※エロの本筋には辿り付きません。前段階になぜ一万文字も費やすのだ…。
―――【辺境の街:ラインセドナ】
天気は陽気な快晴。
街唯一の特徴というべき澄んだ水は今日も巡り、水属性寄りの空気を作り出す。
天に回る珍妙な
近頃は、カイトを渇きの"侵略者"の兆候である
(忙しいのは変わらないけど、平和、だね)
だが、"異変"の根なんて存在せず、あれで終幕など思えない。
【狂羅輪廻】
平穏である。しかしそれに反して感覚的な表現で脳髄が歯痒い。
居心地の悪い、落ち着かない。
カイトはそんな気持ちを抱えて誤魔化しながら日々を冒険者として、依頼に鍛錬に過ごしているのだった。
「―――ふぅ、付き合ってもらって悪いわね」
「いえ、この位ならいつも世話になってますし、幾らでも」
街の主道、適度な喚声の中、そこを歩くのは二人。緑色の戦衣装に金の髪を揺らす槍舞士ガルデニアに。
両手に荷物をぶら下げて、その後に付いていくは双剣士のカイトである。
現在の彼等はラインセドナの商店街をふらりと、必要な物品を買い足しに出歩いているのである。
以前から、術師でもあるガルデニアは、時折、自身の
しかし、今回は少し思惑が違うところがある様だが…。
「ふぅ、なかなか目に見えてわかるほど"霊木"も
「ここは田舎町ですからね―、専門家がいなければ需要が怪しいのは仕方ない。術札なんて、多岐に属性が分岐するものですし」
【陰陽術Lv3】
元九十九の巫女、ガルデニアが扱う【陰陽術】の媒体として使われる符札、それを自作している。
そもそも、彼女のそれが無くては術理を発揮できない。
周囲の生命波長から、反応を引き出しノイズとしてしまう固有魔法。
砂漠であるならともかく、自作して回路を刻み込まねば途端に魔術式が雑音まみれに崩れてしまう。
「商人のミストラルも都合してくれるが、遠征でほとんどを消耗してしまった。命を預ける商売道具だ。出来る限り良い物を用意したい」
その素材の一つがこの、マナに染色された木々から編まれた紙、"霊木"と呼ばれる素材である。
繊維はマナを馴染ませて、術式の回路を掘り、馴染ませることができる。
一般的に冒険者、魔法の一部の初期手順とかを魔力流すだけで省略させて、無詠唱とかの補助用品にしている様な物だ。
彼女は『陰陽術』を嗜む為に、外界内界を分け少しばかり方向性が違うが、用途は同じである。
「植物に関しては君の方が目が良いでしょう?その眼、頼りにしてるわ」
「んー、専門知識とかないから荷が重いんだけど、出来る限りは頑張ります」
【田舎育ち】【レンジャーLv2(3)】
カイトは数少ない田舎育ちの知識が役に立つ場面かもしれないと張り切る。
故郷の同胞の育ちは基本的に自給自足である。自衛も自力であるし、食料も医術も自給であった。
大体、カイトのレンジャー技能はそこで培われ、そこからバッカ―技能の勉強で実を結んだものである。
(あの頃も、割と生きるのに必死だったなぁ)
純粋に食うに苦労するのもあるが、良い薬草を持ち帰れば、物々交換で明日の食事が少しだけ豪華になった。
そもそも、牧師もいない村で貴重な薬師兼呪い師に協力しない村人は村八分である。
故郷の子供はそうやって、生きる術を覚えていったのだ。
牧師もシスターもいなかった田舎である、交易商人が頻繁に訪れる程に、魅力はないのだから。
「すみません、この"霊木"ですけど切れ端を触っていいでしょうか」
「あぁ、いいぜ。そんくれぇならな」
「ん、ありがとうございます」
紙に触れる。しかし、やはりというべきか見ただけではわからない。専門家ではない。
何となく、鮮度と保存状態が分かる程度だった。
だから、割合よさそうな物を選んで、それに自身の感応させる彼の繋がりの炎に、反応を伝播して確かめてみる。
【精霊術Lv2】【蛍火:
『魔法剣』の付与の基礎を交えて精霊術にて、信号を作り出し脈を診る。
属性染色されたそれに対するオド抵抗を、"三爪の刃"を有効にするために、属性の抵抗を測る。
最近覚えた小技の様なものだった。彼は天性の双剣使いである。その位の器用さはある。
「んー、土属性の中ではこれとこれがいいと思います、この中で一番に脈の反応が伝わりやすい」
その中でも繊維となっても、電磁の波の特に反応の伝わる吸い上げる"霊木"。
彼はそんな生きている繊維が良いだろうと、濃く自己の色を保ったそれを選んで彼女に伝える。
「ふむ、わかった。店主これを一反もらおう包んでくれ」
「あいよー、毎度ありィ!」
ガルデニアは特に疑う事もなく、一応自身の目に確かめてそれを選んだ。
値段もそこまで値が張るものではなく、彼の言う期待通りならお買い得と言えるだろう。
「えっと、これで何枚の札になるんです?」
「これが相性良ければ、三十枚程。外界への"抵符"以外は、私専用でしかないから売れもしないけど、備えあれば患いなしよ」
そのまま荷物をぶらさげて、町をゆっくりと巡り歩いていく。
彼女のその足取りは軽く、視線は商品を見ながら時折彼に振り替えて様子を伺っていた。
彼は両手に荷物をぶら下げて、受けた善きを少しでも返そうと、張り切ってその後に続いている。
そんな平穏な光景である。
昼に近づく度に人通りが増していき、荷物を抱えながら歩くのにも気を遣うようになる。
「なんだか楽しそうですね。何かいいことでもありました?」
「……そうか、そうかもね?」
【九十九巫女】【耳年魔】
カイトの問いかけに、少し悪戯に笑う。
この状況は、彼女にとって高揚するに十分な、"妹たち"が好む様な、物書きが描くような状況である。
彼の言葉を独占している、彼の時間を独占している。その距離感が背を擽る様にくすぐったい。
これは半ばデートと言えるのではないか。
なお、世間一般的に傍目に見れば仲の良い姉弟の様に見えるのを、彼女は知らない。
年齢は一回りと離れて、背丈もまだ彼女の方が少し高いのである。
「さて、次は
「んー、系統が違うかな。でも鍛冶師の『月長石』さんなら、少し齧ってるかも…?僕の双剣の彫金も彼の手によるものですし」
【鍛冶師:一鉄錯誤】【錬金術Lv3】【鉄心の如く】
思い返す、自身の『絆の双剣』を鍛えた寡黙な黒尽くめの職人の事を。
彼は珍しく、鉄の持ち味を活かす為に鍛冶師だけではなくその装飾、彫金などの技術も齧っている。
属性金属を液体をして溶かし、溝を彫り込むことで伝導率や増幅率を増す方法論の『彫金』その探求にも手を出しているのである。
「ふむ、なら郊外になるな、少し遠い最後に回すか」
「ですね。"工房"まではせめて荷物は卸したい」
属性を馴染ませる塗料という意味では、ガルデニアが求めている者と合致する。
彼女のやり方は主に「紙」や金属などの板に対して、主に回路となる一定の刻みを彫り入れたあと、少量属性金属、霊薬などを混ぜ合わせた墨を書き入れる。
そこに長期に保存安定用の重ね紙を、両端に挟み込み押し込んで一枚の符札とするものである。
『聖錬』においては、これを用いない実践的な無詠唱を扱う、実戦式の魔術師は珍しい。
大概が、補助の札を用いて威力重視の魔術を扱う。
四方八方に襲撃の危険がある、モンスターパニックの『王国』とは違うのだ。
話ながらガルデニアは人ごみに歩いて、露店を物色しながら。
さりげなく、後ろに続いている少年に目を流した。
見れば、余り手入れされてないだろう若葉の如く緑の髪が、幼い顔つきに建物の影を抜ける度に映える。
目前を見据える目は、迷いに揺らいでいた頃から、遠征を越えて定まったように見えた。
依然と比べて長く見つめているほどに、歩みは整って、既にほとんど揺れない。細い体は引き締まって、程々に仕上がりつつあった。
「?、どうしました」
「―――何でもない、さぁ次に行きましょうか」
【阿修羅姫】【元奉納巫女:一つ欠けた者】
影で彼女の獣性が顔を覗かせる。叶う事なら今すぐ手を伸ばして、指を絡めてとってやりたい。
これは本能の様なものである。冒険者ガルデニアは闘う事が好きだ。
彼女は、苦難の道を選ぶ。何処か欠けている誰かに、求められたいし求めたい。
好いた相手に頼られたいという欲求は過去、『九十九機関』において自身の素養が不要と判断された代替えの自己証明かもしない。
すぐ触れられる距離にある。無防備にある種無邪気な横顔、まっすぐにこちらに付き添って。
それがくすぐったい。悟られないように緩みそうな頬を自制しながら……。
(……あぁあの時みたいに、この距離に、この手で押し倒せば、本当簡単に手に入りそうな気さえする)
【九十九機関:奉納巫女】
―― 一つ欠けたるものがあって、百になれない我らが機関――
ガルデニアの育ち由来の『九十九機関』に所属する巫女と同様の欠落を抱えている。
『蜃気楼の侵略』に無理押すカイトに強引に触れて押し倒して唇を奪った、その熱に芯打つような痺れる高揚を思い出し重ねて、心臓が揺れ動く。
鼓動、欲動。やはり、この手に欲しいと思った。
―――『ラインセドナ:冒険者宿』
また場所を移動して。
ここはガルデニアが活動拠点としている冒険者宿『ヴェルニース亭』、その借宿の一室である。
しかし、以前と比べて、その荷物は格段に少ない。
『高山都市』への遠征から戻った後には、引き上げた荷物の事もあって、結構カイト等の家屋に入り浸って既に、一部屋を占有していた。
定住の地という安定は、魅力的なものである。
その裏庭には、もう彼女の薬草知識を専攻する彼女の庭園が出来ている位には、入り浸っているのだった。
「よいっしょと、荷物はここに置いてけばいいですかね」
「ああ、後で自分で整理する。すまない、今回はいつもよりずっと重たかったでしょう」
「いえ、この位ならまだ余裕あるくらい」
少し強がりを交えて、カイトとガルデニアは抱え、手に持った荷を卸した。
"霊樹"と呼ばれた繊維に、属性染色液、【薬学知識】に役立つ薬草、多少の衣服は手持ちを分担したとはいえかなりの重量を誇っていた。
強がりに言葉を言った、カイトは少し疲れて、部屋の椅子を借りて腰かけて、静かに息を吐いて身を休める。
部屋に置かれた魔道具の魔石コンロに火がともり、こぽこぽと音を立てる。
「少し待っていてくれ、今お茶を入れよう」
「あー、ありがとう」
【薬草知識】
彼女は戸棚から筒を、実を薬草を乾かし煎じて茶を取り出して、湯を注いで蒸らす。
琥珀色の漂い、香ばしさと渋みを含んだ独特の風味が鼻孔をくすぐる。
「ん、良い匂い……、ちょっと土っぽい匂い。このお茶はガルデニアさんが」
「あぁ、昔少し習ってな。甘草、柿の葉、とうきび、枸杞、甜茶……あと少し漢方を、まぁ色々混ぜているが新陳代謝を促す効用がある。健康にはいいはずよ」
これは彼女の出身である『九十九機関』に伝わる茶の
嗜好と薬効を両立した薬膳茶の類だった。
手を伸ばし、口を付ける舌に喉に呑み。
向かい合い眺める彼女は、自身の分に口を付けて、彼の反応を伺っていた。
「甘い独特の味ですね。ちょっと土臭さが故郷のドクダミ茶を思い出す、僕は結構好きかもしれない」
「そう、気に入ってくれれば嬉しい」
【田舎育ち】
育ちから貧乏舌のカイトにとって少し土臭い匂いが、風味が彼にとっては好みである。
……なお、『奉納巫女』にとってはこう、複雑に混在させた複雑の製法に拘って探求されたのは、捕食目的に"盛って"もバレずらいからだという事を、彼女は知らない。
巫女という名の男の夢を砕く、品格を装った食虫植物。
世の中には知らなくてもいい事も、たくさんあるという好例だろう。
そしてしばらく、そうしてゆったりと時間が過ぎていく。
彼らの日常は忙しい。誰かの好意に"甘える"、そんな時だけの停滞の時間である。
互いに、距離感の内側にいる、それに安心感を抱くか、高揚を感じるのは人それぞれで…。
そして彼女は思い付いた様に、口に出す。
「折角だから、もうちょっとゆっくりとしていくと良い。君なら『符札』の折り方には興味あるでしょう。せっかくだから、見ていくか」
「え、あるけど、いいんですか?そういうのって普通に秘密にするものじゃ……?」
その申し出に興味を惹かれて、少し身を乗り出して控えめに是非を聞き返した。
カイトは実戦的な知識に貪欲だ。師というべき導く人間がいない為に、己の道は己で探す他ない。
【継ぎ接ぎの才】
それで初歩のレベルの結果が出るだけの才に努力の方向性が分散し、
最初の土台をひたすらに、ただ一つに愚直に、【白鳥の如く】、亀の歩みでも、そう言った人種が大成する。
単純に、そうしているだけの環境も時間もないのである。
「別に構わない。私の技術なんて本職に比べれば所詮手慰みだ、それで食べているという訳でもない」
【九十九巫女】【陰陽術師:術符作成】
そういって、手芸・裁断道具を用意して机の上に拡げた。
彼女のその言葉通り道具のそのそれぞれが本格的ではなく、簡易的な物である。
裁縫用道具。糸巻器に、裁断用のハサミや針。
独特な形状のカッター各種ノミにやすり、染色用の木管などである。
それを見て。
「へー、はー結構、身近な道具を使うんですね」
「そうね。本職なら染色台や機織り機まで用意して素材から加工するだろうけど、これでやれなくもないさ」
少し身を乗り出して、手元を伺う。冒険者ガルデニアは元々、借宿暮らしである。
そこまでのスペースはないし、本職は戦士である。そこまでゴルを賭けるほどに力を入れていなかった。
そもそも、斬り合う方が彼女の性に合っている為に、最低限である。
その長い金糸髪を邪魔にならないように結いあげて。
―――ジャキジャキ……。
『霊木』の繊維を解してで編まれた布を裁断する音が響く。
溝掘りカッターにより、術式の溝を掘ってそこを意味ある記号に仕上げていく。
―――カラカラカラ……。
三巻もの木製の糸車に、巻かれていた糸をその華奢な指をもって引っ張りだしながら口に咥え、張りを保ちつつ。
事前に三糸のそれぞれの色の属性金属に、結って染色された糸を紡いで一筋の糸に紡ぎあげた。
それを針に通して、符に幾つもの重ねた菱形に縫い付けていくのである。
例えていうなら、"掘り込み"は回路のレーンであり、"金飾糸"は魔力を通す導線である。
それをもって術式の補助用品にする、物理的な術式の一部品がこれだった。
「消耗品なのに、結構手間がかかるんですね…」
「本当なら機械が使えれば一番早いの、でもどうにも慣れなくて、ね」
ちまちまと、その糸を紡いでいって自身が設計した術式の一部を縫い付けていく。
己が体質に見合った術札は、九十九時代に方法論を学び、冒険者時代にやっと実現させた。
彼女は普通の用途の『術符』とて作成可能だ。
『高山都市:ドゥナ・ロリヤック』にて、『隔離領域』に赴く際に用いた生体放射を、保護する符もそれである。
そして、一枚辺り5分程度で作り上げる。
そこから発展して、彼女が用いる専用の術符には、植物の種を仕込んで縫い付けているらしい。
カイトはそれを真剣に眺めながら、自分が持てる何かに応用できないかに頭を巡らす。
(―――疑似弓、腕輪の弓。それに引っ掛ける弦に使えないかな)
『六花弓』、カイトがそう呼ぶ、リコリスが組んだ"ソフトウェア"を元にマナに投影したそれ。
腕輪の"演算能力"に命中率を担保したが、撃ち放たれたそれの最終の軌道変更に、威力を上乗せするのは
だから、投影された弓の両柄に、未完の『精霊巫器』自身の愛剣である『絆の双刃』を埋め込んで補助具にしている。
その際に、弦は普通の物を用いていたが、自身に馴染んだ属性金属を溶かした塗料を用いれば両端に分かれた双剣の繋ぐオドの"導線"になるかもしれないという発想である。
他に新しく学んだ、『高山都市:ドゥナ・ロリアック』の部落にて
(今度、月長石さんに聞いてみるかなぁ)
【錬金術Lv3】【鉄心の如く】
また、自身の愛剣を鍛えあげ、その彫金を施した鍛冶師の事を思い返す。
帰郷の際に、武具のメンテナンスを依頼する際に訪れたが、相変わらずの鋼の一筋に鉄を鍛えている様子だった。
彼は『高山都市』から、持ち帰った素材にもかなり興味を持っていた。
今度相談してみようと、心に決めて。
―――先輩、ガルデニアの横顔が、翡翠の目が。
いつの間にか、文字通りに目と鼻の先に近づいていた事に気が付いた。
目線が合う。
高揚に、心臓が跳ねる。
「……っあの、何か?」
「やっと気が付いたか、熱心なのはいい事だが、少し無防備すぎる」
【超絶美形】
少し不満げな声。金糸の美貌に、華の匂いに不意を付かれて、動悸が心音の鼓動が荒ぶる。
(ちょ、近すぎ……っ)
距離に、鼓動を温かさを感じる。
カイトはそれを時々彼女が発揮する様な、軽いスキンシップの
気恥ずかしさに。取り乱さないように深呼吸に、心を鎮めようとして…。
―――その勢いのまま、更に身を寄せた。
「その顔、まだ冗談だって思ってる。私はあの時に言った、君に言いたい事があると」
のぼせる頭で漠然と思う。そういえば、そう言う事を言っていたなと。
存在を許せない『侵略者』の交戦に埋没していたが。金絹の髪、鼻孔を擽る匂いに想起させる。
当然として、その際の触れ合った
「思い出したか?状況が状況だったとはいえ、あれから全然気にかけてくれないのだもの」
「………あ、うん。その思い出したので、とりあえず離れて」
それは血をオドの契りに他者を活性化させる、九十九の御業【オファリンク】と聞いた。
後押しを、そういう迫られ方をしたのだと、認識して呑み込んだそれである。
その時と状況が似ていると、漠然に。
混乱、困惑。とにかくクールタイムが欲しいと立ち上がろうとする脚に力を込めて。
「……まだ、だめ」
彼女に、肩に掛けられた手に掛かる力に抑えつけられている事を自覚した。
完全に影になっていたあの時と違って、その顔色は伺える。
いざ声に出そうとすれば何処か上気して色っぽい。翡翠の目は真っ直ぐこちらを見据えず、彷徨い始めた。
彼女も、準備が整えてる訳では無いらしく、言葉に詰まっているようだった。
そして、時計の分針が3つほど進めた頃まで、沈黙が続いて……。
最低限、崩れた髪を掻き揚げて整え、伝えたい言葉を、やっとガルデニアは声に出す。
「私は君の事が、好きだ」
「—――――――――ッ?!」
そんな単純な言葉。"幸せになる道"を欠落を持つ彼に問う、考えて伝えたい事は多すぎて……。
纏まらなかった故に、単純な直球である。
カイトはその告白に、文字通り心臓が止まるかと思った。
息をのみ絶句、文字通り言葉が出ない。
カイトが冒険者としての先輩である彼女に抱く感情は、深い敬愛であり親愛である。
【阿修羅姫】【超絶美形】
出会った当初の通りにその凛とした後ろ姿に憧れに、歩みを供にすれば頼らしく、安心感を得た。
それに異性として魅力は感じていた。彼女は強く美しい"阿修羅の姫"である。
半面、だからこそ、気性である面倒見の延長で己が異性として好かれるとは微塵も考えなかった。
というより、失礼だと意識して異性と見てなかった面もあるかもしれない。
訳がわからず、思考がぐるぐる回る。
華の匂いに、柔らかな重量に、互いの鼓動を再度認識させられて…。
その頬に伸ばされる手に、理性が惚けさせられる、返すべき言葉がまとまらない。
辛うじて。
「その、えっと僕は、中途半端だけど、
「……それは知ってる、その上で君が"欲しい"といった」
今更の事だった、ガルデニアはその眼に見て知っている。
というか、割とショックを受けた。
それでも"欲しい"と想った。"幸せになる道"に欠落に意味を埋めて、供に戦舞を重ねたいと。
だからこそ、こうやって言葉だけじゃなく、行動だけで押し通したのである。
この世界に根付く、"一夫多妻"、またはその逆の文化。
生存競争が激しく、死が有り触れた隣にあるこの世界では割と一般的に受け入れられている文化だった。
産めよ増やせよを是とする。夥しい犠牲をもって道を切り開いてきた『人禍坩堝』である。
―――先ほどから、心臓の鼓動と脈打ちが場を支配する。
互いにじれったい気恥ずかしい。
背に込み上げる、ちくちくとした込み上げる甘い刺激は、脳幹さえ溶かしそうである。
まだ、カイトもガルデニアは愛なんてわからない。しかし、繋がれば相手を縛る、その蠱惑的な―――。
「………その」
実のところガルデニアは勝算があった。自身の容姿が優れている事に自覚はある。
以前と今日の遠慮がちに触れる様に、からかう様に
自身が異性として好かれているという自信はあった。
だからこそ、この機会はチャンスだとこうやって仕掛けた、彼女とてその血の意味を刷り込まれた元『奉納巫女』である。
手に届きそうな距離に、欲情に浮かされただけというだけでは、ない。
「―――その、えっと、あの……それでもやっぱりごめんなさい」
「……ぇ?」
だからこそ、この再度の否定は、より彼女の意識を揺らした、
ぎゅ……ッ!!
彼女はその現実に、溢れそうな恋慕の甘さが反転して痛みに代わる、呼吸に抑えつける手に力が籠る。
(痛い)
カイトは肩に爪が食い込むのを感じた。
「理由を、聞かせてくれ」
震える声。
辛うじてその理由を訪ねて……、身構える己は、自分でも制御できない程に感情が入り混じっていた。
生まれて初めて心が内にこもる瞳から光が消える、想いが毒に代わる。
「……僕は、ちゃんと向き合わないといけない、から」
彼も翡翠色の瞳を、花の匂いを蠱惑の誘いに理性を溶かされながら。
混乱した頭に言葉をつなぐ。
「ローズとは"同士"と思ってました」
言葉にする。取り戻したい大切なものがある目的を共通した"同士"だと、だから一緒にいるんだと。
身体を重ねても互いに、性欲を持て余した気の迷いみたいなものだと。
目的もあるから娼館に行くのもゴルがもったいない。そんな理由でごまかして、ローズは言葉にもしないからと甘えて。
冒険者同士が生き摺りに身体を重ねる。それ自体は、儘ある事である。
脅威に溢れたこの世界に、生存競争を繰り広げる冒険者といった雑草、最底辺。
基本的に、明日もわからぬ彼等はその日暮らしに飲み食い、そして男や女を抱く、いつ死ぬかもわからないこそ、出来るだけ良い思いをして死にたいというというのは当然の帰結となる。
明確な目的意識に、蓄財と鍛錬を重ねるカイト等はそういう意味では例外に近いのだ。
彼等の関係は互いに互いに、異性としては臆病であった。
ローズは好きだとそれが、無為滑稽な目的に付き合うそれが理由だと知れば彼は離れていくと想い。
カイトは自身の目的の無形滑稽さから、"同士"という言い訳が無ければ、供に目的に歩むなんて考えはしなかっただろう。
「でもそうじゃなかった。”オカシカッタ”のは"僕だけ"だった。そうだったんだ」
【凍結記憶】
そう仇敵と、『死神』と対峙した時にやっと取り戻した記憶と共に識った。
それは、きっと自惚れじゃなければ……。
「―――彼女が、こんなことに付き合うのは"僕"に、理由があるんだと、思うから」
思い返せばローズが初志である自身の家族、行方不明の弟の事を語ったのは最初の頃位である。
激情に駆られて、広い世界に飛び出した
そんな彼女でも、生きていけば現実を嫌というほどに知る。
近道なんてない砂漠の歩みは、その熱を容易に奪い。供にカイトがいなければ既に捨て去っていただろう。
なんとなく漠然と抱いていた想いは、言葉にしてやっと形になって。
「いつか彼女に応えないといけない。馴染んでしまったから、怠惰に流していた答えをちゃんと、こんな中途半端な形じゃなくて」
既にそんな関係に自然に落ちてしまった。どんな形であろうと責任を取るのは心に定めている。
幸せにする、幸せにしたい、出来れば幸せにできればいいと、自信なく。
渇きに狭められた頭に、矮小な手で抱えられるのは、そこまでで。
おそらく遠くない未来に己は、無謀のツケを、感情任せに無知を押した負債を、支払う事になるだろうというのに。
「それ以上は、僕には重たいです、だから、ごめんなさい」
【田舎育ち】【自棄自損】
実のところ、世界の常識則って、割とカイトは男女が複数の伴侶を持つという事に肯定的である。
故郷の田舎村では、比較的裕福な"土地持ち"が女性を囲っていた事もある。
それは"欲望の肯定"という意味ではなく、脅威に伴って先だって男手が多く死ぬために。
必然的に伴侶を喪い、居場所を喪った配偶者の女性の扶助という意味を持っているのである。
しかし、"優秀であるなら"、"責任を取れるなら"好きにすればいいという接頭詞が付く。
カイトはその両方に当て嵌まらない、基本的に自己評価が低い、その自信を抱けないというだけで。
「ガルデニアさんなら、僕なんかより素敵な人が―――」
どんっ
強くて綺麗な人だから、と口に出す前に。
身体を襲う浮遊感、身体全体にかかる重みに背中の鈍痛、そして床の冷たい感覚。
―――そして、柔らかくのしかかる質量を感じる。
「それ以上言うな」
強く光を取り戻した瞳が、カイトを睨んだ。
「君は勘違いしている、私は選んだんだ、君が良い。君が欲しい」
一時に欲望に任せてしまえばいいのに、己から自身を雁字搦めにする性根はこうも面倒くさい。
それが同時に、ガルデニアにとっては溜らなく愛おしく感じる。
やはり、意中の彼は幸せになる事が酷く不器用で"へたくそ"だ。だからこそ、だからこそ。
「抱え込んでしまえばいいのでしょう?こうやって後戻りできない様に、君がそんな言い訳でウソをつけない様に」
「ちょ、っと?!」
距離が縮まる、二度目のキス。
時にして数秒だったか、血の味のしない、触れあう様な確かめるようなキスに、
("―――それ以外は、許さない、何処までも追いかけてやる")
一度重ねて、言葉を紡ごうとする唇をまた塞いだ。
あの時の言葉が重なる。カイトはやっと己が想いの糸に絡めとられたかを、知るのだった、
かなり展開がめんどくさいなぁと思いますが、簡単に恋仲になるならとっくにくっ付いてるよ!って脳内リアリティ先輩が煩いので…。
大変申し訳ありません。