---坂本一弥---
久しぶりに祖父に呼び出された。
「後継者問題なら、固辞する」
先に言っておく。
「見合いの話が来ているんだが…」
見合い?
「まだ、高校2年だけど…早くないか?」
「付き合っている娘がたくさんいるようだな」
いるちゃいるが…
「まぁ、否定はしない。なのに、敢えて、見合いか?」
「そうだ。するだけして欲しい」
「それは、相手に失礼では無いのか?」
「メンツの問題だ。見合いの当事者同士は、考え無いで良い話だ」
俺も政局の駒のうちなのか?
「どんな女だ?」
「よくわからない。向こうも、候補者選びに難航しているようだ」
そんな状況で見合いって、意味は無い気がするんだが…付き合わないでも良いが、必要な事は、見合いをした事実と、相手サイドとの縁だけは紡げってことか?
「どんな勢力だ?」
「お前は知らんでも良い。そういう勢力だ」
相手のことを知らずに、見合いか?
◇
相手の情報が送られてきた。京都を中心に、地方銀行を経営する名家の縁者らしい。あぁ、結城家か…分家にいた時に、お世話になった気がする…分家のメインバンクだっけ、結城家の銀行って。その縁なのか?で、縁者って言うのがクセ者である。直系では無い可能性もあるし。要は結城家と坂本家の間で見合いをしたという事実が大切なのであろう。
見合いの当日…見合いの場所は病院…なんで?おいおい、病人と見合いなのか…案内された個室に横たわる少女…頭にはヘッドセットを付けており、生命維持装置も装着していた。
「この子と見合いってことか?」
「若様、すまない…まさか、こんな状態とは…」
見合い相手は結城家の三男坊の娘だと言う。なんらかの事件に巻き込まれ、未だに意識が戻らないそうだ。結城本家は、彼女の状況を理解しておらずに、見合い相手に決めたようだった。
「どうすれば、いいんだ?」
彼女のカルテに目を通していく。デバイスの電極が、脳に直接接続をして、五感情報をジャックしているようだ。可能なのか?無理に外そうとすると、高出力の電磁パルスを発生して、脳を破壊するとある。無理に外さなきゃいいのか?
「なぁ、無事に目覚めたら、彼女を1日借りていいか?」
「気に入って貰えましたか?」
「嫁にはしないけど…お友達程度なら…」
「それでかまいません。そういうことだ。それでいいな、彰三」
彼女の父は、本家の猛者達を前にして、頷いている。
◇
裏で蠢く奴らは、裏の世界の者にまかせて、俺は目の前の問題を解決した。彼女からナーヴギアというヘッドセットを、取り除いた。外したのでは無く、取り除いた為、高出力な電磁パルスは発生しなかった。
彼女…結城明日奈は、安らかな寝息を立てて、眠っている。後は、病院の医師達にまかせて、その場を後にした。
「若…お持ち帰りはしないのですか?」
結城の本家筋の人間は、俺を若とか若様と呼んでいる。
「見合いをした事実が欲しいのだろ?これで、終わりにしてくれ」
「気に入って貰えなかったのですか?」
「かわいい子だよね。アレコレしたい気もするが、VRMMOだっけ?そこで、苦しんだんだろ?なら、彼女のしたいようにさせてやれよ。表向きは俺が話を合わせる。そうだな、断った理由は、闘病中だからで良いだろうな」
俺は、一人帰路に着いた。慣れない背広上下が、鬱陶しい。早く家に帰って、普段着になりたいなぁ。
「おい!坂本一弥だな。ちょっと、ツラを貸してくれ」
って、チャラそうな男が現れた。裏道に連れ込まれて、ボコられるパターンか?喜んで着いて行く。問題は背広上下で、どこまで戦えるかな?って、考えていると、倉庫のような場所に連れ込まれた。奥へ進むと、良く知った顔がいた。
「一弥…土御門!なんで、一弥を連れて来たんだ?」
チャラい男は土御門って、言うらしい。
「お前が買った男だろ?役立つと思ってなぁ、ねーちん」
ねーちん?あぁ、ねえちゃんの訛りか。それは、置いておいて…そうなると、火織は裏組織の関係者ぽいのか?
「火織、どういうことだ?」
「一弥…あのなぁ…これには…」
「ねーちんが、しどろもどろか。本当に、この男に惚れたようだな」
いやらしそうな笑みを浮かべる土御門。
「この組織は何だ?」
土御門に訊いた。いつでも、倒せる間合いにいる俺。
「それが、お前の間合いか?この組織は『必要悪の教会』って言うんだよ」
コイツ、チャラそうに見えて、クセ者っぽいなぁ。そういえば、土御門って、陰陽師家系にあったような。
「宗教問題は関わりたくない。俺は帰るぞ。火織はどうすんだ?」
◇
土御門と、もう一人男がいたが、火織を含めて三人から意識を狩り取り、火織だけお持ち帰り中である。俺の背中でグッタリとしている火織。あぁ、背広のズボンのケツが…裂けた…運動したのが、数馬達にバレるなぁ。
家に帰り着き、火織を俺の部屋に寝かせ、普段着に着替えて、五和とプレイルームへ入った。
「何が知りたいんですか?」
何かを感じ取った五和の口が、先に開いた。
「火織の所属する『必要悪の教会』って、なんだ?俺は宗教関係に首を突っ込みたくない。弟と妹、それに周囲の者達を危険に晒すからな」
「そうですよね。そう、おっしゃると思ってました。一弥さんは、粗暴に見せているだけで、お優しい方ですから」
懐から短刀を取り出した五和。自決用か?
「プリエステスは、天草式十字凄教の教皇です。私は一信者になります」
「天草式って、隠れ十字教か?」
江戸時代、幕府は十字教を邪教と認定して、信仰禁止にしたのだが、天草地方では、仏教や神道にカモフラージュして、十字教を信仰していたそうだ。なので、隠れ十字教とよばれている。
「そういうことです。必要悪の教会は、天草式の組織では無く、イギリスの国教であるイギリス清教の組織です。十字教関連の事件捜査や、聖職者・宗教的結社の殲滅・処分を任務とする裏の組織で、対聖職者専門の国際治安維持機関で、公務員と同じ待遇だそうです」
イギリスは、殺し屋を税金で雇っているのか…そう言えば、殺しの番号って言われている007も公務員扱いだったっけ。
「で、俺に接触したのは、どういうことだ?」
「あ…それは、プリエステスが惚れたのと…私が…だから…」
真っ赤な顔と耳になる五和。つまりは、宗教の外で、俺と接触したのか。
「で、その短刀は何だ?まさか、自害する訳で無いだろうな?」
「えっ…と…ですから…秘密を…暴露は…禁じられた行為で…」
目が泳ぐ五和。かわいい…それは、置いておいて、
「俺、言ったよな。五和の乳首と恥部を見る事が大好きだって。自害したら、色が変色するんだけど、それはどうしてくれるんだ?」
「あぁ~、そうでしたね。困ったなぁ」
五和は短刀を懐に戻した。そんな五和に抱きつく。
「お前は、俺のメイドだよな。俺のことを一番に考え、俺の望みを叶えてくれ」
要するに死に急ぐなと言いたい。
「そうですよね。ここの生活は楽しいです。いつまでもいたいで…」
五和の口を俺の口で塞いだ。いつまでも居て欲しいから。最後まで言わせないし、聞きたくもないから。
◇
翌朝一番に、火織と土御門の家を急襲した。所謂、朝駆けである。
「にゃ?何でここに?」
鍵を解錠して、俺と火織が部屋に踏み込んだ事に驚く土御門。学生寮に暮らしているのだが、女を連れ込んで行為に及んでいた。朝から…元気だな。
「学生寮って、異性を連れ込んで、行為をするのは、禁止じゃ無いのか?」
退寮勧告事案だと思う。
「いや、あれは妹だ。その…妹とスキンシップをだなにゃ」
プチパニックなのか、口調が崩壊している。
「で、どんな悪さをしようとしているんだ?」
「う~ん…ここじゃ話せないにゃ…」
視線でベッドに横たわる全裸の女性を差す土御門。
「じゃ、昨日の、アソコで待っている」
火織と共に、その場から立ち去った。
◇
待つ事30分…火織とオーラルプレイをして過ごしていると、土御門がやって来た。
「あぁ、これはプレゼントだ」
携帯プリンターで打ち出した写真を数枚、土御門に渡した。妹さんと…の写真。
「強請るのか…お前なぁ…」
「で、火織に何をやらせようとしたんだ?」
「お前も、参加か?」
「火織に犯罪行為はさせられぬ。一応、俺のペットだからな」
真っ赤な顔で頷く火織。
「モロに惚れているのか…まぁ、いいや。人探しと保護だ。構成員の一人が記憶を亡くして、彷徨っているんだ。ソイツの発見と保護が今回の任務にゃ」
犯罪行為は無さそうだが…
「ソイツは何者だ?」
「聖女ってカテゴリーだ。シスターって言えば良いのかな」
五和みたいな者か。
「写真は無いのか?」
「無い。神裂のねーちんが、知っている。じゃ、俺は戻るよ。妹が飯の支度をしてくれているんだ」
土御門がその場を立ち去った。アイツはシスコンか?
---結城明日奈---
あの地獄のような鳥かごから解放された。体力と筋力が低下している以外、特に悪いところは無いようだ。
「そうだ。他の人達は?」
「明日奈のお見合い相手の彼のおかげで、徐々に解放されているわよ」
って、お母さん…えっ!お見合い相手?!
「お見合い相手って?」
「明日奈を助けてくれた人よ」
いやいや、植物状態の私とお見合いって、有り得ないんだけど…
「彼のバックにいる組織が、悪い虫達の退治をしてくれたのよ」
「その相手って、何者なの?」
「明日奈は気にしないでいいのよ。ネットで十分に苦しんだのだから、あなたの好きにさせて欲しいって…」
私の好きに生きて欲しいってことかな?
「どこの誰?」
「結城本家がお世話になっている坂本家の次期当主よ」
あぁ、なんか聞いたことがあるなぁ。坂本家って、不動産と海運業で成功した家だったけ?
「お見合いはどうなったの?」
「明日奈の好きにして良いって…」
「私が植物状態だったから?」
「気に入っていたみたいだけど…明日奈にまかせるって。でも、助けて貰ったんだから、お礼は言わないとダメよ」
それはそうだけど…それより、キリト君は無事だろうか?
---坂本一弥---
和葉が俺達のクラスに転校してきた。俺と蘭で、和葉の話し言葉を標準語仕様に、しようとしている。
「私は遠山和葉です。よろしゅうお願いします」
「よろしゅうでは無く、よろしくだよ」
「う~ん、なんや、難しいなぁ。標準語って…なんで、大阪の言葉が標準語にならへんのかな?」
って、前途多難である。紅葉はすんなりと標準語になったのに…
「一弥…ごめんなぁ」
「謝らんでいいから、覚えような、和葉」
「うん…」
って、蘭は何時の間にか、空手部にエスケープしていた。俺だけで教えるのか?う~ん…数馬達は生徒会だしなぁ。
「一弥は和葉ちゃんに優しいんだな」
世良がからかうように言う。
「まぁ、初めての相手だったし」
「はぁ?初めての?!」
俺の言葉で世良が驚きの声を上げ、和葉の顔が茹だって行く。
「そうそう。和葉に筆下ろししてもらったんだよ。その恩儀があるからな」
「一弥…そういうんは、恩儀にせぇへんでいいんよ。私も…初めての相手は一弥だしなぁ」
世良が俺と和葉を交互に見ている。
「お前の好みは、わっかんないなぁ~」
「好み?和葉は別にして、基本、強い女かな」
何故か世良が身構えている。
「うん?世良は強くないし」
確か、既に2回ほど、病院送りにしたような。
「プロ相手に勝てるかぁ~!」
コイツ、格闘技オタクだっけ。ベガとの試合を見に来ていたし。
「なぁなぁ、世良。どこかにサブミッション系の練習相手って、いないかな?」
「う~ん、柔道部に知り合いはいないぞ」
「世良相手でどうだ?」
「断る。病院送りにされたくないし」
根に持っていそうだな。どうするかなって、その前に和葉や。
「和葉、話に加わって来いよ。こういう雑談も勉強のうちだぞ」
「ウチ…じゃなくて、私は格闘技に詳しくあらへん。うん?違うなぁ。詳しくありませんかな?」
「良く出来ました」
和葉の頭を撫でて上げた。
「ウチ、お子ちゃまで無いでぇ~!」
「ほら!怒ると、大阪人丸出しだぞ」
「あぁ~、しもうたぁ~」
凹む和葉…前途多難過ぎないか?どっぷり大阪人なんだけど…