で、慣れない家事に精を出す。時折失敗もしているが、それさえ嫌とは思わなかった。

今まで必要の無かった、した事もなかった おうちの掃除。彼女は楽しくて堪らない。

 

この町に来た事で生まれて初めて、アーシア・アルジェントは平凡な生活というものを手に入れたのだ。聖女であった頃には夢見る以外で触れられなかった、当たり前の日常を。

だから、グレモリーの悪魔には感謝の気持ちで一杯だった。

 

一方、同じ部屋に居る童貞は、下半身から生じた煩悩によって思考の大半を濁らせていた。

 

見慣れたシスター服とは異なる飾り気の少ない私服の上から、真っ白なエプロンが少女を彩る。

せっせせっせと掃除機を動かし、その度にアーシアの持つ柔らかな曲線が前後左右に視界を過ぎる。気付けばジョンは日課であった十字架を始めとした聖具の手入れを放り出し、彼女の尻を眺める事にのみ集中していた。

 

ニコニコ笑顔で掃除を頑張る、綺麗で可愛いエプロン姿。その下の気取らない服装もまた、実に実に悪くない。最近は事あるごとに脱がしていたが、こういった何気ない瞬間の、然して特別なものの見えない格好だって悪くないのではなかろうか。

 

――其れは日常に潜むエロス。

 

アーシアとの出会いによって性に目覚め、日々身勝手に研鑽を続ける元教会の戦士ジョン・オーリッシュは雄として次なる段階へ至ろうとしていた。凄くどうでもいい類の成長である。具体的に言うとイカ臭い感じの。

 

魔女の御尻が少年を誘うかのように揺れている。

それを見て、ごくり、と少年が粘性の増した唾を飲む。

十字架を放り出して席を立ち、広げた両手がアーシアの臀部に近付いた、その瞬間。

 

 

「居たわね二人とも! さあっ、合宿に行くわよ!!」

 

ばばーん、と音を立てて部屋の扉を開け放ち。

空気を読まない紅髪の悪魔が、彼の邪念をブッ飛ばした。

 

 

 

 

リアス・グレモリーは純血の上級悪魔であり、そんな彼女の生家は元72柱グレモリー公爵家という素晴らしく歴史のある御家だった。

つまり貴族。御嬢様。口さがない言い方をすれば政略結婚の駒でもある。

紅髪の滅殺姫などという二つ名さえ持つ将来有望な悪魔の彼女は、今、親同士の決めた婚約の件で人生の墓場に埋まるか否かの瀬戸際にあった。

 

彼女自身を除いた御方々の勝手な都合が噛み合ったせいで、結婚式まで秒読み段階なのだ。

このままでは、高校生にして学生結婚。嫌な男との間に可愛いベイビーが生まれてしまう。

 

リアスは言った。私、結婚するかもしれないの、と。

ジョンは言った。――すれば?

 

「嫌よ!!」

 

教会育ちの無慈悲な意見を頂いて、リアス・グレモリー一世一代の我儘が炸裂した。

私は好きな人と結婚したいの、と恋愛処女が大袈裟に宣う。対して、アーシアの尻を逃したせいで不機嫌そのものの童貞は、恩人たる女悪魔の向かいに座り、手元の十字架を磨く片手間で言葉を吐いた。

 

「だる……」

 

怠い。面倒臭い。勝手にやってろ。巻き込むな。意味合いとしてはそういうものだ。

本当に嫌なのだろう、泥がぬめるような声色だった。

 

友人、と思っている相手に素気無く見捨てられたリアスの顔が小さく歪む。甘やかされて育った彼女は、拒否された事に対して割と本気で傷付いた。手伝ってくれると思ってたのにっ、と綺麗な顔には書いてある。

 

ジョンはリアスに感謝していたが、それだって所詮は契約だ。対価を払って安全を買う、恩も施しも彼の中では相殺済みだが、負い目は押し付け高く売りたい。だから特別肩入れしてやるだけの理由は無かった。結婚したからと言って、それ以前に結んだ契約が破棄されるなど有り得ないので大丈夫、というのが彼の本音だ。

つまり婚約に関しては成立と破棄の、どちらも同じ。ジョンにとっては変わらない。変わらないのなら、必要な労力の少ない方を選ぶのは当然だった。

 

普段ならば心象を悪くしないためにも気遣う振りくらいしたのだろうが、魔女尻を逃した今の彼にはそんな余裕があんまり無い。性欲に関して未だ猿である彼は欲求不満で股間がむずむずしてしまう。頭の中は まだ見ぬアーシアの白桃で一杯だった。

 

レーティングゲームで婚約破棄を、などと詳しい事情を語るリアスを、ジョンは適当にあしらうつもりで相手する。

が、対するリアスとて此処で見捨てられては困るのだ。

 

家同士が結んだ婚約を、破棄しようとする自分の方こそ間違っている。少なくとも、貴族悪魔の常識に則るのならばそういう意見が一般的だ。――だけど、嫌だった。分かった上で、嫌なのだ。我慢出来ないし耐えられない。実に自分勝手で恩知らず、子供の我儘なのだと自覚してさえ、リアス・グレモリーは幸せな結婚、というものを夢見る気持ちを捨て去る事が出来なかった。

 

我儘を通す。それが結論であり、リアスにとっての主張の全て。家族は当然反対している。

 

頼れる相手は眷属のみ、それにしたって相手の方が数は多くて三倍以上。外部協力者として幼馴染のソーナ・シトリーが候補にあったが、彼女とて貴族の次期当主だ。これが自分の身勝手だと知るリアスは、未来ある友人を巻き込む勇気に欠けていた。

 

出来る努力は最大限に、というのが物事に臨む際の理想形。自分の将来が懸かっているのだからその考えは当然だろう。しかし余所へのコネなど実家のものが大半だ。グレモリーの悪魔では無いリアス個人の、手を伸ばせる範囲は驚くほどに狭かった。

 

そうして頼った先が、聖剣使いジョン・オーリッシュ。

リアスの認識では中級堕天使と打ち合う程度が精一杯の実力だったが、力を借りてもマイナスになる事だけは無い。彼のパートナーであるアーシアの神器も、修行中の不意の負傷を治す際には有用だ。悪魔の有するものとは異なる、教会の元信徒だからこその知識や助言も期待出来る、筈。希望的観測が多分に混じるが、他の選択肢も今は無い。

 

つらつらと並べたが端的に言うと、溺れたリアスがジョンという藁を掴みにきた、という話。

 

ふーん、とジョンが相槌を打った。明らかな空返事である。

手元に積み上げた十字架多数。丁寧に磨き上げられた聖なる輝きが紅髪の悪魔の視界の真ん中で塔を成す。関係を悪化させないために、あくまで相手側からこの交渉を打ち切らせよう、というジョンの用意した嫌がらせだ。そうとは知らないリアスの側は、健気に光に耐えている。

 

今回の話、受けるつもりは彼に無い。

婚約破棄後に用意されるらしい御礼の類も、現状維持以上のものを求めていない彼にとっては不要なものだ。今のジョンは毎日のんびりアーシア相手にエロい事出来ればそれで良い。

この、人の良い悪魔が、協力を断った自分達に対して陰湿な報復をするとも思えず。ジョンのやる気は枯渇していた。強引に眷属に勧誘する、などという事をしない辺りが彼の好感度を稼いではいたが、それ以上のものにはならない。

 

ゆえに哀れなリアスは眷属以外の誰からも助力を得られぬまま、凡そ十月十日の後には不死鳥の血を引いた赤子を抱えて過去の幸福を夢見ながらに、一人涙を流して冥界の空を仰ぐのだろう。

それが満足な数の眷族も、無条件で味方をしてくれる友人さえも持てなかったリアス・グレモリーの未来の姿。力及ばず従わされた、無力な一悪魔に訪れる順当な結末というものだ。

 

――しかし。

そんな可哀想な恋愛処女を見捨てられない魔女、もとい聖女様が此処には居るのだ。

 

「任せて下さいリアスさん! 何が出来るか分かりませんけど、私もっ、精一杯お手伝いします!!」

 

ずっと横に居たアーシア・アルジェントが、きっぱりはっきり言い切った。

こちらは普通にリアスの事を目上と見ているが、彼女と親しい御友達になりたいと ふわふわした頭で夢見てもいるし、御世話になった相手が困っているなら助けたい、と素直に思える心があった。優しい。この辺り、所詮は教会の猟犬でしかなかったジョンとは育ちの違いが明白だった。

 

「あーしあ……っ!」

 

少女の口にした温かな了承の言葉に感激するリアス。

割と錯覚であるが己を取り巻く状況がはっきりと上向いてきたような気がして嬉しくなって、アーシアの用意したお茶を飲む事で浮かぶ喜色をこっそり隠した。

部下や信奉者ならともかく、立場上対等な友人関係というものに余り恵まれていない少女リアスの、ちょっとした照れ隠しのポーズであった。

 

一方、勝手に手伝う事を約束したアーシアと、彼女の隣に座るジョン。

眉を寄せた真面目な顔で「今日は御尻が良いな」とか考えている若干平和ボケしてきた助平な少年に、少女の真っ直ぐな視線が向かう。

 

「おっ、おねがいします……っ!」

 

心底恥ずかしそうにしながら私服の襟元をくいくい引っ張る、魔女の懇願。

首元、鎖骨、そして更に下にある胸の谷間が、――見えそうで見えない。

其処に、彼の視線が引き寄せられていく。

 

首を伸ばしてジョンが見下ろす。が、見えない。なので距離を近付け覗き込む。しかしッ、その直前で羞恥心の限界に達したアーシアは己の襟から手を離し、人助けのための精一杯の誘惑行為が半端なところで打ち切られた。

 

「馬鹿な……、早過ぎる……」

 

愕然とする童貞。

 

要した時間は僅か数秒。不意の絶景を見逃したジョンが、目の前にある天板を拳で叩いた。

がちゃりとテーブル上の持て成しの品々が音を立て、少年の行動にびっくりしたリアスが目を丸くしながら、驚きの感情を素直に表す。先の遣り取りも運良く彼女の目には入らなかったらしい。

決定的瞬間を逃して深く悔やむ様子を見せるジョンと、衣服越しの胸元を両手で押さえて赤い顔のまま俯くアーシア。不思議そうな顔で両者を見回し、何があったのかと心配さえする御客様。

 

少年が、歯を食い縛って拳を握る。

ここで無理矢理衣服を脱がして胸を見るのは簡単だ。だが違う。そうではないのだ。

ちらりと覗くから、良いのだ。恥じらいを捨てずに、それでも彼女自身が手ずから、秘した部分を見せてくれる、ゆえにこそその光景は美しい。

其れは男達の抱く共通幻想。ジョン・オーリッシュは浪漫を正しく理解した。

 

――合宿に行けば、見せてくれるんですねッ!?

 

言葉ではなく、視線で問うた。

自分でやって自分で照れる、という実に可憐な自爆芸を披露したアーシアは、ちらりと目を合わせて彼の意図を汲んだのか、僅かながらの頷きを返す。凄く真っ赤な顔をしていた。

 

その翌日、グレモリー眷属の修行合宿に合流する思春期二人の姿があった事は、もはや言うまでもないだろう。

 

 

 

 

控え目に言っても阿呆な遣り取りの結果であったが、ジョンは真面目に修行を手伝っていた。

 

「……手加減しているのかい?」

「別に」

 

木刀を手に持ち、木場を相手に模擬戦闘を繰り返す。

直接何かを言われはしないが、彼がジョンに対して隔意を持っている事は知っていた。じっと睨まれている事が多々あるし、話す機会があっても会話の内容は弾まない。

 

が、別にそれ自体はどうでも良いのだ。

教会の戦士だった頃、討伐対象に怨嗟の言葉をぶつけられた経験くらい幾らでもあった。

罵倒も、哀願も、嘲笑も、憎悪も。全部斬って捨ててきた。

過去のそれらと比べれば、直接危害を加えてこない木場の振る舞いはジョンにとって気に留める以上の価値が無い。アーシアにさえ手を出さなければそれで良かった。

 

ジョンにとっての弱みになり得る彼女には、過度に『祝福』された十字架や聖水を常に持ち歩くようにと厳命している。そもそも基本的には二十四時間傍に居るのだから、何かが起きても彼女一人を連れて逃げ出すのは容易い事だ。

 

容易い事だ、と先日までのジョンは考えていた。

 

真っ向からぶつかった木刀が押し負け、ジョンの側へと弾かれる。

人と悪魔の生物格差。力で競えば、ただの人間である彼が木場に勝る事は有り得ない。――だからこそ、真っ向からぶつかって力で競うこの状況、「手加減をしている」と木場に謗られるのは当然だった。

 

くそっ、と木場が小さな毒を吐く。彼らしくない悪態だった。

 

主であるリアスの契約者。教会から追放された被害者。守りたいと想う相手の居る少年。

聖剣使いであるというただ一点を除いて、木場がジョンを嫌う理由は何も無い。だからこそ、自分の中の消化しきれない不快感を殊更意識して抑えていたのだ。なのに、何故わざわざ自分の敵意を煽るような真似をするのか分からない。

 

木場程度、全力を出すには値しないとでも言うのだろうか。

そう考えて、より一層の力を篭めて武器を振るった。

 

木場は『騎士』ゆえ特に素早く、悪魔ゆえに人間以上の膂力があった。人間が彼を倒すなら、格差を埋める特別な何かを用意しなければ当たり前のように負けるだろう。

 

差を埋めるもの。今のジョンにはそれが無かった。

だって、もう彼はずっと、神への祈りを捧げていない。教会の戦士であった頃とは異なり、天界の加護による身体強化が全く為されていないのだ。だから当然、真っ向勝負では負けるだけ。

 

加護を受けられない教会からの追放者が。

聖剣を持たない聖剣使いが。

模擬戦闘ゆえに聖水や十字架等、あらゆる聖具の使えないエクソシストが。

共に戦う仲間の居ない、孤独な戦士が。

 

人では敵わぬ悪魔を相手に、どうやって勝てと言うのだろうか。

 

幾度目かの打ち合い。

またも真っ向からぶつかって来る木刀の動きに、木場が大きく舌打ちをした。

力を篭めて、大袈裟に振りかぶられる悪魔の一撃。真面目にやれ、と灸を据える意図を持って強く叩き込んだソレを、――当たり前のようにジョンが躱した。

 

「えっ。――あ」

 

終わりだ、と平坦な声音でジョンが言う。

 

突き付けられた、木刀の切っ先。木場の脇腹から潜り込み、心臓目掛けて入る位置取り。

これで勝ちだと言い捨てて、一足先に休憩を取って座り込む。

呆けた木場は、脇腹を押さえて黙り込んだ。

 

やった事は単純で、複数回ほぼ同じ体勢で木刀を打ち合わせ、「また同じ攻撃が来る」と相手の思考に刷り込んだ上で自分の側だけタイミングをずらして、一撃。それだけだ。

それだけの事だが、真っ当に考えればそんな勝ち方を出来はしない。木場にも分かる。

――だって、そんな単調な打ち合いに何度も付き合う馬鹿は居ない。

 

何度も付き合う馬鹿である木場が、酷く悔しそうに木刀を置いた。

あんな、戦術とは到底呼べない遣り方で負けるなんて、冷静さが足りていない証拠だ。その自覚は元よりあったが、修行に付き合ってくれている相手に見せて良い態度では無かった。

 

「ごめん」

 

真面目にやれ、なんて。それは自分こそが言われるべきだ。彼はあれで勝てると踏んでいたのだろう。だから何も言わず、ただ結果のみで悪魔の慢心を指摘したのだ。

情けない。何よりも、木場は今の自分自身にこそ嫌気が差した。

目を合わせる事も出来ずに、一言だけ謝罪する。そしてそのまま姿を消すように、これから数日間の宿泊先である別荘の方へと歩き出した。

 

木場の背中を見送って、ジョンもまた持ちっ放しだった木刀を放り出す。

 

激昂して襲い掛かって来る可能性もあったがゆえの、形だけの警戒だった。必要無いのは有り難いが、木場の態度はどうにも重症のように見える。もっと気遣うべきかもしれない。誰が気遣うのかといえば、ジョンの仕事、なのだろうか?

どこからどこまでが手伝いの範疇なのか。ひっそりと溜息を吐いたジョンは、未だ痺れの残る両の掌を気遣いながら、一人周囲に視線を巡らす。

 

その先には、もはや見慣れたとある少女の笑顔があった。

リアスの用意した、皆と御揃いの運動着。似合っていると、そう思った。

笑って、慌てて、また笑う。何処にでも居る少女のように、悪魔に囲まれて なお楽しそうな顔を見せるアーシアの姿。

 

拳を握る。

悪魔を凌ぐ力の無い拳を。神の加護の宿らない、当たり前の人間の、手を。

 

「ファッキューゴッド」

 

空に向けて、何時かのように。もう一度だけ、呟いた。

口にしたのは悪態だけで。祈りはやはり、そこには無い。

 

 

 

 

「どうか、しましたか?」

 

心配そうに、アーシアが囁く。

答える声は無い。何を言えば良いのか分からなかったのだ。

 

時刻は深夜。

ジョンとアーシア以外に誰も居ない、風呂場というより大浴場の、広い広い湯船の中で。

当たり前のように並んで浸かり、特別何かをするでもなく。二人揃って今日の疲れを癒していた。

 

視線を己の隣に向ければ、タオルで身体を隠して湯船に浸かるアーシアが居た。

身を隠すのには小さ過ぎる布一枚。濡れて素肌に張り付いて、少女の肢体が薄っすら見える。

普段なら無粋なタオルを剥ぎ取るか、或いは布越しの女体に飛びついただろう。けれど今のジョンはそういう気分になれなかった。これが賢者タイムという奴なのだろうか、と雑な日本知識を掘り返す。

 

あからさまに元気の無い、常とは異なる少年の姿。翠の視線が彼を窺う。

そっと、温かな湯船の中で少女の腕が伸ばされた。

触れてくる手に彼が気付いて、視線だけで、ゆっくりと絡み合う互いの手指を見下ろした。

 

そのまま、どちらからともなく握り合う。

 

「……不覚」

 

気遣われている事に気付いたジョンが呟いた。こんな様では木場の振る舞いを悪く言えない。

昼間の自分を思い返す。

力が落ちたというよりも、戦士のソレから人間本来の水準に戻っただけで、何も異常は起こっていない。今でさえ、聖剣と聖具を用いさえすれば上級程度は刈り取れる。そこに関しては断言出来た。

 

なのに不足を感じているのは、恐らくはジョンが欲張っているだけの事。

湯船の中で音も無く、少女の片手を一際強く握り締める。

 

「あ、っ」

 

そして身を乗り出して、キスをした。

 

少しだけ驚いた顔で、アーシアが少年の顔を見返している。そこに二度、三度と唇を合わせて、片手だけでなく両手を重ねて手を繋ぐ。その行動に、特別な意味は何も無い。ただそうしたいと思っただけだ。

湯船に浸かったまま正面から向き合って、互いの両手を水底につけたまま繋ぎ合う。

そのまま何度も唇を重ねた。

 

湯気と、水音と、キスの音。ただそれだけの空間がある。

股間のモノが勝手気儘に勃ち上がり、けれど今夜だけはそれが酷く嫌だった。

アーシア、と呼べば塞がれたままの唇でジョンの名前が呼び返される。彼女の声に、呼び掛けに、何故だか酷く興奮していた。だからもっと、もっとと互いの舌を絡めて名前で呼び合う。呼ばれ合う。

 

風呂の縁に彼女の背中が当たり、其処を越えて、白い肢体を滑らかな石床の上に押し倒す。

上と下で、完全に密着しながらキスを続けた。

両手は変わらず繋いだまま、押し付けた胸板でタオル越しの乳房が潰れてその柔らかさを彼に伝える。ひたひたと水音混じりの肌が擦れた。床に広がった金色の髪が少女の姿を神秘的な何かに見せて、なのに構わずキスだけを繰り返す。何度も、何度も、何度でも。

 

少年の勃起がタオルの向こう、少女の秘所に触れている。

それに気付いた少女が、囁いた。

 

「……しちゃいます、か?」

 

キスの合間の小さな問い掛け。

恥じらいながら、嫌がる様子は見えなかった。

雰囲気に酔ったというのは確かだろう。弱って見える彼を元気付ける意図も、またあった。慣れてしまったこのような行為に、最初の頃ほどの嫌悪は無い。恥じらいだけは消え切らないが、きっと好意だって、ある。

だから、仮にシてしまっても――。と思ってしまった。

 

言われた側も、惚けた頭で考える。

 

魔女アーシア・アルジェント。ジョンにとっての不幸の始まり。生まれて初めて深く触れ合った異性の存在。温かくて柔らかい、何時だって傍に居る相手。――絆されているのは御互い様だ。

今はもう、彼が彼女をどう見ているのか、自分自身でも分からない。

 

ただ一つ言える事があるのなら。守る力を持たない自分を、ジョン・オーリッシュは許容出来ない。

だから。

 

「もう、ちょっと」

 

もうちょっとだけ。

今のまま、名前の無いこの関係を。続けたい、と理由は伏せたままそう言った。

 

逃げとも取れる少年の返答に対し、少女は小さくキスで返した。そのまま幾度も繰り返す。

それがまるで、心通じ合った恋人同士のようにも思えてしまい。けれどきっと、そう呼ばれるためには二人の間に足りないものが多過ぎる。

 

湯冷めするほどの長い時間をただキスだけで塗り潰し。

付けっ放しの明かりに気付いたリアスが浴場に足を踏み入れるまで。二人はずっと、身体を重ねて互いの名前を呼び合っていた。




リアス「ハ、ハレンチだわ!(チラッチラチラチラッ」

オリ主は決して弱くないのですが、人魔本来の格差が不明なので大よそフレーバーで行きます。
以下、設定メモ。

 『祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)
第一話でオリ主が盗んだ、正教会に保管されていた聖剣の一振り。
聖なるものを強化して魔なるものを弱化させる、バフ&デバフ系万能武器という設定解釈。
使用に際し独特の才能を必要とするが、オリ主はオリ主なので主人公補正で普通に使える。
未だに柄頭一つさえ本編で描写されていないが決して不憫枠ではない。
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