Prologue -思ひ懸けられぬ再会-
「茉優」
「あっ、
校舎の最上階。AIMSの登録のために先輩の部屋へと向かう途中、先輩と同じように白衣を羽織った人が歩いてきた。恐らく知り合いなのだろう。彼は先輩と手を挙げて気軽に挨拶を交わすと、流れるような動作で俺たちに合流する。
「そちらのお二方は?」
「ほら、この前理事長が言ってた編入生」
「なるほど、彼らが」
観察するようにアマトと呼ばれた男を見ていると、彼は次いで俺たちへと顔を向けた。人好きしそうな中性的な顔は、自然とこちらの緊張も解してくれるようだ。先程会ったいかつい顔の理事長とつい比較してしまい、俺は内心吹き出してしまう。もちろん、変な空気になってしまうのは想像に難くないので、そんなヘマはしないが。
「一先ず、こんにちは」
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
何事も先ずは挨拶からとばかりに、彼は柔和な笑顔を浮かべて俺たちにも挨拶する。気安く、しかし、不快なものを少しも感じさせないそれは、彼の人柄が為せるものなのかもしれない。
「ふむ……」
「えっと、俺の顔に何か?」
正面から出会ったことで全員がその場で立ち止まっていると、会話も途切れて彼は俺の顔をまじまじと見つめてくる。意識の半分ほどを思考に割くような表情と、じぃっと見つめられることで妙に居心地が悪くなってしまう。気まずい思いを感じ始める俺は、それを誤魔化すように彼へと問いを投げかけた。
「あぁ、いや、ごめんね。昔一緒にいた子に似ている気がして」
申し訳なさそうな顔と謝罪と共に返ってくる言葉が、今度は俺に考える時間を齎す。そう言われると、俺も何か覚えがあるようで────
「あ、ま、と……って……もしかして、
「おや、じゃあやっぱり君は暁君か」
先程先輩が口にした彼の名前を一文字一文字反芻するように零すと、脳の引き出しで大切にしまっておいた俺の古い記憶が蘇ってくる。思い返される十年近く前によく聞いた名前を口に出すと、彼──天都も合点がいったように俺の名前を口にした。
まさか、親父に引き取られる以前に出会った人と、こんなところで再会するとは。
「暁君、知ってる人なの?」
「あぁ……えっと……」
驚く天都──歳上だったと記憶しているので恐らく先輩──と俺を見て、見知らぬ人に存在を消すように息を潜めていた七海が俺に声をかけてくる。七海からしても──非常に不本意ながら──ただでさえ友達がいない俺の知り合いが、この橘花学院にいるとは思わなかったのだろう。
しかし、自分から率先して話したくない時代の話なので、何と言ったものか……。
「まぁ、昔の知り合いみたいなものだよ」
言い淀む俺を見て、天都先輩は助け船を出してくれた。語ったのは漠然とした内容ではあったものの、初対面の、それも異性と話すことに慣れていない七海は、数度頷いてから言葉を継ぐのを止める。
「まあまあ、積もる話は部屋に入ってからでも遅くないよ? コーヒーぐらいなら出せるから」
「それもそうだね。暁君もそれでいい?」
「は、はい」
先輩の言葉に天都先輩は笑顔を浮かべて追従した。敢えて逆らう理由もないので俺もそれに了承し、俺たちは止めていた足を動かし始める。
「さて、ここがお姉さんの研究室だから」
それからすぐに俺たちは研究室へと辿り着いた。部屋の主である先輩が、その手をドア横のセンサーらしきものに近付ける。その様子を俺たちは廊下の窓際辺りで眺め観察した。何か物を持っているようには見えないが、学校設備に生体認証のキーでも使っているのだろうか。だとすれば、随分とセキュリティも強固らしい。そして、それはそれだけ重要な────
「それじゃあ、みんな入った入った」
「ほら、二人もぼーっとしてないで」
思考を巡らせる数瞬の間を置くと、扉が解錠される篭った音が聞こえてくる。それから、こちらを振り返る先輩はそう言いながら室内へと歩を進めた。促すように一度俺と七海の顔を見た天都先輩は、先輩の後をゆっくりと追い始める。
任務について考えるのも良いが、七海の無言の催促を背中で感じたので俺も天都先輩について行こう。
名前は考えるのがめんどくさかったんです。許し亭許して。まあ、それ以上にこの名前を気に入ってるってのもあるんですけども。
一応苗字は原作の名付けに則っています。