高山流水さん、いつも誤字訂正ありがとうございます。
「ふうっ、うんっ……下着の上下バラバラだとズボラとか萎えるとか思われると思うんだけど、清隆くんは?」
「……桔梗、ちゃん。何で?」
今から下着姿を見せるために吐息と共に気合いをいれた桔梗の台詞で桔梗の存在を認識はできてはいても、そこで一之瀬は限界のようだ。桔梗がここにいる理由には、認識できても理性が理解を拒んでいる。
結果、一之瀬は身動きすらしなくなった。
思惑通りだ。
今までピンチなのは、一之瀬ではなくオレだった。
一之瀬が叫び声の一つでも上げれば、駆けつけた店員は保護能力を持つ担任教師を呼び、ひいては学校の介入を避けられなかった状況だった。
三股が明るみになるのは間違いないだろう。
坂柳理事長、茶柱、星之宮、辺りが何をするか知れたものではなかった。危なかった。その時でもどうにでも出来たがボールが相手にあるのは気分が悪い。
だが、今の一之瀬の精神状態では現状を咀嚼するので手一杯。咀嚼して理解するのは不可能だ。
叫ぶ余裕さえ消え失せた。
「男は基本不揃いだからな。どうとも思わないが」
後は一之瀬の倫理観を壊し、鈴音と桔梗に納得させるだけだな。
無理矢理にでも納得して飲み込ませる。そうでなければ許されないだろう。
ここまで女心を傷つけることを現在進行形でしているのだ。謝罪や誤魔化しで済むラインは、とうに超えている。
三人の反応も蔑みや怒りで済みはしないだろう。傷害に行きつく可能性もある。
いや、オレにぶつけられるならマシだ。オレが恐れているのは絶交されること。
三人が離れていくのが恐い。
弱くなったな。
周りの人間に興味がなく路傍の石のように思ってた頃には考えられない思考だ。
だが、悪い気はしない。
「ふうん。清隆くんってそうなんだ。私もたまに下着の上下バラバラにするけど何とも思わないの?」
「桔梗の下着上下バラバラは見たことがないから評価し辛いが、見れたら新鮮ではあるな」
執着するようになると弱くなるなと思考しながら、脳裏に暖色系の色合いで揃えていた桔梗の下着姿を浮かべながら答える。
「ふうん。なら、組み合わせ次第でだけどバラバラもありかなあ」
「そこまで気にすることなのか?桔梗は今までいつも揃いの下着だったよな」
「そこで聞くとか女心がわかってないなあ。女の子ってのは、そういう時には一番綺麗な自分を見せたいんだよ。私だけじゃなくて堀北さんも女の子は皆」
なんでこんなこと言わせてんのよと呻くと続けてくる。
「男の子もかっこつけようと──あー、そうだよね。清隆くんに普通求めても意味ないよね。まあ、お揃いがデフォで不揃いは冒険だって覚えといてればいいよ」
「そういえば、最初の時もお前は揃いの下着だったな……お前はあのまま俺に抱かれると想定していたのか」
今思えば男の部屋に一人できていたのだ。そう思わないのは難しい。
「抱かれる?……桔梗ちゃんが抱かれる?堀北さんとはそういう関係になってるから……ただ、抱きしめるだけ、だよ、ね……うん……ででも、桔梗ちゃんも下着、綾小路君に見せようとしているから……そういう関係、じゃないと……二人と、そういう関係……桔梗ちゃんと堀北さん仲悪くなるはずなのに……今、一緒に下着を買いに来た……桔梗ちゃん、堀北さんを悪く言ってなかった……ううん。心配そうだった……だから、その、これって、ふた、また?……それも、三人、どうい、で?」
まったく抑揚なく深夜男の部屋に来たのに何もされなかった一之瀬が呟く、今目の前で起きていることを少しでも認識するために自分に言い聞かせるように噛み砕いていく。
「は?」
認識しても理解できず、魂が押し出されたようにポツリと呟いた。
当たり前か、改めて言葉にされるとオレがしていることが酷い。恵のことをいつ言うべきか悩むくらい酷い。
「減点。デリカシー覚えようとしてもまだまだだね」
「そうか」
「そうだよ。清隆くん頭良いんだからさあ……あー違うか。頭良いからか。その上、前よりマシになっても他人に興味ないから、他人の行動ををまず悪意ありで判断するからなあ」
ふうとカーテン越しにため息が聞こえる。桔梗も前より踏み込むようになったなと言うのは野暮だな。
「そんな清隆くんだから、私のこと変な風に誤解するだろうから言うね。一度だけだよ」
一度だけに力を込めて、オレに告げる。なお
「は?え?二股、同意の二股、仲良しの三角関係……は?」
一之瀬は現状を理解しようとするも良識が拒み続け、意識があっちへいってしまっている。
「清隆くんの、気になる男の人の部屋に行くんだから、お気に入りの揃いだよ当然」
「……そうか、すまない。いや、ありがとうというべきだな」
過去のことを話していないのに、内面を見透かされるようになったことに心地良ささえ覚えながら返すと、笑みを含んだ声が返ってくる。
「お、上等上等。本当に少しはマシになったね」
そこでカーテンを明けてくる。
一之瀬はオレの陰に隠れるようにしたから、桔梗からは死角だ。
……桔梗が話すたびに息を飲む音が聞こえていたが今は気にしない。
「……で、どうかな?」
赤いストラップの白いレースの下着姿の桔梗が目に映る。
余りの姿に意識を取られ
「……レースか。似「ごめん。無理」
シャッ
そして、すぐ見えなくなった。
「おい」
見えたのは一瞬だけだが。
「し、し、下着?あれ、下着?す、透けて、ほとんど、見えて、あれじゃあ……は、は、は裸だよ……桔梗ちゃん」
余りの姿に、一之瀬の意識が現世に戻ってきた。
白い下着の布地は乳首や秘裂が透けるほどに薄かった。それが肌にぴったり密着している。
そのため、乳首は色だけではなく形までが浮かび上がり、ストラップだけ赤い色合いなお陰で、白い肩をより鮮やかに見せ、乳房を包み込むカップがおっぱいを搾りおっぱいとしか表現できないほどに強調させている。
下も、見えている。上と同じく見えている。
両脚の間の縦の割れ目が、陰毛ひとつない形を露にしてしまっていた。
それが足の付け根と腰に食い込み、未成熟ながら美しい女性の体のラインに絶妙なアクセントを付けている。
一言で言って、勝負下着だった。有体に言って攻めすぎていた。特に。
「き、桔梗ちゃん、桔梗ちゃぁんっ!?あんな下着恥ずかしくないの……あ!?体のあちこちに、赤い虫刺されみたいなの……が……あ……あ、あ、ああっ!?」
男に刻み込まれた痕が、白のレースを身に付けた肌にはよく映え訴えていた。
櫛田桔梗の体はこの痕を刻み込んだ男のものだと訴えていた。
「き、桔梗ちゃんの痕と、ほ、堀北さんの痕、赤い痕。色も鮮やかさも……お、同じ?……お、おな、お、同じ、だった」
オレに訴えていた。
「まさか、一緒に、そういう、こと……したの?た、た、多分、多分昨日、昨日そういうことしたの!?さ、さ、さ、さ、三、ぴP……そ、そ、そ、そ、そ、そんな、さ、さ、さ三人でなんて、な、何考え……あ!綾小路、くん」
パニック状態の一之瀬はそのまま追い詰めておくために放置し、驚愕の声を背後に聞きながらカーテンに手を添える。
シャッ
「ひゃうっ」
あんなに訴えられては、外から声をかけて出るようにするなど考えられない。直接乗り込むと桔梗が息を呑む。
鈴音くらいのちょっと冒険してみた感じの、黒とか紫とか派手なややカップが小さめで谷間をくっきりレベルでなら見せられたのに。
勝負しすぎたために、羞恥に全身を紅くして蹲って「私、何で、こんな、見られて」と呻きながら頭を抱えている桔梗を立たせる。
「ま、まって、やっぱりこれじゃ無理、着替えさせ──」
「あんなに綺麗なものを一瞬だけ見せられるのはたまったものじゃない。それ以上に桔梗の顔が見られないのは寂しいな」
「だ、だからって、こんな無理やり、無断で入ってきて、力ずくなんて」
「力ずくか。桔梗、力ずくとはこういうものだ」
ドンッ!!
「ひうっ」
と音を立てて桔梗の顔の横の壁に腕をつきたてた。
心臓を跳ねらせながら悲鳴をあげて反射的に逃れようとする桔梗の顔の反対側にもう一本の腕を置いて道を塞ぐ。
「あうっ」
最後の止めとして桔梗の股の下に足を入れる。
膝に感じる下着越しの柔らかな肉。昨晩、嬲り続けられて熱を持ち紅く腫れ膨れている女性の急所の肉を桔梗に痛みを与えないぎりぎりまで食い込ませて、柔らかさを味わいながら桔梗の体を壁に押し付け身動きが取れなくさせる。
「壁……ドン」
一之瀬の茫洋とした声を聞きながら羞恥に体を抱きしめる桔梗の顔を覗き込む。
「冷た……っ、ちょっと、何す!?……るの」
自分の体の火照りが伝わっていく壁の冷たさに、桔梗が茫洋とした意識を取り戻す。
乱れる心のままに泳ぐ視線を、顔に手を添えて半ば無理やりに押さえお互いの息を掛け合う。
「純白の上下、ここまで遊び抜きの本気の下着を着てくれるとオレも興奮して鼓動が早くなる。触ってみないか」
「そ、そんなっ!?!あぅっ……うぅぅ……近い、近いよっ」
意外に──いや、なんとなくわかっていたが、男に攻められる耐性がなく整った愛らしい顔を羞恥に染め視線を泳がせる桔梗の顔を見つめる。
まだ幼さが残しつつも急速に女の色を濃くしている顔立ちからはこちらを触る余裕が見られない。
「化粧をしたのか」
切り替えた、突然の問いに目を丸くして照れたようにほほを染める。
「え……あ、うん。ちょっとだけだけどね……変、かな?」
「いや。下着も気合入ってくれているし……」
言葉を切り、桔梗が自分の格好のあまりの恥ずかしさに手を体に巻きつけるのを待つ。
「普段は可愛いのに、化粧すると綺麗になるのは反則だな。今みたいに余裕がなくなると可愛くもなる。綺麗と可愛いが同居するのは少しずるいと思うぞ」
「!?!?ぅ……あう……あ、あははは」
視線を互いに絡ませる。桔梗の瞳に安堵の色が走り、体を隠していた手をわずかに緩める。
普段見せる辺りを魅了するための笑みではなく、オレにだけ向ける胸に宿る暖かさを表すような柔らかな笑みに眼を奪われる。
「桔梗ちゃん……何時もと違う……そっか……皆が言ってた恋人と過ごす時に変わるってこういう……ふ二股、なのに」
同時に、素の桔梗を一之瀬に知られる時被るデメリットを考えていたが、男といるときには女は変わると一般的な理解で済んでよかったと思考する。
「初めてだなあ」
「…………」
嬉しそうにはにかむ桔梗の視線にあわせたまま無言で言葉を待つ。
「男の子に褒められて自信とか優越感じゃなくて……こんなに暖かい気持ちになるなんてね」
「そうか」
「うん。何かぽかぽかする。こんな風に、男の子と過ごしてこんな気持ちになるなんて思わなかった。隙見せて襲われないように何時も気を張っていたからね」
どいつもこいつもちょっと近寄っただけで厭らしい目で見てきやがって、と毒づく桔梗をよりぎゅっとされど優しく抱きとめて返答する。
桔梗に対して下心だけでなく真摯な想いを抱いていた奴も居たが、教えはしないし桔梗なら気付いている。
あえて言わない桔梗の想いに、こいつはオレのモノだと応える。
体を隠したまま身をゆだねる桔梗の背中に手を回し体温を交換し合う。
穏やかな優しい想いを交換し合う。
隣の試着室から聞こえる包装紙を破く音が、鈴音がプレゼントした化粧品を取り出したのだと知らせてくる。
自身も化粧をすると思い立ったのだろう。
化粧した鈴音を初めて見れると思うと暖かな想いが強くなる。
「き、き、き、き、桔梗ちゃん。ふ、ふ、ふ、二股。二股だよ。い、い、良いの?そ、そ、それで良いの?本当に良いの?桔梗、ちゃん」
順調に壊れている一之瀬が更に暖かな想いを吹き上げる。
幸福ってこういうものなんだな。
「でも……堀北さんも……桔梗ちゃんも幸せ……そう」
ああ、幸せだ。
「カモミールの香水つけてくれたんだな」
「う、うん。トップノートだったからね。すぐに嗅いでもらえるから、その、つけたよ」
どうかなと柔らかい体を擦り付けてくる。ぎゅっと抱きしめ引き寄せる。
甘い香りが立ち上がる体が大きく震えた。
「いい香りだ。桔梗によく似合っている」
「そっか」
改めて桔梗の顔立ちを互いの息が届く距離で見つめる。
何度見ても、整った愛らしい顔だ。
桔梗が見上げ、オレが見下ろす。
ゆっくりと二人の間の空気が凝縮され熱くなり、桔梗の心臓が早鐘のように鼓動する音と振動を味わっていると、下着の恥ずかしさに耐え切れず桔梗が顔を下に向ける。
有無を言わさず、桔梗の顎に触れ、クイッと少し強引にやさしく元の位置に戻し、少しずつ顔を近づける。
「う、う、う、うそ、嘘だよね。こ、こ、こんなところでまさか」
一之瀬が熱視線でかぶりついている。
ゆっくりと顔を近づける。
「ま、まって、この格好は、ね。その、背伸びしすぎたから、変えさせて──」
「確かに背伸びしすぎたな」
「で、でしょ……次もその次もあるから、待ってて欲しいんだ」
一瞬目を伏せ傷心する桔梗にさらに顔を近づける。互いの熱どころか吐息に含まれる水気さえ感じる距離。
「話しは最後まで聞いてくれ。確かに背伸びしているが、駄目だなんて一言も言っていない」
「え???」
「遠まわしすぎたな。ハッキリ言うぞ。似合っているし、さっき言ったとおり興奮している。背伸びしている桔梗の気持ちがうれしい」
平均より大きくとも、ようやく膨らみきったばかりという綺麗な乳房。生硬さを感じさせる隆起。幼い少女のものとしては隆起が目立ちすぎて、成熟した女のものではない。大人の女へと変化していく境目の美しさが羞恥か興奮か薄桃色に染まっている。
肉がつき始めた下半身にもいえる。腰まわりや太ももはどこまでも華奢でほっそりしているのに、股間と尻は悩ましい肉がついている体。薄桃色の体。
その体が、勝負下着によって、女へと一歩踏み込むことで怪しい色気を漂わせる。
「まだ、着られているというべきだろうが、着れるように努力してくれているのが伝わってくるからな。オレのためにそこまでしてくれるということが、うれしいんだ」
「っ~~!?!?!?」
「だから、試着で着ているならまだしも普段からこんなのはつけてほしくないな。誰かに見られたら遊んでいると思われる。コミュニケーション能力が高いだけで、貞操観念がしっかりしているお前をそう見られたくない。特別な時にだけ着てくれないか」
桔梗が胸に飛び込んでくる。
「うん、大丈夫。清隆君の前でしかつけないよ。約束する」
しっかりとオレの背中に手を回して誓う桔梗の顎に手をやる。
「……当たってるよ。私のお腹に」
桔梗が、もぞもぞと腰を動かす。隆起し始めていたオレのモノが擦られ、腰にジンとした痺れが走る。
「ああ、悪いな。だが、仕方がないことだろう」
「仕方ないこと……なの?」
「オレのために着飾ってくれたかわいい女の子を抱きしめているんだ。仕方ない」
「そっか……そっかあ」
恥じらいと喜びに全身を染める桔梗にかける言葉は
「ああ、そうだ。目を閉じてくれ、桔梗」
できる限り甘くささやく。
「こんな、ところで?」
そんな風に言いながら桔梗が目を閉じようとするほどに甘く優しく。
「あ、あ、あ、綾小路君っ。き、き、き、桔梗ちゃん」
崩壊直前の一之瀬の悲鳴を聞き流しながら再度ささやく。
「桔梗、目を閉じてくれ」
「こんな、格好で?」
抵抗を見せるが、本気で抵抗はしない。
戸惑い嫌なのに辞めてほしくない。して欲しい矛盾が矛盾を生む。
頭の中が色々な想いに占められていき、次第に理性が本能に押されていく。
そうして桔梗は──。
「桔梗、もう一度言う。目を閉じてくれ」
もう桔梗に抵抗する力は残されていなかった。ゆっくりと目を閉じる。
「んっ」
柔らかな唇にオレの唇が触れた瞬間、桔梗が小さく声を上げる。
それをきっかけとして何度も唇を重ね、甘く柔らかな感触を存分に味わう。
「ひっ、ひっ、ひっ、ひうっ、ふああ~っ」
奇声を上げながらかぶりついてこちらを見つめる一之瀬が壊れるのは、後一歩だと考えながら甘さを堪能する。
「んっ。ぷはあ……ふふっ……舌、入れないんだ」
「入れたかったんだが、外だしな」
「今更だけど、うん、私もそれで良かった」
軽いキスに満足げな吐息を漏らし、鈴が鳴くような声で静かに桔梗がオレの右耳に顔を寄せ
「で、一之瀬どうするの?カーテン開けて変な声聞こえたからよく見たらさあ。下着の中に埋もれるみたいに隠れててドン引きしたんだけど」
幸せいっぱいな顔をまったく変化させず誤魔化しは許さない圧をかけて聞いてきた。
「アイツが居なかったら、そのまま下着見せたよ」
一之瀬、桔梗が出てから声抑えてなかったからな。
「何してるの」ではなく「どうするの」か。普段通りの笑顔を浮かべながら黒いところを見せる桔梗も成長したんだな。
そんな風に思考しながら口は自然と動く。
「モノにする」
「ちょっ……おい」
舌打ちひとつ、地獄の底から響くようなドスの効いた声を出しながら笑顔のままなのは大したものだ。何より
「桔梗ちゃん、キスして……綾小路君にしがみつくように抱きついて……綾小路くんの体で、桔梗ちゃんの胸、む胸が横にはみ出るくらい強く抱きついて……本当に、そういう関係、なんだね……さ、さ、さ、三股、受け入れて……るん、だ」
オレの意図を僅かとはいえ読み取って、一之瀬を追い詰めていくのが高ポイントだな。
「ちっ……具体的には?」
舌打ちひとつで何とか切り替えた桔梗に飲めるかどうか、かなりギリギリな提案をする。
「股かけるのを到底承知してくれそうにないから、今理性と常識を削っているところだ。我ながら余りにも非道なことを言うが、お前も手伝ってくれ」
一之瀬の前で話していることを考え、言葉を圧縮せざるを得ないが桔梗なら理解してくれるだろう。
「最低。サイテー。さいっていっ」
当たり前だが、理解はできても納得はできない。
同性の女の子に対する非道、自分の乙女心を踏みにじる非道、何よりも勝負下着で着飾った自分を一之瀬に見せたことを非難される。
他はともかく最後だけは本当に申し訳なく思う。
「はぁっ」
ジトリとした視線で睨みつけられたオレが桔梗の意思を逸らしたり受け流せば桔梗は許さなかっただろう。凪いだ視線で微動だにせず受け止められた桔梗は、ありとあらゆる罵詈雑言を飲み込み軽い吐息を漏らす。
「何で話してくれたの?いつも勝手に踊らせてくる清隆くんらしくないよね」
「切り替えた。少なくとも意図をお前たちには知らせる。いや、知らせたい。これからそうさせてくれ」
「そっか……うん、それで良い。安心した。その方がよっぽど良いよ」
それなら怖くない……まだ。と安堵に顔を綻ばせながら口ずさむ桔梗を見ながら、自分の決断が合っていた意を強くする。
そんなオレに桔梗が呟くように囁く。
「週一」
「ん?」
「週一、昨日みたいな3Pもせずに私だけをみて私だけを考えて相手して」
それが自分の条件だと、桔梗の口から出す前に軽く唇を合わせる。
「勿論だ。桔梗を蔑ろにしない」
「なら──あぷっ」
そのまま、何度も唇を重ね、舌を桔梗の口の中へと差し込んだ。
「でぃ、でぃーぷ……ディープ、キス」
呆然とした一之瀬の声を耳にしながら、オレの舌を迎え入れようと開いた桔梗の口から漂う唾液の匂いをかぐ。
香水の匂いに染まった体臭とは違い、櫛田桔梗という少女の生々しい匂いの甘さが、鼻腔から脳へとたどり着き理性を焼き焦がす。
取り付かれたように舌を絡め、互いの唾液を混ぜ合わせ粘膜を刺激する。
「ふあぁっー……」
唇が離れた瞬間、桔梗は長く息を吐き、恍惚とした瞳をオレに向けた。
「さ、さっき入れないって言ったのに。こ、ここで舌入れるとか……さいっていっ……ホントさいっていっ。清隆くんって女の敵のゲス野郎だよ」
言葉とは裏腹に体をさらに預けてくる桔梗の顎を上げる。
「嫌か?」
「……もう一回」
「ん?」
「も、もう一回して、もちろん舌入れて」
顔を逸らしボソリと呟く桔梗の声が聞こえないとアピールすると、恥ずかしげに頬を染めて顔を合わせ一之瀬に聞こえる大きさで呟いてくれる。
「一之瀬に聞こえるぞ」
「やだなあ……だからイイんだよ」
一之瀬に聞こえない囁きに、淫蕩な笑みを浮かべて囁き返される。
勝負下着を見られるのは恥ずかしいが、優越感を得るためのいちゃつきはOK。
あまりにも生々しい雌を見せてくる姿に、堪らず舌で桔梗の口内を蹂躙する。
目をうっとりと閉じて、その瑞々しい唇を惜しげもなく押し付けてくる。
ねっとりと舌が絡み合い、唾液を交換し合う。
離した唇から垂れ落ち互いの唇を繋げる糸の橋になっていた唾液を、桔梗が淫靡に啜り飲み込む音が酷く大きく響く。
「~~~~~~」
そんな様を見せられて、ただ、息を吸い続けることしか出来ない一之瀬の音を聞きながら、桔梗の腰にまわしていた右手にそっと桔梗が手を重ねる。
「いいよ、協力する。だって」
「だって?」
「あんな良い子ちゃんで、悪いことしても周りに許される奴だからね。苛めるのは正直大歓迎なんだ」
当たり前と言えば当たり前だが、万引きという咎をして法的だけではなく周囲の人間の良心において許された──あくまで、一之瀬の地元ではなくこの学校においてだが──一之瀬は桔梗の逆鱗に触れるに十分な存在だ。
あの時「帆波ちゃん良かったね」と天使の笑顔で祝福していたが、内面では自身が得られなかったものを得た一之瀬に対して嵐が吹き荒れていただろう。
今までは鈴音憎しを優先していたのと一之瀬を攻撃した場合のデメリットが大きすぎてやらなかっただけに過ぎない。
そのふたつがない今、絶好の機会に舌なめずりしているのだろうな。
その辺りを考慮した上で協力を要請したのだが。
「うわ、うわ、うわぁ~……そ、あ、そ、そ、く、き、キス……ディープ……ディープ……ふ二股、さ3P……あ、う、ああ、うわあああぁぁう」
この年頃の少女を壊した経験が何度もあるという自負が仇になった。一之瀬の精神耐久を高く見積もりすぎた。
すさまじい勢いで良識常識精神が崩壊して、言葉を紡ぐことも出来ず、壊れた楽器のようになった今、必要なのは後一押しでしかないが。
「容赦しないよ」
許される奴当たりから目をギラつかせ苛立ち混じりの闇を見せる桔梗からは、寛容や容赦と言う単語は消え、とことんやると言う意思しか見えない。
このままでは、やり過ぎるな。
「構わない」
「良いんだ?」
許可するとは思わなかったのか意外と歓喜の光を目に灯す。
上げるのはここまで、下げて釘を刺す。
「お前がしたことを評価するのはオレだと理解していればな」
威圧を込めた視線に桔梗の表情に怯えと畏怖が走り呼吸が止まる。
正直、何故ここまで怯えられるか理解できない。
オレは龍園や坂柳や南雲とは違い、直接手を下す所だけでなく間接的に手を下す所も衆目に見せないように気をつけているのだが。
ただ、崖から落ちそうになっても声をかけず、相手の進行先に落とし穴を掘ったのを悟らせていないだけだ。
なのに、オレの本質を見せた相手は誰もがオレの方が恐いと言う。
ある程度恐れられるのはメリットの方が大きいとはいえ、恐れられすぎるのはデメリットのほうが大きい。さじ加減が難しいな。
「っ……はぁ……意図教えてくれないと怯え竦んで動けなくなりそう。もう、怖いんだから」
「それだけで流せるお前も大したものだ」
「ああはいそうだね」
半眼になりながら頬を染め「ま、一之瀬が清隆くんどう想ってるかを考えれば悪くないか」と唇を動かし意を改めた。
「とりあえずやってみるね。合わせて」
無言で先を促す。
一之瀬に聞こえる声量に切り替える。
「そりゃあ隠れるよ。流石にこれは責めすぎたからね」
「似合っていてもか?」
「似合っていてもだよ」
「そういうものか……そういえば、普段は暖色系の色合いで纏めていたな。女の子らしい雰囲気が出ていて可愛らしくて似合っていた」
「年頃の女の子だからね。自分が似合う色合いくらいは知ってるし予算が許す限り揃えるでしょ……普通はだけど」
「だな」
あまり気にしていなかった鈴音のことに思い至り言葉を濁す桔梗に同意する。
「今の下着もエロチックな中に清純な可愛らしさが見え隠れしてたまらないんだがな」
「ありがと。まあ、今回こんな下着にしたのはさあ」
「ああ」
「昨日、どっかの鬼畜に二人して剃られたでしょ。あそこの毛」
「そうだな。だからそんな下着にしたのか」
「剃……った」
ドサリと脚から力が抜けて床にへたり込む音が聞こえる。自分の耳がおかしくなったように頭を振る音も。
一之瀬と同時にオレのことを攻撃し始めた。
何とか即座に切り返したが危うく切り返すのが遅れるところだった。当たり前だが、昨日のことを怒っているようだ。
「だってこれ剃った人用の下着だよ、縛られてあそこの毛剃られるなんて、死ぬほど恥ずかしかったし今も恥ずかしいんだからね。その上、パイパンの状態を維持しろとか鬼畜すぎるよ。けど……折角だからね」
あまりの台詞に店員の気配が近くにないか探してしまう。これは結構くるな。
「剃っ……た……し縛って、あ、あ、あ、あそこ……の……毛……剃……った……ふたり……ふたり、って、桔梗、ちゃん……と、堀、北、さん……いっしょ、に……さ、さ、さ、3P……さんぴい……しば、しばっ、そり、しばぁぁぁああああ!?」
一之瀬には結構どころではなく心臓を鷲づかみにしたようなダメージを与えているが。
一之瀬の良識が粉砕されてしまった。もう、今までの良識は戻らないだろう。
一撃でこれほどとは、相手の感情を掌をさすように把握しておかなければ出来るものではない。場を整えるのは苦手でも場に乗るのが巧い桔梗の真髄を見た。
殊勲者の桔梗は、あまりの羞恥に体を小刻みに震わせながらりんごのように紅くなっているとはいえ大したものだ。
「ふぅ」
一之瀬への悪感情を解消できた達成の吐息を漏らす。許されなかった自分に対して慰めになったのだろう喜悦に唇がゆがんでいる。
無論、客観的に見て一之瀬が許されて桔梗が許されないのは道理にかなっている。が、あくまで道理だ、感情ではない。
桔梗の感情も、それを利用するオレにとっても考慮すべきものではない。
これだけのことをしてくれるならば、桔梗の感情こそを考慮すべきだ。
「……あ~、駄目だね。恥ずかしすぎて一之瀬さんの面白い姿楽しめない。エロいのは私が水向けるから清隆君からはしないでね」
「わかった」
それはそうと手綱をきっちり握り締めなければと思うが。
ひょっとして桔梗の手を借りたのは失敗だったのかもしれないな。捨て身で一之瀬を攻撃するとは思っていなかった。
「き、き、桔梗ちゃんが綾小路くんの胸に顔、うずめ、て……剃られて……うずめて……しばられ……さんぴい……あ、ああ、あれ、ふた、また……あああ」
へたり込んだまま頭を抱える一之瀬の姿。もう十分壊した、これ以上何もする必要がないだろう。が
「(一之瀬はもういいよね)いちゃつこうよ。初めて……だから、本気……で着飾って、私の体、見せたい人に見せたくて見せる……の……どうかな?」
一之瀬のことを思考の片隅に追いやり、羞恥と喜びに体を赤く染めながら一歩引いて下着姿を見せて言ってくれた桔梗を蔑ろに出来はしない。 何よりも桔梗とオレがいちゃつきたい。
「今までの桔梗で一番目を奪われたな」
「そっか……えへへ……って目だけ──?」
「ああ、訂正があった」
「えっ!?何がっ!?」
「目だけでなく、心まで奪われた」
「……っ、もうっ……やっぱりクズになってるよ……バカ」
仕方ない、一之瀬にはもう少し耐えてもらおう。
櫛田さんが9巻の一之瀬さんを見て心穏やかに居れるとは到底思えない。