「あー…好きなんだよ」
そう言われた言葉をいわれた意味で理解するのに時間がかかったのは俺の所為ではないとおもう。
わりと至近距離、おなじソファに座っているのだから当然といえば当然の距離で奴は俺の返答を待っているようだ。
しかしながら、いま告げられた言葉はどういう意味だろうか?
直前になにを話していたかすら記憶の彼方にぶっ飛んだかのようにおもいだせない。
いや、いまはそれはどうでもいい。奴にどう返答するかだ。
冗談であり俺の反応をみて愉しむためだけの発言だった。それならそれでいい。
だがしかし現在の奴はなんだ?
俺の言葉ひとつで雌雄が決するようなまじめといえばいいのか、祈るような表情をしているではないか。
断りをいれる→すべて演技で俺を陥れて愉しむためのものだった→むこう3年はネタにされる。
うむ。よろしくない。おもしろくない。
「…サンラク?」
極至近距離。思考に沈んでいたのは数秒にも満たないとおもったのだが、それでも返事を待つ側からすれば長かったようだ。
いつもならそれこそ脊髄反射でかえしているだろう言葉のキャッチボール。それが途絶えたのだ不審にもおもわれるだろう。
「あぁ。えーと、いいよいいよ。ウェルカム」
そう、ここはどーんと受けいれてみようじゃないかカッツォ君。
両手を広げて笑顔でそう言えば、目の前のカッツォはそれはそれは信じがたいような表情をした後すこし笑いを浮かべ、視線を逸らした。
「…まじかー……そうくるとはおもわなかった」
目を手で覆いそうのたまう。
やはり自分を犠牲にした冗談だったか。
にやりと顔がにやけてくる。が、そうじゃなかった。
「まあ、サンラクがどういう意図でそうこたえてくれたかはわからないけど、前言撤回はナシだよ?」
ずずいと近づいてきたカッツォがにこりとわらう。
「おうよ」
あれ、これ、まずっただろうか。
なんか言質とられたっぽいんだけど。
「んで、具体的には?」
早急に確認する必要がある。俺を陥れる罠だったのかそうではなかったのかの真意を。
「んー…」
若干ふにゃりと微笑んだままのカッツォはテーブルからマグカップをひきよせ口をつける。
「…いや、まあ、なにか考えていたわけじゃないんだけど、漠然とした想いではあったし、受けいれられるともおもってなかったからなぁ」
「うん?」
「うーん。まあ、付き合うとかそういう感じ?」
疑問系でいわれてもだ。
というか本気の発言だったか。ふむ。
……って、え。カッツォが俺を? えぇ。
まあ、あれだ、うけいれるといった以上俺は引かないけど。
どれどれ、カッツォ君の本気とやらをみてみようじやないか。
好奇心といえば好奇心。
悪ノリかもしれないそれは自分の退路を塞ぐ行為だとも知らずに俺は実行にうつす。
カッツォが手にしているマグカップを奪いテーブルに置き、マグカップから俺へと視線をうつしたカッツォと目があう。
よくみればほのかに耳まで朱に染めたカッツォの頬を両手で挟んで上向きに固定。
カッツォの思考が俺がなにをするのか、疑問から予測、予想したものへと繋がる前に唇を重ねあわせ、舌をねじこむ。
首の裏に手をまわし角度維持。ぐいっと胸に押し付けられた手は反発するように押してくるが、もう片方の手を背にまわして抱き寄せる。
経験があるわけじゃない。
だからこれは聞きかじった付け焼刃的な行為。
舌を食み、吸い、弄る。
時間をかけてゆっくりと深く続けて。
漏れる呼気。荒くなる呼吸。跳ねる鼓動。
胸に押し付けられていた手は俺の服を掴んで、からだを俺に預けてくる。
触れる体温があつい。
ゆっくりと唇を離すと熱い呼吸が漏れる。
くったりとしたからだを俺によせて息をつくカッツォは妙に、妙にやらしくて。
頭を撫でてやると身をよじって頭を摺り寄せてきた。
「……サンラク、えろい」
整わない息のまま呟かれる。
いや、えろいのはいまのお前のほうじゃん。
整わない呼吸でもって、頭を俺の胸に押し付けて抱き寄せられたままに抱きついてくる。
これは、なんというか、不可抗力だ。
中性的な外見のせいなのか、行為の後だからなのか艶かしくやらしい。
俺の中でなにかがむくむくと育つ感覚がする。
感情によるものともうひとつ、物理的にも反応しかけているのに気がつく。
相手がカッツォであるとかではなく、目の前のカッツォに欲情しかけてる。
うそだろ、とおもわなくもない。
好きだと告げられ、キスをして、そういう目でみるようになっている自分がいる。
「ああ。もう。…カッツォのせいだ」
告げるとでもなくぼやく。
見上げるように顔をあげたカッツォと目があう。
にへらと笑って顔を赤くするカッツォはきっとたぶんかわいい。
ぽんぽんと頭を撫でて抱きしめて。
そして俺の頭の中はというと、どうしてこうなった。と空を仰ぐ。
後悔があるとかじゃなく、してやられたという罠に嵌った感覚がのこるがそれでもいいかとおもえるこの現状。
とりあえずうろ覚えの保健体育の授業から同性同士のあれやこれを思い出してみる。
すこし疑問がわいてきたので、聞いてみることにする。
「あー。カッツォ君」
「んー?」
もぞりと俺に抱かれたままの状態で顔をあげて視線をあわせてくる。
「俺と付き合うとか想像してなかったのか? 具体的にはえろいあれやこれとかRな18なこととか」
ぼふっと胸に頭を押し付けられた。
頭突きはだめだろ、頭突きは。
「…いや、ほら、…サンラクがそういうのって想像つかないじゃん。…だから」
「だから?」
あわあわとしどろもどろに言葉を紡ごうとしているっぽいカッツォの露出した首をなでる。
「ひゃ…」
首から耳へと指を這わせて頬を捉えてこちらを向かせて。
「考えなかったの?」
どうにかして視線を外そうともがくカッツォの額に自分の額をくっつけて。
にやりときっと意地悪く笑ってるであろう俺を顔を赤くしたカッツォが睨んでくるがかわいいだけの仕草でしかなく。
「あ…ぅー。いや、…すこしは…? でも、ないとおもってたから、なぁ」
「考えたことはあったと?」
にやにやしてる俺が楽しんでるのだと察したのか、顔を俺の胸にうずめてしまった。
まあ、確かに顔を隠すにはいちばんの場所だろう。
横向いたりするなら顔固定してこっち向かせるし。
だが、頭をなでて抱きしめなおして、背中をぽんぽんしているとしばらくして落ち着いたのかからだから力を抜いて俺に身をゆだねてくる。
ちょろい。
違う。ちょろいのは俺のほうなのかもしれない。
こうやって抱きしめて傍から見ればいちゃついてるとしかおもえないことをしているのはカッツォからすれば願ったり叶ったりの状況ではなかろうか。
いやでも、俺としても棚からぼた餅のようにむだに挙動がかわいいむらむらさせてくる相手ができたのだ。
そういうこととは無縁だろうとおもっていただけに、そういう関係になるとはおもってはいなかった相手とだというだけで別に問題はないのではなかろうか。
真摯な想いにはちゃんと応えなくてはだし。
なにも知らない仲というわけでもないし、よいのではなかろうか。
抱きしめたそのままでカッツォの耳元に唇を近づける。
ふーっと息を吹きかけ、びくりとからだを震わせた反応が心地よくて。
「俺も好きだから安心しなさいな」
そう囁く。
「……え?」
呆けたような声。
「……いつから?」
「5分くらい前?」
「ついさっきじゃん」
「うん」
そりゃあ、好きだと告げられてからなのだからついさっきで間違いない。
いままでそんなことを考えたこともないのだから致し方ないだろう。
訝しげにしげしげと観察してくる目が俺のことを胡散臭いと告げている。
「はぁ……。まあ、サンラクだしなぁ」
諦めたようなそれでいて楽しげに笑う。
鮭「5分くらい前」
鰹「それ、キスの後じゃ?」
鮭「こいつシステムアシストにタイムスタンプ付きのログ機能備えてやがる。便利そうだなあ」
鰹「殴っていいかなあ」