寝取り寝取らせ、寝取り寝取られ 作:ベーシックハッピー
「で、上手くいったか?」
「はい、完全に勘違いしました。それと、アレも言われた通りに」
いろはは満面の笑みでそう報告を締め括る。俺はそれに満足し頷いた。勿論それだけでなくいろはを手招きし抱き締めてやるのも忘れない。
そうしてやるといろはも嬉しそうに抱き返し俺へキスをしてくる。本当に可愛い奴だ。俺の言いつけどおり葉山との情事を撮影し、その中で頼まれた事を遂行してきたとは。本当に優秀で得難い存在だ。
「いろは、本当に助かった。お前じゃなかったらきっと俺はここまで立ち回れなかった」
「……でも、私じゃなくてもある程度は出来たんですよね」
「あー、悪い。言い直す。いろはだから俺は今のような悪巧みが出来た。お前以外じゃそもそも付き合うさえ無理だわ」
そう心から言ってやるといろはが喜びと嬉しさを噛み締めるように微笑んだ。本当に、俺にとっては三浦以上の存在だ。寝取り相手の理想はあいつだが、共に歩むならいろはに勝る奴はいないだろう。
そういう意味ではいろはと三浦は似た者同士だ。惚れこんだ相手にとことん尽くすという点では。ただ、三浦ではいろはのような立ち振る舞いは出来まい。だからこそ、今の俺にはいろは以上はいないのだ。完璧と評する所以である。
「先輩、私ご褒美が欲しいです」
「……イチャイチャかエロエロか選べ」
「両方、がいいんですけど……」
窺うような眼差しと声でこちらを見つめるいろは。ったく、仕方ない奴だ。昔はあざといを狙っていたが、こうなってからは本心からこういう事をするのだから厄介だ。ま、いいだろう。今回はそれだけの事をやってもらった。なら、俺も相応の対価を支払ってやるか。
「土曜にデートするぞ。買い物や映画でも何でもいい。お前の希望に付き合ってやる。で、最後は朝までラブホだ」
「……いいんですか?」
「構わん。今回のはそれだけいろはに負担がでかかったからな。ちゃんとやった事に見合うだけの報酬はやる」
「先輩、やっぱりそういうとこズルいです。冷たいようであったかいんですもん。これじゃ、どんどんのめり込んじゃいます」
「それが狙いだとしたら?」
「それでもいいです。私、とっくに先輩のものですから」
言い終わると同時にいろはがキスをし舌を入れてくる。それを内心で苦笑しながら受け入れ舌を絡めてやる。俺の部屋に響く淫らな水音。
だが今回はセックスはなしだ。いろはもそう考えているだろう。だからこそいきなりディープなのだ。いろはは徐々に高めるのが好きな女だ。だから普段はそういう雰囲気をゆっくり作っていく。しかし、今はそうではない。俺がそれを求めていないのを察しているのだ。
「……先輩、この前先輩は信じるなって言いましたけど」
「私はそれでも信じたい、か?」
「いえ、信じるなって先輩が言うならそうします。でも、愛するのはいいですよね? 私、何があっても先輩を愛してます。例え捨てられる事になっても」
「…………ま、何を信じると捉えて愛すると捉えるかはそいつにしか分からないしな。勝手にしろ」
言いながらいろはの髪を軽く手で梳いてやる。それをくすぐったそうにしながらも拒否する事なく、いろははただ身を俺に委ねていた。ホント、手放したくないな。それと同時にこうも思うのだ。
歪む前にこうなれていたら、と。本当に、心から、切ない程に思うのだ。
千葉県内にあるとあるラブホテル。その一室で一組の男女が交わりを終えていた。男は達成感や満足感のようなものを強く得たのか、自信満々な表情で隣に寝そべる女を見つめている。対して女は男から顔を背けるように寝そべっていた。その表情は男とは正反対と言ってもいい程のもので。
「じゃあ、俺はシャワー浴びてくるよ」
「う、うん。あーしはもう少し休んでからにする」
普段であれば逆の流れが当然であった事もあり、男は更に表情を歓喜へと変えながらその場から立ち去る。その気配が遠ざかり、完全に消えたのを感じとって女は顔を両手で覆う。
「何で……何でなん隼人。あーし、隼人に言ったはずじゃん。後ろからは止めて欲しいって。隼人も分かったって、そう言ってくれたなのに何で……」
その独り言は恨み言ではなく糾弾だった。そう、女は以前一度だけ男に後ろから抱かれた事がある。その時、女は感じ取ったのだ。これを男にさせ続けてはいけないと。なのでその時に男の顔が見えないのが怖いと嘘を吐き、以降は一度としてさせなかった。男が体位を変える事をあまりしなくなったのもこのためである。
「……サイテーだし、あーしって。ヒキオと隼人を比べるだけじゃなくて、遂に隼人とエッチしてる時にヒキオの事思い出すなんて……」
女はそう吐き捨てるように呟き、寝返りを打つように仰向けになった。そしてそのまま片手を自らの秘部へと移動させる。己の愛液で濡れたそこを、女はその手で愛撫し始めた。
「ああ……足んないよぉ……ヒキオのチンポが、あのチンポが欲しい。あーしの奥をゴンッゴンッ……って、突き入れてくれる刺激が欲しい……」
ここに至り、女は自覚した。心と体が噛み合わない事があるのだと。そして、それを決定づけたのはよりにもよって愛する男の行為だったのだ。女が男のためにと避けた危険をその男が何故か踏み込む事で。
女の自慰行為は男が戻ってきても続いた。さすがに別の者の名を出す事は止めていたが、男は女の行動を見てまたしたくなったのかと勘違いを起こし、より一層自分達の関係を破壊していく。
この日、初めて女は男へ嫌悪という感情を抱いた。かつては、あれ程想い、また求めた相手に。
「本当にいいのかい?」
「ん。今日は少し一人でいたいから」
「分かった。じゃあ、また学校で」
「じゃあね隼人」
女へ背を向け歩き出す男。その背が上機嫌なのに対し、女は大きくため息を吐くと男へ背を向け歩き出す。その手にはスマホが握られており、画面にはヒキオの文字が表示されていた。
前回はどこか躊躇いや戸惑いさえ覚えたはずの行動に、今回女は何も感じる事なくそれを行う。数回のコール音が聞こえた後、女の求めていた相手の声が聞こえてくる。
『どうした? また何かあったのか?』
「…………ヒキオ」
聞こえてきた声がこちらを気遣うものという事もあり、女は何かこみ上げてくるものを覚えた。思えばいつだって彼は自分を気遣ってくれていたと。常に女と男の関係を考え、決して自分の欲望へ身を任せる事をよしとしなかった事を。
普段であれば例えそう思っても辿り着かぬ言葉。出すはずのない答え。それを女はこの時出してしまった。初めて愛した男が我を見せた日、それをどこかで望んでいた女は、それによって自身の中にある何かをはっきり感じ取ってしまったために。
呟いたきり何も言わない女に彼も気付く事があったのだろう。心持ちぎこちない声がスマホから女の耳に流れてきた。
『よく分からんが、きっと愚痴か恨み言でもあるんだろ? 俺に聞いて欲しい事が。いや、あいつ以外にしか言えない事か。誰かに聞かれる事や知られる事は心配いらんぞ。相変わらず俺は話す相手などいないからな。むしろいなさすぎて言葉を忘れるまである』
「……ふふっ、何言ってるか分かんない。あと、そんな事心配してないし。ね、ヒキオ。今から会えない? 直接顔見て話したい」
沈んだ心に沁み込む不器用な優しさ。平静を装おうとして出来てない声。でも、それが女の知る彼が変化していない事を伝えてきて、彼女の顔を綻ばす。その感覚がかつて男相手になっていた事だと、そう思い出しつつ女は会話を楽しんだ。
生憎彼は外出が出来ないらしく、女の希望には添えなかったが、それでも女が切るまで会話に付き合ってくれた。それもまた女には嬉しかった。自宅に着き、名残惜しく思いながら女は通話を終える。
自室に入り、ベッドへ座る頃には男と別れるまであった黒い感情が綺麗に消えていた事に気付き、女は改めて思うのだ。
―――あーし、やっぱり男見る目なかったかも。
その時、女は自分の中で大事だったはずの何かに亀裂が入る音を聞いた気がした。
私は今、三浦先輩と二人で顔を合わせていた。何か先輩に言われた訳でも頼まれた訳でもない。これは私の独断だ。
「今度は一体何?」
「今日、葉山先輩に告白します」
私がはっきり告げた言葉に三浦先輩は一瞬呆気に取られた顔をした。ここまでは前回と同じ。前回はここで小さく笑みを浮かべて「好きにすればいいし。隼人があーし以外を選ぶはずないし」と勝ち誇られたのだ。さて、今回はどうなるのか。そう思って三浦先輩の反応を見つめた。
「そ。ま、勝手にすれば?」
「余裕ですね」
これは意外だ。だけど、どこかで予想していた事でもある。本当に先輩の言った通り立ち直ったようだ。おかしいな。私の感覚だと、立ち直ったとしてもどこかに綻びぐらいあると思ったんだけど。
それにしても、私に対しての刺々しさがすごい。ディスティニーでは面倒を見てくれたけど、今は絶対あんな事はしないだろうと確信出来るぐらいに。
「とーぜんじゃん。精々振られて悲しむといいし」
「ご心配なく。振られたって悲しくなりませんから」
「ヒキオにすがるつもりか。なら最初からヒキオを選べばいいだろ」
その言葉に私は舌なめずりしたくなった。あった。三浦先輩の綻び。見つけちゃった。この女の抱えてる黒い感情。そっかぁ。私に嫉妬してるから刺々しいのか。どこか嘲笑うように思いつつ、私は目を細めて三浦先輩へ問いかけた。
―――どうして三浦先輩が私と先輩の関係を知ってるんですか?
間違いなく三浦先輩の表情が凍った。いや、これはやってしまったという反応か。あのカラオケで私と目が合ったと言えばいいけどそれは出来ないはず。この女は先輩に見損なわれたくないのだ。だから絶対言えない。
ああ、やっぱりそうだ。薄々思ってたけど、私ってどうでもいい相手にはSっ気出るんだ。今も三浦先輩をどう追い詰めようか考えてるし。
「失礼ですけど、三浦先輩って先輩と仲良くないですよね? まぁ、先輩自身仲良くしてる人なんて皆無ですけど」
「ゆ、結衣がいるじゃん。同じ部活だし」
「プッ、三浦先輩本気で言ってます? あの先輩が私との関係を結衣先輩達へ教える訳ないじゃないですかぁ。ま、もしそうなら今ここで結衣先輩へ聞いてもいいですよ?」
私がバカにするように笑いながらそう言うと、三浦先輩は怒りに顔を歪める。でも、それだけ。結衣先輩へ聞けとも聞くなとも言わない。
あ~あ、こんな女が先輩の中で大きな顔してるなんて最悪。きっと先輩の初めてだからだろうけど、私の方があの人に尽くしてるし愛してるんだからっ!
「何で何も言わないんですか? あっ、そっか。言えないんですよね。カラオケで私とばっちり目合いましたもん」
「調子に乗んな一年。あーしは」
「葉山先輩と先輩で二股してた女が何言うんです? 今の私と何が違うんですか」
「っ!?」
乾いた音が廊下に響いた。私の頬を三浦先輩が引っ叩いたからだ。じんじんとした痛みが私を襲う。それでも私は三浦先輩へにっこりと笑ってみせる。
こんな痛み、先輩から捨てられる怖さに比べれば何て事ない。
「あーしは二股なんてしてない! あーしは隼人が」
「先輩はまだ三浦先輩を想ってますよ」
すかさず言い放つと三浦先輩の言葉が切れた。その表情は不意を突かれて告げられた内容で朱に染まっている。それが私により一層の冷気をもたらす。でも、これ以上は私がやっていい事じゃない。だからここはこれで終わる。
「じゃ、葉山先輩が私を選んでも恨まないでくださいね」
赤面している女を横切りながらそう言い放つ。もしそうなったら恨むどころか感謝するかもしれないけど。ま、それでもどこかで、あの女はヘタレ先輩が自分を捨てないと思っているんだろう。本当におめでたい。
本当に尽くすっていうのは自分を殺す事も必要なんだから。
そう思いながら私はサッカー部の練習しているグラウンドへ向かう。だけど、最後に一度だけ後ろを振り返った。そこに、もうあの女はいなくなっていた……。
「……ああ、別に気にしなくていい。前も言ったが俺は利用されただけだ。だから……ああ、それで構わないぞ。大体向こうは駄目元で、しかも脅迫紛いで迫ったんだ。更に、個人的に言わせてもらえば保険にされた俺の気持ちはどうなる。…………悪い。そうだな。俺もあいつの大事なもんをもらった事に変わりはないもんな。でも、それをお前が気にする必要はない。…………そうか。なら、三浦のためにもあいつのためにも利用してやればいいさ。因果応報って言葉の意味をしっかり教えてやれ。じゃあな」
通話を終える。いろはめ、行動が早いな。いや、俺の事をある程度理解していればこそか。それにしても葉山の奴も根は素直だったんだろうな。もしくはそれだけ舞い上がっていたのか。
いろはの仕込みが想像以上に効いたらしい。葉山の話では三浦はとても感じてくれ、いつもと違いすぐにシャワーへ行けず、更にあいつを誘うような事をしていたそうだ。こんな事をベラベラ話すぐらい、葉山は事態の本質が見えていない。
「……三浦はやはり俺との行為との差異を理解していたか」
俺がいろはに頼んだのは、葉山との行為でバックをさせる事とそこで感じまくる事だ。それにより、葉山へ三浦がそれを嫌がっていたのは、感じ過ぎて乱れる様を好きな男に見せたくない心境だといろはが告げる。
更に、そうしたのは葉山が三浦を強く求めてないように思わせているからだと追い打ちをかけたらしい。こうして葉山は三浦に以前もっと好きにしていいと言われた事も相まって、遂に三浦に対しバックから何度も何度も抱いたそうだ。
「さて、いよいよだな」
いろはをセフレとして受け入れようとしている葉山と、葉山とのセックスに不満を募らせてしまった三浦。見事なまでの気持ちと体の不一致だ。
ここで迷うのは、三浦をどうするかだ。あいつに葉山を捨てさせるのもいいが、葉山に捨てさせるのも捨てがたい。どちらにせよ、三浦が俺を選ぶのは間違いないだろう。ゴールは見えているが、そこまでのルートが色々あるのでその選択に迷うとは……。
「贅沢な悩みだ。しかもどう選んでも……なぁ」
思わず口の端が持ち上がる。その時の想像をするとチンポがガチガチに勃起する。と、その時スマホが振動した。表示されたのはいろはの文字。きっと葉山への告白関連報告だろう。そう思ってスマホを耳に当てる。
『先輩、やりました』
「ああ、葉山から相談があった。セフレになれって言われたか?」
『意味合いはそれですけど、言い方は違いました。ま、それはいいんですけどね。実はちょっとその前に三浦先輩とやり合いまして』
「……詳しく話せ」
いろはにしては珍しいな。と、そこで気付く。おそらく俺の三浦への執着にいろはは腹を立てていたのだろうと。だからここでそれをぶつけてしまったのだ。俺に怒られる事を覚悟しながら。
『今日ヘタレに告白するって言って反応を見たんです。前回と違って前向きな余裕じゃなかったです。どちらかと言うともうどうでもいいみたいな感じを受けました』
「…………続けろ」
『それで振られて悲しめとか言われたんで、そんな事にはなりませんって返したら先輩の事を持ち出してきて』
「誘導したな。まぁいい。それで、三浦はどうした?」
『……どうして知ってるのか聞いたら、結衣先輩から聞いたとか言ってきたんで、逃げ道塞いで無言になったところでカラオケの事を持ち出しました』
中々えげつない事をする。最後のは特にだ。成程、あそこで俺じゃなくいろはが三浦を視認したがったのはこのためか。俺に対しポイントを稼ぐ事を常に考えているとは、やはりいろはは優秀過ぎるな。
「で?」
『そうしたら調子に乗るなとか言われたんで、二股してた人が何を私に言うんだって返したら引っ叩かれました』
「大丈夫だったか? 腫れたりしてないだろうな?」
本気で心配する声が出た。顔は女の命とも言う事があるが、そうじゃなくてもいろはの事が心配になったのだ。それが伝わったのか、いろはは少し無言になってから嬉しそうな声を返してきた。
『はい、大丈夫です。さすがにそこまで三浦先輩も強くは』
「……ならいい。それで終わりか?」
『…………はい』
最後に不自然な間が開いたが、きっと俺に報告するまでもない事と判断したのだろう。こういうとこはいろはも賢いしな。
こうして俺はいろはの報告を受け、最後の仕上げが終わった事を理解した。明日にでもいろはの事を労ってやろうと思い、とりあえず電話口でその旨を伝えると楽しみにしてると弾んだ声が返ってくる。本当に可愛いな、いろはは。そう思って通話を終えて、ふとカレンダーを見やった。最後の日は三月十四日が相応しいかと、そんな事をぼんやりと思いながら……。
何も聞こえなくなったスマホを見つめ、少女はそれをそっと両手で包むようにしながら胸へ当てる。
―――先輩、絶対私が言ってない事があるって分かったはずなのに。私を信じないって言ったけど、やっぱり捻くれてるんだから。
その声はとても優しく噛み締めるようなものだった……。