対魔忍RPGより -愛と復讐を籠めて- 作:対魔忍Receive
目が覚める。
俺の視界に映るのは長年暮らしていた実家の古ぼけた天井でも、若干愛着が湧いていた賃貸マンションの天井でもない。
ただの闇。
その為何も見えない。
ただ、起きたことは確かなようで、温かい布団や少し冷えた外気が俺が起きていることを教えてくれた。
起きた俺がまず確認したのは、やっぱり自分の身体だった。
起きたら夢でした、とか起きたら見慣れた賃貸マンションのリビングの天井でした、とかそんなことを期待していた俺がいる。
ただ日頃の疲れから倒れただけならどれほど良かったか。
いつも通りに起きる。
いつも通りに寝間着のまま朝食を食べる。
いつも通りに出勤時間ギリギリまで対魔忍のソシャゲをしながらテレビを見て時間を潰す。
そして、いつも通りに身支度を整えたら、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に揺られて出荷――
……もとい出社。
そんないつも通りが途端にできなくなったのだ。
不安しかない。
そんなことを思いつつも、ぺたぺたと身体を触った俺は結論を出した。
「昨日のままか……」
よくある転生系のアニメや漫画、二次創作よろしく、俺の身体は昨日寝たときから変わっていなかった。
小さい子供の身体のままだった。
その事実は、無意識に言葉に出るくらいに衝撃的だった。
死んだ俺は別世界に転生してしまったのか。
はたまた実は生きていて、意識だけ別世界に来てしまったのか。
それはわからない。
しかし、今現在の俺がこうして小さくなってしまっているのは紛れもない事実である。
この際、異世界転生でもしたと思って気楽に考えてみたいと思う。
正直なところ、無様に口を開けて寝ているだろう俺の身体に戻れると信じたい。
さて、転生した。
いや、これは転生なのだろうか。
転生系?にも複数あって、生まれ変わって生まれた時点から記憶があるやつがある。
王道転生と言うものだろう。
それなら転生したことが確実なのだから確認が楽でとても良い。
……その後、数年間記憶の奥底に
次は物心ついた時や、何かのきっかけでふとした拍子に前世の記憶を取り戻すものである。
これに関しては生まれた人間の記憶に前世の記憶が後から付属されるのか、それとも混ざってしまうかでだいぶ変わる。
これはニューゲーム転生とでも言うのだろうか。
新しくゲームを始めたら操作されるキャラクターはこんな感じになると思う。
これはちょっと大変な転生でそれはもう混乱すること必死である。
なんせ一人の人間にもう一人の人間が突然入ってくるのである。
記憶に関わる出来事があるとどんなアニメでもゲームでも、漫画でも人は頭を押さえる。
痛いだとか酔うだとか変な感覚だとか。
誰も体験したことの無い、いや体験することの無い経験だからこそ本能的に何かヤバイものであると表現するのである。
記憶を変化されるものは痛いとエロゲーで今までアンアン喘がされている女性たちも言っているのである。
一言言おう。
ヤバイ。
俺が転生するのなら痛いものは嫌だし、記憶が突然入ってくるとかノーセンキュー。
痛いものはなしでお願いしたい。
痛いものに対して喜んで突っ込んでいくのはヤバイ人間である。
せめて、せめて葛藤する時間を下さい。
準備もしたい。
葛藤したり準備したり時間なしに痛みを体験させないで欲しいものである。
最後の三つ目。
これは憑依するタイプで憑依転生と言うべき。
憑依する対象も様々で、生き物に転生するものやあからさまに思考のできなさそうなスライムとかの魔物やそも生物ですらないものに憑依することがある。
これはよくあるご都合主義を活かしたものだろうと思う。
ようは魂が入れる場所やモノがあったから魂が入ったのだろうと。
そこに偶然魂を受け入れられるモノがあって、魂が運良く定着して、魂を受け入れたモノが正常に動いてくれるパターン。
まさにファンタジーの王道だろう。
そこまで運を味方にしていれば多少の不幸や現実を前にしても、最後はハッピーエンドを迎えるだけの最低限の力はあるのだから。
全てが上手く行くとは言わないがどう行動するかで幸せを掴むことはできるのだ。
なお記憶は魂に付属します。
さて、ここまで上げた三つの例だが、他にも転生の仕方はあるがここでは三つにさせてもらおう。
三つの例の中で俺は果たしてどの転生の仕方をしたのか。
一つ目はないだろう。
なんたって生まれたときの記憶がない。
目が最初から見えなかったのか。
それとも何かしらの封印とかそれはもう見栄えが悪かったから隠されたのか。
何かしらの理由はあるのだろう。
一つ目の王道転生はない。
残るは二つ目ニューゲーム転生と三つ目憑依転生。
思い出した記憶もないし、途中から記憶があるためニューゲーム転生とも言えるのかもしれないが、憑依転生かもしれない。
二つ目か三つ目か。
どちらかだと思うがさてどちらだろうか。
それはわからない。
ああ、ぶっちゃけるとわからない。
本当にわからない。
なんたってあんまりにもわからない時期に転生したのだから。
物心ついた時やふとした拍子に記憶を取り戻すことはあるだろう。
なんたって俺が生きていた世界でも似たようなものがあるのだから。
生まれた子供が家族が一切の接点がない人物の記憶を持っている。
実はこれ、身のまわりで起きていないだけで世界ではよく起きていることなのだそう。
これは物心つくようになった時や、しばらく普通に生活しているとその記憶を持っていたことを忘れるそうだが、
もし、俺がこの記憶を取り戻した系の転生だったときは多分、昨日が記憶を取り戻した時なのだろう。
きっかけはまるでわからないが。
もう一つの憑依系だったとき。
それはそれでわからない。
そもそもこの身体の持ち主がどういった人物なのかわからないのだからどうしよもない。
憑依したと言うことはこの身体の持ち主の意識がどうなったのか。
この身体の持ち主にいったい何が起きたのか。
悩みの種が気づけば倍になってました、くらいの勢いで増えるだろう。
「若様、おはようございます。災禍でございます」
俺が布団から起きたまま、云々と唸っていると障子の向こうから凛とした声が響いた。
ギギギ……と錆び付いた歯車を無理やり回す音が聞こえそうな感じで俺の首が動く。
そう、昨日から何も変わっていないことを確認した俺だったが、実のところ一番気になっているのはこれなのである。
フルネームはふうま災禍。
この名前は俺にとって、いや俺の世界のお館様にとってかなり大事な意味を持つ。
対魔忍アサギ決戦アリーナにおいてはふうま弾正の秘書として暗躍し、主である弾正が斃れてなお主人公に固執した女性。
主人公に敗れた後は一時全てを諦めるも何かに導かれるようにしてその姿を消した。
続く対魔忍RPGにも登場している。
こちらでは主人公であるふうま小太郎の後見人として小太郎を見守るお姉さん的立ち位置にいる。
具体的には甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、お菓子を作ってくれて、優しく見守ってくれるお姉さん。
これには全国のお館様もびっくりの設定であった。
正直に言います。
こんなお姉さんが欲しかった。
あ、もちろんRPGの方で。
さて、話を戻すが昨日さいかと名乗った女性が果たしてふうま
それとも
重要なのはそこである。
もし、転生したのが対魔忍の世界であったならば、俺はまず間違いなく引きこもりになる自信がある。
対魔忍を始めとした数々の美女をアンアン喘がせたいとかまるで思わない。
なんたってアンアン喘がせるためには無法地帯の極みのような場所に行かねばならないのだから。
最強の力を手に入れて俺最強!をしたいとも思わない。
最強の力は最初強くても気づけば最強じゃなくなってたりするのだから。
対魔忍や米連、そして魔族を裏から操り影の支配者になりたいとも思わない。
そういった影の支配者はいつか討たれるに決まってます。
平穏無事に寿命で死ぬことを目標として全力で生き延びたいと思います。
前の世界と同じ普通のサラリーマンとして普通に給料もらって普通に暮らしたい。
でも前の世界と違って嬉しいことにオカズには困らない。
年齢制限だとか、表現規制だとかそんなもの対魔忍の世界にあるとは到底思えない世界観だったのだから。
結婚したいけど、結婚できなくても色々と困らなさそうなのである。
酷い話になるけど、裏サイトに公開されるオカズのそれは俺がいた世界のそれとは比べ物にならないのだから。
目前に迫る俺の今後の生き方を左右する最大のイベント。
それにどう対処しようかと悩む俺だが、現実は待ってくれない。
選択肢も何も出ないのである。
現実は実に非情であった。
「失礼します」
障子が滑る音と共に人が部屋の中に入ってくる気配を感じる。
俺を見るその人の息遣いや、俺の身体を見つめるその視線まで、なんとなくだが感じることができる。
よく目や耳が使えないと他の感覚が鋭くなるというが、そういうものなのだろうか。
俺の身体を伝う視線が顔に到達したとき、少し息を呑んだような気がした。
俺のところまですすっと滑るように歩み寄った女性は、いつもそうしていたのだろう。
俺の寝間着に手をかけると瞬く間に脱がしてしまった。
あっと言う間の出来事に抵抗も何もできない俺を尻目に、慣れた手つきで身体を拭く。
拭かれ終わったら服を着せられて終了。
恐るべき早業であった。
「それでは若様、朝食の時間でございます」
そんな早業を終えた女性は俺の手を優しく握ると何処かへ連れていく。
溜息が出そうなほどに柔らかい女性の手に、俺は改めて感動を覚えるのであった。
生まれてこの方家族以外の大人の女性と手を繋ぐことなどなかった俺にとって、その柔らかさは衝撃的だった。
そんな柔らかい手に衝撃を受けている俺は、連れて行かれた先で羞恥プレイを受けるなど欠片も思っていなかった。
後に聞いた話だが、目が見えない俺。
いや、この身体の前の持ち主は目が見えないことに相当苦労していたらしい。
昨日の夜歩いたいつもの縁側への道のりは何度も歩くことで身体が覚えたようだ。
しかし食べることは大変だった。
普段何気なく、自然に行えている食べるという動作だが、よくよく考えてみればそれは目が見えているからこそ楽にできるのだ。
目が見えなかったらそもそも何処に何があるのかわからないし、箸は持てても掴めない。
以前の俺は目が見えないおかげで朝食すら満足に食べれなかったのである。
見るに見かねた災禍は俺の代わりに箸でご飯を取ると口へ運ぶ。
誰の口かって?
それは決まってる。
俺の口だ。
つまり、全国の男が憧れる女性からのあーんってやつである。
恥ずかし過ぎて憧れでもなんでもない?
そんなことはどうでもいい。
人によっては憧れるし、羨ましいし、誰しもが一度は経験したものなのだから。
そのあーんして食べさせてもらうのがご飯の時の常識だったらしい。
何処にご飯があるかもわからない俺はよく零し、よく汚したとのこと。
詳細なぞ聞きたくもない。
災禍は子供ができたようでとても楽しかったと言っているが俺にとっては忘れたい記憶である。
またいつか、させてほしいという災禍のお願いを聞き入れることはないだろう。
たぶん。
対魔忍RPG初のバレンタインイベントお疲れ様でした。
報酬SRがまさか災禍だとはまるで予想していなかった筆者。
全力で走るもまさかのノードロと言う結果に沈みました。
次こそはリベンジをば。
……クリアちゃんかわいい