Prologue -重なる二夜-
「二条院さん、怪我はなかったかい?」
「紀先輩……はい、怪我はありません」
見ての通りですと言いながら、昨夜警備の手伝いとして見回りをしていた寮長殿は薄く微笑む。戻った私の視力が捉えるそれからは、嘘偽りを何一つとして感じない。
「だけど、少し寝不足みたいだね。やっぱり私が代わろうか?」
ただ、それは外傷ということに関してだけだ。二条院さんの目の下には薄く隈がこびり付いていた。年頃の女の子には辛いはずのそれを見て、無意識の内に私の眉間に皺が寄っていく。
昨日は消灯よりも早く寝てしまったせいで気付けなかったが、また例の侵入者が現れたということで厳しい警戒体制を敷き続けていたらしいと人伝に耳にしたのだ。あれへの一番の対抗手段が私である以上、やはり私が警備の手伝いをするべきだったと思うのだが────
「紀先輩。昨日も言いましたがアナタは怪我人なのですから、あまり無理をなさらないでください」
この通り、頑なな彼女に止められてしまうのだ。いや、それで消灯時間より早く寝ていたのだから立つ瀬はないのだけれども。
「とは言ってもなぁ……」
「式部先輩に伝えておきましょうか?」
しかし、やはり本来であれば私が出るところであるのでなおも粘ってみるが、今度は茉優の名を出されてしまった。そうなってしまっては、私はこれ以上言葉を紡ぐことはできない。強かな乙女の前で私は深く息を零す。
「なになに? アタシのこと呼んだ?」
「いや、何でもないよ。さ、朝ご飯を食べに行こうか」
更に、タイミング悪く茉優が一階まで下りてきてしまった。完全に旗色が悪くなった私は、下りてきた茉優の肩を掴んで押しながら食堂へと逃げて行く。二条院さんのジトっとした視線を背後から感じるのはきっと気のせいだ。逃げるが勝ちである。
「とにかく、怪我には気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
けれど、離れて行ってしまう直前に、私は二条院さんにそれだけ言葉を残した。それを受け取って、彼女は微笑みながら頷いてくれたようだ。
「怪我に関しては、天都君は人のこと言えないと思うんだけどなぁ」
しかし、今度は茉優の方からジトっとした視線を向けられる。どうやら今日はどうあってもそうなる日らしい。すっかり良くなった私の耳は、しっかりとその不満気な声を拾った。
そんなこんなで、今日も一日が始まっていく。雲も疎らな青空が窓越しに私たちを照らしていた。
【Column-VII-】天都君の設定その4
今更ながら、身体的特徴のお話。
少しボリュームのある銀髪と天色の瞳をした、中性的な顔立ちの青年。身長は平均程度だが、ある事情から鍛えに鍛えているので体重は重い。Ch.1-Dでちらっと言っていた寄り道も鍛錬だったりする。
ただ、ゴリゴリのマッチョではない。というより、見た目は寧ろ細い。細いのに硬いし重い。
また、衣服の下は傷だらけの身体が隠れている。何が理由で何時からあるのか、彼は誰にもは語らない。