こんないちにちとそれなりなまいにちと同じ世界線。
はっぴーばーすでぃ慧きゅん。
「そういや、欲しいものとかある?」
「んー?」
生返事を返す慧はなぜか毎回食事内容を携帯端末のカメラで撮っているのだが、もはやその光景にも慣れたので自分の分の夕餉に箸をすすめつつ眺める。
「誕生日近いだろ」
「ああ」
「サプライズでプレゼントされていらないものとかもらっても困るだろうし、それなら欲しいものきいたほうがはやいからな」
惰性といえば惰性だし、考えるのを放棄してるともいうが、妥当ではあるとおもう。
もぐもぐと煮魚を咀嚼しながら思案するような慧はくちのなかのものを飲み込むと目を細めてへにょりと笑う。
「楽郎が一緒にいてくれるだけでじゅうぶんだよ」
否、そんな蕩けるような笑顔で言う内容でもないだろう。
「ふむ」
とりあえずの意見は聞いた。
あまり……というか、まったく参考にならないが善処してみることにしよう。
▽
じぃと腕に抱いた慧を眺めているといたずらしたくなる。
ぐっと我慢してむにゃむにゃと寝ている慧が起きるのを待つ。
待つ。
……待つ。
なかなか起きないなこいつ。
俺の胸に顔をうずめてすりすりしている様は起きているようにもおもえるが、起きてたらそれだけじゃすまないだろうしな。
普段朝餉のために起こしているが、せっかくのバースデーなので起きるまで待ってみているわけだが目を覚まさない。
むにむにと頬を摘んでみる。
「んんー」
はっ。うっかり起こしてしまうとこだった。
「うー……」
ぐりぐりと頭を押しつけて眠りから出てこようとしてるが、髪の毛がくすぐったい。
何気に寝起き悪いよな。
ぱっと起きる時もあるが、あれはなにが違うのだろう。
「らくろー」
思考の狭間を漂っていれば、がしりと抱きつかれて反射的にびくりとする。
呂律のまわってない寝ぼけた慧は無駄に力強い。
「はいはい。おはよう」
「おはよー」
頭を撫でてやればまわされた腕はゆるむものの、本体が距離を縮めてくる。
「朝ごはん食べるか?」
「んー? ごはん食べる以外になにかあるの?」
普段ならごはんの為に起こされているのだからわざわざ聞かれるのが疑問なのだろう。
「きょうはずっと一緒に過ごすよ。どう過ごしたい?」
「え。なにかあるの?」
目をまるくして見上げてくる。ちょっとかわいい。
「なんで疑ってかかるんだよ」
「いや、だって、珍しい」
日頃、どうやって過ごしてたっけか……少し傷つくような。
「誕生日、一緒にいてほしいって言っただろ。きょうが自分の誕生日だって忘れてる? まだ寝ぼけてる?」
「そんなこと言ったっけか? 覚えてないけどうれしいなあ」
にへりと頬をゆるめる慧。
「どうしよっかなー。んー。お目覚ふぇらしてほしい、かな」
……まだ、脳みそ寝てるだろ絶対。
というか、
「慧がされるほう?」
「うん」
なんの邪念もなさそうな無垢な返事。
だいじょうぶかな、こいつ。
脳みそスポンジになりつつある気がする。
「普通そういうのは突っ込むほうがされるんだよ」
「してほしい」
念押ししてきやがった。
「まあいいけど」
腰を抱き寄せてパジャマの上から朝勃ちしていた膨らみを撫でる。
「一日中、えろいことして過ごす?」
耳元で囁いてみる。
びくりと震えて潤んだ目で見上げられる。
「あぅ。なんか、予想以上にだめ、かも」
撫でられる動きにあわせて切なげに声をあげる。
すっかり感じやすくなっててえろい。
「一日中するの想像して興奮してる? もうガチガチにしちゃってやらしーなあ」
てのひらのなかで形をはっきりさせた膨らみは熱を帯びて下着を濡らす。
「腰、逃げてるよ? してほしいんだろ」
耳朶を舐めて声をダイレクトに耳に届ける。
「らくろー……」
ないてびくびくと震えるからだをおさえつけてキスをして。
ままならない呼吸で息を吐いて嬌声をもらす。
「らくろー、だめ。ごめんって、一日中とか、おかしくなる」
「おかしくなってもいいんだよ? かわいい慧をかわいがるだけだし」
「んぅ。……らくろー」
ふるふると首を振って強くしがみつかれる。
目じりに涙がたまってるのを見て、なぶる手を止めて顔を覗きこむ。
「……まじでだめそう?」
「うー」
こくこくと頷く慧を抱きしめる。
「えろすぎる。むり。耐えらんない。らくろーがえろい」
「えろいのは慧のほうだとおもうけどなあ」
「えろくない」
「感じやすいえろいからだなのは誰かな」
「らくろーのせいだし……」
むくれる慧にキスして黙らせる。
「かわいいかわいい」
▽
遅めの朝餉を済ませてソファに横になる。
訂正。横になるよう誘導された。
肘置きを背もたれにしてゆるく寝そべって、その上にうつ伏せで慧が乗ってる。
なにこれ、ラッコかな。
ちらりと頭に過ぎった考えは即座に投げ捨てて、俺に乗っかって満足気な慧の背に手をまわす。もう片方の手はにぎにぎと慧によって弄ばれて、指を絡めたりされている。
「べったりくっついてて暑くないのか?」
「暑くないよ。空調効いてるし」
真夏とはいえ室内、そりゃ空調は効かせてる。
暑くもなく寒くもなく、快適な気温。
「もう少し下げる?」
「だいじょうぶ。ってか慧」
「ん?」
くっつけていた頬を離して視線をむけてくる。
「でかけるとかなにかするとか、しなくていいのか?」
起きてからただひたすらくっついて過ごしているだけで、なにもしていない。
「外暑いし」
「夏だしなあ」
なにを当然のことを言うのか。
「楽郎と一緒に過ごせれば充分だよ」
にへらとしあわせそうに笑って頬を寄せてくる。
「普段楽郎忙しそうだし、家事全般してくれてるし、俺の為に時間を使ってくれるというのがうれしいよ」
「そんなもんかな」
「そうだよ」
「慧がよいと言うならいいんだけどな」
なにをするでもなく、ただくっついて時間を共有して過ごす。
無意味とか生産性がないとも言えるが、わりと贅沢な過ごし方だなあとも思う。
「楽郎は、」
「ん?」
「どこか出かけたかった?」
「いんや」
即答してから、慧の頬をつまむ。
こうして過ごしてることを気に病むような不安顔でみあげてくるもんだから、少しだけ可笑しくなる。
「慧がよいというならいいんだよ。デートくらいいつでもできるしな」
曇ってた顔が一瞬で晴れて目を細めて笑う。
顔を近づけてきて腕をまわしてくる。
「デートもいいなー」
「これから出かけるか?」
「暑いからなあ」
「まあな」
「そういや、楽郎重くない?」
「いまさらだな」
苦笑しかない。
この状態でどれくらい居たのか、既に違和感もない。
まったく重くないわけがないのだが、そう重いわけでもない。
「慧はもうちょい肉つけたほうがいいかもなあ」
手を伸ばせば触れる腰と尻。
「ちょっ。くすぐったいよ」
からだをねじって逃れようとするものの、嫌がってるわけでもなく揉ませてくれている。肉感的といえる程もない肉付きだが当初の頃よりはマシになったような気がする。
「楽郎のごはんはおいしいよね」
「それならよかった」
「うん。好きだよ」
擦り寄ってくるから抱き寄せれば抱きしめられる。
なんだかんだと日が暮れるまでごろごろして夕餉を済ませ、買っておいたバースデーケーキを食べてまたごろごろして。
一緒に風呂に入って全身洗ってあげて湯船に浸かって。風呂からあがれば髪を乾かしてまたソファでだらだらする。
「ここまでしてもらえると反動が怖いな」
ふと、慧が言う。
「普段でもしてやらんこともないけど」
そこまで特別なことをして過ごしたわけでもないのだし、時間が許せばいくらでもとはおもう。
「そっかー」
「そうだよ。……ところで慧」
「ん?」
こっちを向いた慧の頬を両手で包む。
「楽郎?」
「誕生日おめでとう、慧」
まだ言ってなかった言葉。
今日はもうすぐ終わるというのに。
「ありがとう」
ふにゃりと微笑まれる。
ああもう。なんでそんなに嬉しそうな幸せそうな顔するかな。
「好きだよ」
無意識に言葉をおとし、慧を抱き寄せてしまう。
「え。あ。うん」
急におとなしくなった慧は耳まであかく染めて視線を逸らそうとする。
「どこにそんなに照れるような要素があったかな」
かわいらしい挙動に抱きしめた腕にちからがはいる。
「好きだよ、慧」
抱きしめて撫でくりまわして、堪えきれなくなった慧が顔を隠してしまう。
常日頃セクハラ紛いなことをしてくるわりには、よくわからないとこで照れる。
「きょうはえっちなことはしないの?」
わざと耳元で言えばびくりとふるえる。
「あ。う。きょうは、まにあってます」
「そう? 朝までかわいがるよ」
誕生日だからとかじゃなく愛しいのだから仕方ない。
きょうの間は慧の望むままに。
明日からは通常運行、我慢なんてしてやらない。
朝起きて誘惑されたのに寸止めされて、
日中べったりくっついているもののなにもなく、
夜は風呂にも一緒にはいったのに今日はいらないと言われ、
丸一日我慢を強いられた楽郎さん。