---川神百代---
床下手…そうかもしれない。いや、抱きつかれただけで、何も出来無かった。頭の中は真っ白になっていた。彼の言いなりになっていた。今まで、私の懐に入り込む輩は居なかった。彼に拳も蹴りも通じない。立ち技世界一の座に、胡座をかいていた訳で無いのだが…当たらなければ意味を為さない。
彼との戦いは、異次元な戦いであった。拳を放っても掴まれ、蹴りまでも掴まれ、投げ捨てられ、寝技に持ち込まれてしまった。空手には投げに対す受け身は無い。まして極めに対する逃げも無かった。
師範曰く「総合格闘術相手では、勝ち目は無い」と言われた。彼は総合格闘術を身に着けているようだった。
「相手の名前はなんと言うのだ?」
「坂本一弥です」
「坂本…まさか、坂本流の…」
祖父の、いや、道場においては師範の顔色が変わった。
「百代、もう、そいつとは戦うな」
「何故ですか?」
「お前では勝て無いからだ」
「坂本流とは?」
「総合格闘術の流派で、空手、柔道、剣道を極めた者がいるそうだ。そいつは、免許皆伝をし、人智を越えた技を会得したそうだ。名前を坂本一弥と言う」
人智を越えた技?
「どんな技ですか?」
「驚異の動体視力を以て、銃弾を拳で弾き、驚異の身体能力を以て、真空刃を放てると言われている」
銃弾を拳で…どんな練習をしているんだ?まさか、空手の腕も私以上なのか…益々、彼に惹かれていく私…
---坂本一弥---
体重や年齢、段位などの制限の無い、フルオープンな柔道の決勝トーナメント大会に呼ばれた。白帯の俺に果敢に攻めてくる黒帯。まぁ、帯だけ見たら格下だのもな、俺は…道着を掴みに来たので手首を掴み、一本背負いで投げ落とした。
「一本!」
あぁ、もう終わりか…もっと、充実した戦いがしたい。控え室に戻ると、高校生チャンプの三郷三太郎がいた。
「てめぇ~!まだ、白帯なのか?このサギ師野郎がぁ!」
失礼なヤツだ。白帯のどこがサギなのだ?怒りに任せて、指一本で制圧した。意識を狩り取られ、失禁している三郷。
「次は誰が難癖付けるんだ?」
誰も難癖を付けてくれない…つまらないなぁ。会場に戻ると、美和子がいた。なんで居るんだ?
「あれ?一弥君…試合に出ているの?」
「まぁ…」
あぁ、刑事だから、柔道をしている同僚がいるのか?いや、彼氏かもしれない。
「彼氏の応援?」
カマを掛けてみた。
「一弥君の?まぁ、してもいいけど…今日は、職場の同僚が出ているから、そっちの応援だよって、次の相手は一弥君みたいだけど…」
なるほど…あぁ、俺の番だ。相手は美和子の同僚だそうだ。楽しめるかなって、速攻の内股で一本勝ち。次は誰かな?
「速効勝ち…って、一弥君…なんで白帯?」
美和子が良い処に気が付いた。
「昇級試験を受けていないんだよ。白帯だと、舐めて掛かるから、楽しいでしょ?」
「あぁ、一弥君らしいけど…」
美和子が呆れるように見ている。ケンカ好きに思われたかな。それは心外である。あくまで場数を経験しているだけである。
「お前…美和子さんに何の用だ?」
あっ、さっき倒したヤツだ。まだ元気そうだな。もっと激しく戦っても良かったかな。
「美和子さんの彼氏?」
「そうだ」
「何を言っているの、高木君!」
そうか、彼氏がいるのか。この哀しさを戦いにぶちまけよう!
◇
「お兄ちゃぁぁぁぁ~ん、どうだった?」
家に帰るとウザミンが出迎えてくれた。優勝トロフィーを手渡した。
「美和子、入っていいよ」
彼氏と名乗った男性を、「嘘吐きは泥棒の始まりだよ」って、ボコった美和子。そして、俺に甘え始めたので、初めてお持ち帰りしてみた。
「お邪魔します」
「うん?この人は?」
「佐藤美和子さんだ。いつも留置場から助けてくれる女神な女刑事さんだよ」
「お兄ちゃんの妹の宇佐美です」
「弟の数馬です。よろしく、お願いします」
「うん?お兄ちゃん、彼女?」
ウザミンが頭を傾げて訊いて来た。
「うん」
素直に頷く俺。
「蘭は?」
「成長中だよ」
「あぁ、なるほど、美和子さんは完成形ってことかぁ」
ウザミンは納得したような表情だ。コイツの扱いは楽だ。ただ、ウザいだけであるし。
「食べず嫌いは、大きくなれないだろ?」
「さすがはお兄ちゃんだね!」
さすおにのように言わないで欲しい。俺はあの主人公のように器はデカくないし。
「へぇ~、広いのね」
部屋を見回している美和子。
「ここに泊まれば、3階のジムは使い放題だよ」
「そうか。今度非番の日に泊まろうかな」
「あぁ、兄さん、ゲスト用の宿泊ルームもあるから」
って、数馬。
「ホテルの代わりにもなるのか?」
「おいたはダメだよ」
「あぁ、それは自分の部屋でだろ?」
その位は知っている。
「兄妹で住んでいるの?」
「僕と妹は隣の部屋です」
と、数馬が返事をしている。そう、コイツらは隣に引っ越して来た。両親は、ウザミンのしたいようにさせる方針らしい。これ以上、悪化しないようにだと。俺のいない間に何が遭ったのだろうか。皆、答えてくれないことから、口では言えないような事をしたのだろう。
「じゃ、ちょっと、美和子さんとジムに行って来るよ」
「わかりました」
運動が苦手の二人は付いてこない。
◇
月曜日…眠い…学校へ行きたく無い。ウザミンと数馬に連行され、俺のクラスで蘭に引き渡され、自分の席へ…
「随分、疲れているのね。昨日は誰と寝たの?」
「昨日は美和子…」
「美和子さん?どこで会ったの?」
「柔道大会で、彼女は同僚の応援に来ていたんだよ」
「あぁ、警察だからか。って、一弥君、柔道大会に出ているの?」
「白帯だよ。予選落ち程度だ」
「ダウト!」
世良にビンゴされた。コイツ…来ていたのか?
「お前、優勝していただろ?それに、昨日の大会は、決勝トーナメントだった」
「優勝?白帯なのに?」
「偶然だよ」
「ダウト!」
世良にビンゴされた。コイツは俺のストーカーか?
「お前、わざと昇級試験を受けないそうだな」
俺の事を調べているのか?
「試験は嫌いだよ」
「本当にそれだけか?」
「ストーカーには教えない」
「誰がストーカーだ!」
世良の事を指差す俺。
◇
放課後、正門へと向かうと道着姿の川神百代がいた。コイツ、学校へ行っているのか?って、怪我はもういいのか?そもそも、コイツって、俺のストーカーか?行く先々にいる気がする。
「勝負しろ!」
ヤル気だけは十分のようだ。
「マグロ!来いよ!」
蹴りか?パンチか?まずはローキックで、反応を見ているようだ。では瞬動術で、懐に入り、股間へ膝蹴りと見せかけて、膝を股間に這わせていく。
「うっ!やめて…ここでは…」
真っ赤な顔で前のめりになったので、そのまま、滞空時間の長いブレーンバスターで芝生に叩き落とし、サソリ固めで腰へダメージを与えて行く。藻掻く百代。更に絞め上げる俺。そして藻掻かなくなった百代から離れた。
「じゃなぁ、マグロ!」
家に帰るまで、何人とバトル出来るかな?ルンルン気分で校門を出た。
---服部平次---
一弥に一太刀入れたい…おとんに怒られ、おかんに怒られ、総て、アイツのせいや。どうするかな?剣道大会に、どないすれば出てくるんや。
『また負けた…』
闘神の川神百代からメッセージが届いた。立ち技最強でも勝てへんのか。そうや、あの世良って女子はどうやろうか?工藤へ連絡をした。
『服部か?どうした?』
「一弥を倒したいんやけど、なんか策はあるか?」
『倒す?真剣で斬り捨てるのか?』
「真剣勝負は分が悪い。せいぜい木刀やな」
真剣は扱いづらい上、持っていないし。
『闇討ちか?』
「なるほど、それも手やな。お主も悪よのぅ、工藤」
『巻き込むなよ』
「あぁ、がんばるで」
闇夜で勝負かぁ。アイツ、夜目が効かんのか。
◇
が、闇討ちを仕掛ける前に、アイツが剣道大会に出て来た。どんな心境の変化や?
「あれ?ウザ男君じゃん。和葉は?」
「和葉は関係あらへん!」
「あぁ、百代がいるもんなぁ。よぉ!この二股男!」
コイツ…許せへん…って…俺のライバルの沖田が、一弥に負けたらしい。マジか…
「服部…アイツは危険だ…」
って、沖田。えっ!沖田の胴は割れていた。防具を割る威力って、何?
「気を付けろよ。真空切りを放ってくるぞ」
真空切り?赤胴鈴の介か?
「アイツ、何流や?」
「知らないのか?アイツ、坂本流の免許皆伝だ」
免許皆伝…坂本流やって…
「まさか、あの坂本家の関係者か?」
あの坂本家とは、坂本龍馬の子孫で、先祖のように暗殺されないよう、あらゆる攻撃から身を守る術を会得するという坂本流の総本山や。
「そうだよ。あそこの次期当主だ。舐めて掛かると死ぬぞ」
マジか…勝てへん訳や…震えが止まらない。紙1枚で殺人が出来るらしい流派である。
そして、俺の番…行けるところまで、追い詰めてやる。
「1本!」
え…何も出来へんかった。速効で胴へ撃ち込まれたのか、沖田同様、胴が割れていた。マジか…
「和葉、勝ったよ」
「一弥、おめでとさん」
和葉が一弥に抱きついて居る。一弥の頬に口付けやと…何時の間に、そんな関係に?
「おい!和葉から離れろよ、ボケがぁ~!」
「平次…私は、お前の物や、あらへんよ!」
って、和葉。え?なんで?どないして、そうなる?
「あぁ、和葉と百代は、服部の物なのか。責任を取れよ!二股のウザ男君。せめて、和葉は本妻にしてやれや~」
って、アイツは去って行く。和葉を置いて…
「どないして、あんなことを言うの?私は、平次のお飾りやないで!」
涙を流しながら、俺の前から去る和葉。なんでや?
---坂本一弥---
久しぶりの京都。お団子食べて、豆腐食って…こういう時に限って、逢いたくないヤツに出逢う。
「一弥…」
「なんや、紅葉。お前は服部大好き人間やろ。負けた服部を慰めてやれよ」
「一弥…どないして…帰って来たの…逃げて!」
紅葉の警告を受けて、逃げようとしたら、大岡家の黒服に囲まれた。力尽くで捕まえる気か?応戦する。当然のように警察が現れ…俺は留置場へ入れられた。
「また、お前か…懲りんヤツやなぁ」
って、留置場のエラい人。
「大岡の黒服に言えよ!アイツらに襲われたら、応戦するだろ?」
「この辺りじゃ、大岡家にわっぱは打てないんだ。知っているやろ?」
警察関係者が頭を下げる大岡家。この辺りの権力者だ。官民の癒着ってどうなん?
「どうする。大岡家の弁護士が引き取りに来たで」
「行かないよ。俺は権力を傘にするヤツは嫌いだ」
俺を連れ出し、一筆書かせて、紅葉の眷属にするつもりのようだ。そんなシナリオに載る物か。
「相変わらずやな。まぁ、2,3日泊まっていけ」
はぁ~。遠征先でも留置場が定宿って、なんや?
◇
3泊すると、東京から妃弁護士が迎えに来てくれた。分家の叔父さんが手を回してくれたそうや。出る杭は打たれるってことで、坂本家は表立って動けないらしい。
「大岡家に嵌められたそうね」
「あそこの令嬢の婚約者を、ボコったから…」
「婚約者って?」
「服部平次だよ。まぁ大岡家が、一方的に宣言しているだけだけどね」
紅葉の片思い。で、平次を抑え込める俺を、紅葉の専属のガードにしたい大岡家。
「園子もそうだけど、金さえ有れば、なんでも出来ると勘違いしている連中だよ」
「なるほどね。君は、そういうのが嫌いな様だものね」
「また、蘭に心配を掛けちゃったなぁ…」
「そう思うなら、大切してあげてね」
「はい、義母さん」
妃弁護士の表情が少し緩んだ。
◇
スマホが鳴動している。出ると紅葉だった。
『ごめん…』
「3泊だぞ。あそこは冷えるんだぞ。今度入ったら、毛布を差し入れしろよな」
『うん…』
「平次とはどうなっているんだ?」
『どうって?進展なしや』
「アカンやろ?グイグイ行けよ。俺にはグイグイ追い込むくせに」
『だから、ごめん…一弥は相談相手だって、ゆうているんだけど、父が理解してくれないの』
「納得させておけよ。大好きな京都に、行けないじゃないか」
『本当にごめんね』
通話は切れた。紅葉は嫌いでは無いが、大岡家は大嫌いだ。俺のガード対象は弟と妹である。紅葉はその対象にはならない。口で言っても、あそこのクソ親父は分かってくれないようだ。