とか、まあ結構見たことあるような設定で書いてます
竜の血は莫大なリソースを有している。
そもそもが神話にこそ、それが世界創造の開闢の時代を語る逸話であるからこそ、それに付随する存在には概念的なリソースが膨大に使用されている。
だからこそ、竜の概念を継承する者たちには相応の立場や実力がついて回り、それを資源へと回帰させようとする『
其処に居た竜の子である『ジグ』もまた、悲劇によって命が尽きようとしている。
これもまた必然である。
「あれが噂の【蛮族王】……」
「火を吹いて村を焼き払ったらしいぞ」
「角が生えてる、コワイ!」
彼は絞首台から民衆を見下ろした。
首と両腕を襤褸板に嵌め込まれ、身動きできないように拘束されている。
【王】と呼ばれた以上はそれなりの人数を率いていた。
略奪に手を出さないことが最善であったが、生きるために褒められない殺戮を重ねたことは事実だ。
むしろ生まれの宗教観からすれば、闘争にこそ身を任せないことは許されないこともある。
だが、自分を捕らえるために年端もいかない子供に刃を突き付けて脅す、というのは秩序と平和を重んじる西方帝国的にどうなのか、とは若干思いはしたが。
そんな彼は、自分に纏う妙な逸話に呆れを抱く。
火は油を撒いて広げただけだし、兜どころか頭皮に直接貼り付けられた角だって自前ではない。
民衆受けが良いと領主の勝手な理屈によって、それは二度と外れないように膠で癒着されていた。
村を焼いた理由は、一面に広がる阿片畑に憤慨して焼いたに過ぎない。
むしろそんな毒を民衆に知らせずに抱えさせていると言うのだから、この西方帝国の行く末も知れる、と彼は鼻で嗤っていたが。
公示人が彼の罪を騙る。
帝国に従わない暴徒を引き連れていたこと。
国軍に3回も逆らい生き延びたこと。
見ての通り竜の末裔である、と騙られることによって『神の敵』と突き付けられる。
暴徒、というのが良くわからないが、どうやらこの辺りの山賊共の頭に据えられていたらしい。
この西方帝国は発展途上どころか、成立したのが50年にも満たない本当に最近だ。
それが古代のように戦争で勝ち取れた物でもない以上、それに従事していたモノ達の仕事なんてあったわけもない。
それにしか就けないどうしようもないモノだっていたが、それを全部彼に押し付けられるのもまた要らない話だ。
国軍とやらとは確かにぶつかりあったが、豪奢に飾った剣と鎧でやぁやぁ我こそは、と一々名乗りを上げる騎士かぶれがそうならば失笑モノだ。
投石、罠、あとは軽めのパンクラチオンで地に沈めてやった。
何回か村々で迎え撃った鎧姿の酔っ払いも数に含まれている恐れもあるが、それはあれだ、弱いのが悪い。
母は確かに何処とも知れぬ黒髪の、出自の判らぬ女であった。
だがそれは見てくれを村民に見咎められていたに過ぎず、それが悪であるなどというのは言いがかりに過ぎない。
ひょっとすれば今後も帝国は、こうした『言いがかり』を繰り返して悲劇を生むのかもしれない。
だが、今の彼にすればどうでもいいことである。
その事実がどうであれ、彼が死ぬことは避けられようがない。
「何か、言い残すことはあるか」
斬首刑は名誉らしい。
しかしそれが下手に巡礼の旅に出されて口を閉ざせない理由からだ、というのは、処刑を命じた領主が阿片畑の持ち主であったことからも明白である。
まあ、腐ったロバに詰められたり、焼けた鉄柱を腹に押し付けられるような拷問に比べればマシな方だ。
ジグはそれでも末期の言葉を聴こうとする執行人に、僅かばかりの憐れみを抱いた。
そんなまともな感性では、この先生きることにも苦労するぞ、と。
「死ねば、亡骸は海へ撒いてくれ。流石に山中は、もう飽きた」
「承知した」
海までどれほどあるか、というのに、承諾してくれた処刑人に今度こそ感謝を抱く。
そうして振り下ろされた大鉈は、笑って垂れた彼の頭を勢い良く撥ね飛ばした。
■
「エインヘリヤルよ、貴方の魂を救済します」
その白い馬に跨った鎧姿の乙女を見上げて、ジグは固まった。
自分が死んだはずだった、という記憶があるのに呼びかけられたこともあるが、馬上の者とは普通に考えて高位の者だ。
それが慈しむような眼差しで見つめてくるのだから、混乱するのも仕方がない。
彼が出会った目上の者はといえば、大概が人を人とも思ってないような、そんな人種ばかりだ。
蛮族王、などと名付けられたが、どちらが蛮族かわかったものでもない。
まあ祖父の教えもあって自分もヴァイキングに手を染めていたのだから、蛮族と言えば蛮族に間違いはないが。
馬上の乙女は見たことも無いような美貌と、目の覚めるような銀の髪が特徴的であった。
しかしてその鎧には、僅かながらの違和感を覚える。
鎧を染色する、という感性をジグには理解が出来なかった。
鉄は鉄、革は革、素材のままで充分だと思っていたそれに、乙女の鎧は空の如き青色を顕せていた。
せめて赤ならば判る。
返り血が目立たない。
「……あの、何か言ってくれませんか?」
乙女の雰囲気は、その二言目にはもう柔らかくなっていた。
出会い頭はそれなりに神秘的というか、荘厳というか、そんな空気もあったような気もする。
だが、それをジグが感じ取れたのは、ほんの数秒の話だった。
「……すまない、あまりにも綺麗なモノを初めて見たので、見惚れてしまった」
「ふぇっ!?」
素直に謝罪する。
何故か乙女の空気はより弛緩した。
「それで、エインヘリヤルと呼ぶからに、貴女はひょっとして戦乙女か」
「え、ええ! 私の名はロスヴァイセ、貴方を勇者として、我がアースガルドへ招待しましょう!」
その言葉に、ジグは猶更困惑した。
「………………神の国が、存在しているのか?」
「はい。貴方には其処の勇者として、」
「いや、確か、北欧の神々は『黄昏』で滅んだと聞いたのだが」
「――ハイ?」
ヴァイキングであった祖父の遺したモノは技術に教養、その中には自分たちが掲げていた宗教観だってあった。
故に、北欧神話を知っていたから【
人間の本質である闘争を肯定する、その宗教観がジグの蛮族としての生き方の支柱でもあった。
しかし、だからこそ今に矛盾を抱く。
北欧神話に因れば、
そうして滅んだ世界の最後に、人間の創造が出てくるのだ。
時系列として、そもそもが可笑しい。
初めは今際の際に陥った自分が、都合の良い末期の夢を自身の宗教観から再現したのでは、とも考えた。
宗教を生き方に据えてこそいたが、自分は敬虔とは言い難い神の信徒だ。
それでも生き方を突き詰めてしまったのは、偏に祖父のことが好きだったからでしかない。
「……まぁいいか。悪いが、
それから二言三言と会話を交わしたが、その辺りの記憶は彼には残っていなかった。
ただ酷く長閑な時間を過ごせたと、その魂は――
■
「おはよう! 気分はどうだい?」
「……よく、わからない」
目の覚めた自分を見下ろしていたのは、浅黒い肌の女性だった。
周囲では見た覚えのない、珍しい人種だというのは見て取れた。
しかし、それ以前に自分が何故ここにいるのかという、その疑問の方が強い。
自分は――、己は西方帝国のクソ共に斬首刑に処されたはずではなかったか――?
「此処は、何処だ、貴女は誰だ?」
「んんー、なんとも答え辛いことを先に問うねぇ」
何故答えられないのか、その不信感を募らせる返答に警戒が先立つ。
視線は自然と周囲を伺い始めていた。
銀の乙女にひと目惚れした妙に長閑な夢を見ていた気もしたが、そんな夢心地は寝起き数舜で露と消えていた。
「私は私自身を個人として誰かにわかりやすく説明できる定義に当て嵌まっていないのさ、順序立てて説明することになるだろうから、キミにとって理解のし易いことから説明させていただこう」
此処は薄暗い場所だった。
屋根は低く、石造りの壁には見たことの無いランプが煌々と室内を照らし、自分の起き上がった寝台は棺のように平らで生活感が無い。
山賊生活時代も海賊の時代も、こんな場所には縁が無かった。
なので此れが帝国の用意した個人用の死体置き場である、と――そう知ったのはずっと後になってだった。
「まず、身体に不都合は無いかな? 動き辛い所が在ると言うなら早めに申告してほしい」
言われて、結構不具合も無く自然と手足を伸ばす。
狭い部屋だが、洞窟のようだと思えば不便も無い。
山賊生活時代に女
屈伸に似た動きを見せていると、不意に自分の身体に違和感があることに気づく。
……己はこんな肌の色をしていたか?
「気づいたかい? それはこちら側の不手際さ。気分的にはギフトって感じなのだけどね、お揃いなのだから我慢しておくれよ?」
目の前の女の雰囲気が妖艶なことに比べて、俺の身体は炭で染めたように汚らしい。
ところどころに赤いスジのようなモノが這っており、不具合は感じないが違和感は拭えない。
得物を振るうことは遺憾なく出来そうだが、どうにも力が有り余っている感が強いのだ。
そう思い至ったとき、理解した。
自分は強くなっているのだと。
同時に、西方帝国に捕らえられて暫く動けなかった数か月を思い出し、何故そうなったのかを理解できずに困惑する。
身動きが取れなかった期間が長いのに、弱くなっていなかったという理不尽を。
「……
「ちょっとした転生、ってやつさ。聖書の定義には含まれていない、悪魔への、ね」
「悪魔」
女の言葉を反芻する。
それは信心深い帝国教会の奴らが使いそうな言葉ではあったが、如何せん耳慣れない。
聖書なるものも読んだことも無いので、推測を重ねる材料にもならない。
結局意味不明なままであることを察せられたのか、こちらに構わずに女は言葉を続けた。
「悪魔として歓迎する、っていうことだよ。【蛮族王・ジグ】」
その言葉に、背が蠢くように疼いた。
■
「凄い! 成功著しいよ! さいっっっこうだッ!」
「せ、つめい、しろ……ッ」
噴き出すように猛威を振るったソレは、ジグの背から生えたモノだった。
天井を突き破り、土砂を巻き上げて、南の方で見たポンペイのように赤いソレらが噴出したのだ。
遠目から伺う者が居たら、山が火を吹いたのだと慌てふためいたことだろう。
ソレにマグマほどの熱は無い。
むしろ自分の身体から暴れるように放出しているにも関わらず、鉄か海水のように冷たい。
その余波は飛び出した自分たちの周囲を凍えさせ、木々をバキバキと委縮させながら薙ぎ倒している。
そうして自分たちは森の下にいたのだと、ようやくジグが思い至ったのだが其処は今は割愛する。
海じゃないじゃないか処刑人め。
「なん、だ、これ、は……ッ!?」
「ハハハ! 好きに振るえよ、産声だッ! なんせ時間はたっぷりある!」
ジグの背から放たれて、奔流を繰り返しているのは赤黒い翅、そして翼だ。
蟲のモノを思い起こさせる一対のソレは肩から生えて、蝙蝠のモノにも似たソレは腰から生えている。
序でに尾のようなモノまでぎゅるんぎゅるんと暴れているのだが、生えた上ふたつが飛行性能まで遺憾なく発揮しているのかジグ自身が飛び回って振り回されているのだ。
普通なら死んでいる。
「気分は最高だ……ッ、この調子で、精々聖書の奴らを引っ掻き回してやるとイイ……」
女が恍惚の表情で何か言っていたが、それどころではないのは確かであった。
ぶっちゃけ赫子
蛮族王さんの元ネタは【エギルのサガ】っていう実在の伝説を持ってきてます
ご本人は最後の継承者の孫、って感じ