対魔忍RPGより -愛と復讐を籠めて- 作:対魔忍Receive
「若、なぜ時子などをそばに置いているのですか、私の方が優秀です」
「おや、若の方からお声がけいただくとは、執事として重用いただけるということですね?」
「当主としてはご立派ですがあまり根を詰めるのはよくありません。さ、後は執事の私に任せて」
「おのれ時子め……また邪魔を……!」
「若、ふうまの一族に使える執事として全力でお助けいたします。時子などよりも」
さて、この台詞は誰の台詞でしょうか。
答えは、ふうま天音です。
正解できた人はおめでとう。
わからなかった人はどんまい。
一言。
たった一言でいい。
これだけは言わせてくれ。
誰だお前……。
決戦アリーナにおいて弾正を追う中で、幾度も激しく衝突するふうま天音。
幾度かの追跡を経て、ついに弾正を討つことに成功したふうまに対し、天音はこれ以上ないほどの憎悪を向けるようになる。それまで絶対服従の戦闘マシーンとして弾正に仕えていた彼女が、弾正を失ってから初めて得た感情こそが、ふうまに対する果てのない憎悪だった。その場は同じようにふうまを恨む弾正の残党をまとめ上げ撤退する天音だったが、ふうまが闇の一勢力として基盤を築き上げる中でも弾正の仇を討とうとその命を狙い続けた。
ちなみにこの因縁は作品が終了するまで決着がつくことはなく、その結末は依然として不明なままである。
勿論、当然のように続編である対魔忍RPGにも登場する。
初期実装キャラクターであり、かつ最高レアリティとしての登場に多くのお館様に衝撃と驚きをもたらした。決戦アリーナにて、同じく弾正に忠誠を誓っていたふうま災禍にカード化の回数を大きく離されていたこともあり、対魔忍RPGでは同じように初期実装されていた災禍よりもレアリティが高いことを思えば大躍進であろう。
ここまでを聞くと喜ばしいことだが、決戦アリーナをプレイしていたお館様にとっては不安な要素しかなかった。当たり前である。ふうまに対する天音の印象は最悪の一言。そして、主の仇なのだから。
天音がふうまに対して良い印象を持つことなどあり得るのだろうか、と思うくらいには。
さらには決戦アリーナにおいて実装されたカードのHシーン。
そのシチュエーションに至っては凄まじい。その一言に尽きる。
決戦アリーナでは膨大な数のシチュエーションが存在するが、陵辱する側が最後に引いてしまい、無言で見守る程の醜態を晒しているのは彼女のみである。
だが、少ない希望も存在していた。
同じく対魔忍RPG。
以後、RPGと略そう。
RPGに初期実装されることと相成ったふうま災禍の設定が別人呼べるほどに一変していたこともあり、彼女に対し淡い期待を抱いたふうまは少なからず存在した。
だが、依然として多くのお館様が不安に思っていたのもまた事実であった。
そして、RPGが稼働し彼女を入手するお館様もといふうま君が増えていくと、彼女の評価が大きく変わることとなる。
改めて言わせてほしい。
誰だお前……。
そう、ふうま天音は化けたのである。
ふうまを「若」と呼び、忠誠を誓い、執事として何かと世話を焼きたがる。同じく執事である時子よりも自分が優れているとアピールすることを欠かさない大変可愛らしい存在へと。
これには多くのお館様、もといふうま君が驚愕することになる。
見た目は可愛らしくも、口を開けばふうまに対する罵詈雑言の嵐だった決戦アリーナ時代がまる嘘のよう。決戦アリーナとは打って変わって主人第一のイエスマンではなく、回想ではふうまの浮気性を治そうと行動する場面も見られる。これ以上ないほどに仕えて欲しい存在へと変貌していた天音。
惜しむらくは時子以上に出番が少ないことか。
名前は出てくるもののストーリーやイベントにも一切顔を出さない。
他のキャラクターに比べ不遇な扱いなのである。
「若様の執事を務めさせていただきます。 ふうま天音でございます。 これより先、天音は常に若様と共にあります」
そんな可愛らしい存在へと変貌を遂げたふうま天音。
彼女が俺の目の前にいるのは、大きな理由が存在した。
一つ目は、災禍が忙しくなることに対する負担軽減。
これまで災禍が付きっきりで俺の面倒を見てくれていたが、これから災禍が忙しくなるらしく、災禍に代わり天音が面倒を見れる場面では俺の面倒を見るのだとか。基本は災禍が俺の面倒を見るのは変わらない。ただ、面倒を見てくれる相手が増えるだけだと災禍は言っていた。
二つ目は俺が三歳の誕生日を迎えたことだ。
普通であればまだ執事や秘書を迎えることはなく、乳母が側にいる程度。
だが、俺は違う。周りから存在を知られてはならない以上、存在の秘匿のために乳母をつけられていなかったのだ。今までは災禍が弾正の秘書と俺の乳母を兼任していたが、弾正は正式に俺に執事として天音を付けた。何も知らなければ子供とはいえ、弾正が自らの執事を他人に付けることなどありえないと思うだろう。それに天音が弾正の元を離れたことを知った者たちが俺に辿り着く可能性を考えれば、何もしないほうが良いに決まっている。
しかし、俺は未来を知っている。
この先辿り着くであろう未来によっては、俺の元に天音を付ける必要があるのである。
ふうまの血をこれ以上流さないためにも。
目が見えない俺は、声が聞こえた天音がいるであろう方向に小さな手を差し出した。
「よろしく、おねがいします」
そんな舌っ足らずな言葉を添えて。
天音はそんな俺を甚く気に入ったのか、手を優しく握りしめると暫く離そうとはしなかった。
そんなわけで天音が俺の面倒を見る生活が始まったのだが、――。
「若、何か御用などございませんか? このふうま天音に何なりとお申し付けください」
「若、何か欲しい物などございませんか? 何でもお持ちします」
「若、お一人でお風呂に入るのは危険でございます。 さ、私に任せて」
――災禍よりも、すごい。
とにかく俺が喜ぶことをしようとひたすらに付いてくるのだ。
おはようからおやすみまで、とはよく言ったものである。
着替えは災禍にやってもらっていたが、ご飯やお風呂で災禍との違いが出てくる。
災禍のように目の前に座って食べさせて、とかではなく天音の場合は自身の膝の上に座らせて食べさせてくる。俺はもはや文字通り食べるだけ。お風呂も同様で、最初から最後まで全てを天音はやってくれた。本人にその気はまったくないのだろうが、扱いとしては子供がおままごとで欲しくなるような人形のそれである。更には日中では常に傍らに天音がいる気配がするのである。何かしようものなら即、天音が参上。気が気ではなかった。
災禍のように程々に見守り、適度に放任してくれたほうが気が休まるのだと、この時ほど実感したことはない。災禍さん、早く戻ってきてはくれないだろうか。
そんな心休まらない三歳児の介護生活もとい三歳児の日常だが、癒やしになってくれる貴重過ぎる人がいた。
とある偶然から出会い、今では時々会いに来てくれる人。
それは――、
「龍燈、今日も一緒に遊ぼうか」
幼いながらもしっかりとした声付き。
目が見えていれば誰も見たことがないその姿を見ることができたのだろうか。
綺麗な青目に金髪のツインテール。
幼い姿の彼女の姿を見てみたかった。
「紅様、先に幻庵様からの御要件をお聞き致します」
「それもそうだな。 話を早く終わらせるから、ここで待っていてくれ」
天音に咎められ渋々とその後を付いていったのはあの心願寺 紅。
あの心願寺紅である。
RPGでその立ち位置が大きく変化したキャラクターの一人。
対魔忍シリーズの通算15作目にあたる「対魔忍紅」に登場するメインキャラクターである。
なお原作「対魔忍紅」に関しては凄まじいの一言なので、プレイの推奨ができない作品である。歴戦の対魔忍並びにオークでも数々の脱落者が出る程に。非常にマニアックかつ強烈な作品であるため、まだプレイしたことがない人はその存在を知っている程度で問題はない。
俺のお披露目が唯一の接点じゃなかったのか思うほどに、出会う機会がないはずの紅。その紅がこの秘密の離れを訪れたのにはとても大切な理由があった。それはこの先の未来。ふうまという一門の未来に関わる大事な内容である。どのような結果になろうとも俺が巻き込まれるのは確定しているふうまの未来。そのふうまの行方が今まさに確定しようとしていた。
天音と紅が屋敷の奥へと消えていくのを遠ざかっていく気配で感じながら、その後を追っていく。付かず離れずと言っても話せる場所など限られており、何処へ行くかなど決まっている。奥の座敷に消えた2人を確認しつつ、その近くの縁側に素知らぬ顔で座った。
「当主幻庵様から言伝になります。 今は耐え忍び、時間をかけて地位を勝ち取るべしと。 我らの血が流れるのは本末転倒であると」
「やはり幻庵様はそのようにお考えか。 しかし、―――」
内容は単純、幻庵がこれから起こるであろうふうま一門の反乱に反対し、なんとしても止めたいと言うものであった。
心願寺家当主であり、ふうま八将の一人でもある心願寺 幻庵。
「白神」と「紅魔」の二刀の小太刀を操る歴戦の対魔忍であり、ふうま八将の中でも最古参にして最高齢の重鎮。後にこの小太刀は紅に託されることになるが、対魔忍の中でもトップクラスの実力を持つ紅を育て上げたこともあって幻庵自身の実力も相当なもの。当然ふうま八将の中でも発言力は強く、弾正でさえその言葉を無視できない。そんな彼が弾正の決定に異を突きつけたのだから、天音の言葉も重くなった。
幻庵がふうまの反乱を止めようとするのは当たり前だろう。
ふうま一門はこの五車に集められた対魔忍の中でも最大の勢力を誇る。勝てる目は十分にあるとはいえ、反乱を起こせばそれこそ全ての対魔忍の一門を巻き込んだ大規模戦闘になるのは間違いない。そうなれば幾人もの対魔忍が死に、将来に禍根を残すのは当然の帰結。そうなればその禍根は将来ふうまを脅かすものになる。ならば今は耐え忍び、じっくりと時間をかけて政府と交渉し、対魔忍の地位向上を図るのが一番良い結果になると。
そう幻庵は考えているのである。
その幻庵の考えは俺も賛成であった。
いや、その案を採用して欲しい。
いざ反乱となれば、幼児ふうまと幼女時子は戦場を駆け抜け、命からがら生き延びることとなる。
それに俺が巻き込まれないわけがない。
俺はあの弾正の息子なのだから。
ふうま小太郎が狙われる、とはつまり俺も狙われるのだ。
俺の平和を脅かさないで欲しい。
しかも、反乱の原因は対魔忍には存在しない。
反乱の火種を振りまいたのは、時の政府なのだから。
何故ふうま一門が反乱を起こそうと言う結論に至ったのか。
それを説明をするためには、人と魔が結託した犯罪を犯し始めた時まで時間を遡る必要がある。
こちら側の世界を魔が脅かし始める中、人と魔が結託した凶悪な犯罪を犯し始めたことに政府は危機感を覚えていた。
何度が犯罪の摘発を試みるも、魔の者たちはとても手強かった。いざ戦闘が始まればなんとか勝利できたとしても被害は甚大。敗北なんて当たり前。一度の戦闘で発生した損害額は過去に類を見ないほどであり、それが何度も起きるのだ。当時の魔族防衛にあたった防衛省は見るも無残な状態であった。
犯罪者側も政府の対応に慣れてきたこともあってか、勝てばラッキー、負けて当然の負け戦を繰り返していたこともザラである。魔族を撃退するための予算を試算するも、それは誰がどう見ても降りるなんて口が裂けても言えない額であった。このままでは犯罪に対する対抗手段を失うことを恐れた政府が目をつけたのは、古来から魔を退けてきた対魔忍であった。
防衛省を破綻させないために、政府が対魔忍側の意見の全てを退け、強引に五車という街に対魔忍を集めたのはまだ最近のこと。
対魔忍側が政府に対し嫌悪感を持つのは当たり前なのだ。更には強制的に政府直轄として組織に組み込み、人と魔の引き起こす犯罪に対応させることを約束させる。元々、一門の当主を中心に我が強い連中がなんとかまとまっていたのが実情の対魔忍。知らない一門との共闘など以ての外と、これに反対するも政府が常に脅し続けることに嫌気がさしたのかこれを嫌々了承することになった。
ここまでくれば対魔忍も政府が嫌いになろうというもの。
むしろ好きになるなどありえないだろう。
実力至上主義の対魔忍にとって、魔族に惨敗し半ば白旗を掲げているも同然の政府に上から命令されるなど屈辱でしかない。
挙げ句、対魔忍が魔を安定して退けることが知られると出動回数を増やし、さも自らが魔族から人間を守っていますとばかりの伝聞を広めるのだから。
政府直轄のため予算が下りると言ってもそれは微々たるもの。
対魔忍側からしたら余計な犠牲が増えるだけでなんの得にもなりはしなかった。
しかも、調子に乗った政府が魔族のマの字すら存在しないどうでも良い汚れ役を押し付けてくるようになるのだからたまらない。
今の今まで政府から苦渋を飲まされ続けた対魔忍が、反乱を起こすには十分過ぎる理由であった。
わかる。
弾正が反乱を起こしたくなるのも十分わかる。
真正面から交渉したというか、政府が用意した交渉の場に引きずり出されたことで、対魔忍は自身に不利な約束を結ばされた。
しかし、元々対魔忍は交渉が得意なのだ。
本当の意味での交渉をするのであれば、対魔忍の右に出る者はいないのだ。
交渉の場に至った時点で、全てが対魔忍の利となるだろう。
長く説明することになったが、結論はシンプルだ。
実力を持って対魔忍たちを束ね、政府と対等の条件を引きずり出したいと考えるふうま弾正。
時間をかけて政府と交渉し、じっくりと地位向上を図りたいと考えるが心願寺幻庵。
正反対の考えだが、2人ともふうまの、いや対魔忍の未来を考えた結果なのだ。
俺としては後者を推したい。
前者の結果は見えてるし。
しかもいざ反乱が起きれば政府からしてみれば、勝手に反乱分子は消えるわ、交渉はしやすくなるわで政府にとって利しかない。逆に対魔忍にとって利なぞまるでない。
冷静に考えれば幻庵の案一択って何故わからないのか。
これも頭対魔忍故か。
頭対魔忍なら仕方ないのか?いや、仕方なくない。反語。
ちなみに何故俺が、2人の座敷から離れているのに2人の声が聞こえているかというと単純に耳が良いのだ。
身体が不自由な障害者で良くある代償機能と言うものだろうか。
目が不自由な俺は代わりに耳や気配を感じる感覚が人より良いのだろう。
その為、ある程度距離が離れた縁側でも話を聞くことができる。
もっとも天音も災禍もあまり俺に隠そうとはしないこともあり、堂々と付いていっても無下にされることはないと思うが。
いや、天音はなんだかんだ「浮世の些事など私に任せて、若様の役目を果たしてください」とか言われて追い出されそうだ。
なお、現状の俺の役目は縁側で寝たり、紅と遊んだりしてすくすく育つこと。
三歳児だから何も間違ってはいないか。
コロナで仕事が突如繁忙期と化し、家にいる時間すらなかったです。
皆さん健康にお過ごしでしょうか。
皆さんが健やかな対魔忍ライフを送っていることを祈ります。
追伸.
この小説はできるだけ対魔忍を知らない人や、
対魔忍RPGから対魔忍の世界に入ってきた人も読みやすいように(なっていると思いたい)
書くよう心がけております。でも見にくかったら言っていただければ幸いです。