【小ネタ集】Fate/ if another story 作:栗原加賀見
でも孔明なんて書けないから、それっぽい人物が登場する第四次聖杯戦争を書きます。
光り輝く魔法陣の上で、間桐雁夜は小さな少女を前に懺悔する。
しかし、少女はピクリとも動かず、ただ目の前の男性を見つめていた。
あぁ、こんなことになるならもっと早く桜ちゃんを逃がせばよかった。
令呪の兆しのあった左腕はちぎれ、右足は蟲に食べられている。
ここは間桐の蟲蔵。周囲には今も自分を食べようと様々な蟲が蠢いていた。
「がっ……くぅ……」
「失望したぞ雁夜よ。お前の『桜を開放する』という要求を受け入れてマスターになるための準備まで手伝ってやったのに、まさかお主の方からその契約を反故にするとは思わなんだ」
すでに意識は朦朧としているが、それでも雁夜は絞るように声を出す。
「や、約束……がちが………う。さ……桜ちゃ……んにはま、まと……うの……」
「確かに桜は開放するとは言ったが、間桐の魔術を教えないとは言っておらぬ。それに間桐の魔術特性である『水』と桜は相性がいいらしい。この歳でよい声を出す」
臓硯が傍らに佇む桜に視線を移すと、桜のスカートの中に何匹もの蟲が侵入する。
「……あっ」
すると桜は小さく声を出し、頬を朱に染める。その声はとても十にも満たない少女が出すとは思えないほど色っぽいものだった。
「やめろおおおォォッ!!」
雁夜は残った左足で思い切り踏み込むが、周囲の蟲があっけなく雁夜を抑え込んだ。
「無駄じゃ。もともと儂の刻印虫でもって最低限のマスターの条件を満たす程度にしか能力がないお主が儂に勝とうと思うのがそもそもの間違いじゃ。しかし、こうなってしまっては折角今まで準備していたのがもったいなくなるのぅ。そうじゃ、桜よ」
いい案を思いついたと臓硯は桜に声をかける。
「当初の予定では次回の聖杯戦争にお主をマスターとして送り込む予定だったが、今回からにする。そこの出来損ないの命を使って召喚してやればある程度の魔力の問題も大丈夫だろう」
その言葉が終わるやいなや、雁夜は左腕を残してその身を蟲に食べられる。
そして薄く光る魔法陣の上で臓硯はサーヴァントの召喚を始めた。
「ふむ、人体を触媒に召喚するのは初めてだが、どんなものが召喚されるか……
『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――』」
既に意識がない、それどころか肉体が無くなった雁夜は自分がまだ思考出来ていることに気が付いた。
――――ああ、お父様の蟲に食べられたせいか……でも、もうほとんど何も考えられないや――――
魂までも消失していくのがわかる。
――――これが死ぬってことか。ごめんね桜ちゃん、おじさんは君を救えなかった――――
魔法陣がより一層光り輝く。薄暗い蟲蔵がまるで満月の月夜のように照らされる。
――――どうか、どうか召喚される者が桜ちゃんを守ってくれる騎士になってくれることを――――
間桐雁夜という意識が消滅する寸前、彼はキレイに微笑む成長した桜を見た気がした。
召喚が終わり、眩い光が収まると臓硯は自身が消失していくことに気が付いた。
「これは……っ!?」
原因が全く分からない。ただ、自身の今となっては生きているとも呼べぬ人生はこれでおしまいだということだけはわかった。
視線を桜に向ける。そこには先ほどまで見なかった男が小さな棒状のものを桜の胸に押し当てているのが目に入った。
「ああ……これでマキリは……」
魔術師の勘であの男がほぼ不死身を体現していた自分を殺したと告げる。意識が消失する間際ある女性が脳裏に浮かぶが、誰だか理解する前にマキリ・ゾォルケンはこの世から消失した。
そのサーヴァントは奇怪な妖怪っぽい何かが消失したことを確認すると、桜と視線を合わせるためにしゃがむ。
「さて、私を召喚したマスターは死亡したわけだが、この屋敷には君しかしないのかい?」
紫を基調としたパンツにベスト、細いストライプ柄の薄い紫のシャツを身に纏ってネクタイをした青年は桜に質問をする。
「……兄さんがいる」
桜が話す様子を観察していた青年は提案する。
「いやだったらいやって言ってほしいんだけど、少し君の記憶を覗いてもいいかな? その方がいろいろ早そうだし」
少しの沈黙が続いたあと、桜は小さく頷いた。
「じゃあ、失礼するね」
青年はそういうと桜と額を合わせて小さく何かとつぶやく。
するとお互いに触れていた箇所が光り、少しすると収まった。
「うん、だいたい聖杯戦争のことは知っているみたいだね。それでどうしようか? このまま時間が経てば現在マスターがいない私は消え、君はもうこんな世界とはおさらばできるけど」
「……お料理、できないです」
そんな告白に青年は楽しそうに目を細める。
「そっか。じゃあ君が生きていけるように、そして私が消えないように君と契約してくれるかな?」
そして青年は右手を差し出す。
桜はゆっくりとその手を握り返した。
「……桜です」
「よろしく。俺はアルターエゴのサーヴァントだ。これから君を守るための騎士になろう」
青年――――アルターエゴは桜の右手に令呪が浮かぶのを確認すると宣言するかのように言った。
桜を寝かしつけたあと、アルターエゴは一人冬木の街を探索していた。
そして冬木市の新都で一番高い建築物であるセンタービル。その屋上からアルターエゴは冬木市を眺める。
「聖杯戦争か。まさか俺がこれに関わるとはね。まったく……参ったね」
その視線は鋭く遠坂邸、アインツベルンの森、柳洞寺、冬木教会、そして間桐邸を強化した目で順番に見ていく。その手にはいつの間にか短刀が握られていた。
「俺は特に聖杯にかける願いなかったが、桜ちゃんの成長を見守るためには受肉を目指してがんばろうかな」
見上げると月の光が優しくアルターエゴを照らす。
それはまるで自分の大切な存在を包み込むように。
あ、このお話は続きます。タイトルを見ればわかると思いますが。
雁夜おじさんよ安らかに。