寝取り寝取らせ、寝取り寝取られ 作:ベーシックハッピー
三浦と様々なツーショットを撮影した翌日の放課後。俺は葉山と屋上にいた。
「それで話は優美子の事かな?」
「ああ。お前の性癖がそういうのだとしても、三浦のエロい事から普通の事まで初めてはお前がなってやれ。ないと思いたいが、あいつの初めてを俺に奪わせて興奮しようとか考えてないだろうな?」
「……否定はしないよ」
マジか。いや、あの話を信じるなら有り得ないとは言わないが……そこまでか。
「そこは否定しろよ。てかしてくれ。三浦が言ってたが、お前がその事を打ち明けたのはあいつが初めてなんだろ? なら、お前も三浦を」
「言い寄ってきたのが面倒だったから、とは考えないのか比企谷」
俺の言葉を遮って葉山が告げた言葉は、一瞬で俺の中から思考能力を奪った。目の前の野郎は無表情でそう言っている。そこからは何も読めない。だが、三浦はこいつに打ち明けてもらえたと喜んでいた。それをこいつは知りながら……
「お前……それが本当なら」
「冗談さ。俺だってそこまで出来ないよ。でも、嬉しいよ比企谷。やっぱり君を推薦して良かった。優美子に打ち明けて一週間もしないで、彼女をそこまで思ってくれるとはね」
「一週間……」
おれが三浦から相談を受けたのは二日前。つまりあいつはかなり早く行動を起こしたのか。そこからも三浦の本気と葉山への想いが垣間見える。
「比企谷、一つだけ言っておく。俺だって優美子を愛してやりたい。でも、悲しい事に体と心が一致しない時もあるんだ」
「……お前もお前で過去がトラウマか」
「そう、だな。そうかもしれない」
「とにかく三浦と早い内にデートしてやれ。言っておくが、いくら三浦が俺へ迫ってもお前と済ませていない行為は今後一切しない」
「……比企谷、それは逆に言えば俺が済ませた事は優美子に出来るんだな?」
葉山の窺うような声に思わず息を呑む。初めて見る目と顔を葉山はしていた。これが三浦が少しだけ教えてもらった葉山の素なのか?
「……出来るとは言わん。だが、可能性はある」
「そうか。なら、お前の言う通り早く優美子の気持ちへ応えるとするよ。それが結果的に俺のためにもなるようだ」
そう言って葉山は屋上から出て行った。残された俺は何とも言えない気持ちでその背を見送った。もしかして葉山の奴、俺と自分を比べさせて負けたいとか思ってないだろうか? いや、さすがにそれはないな。大体あれの大きさとか知りようもないし。
……どこかでそれを願ってる可能性がゼロとは言わんが。
「三浦、やっぱり考え直すべきだぞ、これ」
誰もいない屋上で俺は一人呟く。葉山の性癖が本当かは置いておいても、こんな事を望む時点でどうかと思う。でも、三浦がそういう女だと分かったから葉山も打ち明けたかもしれんと考えると……なぁ。
「やっぱ他人の恋愛は関わるもんじゃないな」
そう結論付けて俺も屋上を後にした。この日は普通に部活へ顔を出し下校となった。だが、夕食を終え部屋で寛いでいると三浦からメール。
その内容は要約するとこんな感じ。葉山とデートした。そこでキスされた。で、俺ともキスをして写メを送ってほしいと頼まれた。
うん、有り得ないぐらい酷い内容だこれ。さすがに俺も何とも言えない気分となり、三浦へ電話する事にした。すると、三コールもしない内に三浦が出た。
『もしもし?』
「三浦、お前それでいいのか? 今日のキスは」
『分かってるし。隼人がヒキオとあーしをキスさせるためにしてくれた事は』
「……なら」
『それでも嬉しかった。隼人が初めてキスしたって教えてくれたし。あーしだけが隼人とそういう事したんだって』
三浦の心からの言葉に何も言えない。こいつは本気で葉山が好きなのだ。例えその行いが他人とさせるためだと分かっていても。
『それに、ヒキオとなら別に構わないって感じ?』
「は?」
『その、隼人から聞いた。ヒキオがあーしの気持ちに応えてやれって言ってきたって。じゃないと俺は何もしないって』
そこで俺は葉山の恐ろしさを実感した。あいつ、俺の行動を嘘にならない程度に改変して三浦へ伝えやがった。これじゃ、俺が三浦を大事に思ってる男みたいだ。しかも、それでいて葉山との仲を応援しているようにも取れる。くそっ、やられた。道理で三浦の声がちょっと照れが入ってるはずだ。
「……あのな、誤解してるみたいだから言っておく。俺はお前の事が好きって訳じゃないぞ」
『でもあーしの事を考えてくれたのは分かるし。ヒキオって素直な行動しないけど、よく考えると優しいって分かる行動してんだよね。やっと結衣の気持ちが分かったし』
ダメだ。もう三浦の中で俺はこういう人間だと決めつけられた。これを覆すのは可能だが、今それをやると三浦は葉山の事を相談出来る相手を失いどうなるか分からん。三浦がおかしくなれば当然由比ヶ浜にも影響し、更には雪ノ下や他の奴らにも波及する。もし葉山がこれを狙っていたのなら……さすが雪ノ下姉妹と長く傍にいただけはあると言えるな。
「もうそれでいい。じゃあな」
『ん。おやすみヒキオ』
「……おう」
生まれて初めて女子に優しくおやすみって言われた。やばいな、これ。思ったよりも心にくる。それに、相手は好きな男がいるのだ。しかも付き合っているし自他共に認める恋人と言える。それなのに、俺はそんな女に憎からず思われキス出来るのか。
……いかん。俺に寝取り属性が生まれそうだ。開けてはいけない扉へしっかり鍵を付ける。葉山が寝取らせで俺が寝取りとか厄介な関係になるのが目に浮かぶからな。
「じゃ、写メ撮るよ」
「……本当にするのかよ」
明けて翌日の放課後、俺はまた屋上にいた。三浦は吹っ切れたような感じでスマホを手にしている。これは良くない流れだ。三浦からすれば、俺は葉山との仲を進めようとしている優しい男。葉山からすれば、俺は自分の欲望を満たすために助言している存在。共に俺を見えない糸でがんじがらめにしてきている。だが、それを逃れようとすれば奉仕部へ良くない影響を与える。
……やっぱぼっちが最強だと証明されてしまったか。
「ほら、こっちこいヒキオ」
「どうしてお前はそこまで平然としてられるんだ?」
俺なんか正直呆れ半分動揺半分だ。昨夜は好きじゃないと言ったが、それでも三浦のような美人とキスなんて興奮しない訳もなく、また嬉しくない訳もない。でも、これをしてしまったら昨日しっかり鍵を付けた扉が開きそうな気がするんだよなぁ。
「平気じゃないから」
「えっ?」
「そりゃ、隼人以外の男とキスするなんて嫌だし。でも、ヒキオがあーしの事を大事にしろって隼人に言ってくれたからキス出来たようなもんだし。だから……これはそのお礼みたいなもん」
「お礼でキスって……大盤振る舞い過ぎだぞ」
「いいから早くする! あーしだって恥ずかしいんだからさっさと終わらせるよヒキオ!」
照れと怒りと色々な感情が混ざって顔を真っ赤にする三浦。正直言おう。滅茶苦茶可愛いです、あーしさん。そういうの葉山に見せてやったら歪んだ性癖も少しはマシになるかもしれない。
ともあれ、俺は三浦と向かい合って立つ。互いの息をかかるくらいの距離で。それでも三浦は普通にスマホを片手に画面調整をしている。俺はと言えば、これからの事を考え落ち着きを失い出していた。以前ハグをした時よりも緊張と動悸がヤバイ。
「……ん、これでいいし」
「な、やっぱりしてるように見せるだけで」
「駄目。隼人がちゃんとしてるとこ写してくれって頼んできたし。ヒキオ、男なら喜べ。自慢じゃないけど、あーしって結構イケてる女じゃん? それと一度とはいえキス出来るんだから光栄に思えって」
胸を張るあーしさん。今、軽く揺れた。思わず唾を飲む。据え膳ではないが、確かに男なら喜ぶべきかもしれない。だが、俺はそれでも拒否感がある。
「その、確かにお前はいい女だと思う。俺だって本音を言えばそういう事をしてみたい。でもな、お前が好きなのは葉山で、あいつもお前をそういう風に思ってる。なら、やっぱり俺はお前とキスは出来ん」
「……バカヒキオ。それ、狙って言ってるなら大したもんだし」
「は?」
噛み締めるような三浦の呟きに意識を取られた瞬間、彼女の顔が視界いっぱいに映っていた。同時に感じる複数の柔らかな感触。一つは胸。もう一つは……唇。微かに聞こえるシャッター音。そしてゆっくり離れていくやや潤んだ瞳の三浦の照れた表情。そこで俺はキスされたのだと気付いた。
「三浦、お前……」
「ん! ちゃんと撮れたし! じゃ、あーし帰るから! じゃあね、ヒキオ!」
茫然とする俺を置いて三浦は真っ赤な顔でその場から去って行く。その急ぐような姿に言葉をかける事は出来ず、見送る事しか出来ない。他の男が好きな女が俺にキスして照れながら去る。何だ、この状況は。どこのエロゲーだ? そう思った瞬間、俺はそこで気付いた。気付いてしまった。
「……何で勃ってるんだよ」
それは、俺の中に微かな寝取り属性が芽生えた証拠だった……。
四話と五話はエロあり回です。