※この作品はR-18です。

対魔忍RPGより -愛と復讐を籠めて-   作:対魔忍Receive

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0話 誰にでもある願望

 

 俺は何処にでもいるような人間だった。

 

 ほどほどの高校を出て、ほどほどの大学に入る。

 

 ほどほどの大学を出て、ほどほどの会社に入った。

 

 そして当たり前のようにほどほどの、なにも変わり映えしない毎日を送っている。

 

 

 

 今日も、明日も、明後日も、そしてこれからも。

 

 一年先どころか十年先でも程々の生活を送っているのだろうと断言できる。

 

 人付き合いも、当然のようにほどほど。

 

 

 

 趣味というものがほとんどない俺にとって、一番厄介なのは周りの趣味の話についていくことだ。

 周囲から浮かないよう最低限。

 周りの趣味の話についていけるよう勉強もしている。

 

 そんな俺だが、確かに趣味はある。

 知られようものならちょっと引かれそうだから誰にも言えないだけだが。

 

 周囲に話せない代わりに、ネットでは思う存分趣味の話に没頭していた。

 もちろん話している相手の顔は知らないし、誰なのかもわからない。

 だが、そんな曖昧さが俺には合っていたらしい。

 

 仕事に影響を与えないギリギリの時間まで、同じ趣味を持っている人同士で夜遅くまで話せるネット。

 ネットは俺にとって唯一の憩いの場であった。

 

 そんな俺の唯一の、周りに言えない趣味。

 

 それは対魔忍というものである。

 

 知っているだろうか。

 

 

 

 闇の存在、魑魅魍魎が跋扈する今より先の未来の話。

 外道に堕ちた人や魔物、魔族と戦う対魔忍と呼ばれる忍の戦いの物語である。

 

 と一見カッコイイヒーローの話に聞こえるが実際はそんなことはない。

 

 

 

 アダルトゲームなのである。

 

 アダルトゲームと聞いてだいたい予想はできるだろうが、出てくる対魔忍と呼ばれる忍のほとんどは女性である。

 服装も普通想像するような忍ぶことに特化した地味なものではない。

 肌にぴっちりと密着し、その豊満なボディラインを余すことなく見せつけるような淫靡なスーツである通称対魔忍スーツを着ている。

 そんな忍ぶ気を欠片も感じさせないエッチな対魔忍が、当然のように活躍し、当然のように敵役に負けたり罠にかかったりして捕まる。

 そして淫らな調教をされてしまいアンアン喘ぐさまがとても良いのである。

 

 そんな戦うヒロインものである対魔忍は今ではたくさんのシリーズが生まれているが、問題がある。

 肝心のエロの中身がとっても問題なのである。

 

 とにかくハードなのである。

 一つ試しに例をあげよう。

 

 

 

 メインヒロインの感度が3000倍になる。

 

 

 

 これを聞いて何を想像できるだろうか。

 いや、まず想像できるかどうかすら怪しい。

 感度が3000倍にもなろうものなら悟りでも開いちゃいそうなものである。

 微細な空気の流れですら台風の中にいるように感知できるのだろうか。

 微かに聞こえるような小さな音ですら、音を伝える空気すらも強い衝撃に感じるのだろうか。

 疑問は尽きない。

 

 

 

 実際に感度3000倍になれば普通は死にそうなものだが、それは野暮というもの。

 感度3000倍の世界は想像すらできない。

 

 しかしハードなエロはこれだけではない。

 輪姦は序の口、異種姦や触手やニプルファックはもちろんのことリョナまでとにかく多彩なハードプレイが対魔忍である女性を襲うのである。

 そういった方面に耐性がない人を徹底的に拒み、耐性がある人や対魔忍シリーズをプレイして逆に目覚めてしまった人を引き摺り込むような狭くも奈落のような沼。

 それが対魔忍なのである。

 

 故に俺はこの趣味をネットという巨大な社会を知るまで誰一人とも話すことができなかったのである。

 ネットという共通の趣味を持つ人と知り合い話す場を得た俺は、水を得た魚のようにさらに対魔忍にのめり込んでいった。

 

 

 

 後悔はしていないのかって?

 

 無論するわけがない。

 他の俺が送っていたかもしれない人生は気にはなれど、対魔忍に出会えていない人生など論外だ。

 いつ目の前から消えてしまうかもわからない。

 だが、だからこそ、今を全力で楽しむのことができている今の人生に後悔はなかった。

 

 

 

 

 

 

 そんな趣味である対魔忍シリーズを日課のようにプレイしていた俺は、対魔忍のことを誰にも話せなかった昔を思い出し、感慨深く周囲を見渡した。

 

 壁にかけられた対魔忍のポスターや抱き枕カバー。

 机の上を覆い尽くさんとばかりに飾られたグッズの数々。

 普段は閉めている厚手のカーテンのカーテンレールには、対魔忍の代名詞でもある感度が3000倍になったその人、メインヒロインである井河アサギのポスターが飾られていた。

 ピロリン、とした音を聞き手元に視線を落とす。

 テーブルに置かれた愛用のスマホに目を落とせば戦闘勝利画面が表示されている。

 画面を数回タッチし、再び同じ戦闘を繰り返す。

 

「さくらが、遠い……」

 

 戦闘結果を確認し、つい口から漏れてしまった。

 プレイしているゲームの名は「対魔忍RPG」。

 俺がプレイしているのはさらにその名前の後にXが付くR-18版。

 対魔忍シリーズとして初の全年齢版が存在する対魔忍ソーシャルゲームである。

 

 対魔忍からエロを取って大丈夫なのか?

 

 という全国の対魔忍ゲームプレイヤー、通称お館様たちの不安を見事に払拭し、健全な全年齢版もそれなりの賑わいを見せているらしい。

 

 健全版もある程度プレイされていることに安堵するお館様たちであるが、一部のお館様にはこういった懸念もあるらしい。

 

 未来ある健全な青少年に対魔忍をプレイさせて、その将来の性癖を大いに歪めないだろうか、と。

 

 確かに元のゲームが純愛とは程遠く、対極にあるようなシチュエーション満載であることは事実である。

 しかも対魔忍に限らず登場するキャラクターの服装は青少年の無垢な性癖に影響を与えそうなものばかり。

 

 一部のお館様がそういった心配をするのも仕方のないことであった。

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな対魔忍のソシャゲである対魔忍RPGXをしている俺だが、先ほどから時計とスマホを行ったり来たりしていた。

 普段であればバッテリーにダメージを与えるからとやろうとしないゲームをしながらの充電もしている。

 そう今の俺はとても焦っていた。

 

 理由は単純。

 

 時間がないのである。

 

 いつものイベントであれば余裕を持って最終日の前までに粗方終わらせているはずなのだが。

 今回に限っては終わっていなかった。

 

 イベントが終わったと言うために必要なキャラが出てこない。

 最後のキャラはバトルのドロップでもらえるのだが、そのあと一人。

 井河アサギの妹である井河さくらがドロップしないのだ。

 しかもイベントはあと数時間で終わってしまうのである。

 

 それは俺は焦らせるのに十分すぎるものであった。

 

 何故こんなことになってしまったのかわけを話すと簡単なのだが、仕事がいつもよりちょっと忙しくなってしまったのだ。

 

 俺は会社で常にほどほどを維持している。

 目立っては仕事を任されてしまうし、平均以下では指を指されかねないし、何より給料が減りかねない。

 ほどほどの仕事をしてほどほどの給料を貰い、残った時間と給料を全て対魔忍に注ぎ込むのが俺の全てである。

 

 しかし、そんな俺の完璧な対魔忍ライフプランに誤差が生じていた。

 それは数週間前のこと。

 

 いつものようにほどほどの仕事をしていた時のことである。

 大きな案件を任されたのだ。

 

 何故?

 

 こんなのはほどほどの仕事じゃない。

 現実逃避をしたくなった俺が、後から知った原因は予想だにしないものであった。

 

 ほどほどにできる俺は基本失敗しない。

 対魔忍に捧げる給料が減っては困るからだ。

 だがそんな俺の失敗しないよう努力していたのが、今回は裏目に出たのである。

 

 地味に失敗しない俺の評価は上からは高いものであったらしい。

 失敗してはならない案件を、基本失敗しない俺に任せたのである。

 

 

 

 確かにわかる。

 俺ならまずそうする。

 上の判断も客観的に見れば何も間違っちゃぁいない。

 

 

 俺から見れば大変困るだけで。

 

 

 そんなこんなで大きな案件を任せられた俺は失敗しないよう頑張った。

 家に帰れば即座に対魔忍のゲームをプレイし、自分に課した日課を終わらせていく。

 しかし、普段から程々を維持していた俺に大きな案件をやりながらそれ以上をやる体力は残されていなかった。

 

 万年床と化したベッドにバタンキュー。

 

 そして翌朝を迎えるのである。

 

 夕飯?

 

 そんなものはない。

 

 シャワーを浴び、朝食を食べた俺は身支度を終えたら会社へ行く。

 それがここ数週間の俺の生活であった。

 

 

 当然だがプレイできていなかったイベントは最終日間近という名前で俺を強襲した。

 週末の休日を前に案件を丁度片付け終えた俺は、近所のドラッグストアで栄養ドリンクや眠気を吹き飛ばせそうなものを数本買うと家に直行した。

 最低限のものを腹に入れ、スマホとの睨めっこを開始する。

 それが一昨日。

 

 そして今日がイベント最終日なのである。

 危ない部分もいくつかあったが、普段の積み重ねをしっかりしていた歴戦のお館様の中の一人と自負する俺に隙は無かった。

 

 順調にミッションをクリアし、あとはキャラがドロップするのを待つだけなのである。

 ドロップするだけといっても確率には怖いものがある。

 ドロップしないときは、しない。

 物欲センサーだとか、そのキャラとの相性だとか、そのキャラに愛されてますかだとか言われているが俺は結局は試行回数だと思っているが。

 

 ネットで知り合ったお館様たちのほとんどがドロップしたというドロップ報告を上げている中、俺だけが落ちないのである。

 確率に嫌われてしまえばどうしよもないことだし、俺にどうこうできるものではない。

 

 事実他の歴戦のお館様でもドロップしなかったからと涙を流しているのを見たことはある。

 その時俺は既にドロップしていたこともあり、励ますことしかできなかった。

 だが、その励まされる側が俺になる、というのは御免被りたいものであった。

 

 スマホの横や、先ほどまで電源が入っていたパソコンの横には栄養ドリンクの空き缶。

 パソコンの横にあるのはパソコンでやればドロップするかと粘った兵の夢の跡である。

 

 無心で、いや無心でできていないのだがイベントを黙々と進めること数時間。

 時計の長身がそろそろ天辺を指そうというころ。

 

 ついに俺は成し遂げた。

 

 

 

「っっっっしゃぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 

 

 最後のキャラであるのさくらの、ようやくのドロップ。

 

 普段は隣の部屋の住人に知られないよう、迷惑をかけないよう声に出さない俺だが、このときばかりは許してほしい。

 ソファから自然な動作で、流れるように立ち上がった俺は大きな声で興奮を上げていた。

 

 

 

 ドンッ!!

 

「ハイ、ゴメンナサイ……」

 

 隣の住人である一人暮らしのおじいちゃんから壁ドンという無言のメッセージを頂いてしまい、俺は素に戻った。

 丁寧に謝罪を述べた後、やり残しがないことを確認する。

 

 ここまで苦労してやり残しがありましたじゃあ後悔にしかならない。

 しかも地味に引きずる系の。

 やり残しがないことを確認した俺は、この数日間に渡る長い戦いを共に戦い抜いた戦友とも呼ぶべき栄養ドリンクの空き缶を片付けようと手を伸ばす。

 

 いや、伸ばそうとした。

 

 急に世界が暗くなり、感覚がどんどん遠くなっていく。

 

「……え、なんっ……」

 

 なんだこれ。

 

 その言葉を言い終える前に、俺は先ほどまで腰かけていたソファに倒れ込んだ。

 長い戦いの疲れから解放された身体が、疲労から意識を落として回復を図ろうとしているのかとも思ったがどうやらそうではないことに気づく。

 

 音が聞こえなくなり、眼が景色を映さなくなる。

 触覚が鈍くなり、意識が深く、暗い水底に落ちていく。

 

 全ての感覚が消えていくのに、自然とそれがわかった。

 

 身体に力は入らない。

 眼も、耳も役に立たない中、唯一少しの思考を許してくれた頭で、原因を考える。

 が、自然と原因がわかった。

 

 そういえば最後に寝たの3日前か。

 

 金曜日に帰ってきた俺は普段なら日課をこなした後、当然のようにベッドに倒れ込み寝るはずであった。

 しかし、ふと不安になったのである。

 

 翌日が休日であることを知っているからこそ、ちゃんと起きれるのだろうかと。

 この疲れを持ったまま寝た俺はちゃんと土曜日に起きれるのだろうかと。

 ちゃんとイベントに参加し、終わらせることができるのだろうかと。

 

 案件開始からの平均睡眠時間は3時間にも満たない。

 今までの睡眠時間を取り戻そうと寝たらいつ起きられるのかわからなかった。

 

 様々な不安が急速に心を埋め尽くす。

 そんなわけで。

 

 不安になった俺は、寝ることを止めた。

 

 この選択をしたからこそ、先ほどの達成感を感じることができた。

 だが、よくよく考えればそこまでの無理をすればどんな危険性が俺を待ち受けているかは容易に想像できる。

 常にほどほどの仕事をしていた俺に、大きな仕事を終わらせ数日間お館様の激務をこなすだけの体力はない。

 

 ただでさえ少ない体力の総量を限界突破していた俺を、超えに超えた先で待つラスボス。

 

 過労死。

 

 自然とそんな言葉が湧いて出た。

 そういえば今朝のニュースで取り上げられ、コメンテーターもなんか言ってたような気がするそんな言葉。

 笑えない冗談だと、日頃気を付けていたそんなものと言っていたそれに殺される日が来るのだと。

 それが、今なのだと気づいてしまった。

 

 命が消える感覚。

 

 誰もが感覚を体感しつつも、誰にも知らせてこなかった感覚。

 

 俺を構成する感覚がどんどん消えていくというなんとも言えない感覚を感じつつ、俺は自然と笑っていた。 

 自然と笑っていた。

 

 俺が過労死で死ぬとか笑うに笑えない冗談だと。

 笑い話にすらならないような話を考え、俺は笑っていた。

 

 

 

 

 

 確かに俺は死んだのだろう。

 

 過労死で。

 

 原因は対魔忍RPGXのやりすぎによる過労死。

 

 笑うに笑えないし、正直目も当てられない。

 思い返せば何処かに穴を掘って埋まりたいくらいの恥ずかしい過去。

 今からでも遺言を残せるなら残したい。

 

 部屋に飾ってある対魔忍グッズを処分してほしいと。

 

 処分した後、処分してくれた人の記憶から俺の部屋の記憶の消去してほしいと。

 

 いや、処分するのは勿体ないので誰かに貰ってほしいと。

 

 いやいや、数年に渡って集め続けたものを誰かにあげるのもちょっと悔しいので、どうせなら持ったまま生まれ変わりたいと。

 

 最後に俺の眼が映したのはスマホに映る対魔忍RPGXのスタート画面。

 

 

 

 

 

 

 だからだろうか。

 

 俺の秘蔵の対魔忍グッズがどうなったのかはわからない。

 それに関して俺の遺言は叶ったのか叶わなかったのか、いやそもそも残せてないのだが、俺の遺言はだいたいは叶わなかった。

 しかし、一つだけ叶ったものが、だがこの場合は叶ってしまったと言うべきだろうか。

 叶ってしまった遺言が一つある。

 

 

 それは生まれ変わりたいというもの。

 

 

 俺はどうやら、対魔忍の世界に転生しちまったらしい。

 

 

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