※この作品はR-18です。

ASTRAL JOKER   作:水晶水

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 Ch.1は説明のための章だから、進みが遅いなぁって感じです。セックスまで本当に時間かかりそうだな。


E.あやしげなるもの

Main Character:紀 天都

Location:橘花学院 敷地内

 

 

 

 

 

 私は外に飛び出た勢いのまま粒子を感じる意識を強くする。無色のそれすら視界に浮き上がるほど集中すると、何となく校舎棟の方角で──微々たる違いとはいえ──強い光を放つ気配が見えた。それはつまり、何者かが学院の敷地内で能力を行使しているということ。

 

「アストラル使いが侵入者……?」

 

 集中を維持して思考のフィルターを介さずに私は独り言ちる。今は考えている暇さえ惜しい。とにかく、こんな時間に校舎棟の方角でアストラルの反応が見られるということは、三司さんが危険に陥っている可能性も十分に高いということだ。

 

「三司さん!!」

「き、紀先輩……!」

 

 そして、走り始めて一分もしない内に、私は三司さんを発見した。目に映るのは地面にへたり込む彼女とその側に倒れ込む不審者が二人。学院内の光景としては極めて異常なものだ。

 セキュリティアラームが鳴っても警備員の姿が見えないことを訝しみつつも、一先ず私は三司さんに駆け寄った。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

「は、はい、怪我はないのですが……」

 

 不審者に意識を注ぎながら、私は二人を塞ぐ壁になる位置取りで三司さんに語り掛ける。襲われた恐怖からか、彼女の目の端には涙が浮かんでいた。男たちと争ったからか、息も少々荒いようだ。

 

「胸元が切れてるみたいだけど、そこは?」

「い、いえ! こ、これは、あの、その……と、とにかく怪我はしていません!」

 

 大事はないか。その一点で三司さんを観察していると、取材用の衣装が土で汚れていること以外にもう一つ異変を見つけた。それは彼女が隠すように手を添えた衣装の胸元に、一筋の裂傷が走っていること。辺りを見るとナイフが地面に転がっていたので、恐らくそれで切られたのだろう。

 しかし、凶刃は衣装を切り裂くだけで留まったのか、三司さんは慌てた様子で傷が無いことをアピールする。

 

「とりあえず、これ羽織ってて」

「ありがとうございます……」

 

 兎にも角にも、怪我がないというのであればあまり男(私)が女性(三司さん)の胸を見るべきではない。そう判断して着ていた上着を渡すと、彼女は素直にそれを受け取った。上が肌にぴったり張り付く運動用のスーツだけになってしまったが、とりあえず今はこれでいい。

 

「三司さん! 声が聞こえましたが大丈夫ですか!?」

 

 それから、数秒もしない内に、焦った様子の柿本先生が警備員を引き連れて走ってきた。彼女たちはまず初めに無事な三司さんを見てほっとした表情を浮かべるが、すぐに倒れる男二人を見てそれをぎょっとしたものに切り替える。

 

「これは紀君が?」

「いえ、私が駆けつけた時には既に」

 

 倒れ伏したまま動かないが、一応の警戒を続けたまま柿本先生はこちらに近付いてきた。そして、彼女が投げかける質問に私は正直に答える。嘘の吐きようがないとも言うが。

 

「ということは、三司さんが能力で?」

「は、はい。咄嗟のことでしたので、已むを得なく……」

 

 私でないということは選択肢は残る一つというわけで、先生は三司さんに視線と問いを向ける。それに対して、三司さんは震えた声のままゆっくりと首を縦に振った。

 ふむ、彼女は見たところ恐怖に飲まれかけているようだが、よくそんな状態で能力を行使することができたな。いや、咄嗟にと言ったし、男たちを昏倒させてから、遅れて恐怖が込み上げてきた可能性も────

 

「うおぉぉ──ッ!」

「はッ!」

「がはッ!?」

 

 思考に沈みかけたところで、私は視界の端で倒れる男の指先がピクリと動くのを捉えた。そして、その一瞬で暴漢は起き上がり、雄叫びを上げながらこちら──つまり三司さんへと襲いかかってくる。

 反応が遅れた先生と警備員の驚愕し、三司さんが引き攣った悲鳴を上げるのも一瞬。唯一事の起こりを捉えていた私は、素早く起き上がって走り出す男の胸にカウンター気味に掌底をぶち当てた。触れる硬い筋肉を無視して衝撃は肺まで突き抜けたようで、男は強制的に空気を吐き出されながらその身を地面に崩していく。

 

「ふんッ!!」

「げぶッッ!!?」

 

 そこに重ねる追い討ちの一撃。降りかかる唾も無視して右腕をそこから跳ね上げさせると、それは男の顎を砕かんばかりに打ち、重力に負けて男は地面に激しく倒れ込んだ。脚で仰向けにさせて確認してみると、今度こそ意識を手放したようだ。白目を剥いてピクリとも動かない不審者を見て、私はホッと胸を撫で下ろす。

 

「お見事です」

「いえ……そちらの男も拘束しておきましょう」

 

 顔を拭う私に先生は賛辞を送るが、今はそれよりももう一人の拘束を優先したい。一瞬の交戦で理解したが、さっきの男はこういったことに相当慣れているはずだ。男が万全な状態で真正面から立ち会っていたら、きっと苦戦は免れられなかっただろう。

 故に、同じ実力と推定した上でもう一人の拘束を急ぐ。今気絶させた方はどうあっても数時間は目を覚まさないはずなので後で良い。

 

「これでよし、と」

 

 警備の方に拘束具を借りて、手早く二人を拘束してから立ち上がる。一先ず、脅威は去ったと見ていいだろう。ホッと安堵の息を履く三司さんを見て私はそう思った。

 

「……先生」

「はい、どうかしましたか? 紀君」

 

 そして、気を抜く直前、ひりひりとざわめく心に従って、私は直感のままに視線を校舎棟へと向ける。そこに見えるのは、最上階に灯る変化粒子の光。細められた私の特殊な瞳に映るそれが意味するのは────

 

「アストラル使いが、います」

 

 遠くを見据えたまま、自分でも驚くほど低い声で伝えるその言葉に場の空気に緊張が走るのを肌で感じた。嫌な汗が背中を冷やすのを私は冷めていく思考で感じ取る。

 

「制圧してきます。先生たちは三司さんを寮まで送り届けてください」

「紀君! 待ちなさい!」

 

 抑揚のない声でそう残して、私は先生の静止の声も置き去りに走り出した。しかし実際問題、アストラル使いが相手となると私が相手する他ないのだ。

 それに、侵入者がいる四階にはアレがある。私と、何より茉優の努力の結晶が。それを何処の誰とも知らない輩に奪われてなるものか。

 

「とんでもない厄日だよ、全く……!」

 

 走りながら悪態を吐いて、私はすぐに校舎棟の玄関前まで辿り着いた。元々距離は離れていないのだから、高い運動能力を持つ私なら侵入者が逃げ出す前に追いつくのも容易だ。

 

────見つけた。

 

 予想通り、まだ侵入者は逃げていなかったらしい。再び鳴り始めるセキュリティアラートを無視してすぐに最上階まで駆け上がると、アストラルの光を直に観測することができた。だが、肝心の侵入者の姿を見ることは適わない。

 

────透明化のアストラルか。

 

 姿が見えない人間と人型を構成する変化粒子。そこから導き出される結論は一つしかない。姿が見えないのは少しだけ厄介だが、変化粒子が見えているならばそこまで脅威にはならないだろう。あくまで能力に関してはだが。

 

「っ!」

 

 夜の廊下は音がよく響く。私が歩いて侵入者へと近付いていくと、アラートに紛れる足音に気付かれたようだ。二人分の人型の粒子が勢いよくこちらに顔を向ける。

 冷たい廊下に、侵入者が息を呑む音が木霊した気がした。

 

「ごきげんよう、侵入者さん」

 

 猛る鼓動を誤魔化すように、敢えて私は陽気に話しかける。相手はそれに応える気は無いようで、私が一歩踏み出す度にじりじりと後退する姿が見えた。

 まぁ、姿を隠して侵入してくるぐらいだ。捕捉された状態で問答をするような相手とは思っていない。

 

「悪いけど、逃がすつもりはないよ」

 

 そう言いながら、動いて温まった身体に少しずつ力を込めていく。背の高い方はどうかは分からないが、もう一人は明らかに小柄な女性だ。透明化の能力も実質無効化されている以上、見るからに動きが硬い彼女を捕まえるのは容易なはずである。もちろん、油断なんてものは一切しない。

 

────問題は男の方か。

 

 空気が張り詰めていくのを感じながら、私は視線を体格の良い男へと移す。距離が離れているせいでいまいち分かりにくいが、恐らく私よりも背が高いな。それに、私が見えていることに気が付いたのか、男は既に油断なく構えを取っているようだ。

 しかし、近接戦を仕掛けてくる様子はない。恐らく戦闘能力がない女の方は、逃走態勢を整えているようで、なおもじりじりと私から距離を取っている。会話を交わした様子は見受けられなかったが、敵ながらなかなかに良いコンビらしい。

 

「疾──ッッ!」

 

 だが、それを易々と見逃すつもりは毛頭ない。息を噛み潰すように口から噴き出しながら、私は彼らとの距離を一気に詰める。瞬間、反応してきた男は女を庇うような位置取りで私に立ちはだかった。

 

「ちっ、用意周到なことで……っ!」

 

 変化粒子が解けて露になったのは仮面を着けた男の姿。正体を見ることが適わなかったことに思わず舌を打ち、それをゴングに私は男との交戦を開始した。女の方は逃げ出してしまったが、今は目の前のことに集中だ。

 

「ちょっとは、動揺してくれても、罰は当たらないとッ! 思うんだけどね!!」

 

 リンクを無理矢理に切断されて姿が見えるようになってしまっても、ちっとも動じてくれない相手に悪態を吐いた。様子が変わらない男を相手に、私は空気を裂くような拳をいなして負けじと拳を打ち込んでいく。しかし、格闘能力は高いようでどちらも有効打を入れることができない。

 

────確かに、おおっぴらにしてないとは言え、隠してる事ではないからな……。

 

 明らかに"体質"のことを知られていると勘付きながら、私は的確にこちらの攻撃に対処してくる男と拳を交え続ける。まずい、時間稼ぎに徹されているかこれは。どの程度知られているのかは分からないが、一枚札を切るべきか。

 

「その服のことといい、色々、っと! 聞きたいことが、あるんだけどな!」

「っ!?」

 

 そうして、リンクを切断した際に通常のアストラルとは異なる反応を見せた事実を、私は攻防する相手に突然突き付ける。驚愕を含む息遣いから察するに、私がそこまで視えている事実までは伝わっていないようだ。

 リンクの光が脳でちらと見えたのは事実だが、それと同時にその光が衣服の方へと伸びて、それから粒子が変化する様子を私の目は捉えていた。衣服ごと隠す透明化の能力は幾つか視たことがあるが、その何れもが直接変化粒子で身体を覆い隠すことで透明になれるのだ。衣服の一点にだけ光が伸び、そこから変化粒子が生まれるという特異な反応は見たことがない。

 一瞬の推論と男の挙動。その二つから考えて、彼の衣服に他者のアストラルを発動できる機構が仕込まれていると見ていいだろう。同じような能力者を探す時点で困難を極めるというのに、既に逃走した女と今目の前にいる男が発生させているアストラルパターンが同一であるという点からも、その推論は補足できる。

 

────これは是が非にでも捕らえなければ。

 

 その思考を置き去りにして、私は動揺で隙を晒した男の腕を弾き────

 

「がふ──ッ!」

 

 ガラ空きの鳩尾目掛け、何(・)時(・)も(・)よ(・)り(・)強(・)い(・)床を割らんばかりの踏み込みと同時に全力で肘を打ち込んだ。衝撃に負けた男はそのまま3mほど吹き飛ばされ、冷たい床をごろごろと転がる。よし、これでしばらくは動け────

 

「レヴィ6!!」

 

 まい。そう心の中で戦闘の終息を確信した瞬間、背後から必死な女性の声が響き渡る。まさか、逃げた女が戻ってきたのかと振り向いて対処しようとして────

 

「ぅぐッッ!?」

 

 何かが弾け飛ぶような音と共に極光で目を焼かれ、何も聞こえなくなってしまった。そして、突然失ってしまった感覚に狼狽している内に、正面からタックルを受けて地面に薙ぎ倒されてしまう。自身の呻く声さえ上手く感知できず、狂った三半規管のせいで自分が今どうなっているのかもよく分からない。

 

「ま、て……」

 

 辛うじて動く口で、離れていくアストラル反応を呼び止めるが、それに二人が止まるはずも無い。遂には侵入者たちに感知圏外へと逃げ出されてしまった。もう追いつくこともできない事実を理解して、私の胸は無念の感情で満たされていく。

 同時に、此度の争乱が終わったことも理解して、張り詰めたままだった意識の糸もぶつりと切れ落ちた。うるさい耳鳴りも遠のいていき、その場で私の意識は闇に溶けていく。




 仮面は七海ちゃんが天都君に備えて持ち歩いていた私物で、スタングレネードらしきものはメモリー繊維の受け取りと一緒に、天都君対策として大江さんに渡されてます。多分次の話で詳しく書くけど。

【Column-IV-】天都君の設定その3

 年々抑制領域は広がっていて、幼い頃は触れなければいけなかったところが、今では自身から半径2mほどまでが抑制領域と化した。おかげでアストラルエンジンを搭載した乗り物には乗れず、最近はライトレールに乗るのも避けているらしい。
 また、粒子を見る体質の方は相当に広い範囲まで効果が及ぶ。本人は正確な距離を把握していないが、集中すればおよそ300m先までの粒子の変化を観測できる。ただし、距離が開けば開くほど、正確な分析はできなくなる。発動している能力の判別ができるのは、およそ10m以内。
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