死んでも直らないこと
---工藤新一---
この事件、構造が分からない。何故、一弥は死なないといけないんだ?
権力の集中が見られた。一弥の元に、分不相応な権力が次々に集まっていた。何故、一弥の元に権力が集中してんだ?
この2点が構造を解く鍵になるのか?
「調べて来たでぇ~」
服部がやってきた。和葉は傍にいても、服部を認識出来無いらしい。なので、フィールドワークし放題だって言っていたけど、心配だろうに。俺もそうだし。
「和葉をあんな風にしたヤツラを許さんでぇえ~。何も一弥を死刑にすることは無いやろ。事故死って線は無かったんか?」
事故死の方が、蘭もそうだが、ショックはあれほどではなかっただろう。
「そこなんだよ、服部。なんで、一弥は死なないといけないんだ?それも死刑と言う形で…」
死体は検死されていなかった。それは不審死では無いからだと思う。死因を特定する必要が無いってことだ。
「検死の件やけど、あちらの国から検死は必要無しって言われたそうや。死因は感電死以外考えられないからだそうや」
電気椅子かぁ。でもなぁ、電気椅子にしてはきれいな死体だったなぁ。もっと血管とかが破裂して、内出血が多数出来るはずである。血液が沸騰して、血管が硬くなり、体内で出血しまくはずだし。
「アイツの遺体は、通夜の後直ぐに運び出して、アチラの国のエージェント達だけで、火葬したそうや。なんか、見られたらアカン物が出たのかもな」
家族の立ち会いも無しって、異常だな。同居人、家族限定での通夜だったし。俺はまだしも、おっちゃんも立ち会えなかったそうだ。
「何が出たかだな」
「そこや!それが、アイツが死なないといけない原因なんやろ」
「遺灰はどうなったんだ?」
「大きめな骨だけ壺に入れて、残りは返却不可だったそうや。で、壺の中は特殊樹脂で固められていて、骨は見えるが触れない状態らしいやで」
何にかが混入していたのか?大きめな骨は、付着物が無いか、確認したんだろうな。いや、そもそも骨が入っているのか?触れないのでは、骨が入っているかも怪しい。
「で、墓はどこだ?」
「墓は無い。そのまま、遺族は船に乗せられて、壺ごと海の中に捨てたそうや。なぁ、異常な事態やろ、これって」
「あぁ」
異常過ぎる。一弥は何かをインプラントされていたのか?それを回収して、回収した痕跡を見せない為に、処分されたのだろうか。
「工藤君、調べて来たよ」
安室さんが来てくれた。安室さんに、服部が調べて来た情報を話した。
「まぁ、そんな感じだよ。ひどく厳戒態勢を敷いていたそうだよ。海葬の際、半径10キロ圏内は、他のいかなる船も立ち入り禁止だったそうだ」
それは、投棄場所を特定されないようにか?
「空域は、半径50キロ圏内の飛行の禁止だった。高度は無制限だ」
人工衛星もアウトなのか。なんだ、その厳戒ぶりは…
「おかしいことだらけだよ。逆に言えば、何か遭ったってことだが、コチラの国に情報は一切無い」
国益絡みか。
「今となっては手遅れだけど、彼は何者だったんだろうな」
安室さんでえすら、わからないのか。
◇
身近かにいた人から情報を、訊き出すことにした。俺は警視庁を訪れた。だが、遅かったようだ。
「佐藤君か?それがなぁ、行方不明なんだよ」
あの通夜の日に行方不明になったらしい。部屋を調べた結果、喪服を脱いだ形跡、シャワーを浴びた形跡はあったが、彼女の姿はどこにも無かったそうだ。攫われたのか…
「佐藤刑事から、何か訊いていませんか?一弥についてなんですが」
「傍にいてあげないと、危なっかしいって言っていたな」
高木刑事が思い出しながら、そう教えてくれた。
「身体に関する情報は無いですか?」
「う~ん…そういえば、一度大けがをしたって言っていたな。無茶をしすぎるけど、人助けをするとき、無意識で行動しちゃうのが難点って」
大けが?そういえば、アイツ右腕を怪我したことがあったなぁ。何をして怪我をしたんだ?
「原因は訊いていませんか?」
「それは美和子さんも知らなかったようだよ」
「工藤君、佐藤刑事はどこにいると思うのかね?」
目暮警部に訊かれた。
「一弥に関する情報を隠したい勢力に拉致された可能性があります。一弥の死に裏の事情が絡んでいるようで…それを今調査中です」
「なんだって、一弥君の死に、事情があるかね」
「えぇ。そもそも、何も罪を犯していない段階で、死刑ってあり得ないでしょ?」
「う~ん…」
「おかしいですよ。裁判もせずに死刑って…まさか、美和子さんも共犯で死刑ってことは…」
無いとは言え無い。
「よし!佐藤刑事を探し出すぞ。彼女の部屋とマンション、近隣の防犯カメラを調べろ!」
「はい!」
たぶん、防犯カメラに映像は残さないだろう。向こうはプロだしなぁ。
◇
ダメ元で蘭の元へ。焦点の合わないのか視点が定まらないようだ。
「蘭、思い出してくれ。一弥の身体に異常は無かったか?」
「うん?一弥の右手…義手だよ」
何?義手だと。そうなると、その義手狙いか?
「どこのメーカーか分かるか?」
「開発途中の物…最先端技術だって…痛かっただろうな、一弥。右手が肩口から無くなったらしいのよ」
肩口から無い?それって、斬り落とされたのか?誰にだ?近接戦で勝てるヤツっていたのかよ?
「でも、一弥らしい。人助けだったから、片腕くらい安いモンだって、笑っていたのよ」
一弥のことを話す蘭の表情は柔らかくなっていく。
「ねぇ、新一…一弥はいつ帰ってくるの?」
「どこかで人助けでもしているんじゃ無いのか?」
「そうだよね。あぁ、また大英帝国に拉致されたかな」
うん?大英帝国に拉致?まただと…それは、何度も拉致されているのか。
◇
家に戻り、集めた情報から推理を始めた。英国への拉致は、たぶん、婚礼の為だろうな。嫌がるアイツを拉致して、連れて行ったんだろう。何で、嫌がるアイツを王女と結婚させる必要があるんだ?それは疑問であるが…全米民主国絡みか?昂さんに訊いてみるか。
「うん?坂本一弥の情報か?」
「アイツの身体に何があるんだ?」
「なぁ、新一君。君はおかしいと思わなかったかい?長男が一弥ってことに、疑問は無いのかい?」
どういう意味だ?キッドのメールもYXMOだったなぁ。
「ヒントを上げるよ。一弥の祖父は静馬だ。父親は冬馬だよ。じゃ、その息子は?」
数馬…まさか…
「その表情はわかったようだね。坂本家の後取りは数馬だよ。そうなると、一弥は何者かってことにならないか?」
「あぁ、そうなるが…あいつら、三つ子だろ?」
「君は生まれた瞬間に立ち会ったのかな?」
あっ…出生届けの改ざんか…アイツ、坂本家の血を紡いでいないのか。
「小さい頃から、過度の期待を背負うと、精神が壊れやすいよね?数馬も例外では無い。小さい時から頭のキレる子だったらしい。だけど、彼は1つの願望を持っていた。それは、お金で叶える事の出来無い願望だよ。君なら、どうする?」
お金で買えない願望…
「神様に願う?非科学的だけどね」
「そう、それしか結論は無い。数馬の願望は、数馬と宇佐美にのしかかる重責を、総て代わりに背負い、弟と妹に優しい兄が欲しいことだったらしい」
それは神様でも無理なんじゃないか?
「この古文書を見てくれ。写本だよ。オリジナルは全米の大統領府で厳重に保管されている」
『幻想記』という書物を、手渡して来た昂さん。その書物に目を通していく。これって、どこの国の言葉だ?読めない。
「それは古代ヘブライ語で書かれた、十字教の古文書だ。先の大戦の折に、或る場所から奪い去ってきたそうだ」
十字教の?原典に近いのか。
「そこには、『幻想殺し』と言う秘宝のことが書かれているんだ。総ての幻想をぶち壊し、真なる姿を人々に見せるって感じだよ。坂本数馬は、それに目を付けたんだ」
目を付けた。一弥は幻想なのか?
「自分の置かれた境遇は幻想で、自分の願っている境遇が真なる姿だとね…その為に、『幻想殺し』について調べあげ、その恩恵を受けたのだろう。その恩恵が坂本一弥だ」
アイツ、人間では無いのか?何者だ?!
「昂さん、アイツは何者なんだ?」
「俺の推理でいいか?」
頷く俺。
「ヒントは名前と性格だ。一弥って文字を見て、ある言葉が浮かんだんだよ。『弥勒』って言葉だよ」
弥勒って、菩薩だよな。十字教とは真逆の仏教じゃ無いか?
「弥勒の語源は『慈しみ』だよ。なんとなく、坂本一弥を連想出来無いか?粗野で粗暴を演じているが、実際は…」
あぁ、そんな言葉が合うヤツなのかもしれない。素のアイツは…だから、アイツに色々なヤツが集うのかもな。
「そして、慈しみという言葉から、ある人物が浮かんだんだよ」
慈しみ…深く…ともなる…エスは…そんな言葉が脳裏に浮かんできた。
「新一君の脳裏にも浮かんだだろ?賛美歌312番だよ」
ここで十字教へ繋がるのか?
「一弥君は、歌詞にあるような人物だと思ったんだよ」
そうなるとアイツの正体は…そうだ、その方も死刑で亡くなっている。裁判を受けずに…歴史は繰り返すのか…
「わかったようだね。これは定められたことなんだよ。俺達がいくらあがいても、変わらないんだ」
おい…蘭はどうなるんだ?一弥…
---弥勒---
元の姿に戻ったのは良いのだが、俺を俺と認識してもらえない。火織、五和だけでなく、アーシア、ダメシスターまでも跪くし。俺はそんな偉い存在では無く、もっと俗物である。女体が大好きなド変態でありたい。そもそも、前職仏の入滅後約57億年後に悟りを開き、仏になるらしいのだが、この星はまだ46億年しか産まれてから経過していない。このスケジュールを立てた者はおかしいと思わなかったのか?
「今日は、私がお相手をします」
って、ダメシスターが服を脱いでいる。寸胴ボディーにどう立ち向かえと言うのだ?腰回りがまだ子供だし。
「そんな目で見ないでください。恥ずかしいです」
って、俺の方が恥ずかしいんだけどな…
「じゃ、私が相手をするわ」
って、美琴が脱いでいる。まだ、成長途中では無いか。幼女体型から逃げ回る日々…昔は良かったなぁって、思いをかみしめる日々である。
「で、次の一手はどうするんだ?」
土御門に訊かれた。
「そうだな。記録書物を総て消すか。二度と使われないように」
「分かった」
土御門が祭儀場に消えた。じゃ、俺も仕事をするか
『理を読み解く 原爆なる幻想を取り除き戦争の無い世界を望む』
と、詠い、大地に向かって、力を解放した。1日1回、力を解放することにしている。働かざる者、女体と交わるべからずと、土御門に念を押されたというか。
◇
「おい!下界へ降りるときは、坂本一弥で行けよ」
って、土御門。死んだ事になっているんだけど…
「弥勒姿の方が狙われるだろ?!おい、わかっているのか?このド変態風情が…」
そこまで酷く言われる謂われは無い、と思いたい。
「お世話になった者達への心のケアを大切だと思わないか?」
「はぁぁぁ~?お前がヤリたいだけだろうがっ!」
まぁ、概ね正解だと思う。だって、溜まっているんだもん。
「何が溜まっているんだもんですか?ならば、この五和が身を挺して、お世話いたします」
って、ことで都会の片隅で五和のヒモとして暮らすことにした。坂本一弥と名乗るのは、問題外として、佐藤一弥と名乗ることにしたのだ。佐藤美和子の弟って身分にして、五和と三人で暮らす事に…
---佐藤美和子---
久しぶりの職場である。
「おはようございます」
と笑顔で、職場へ行くと、みんなが幽霊でも見るような顔で、私を見ていた。
「どうしましたか?」
「いや…佐藤君だよな?」
「ですが…目暮警部、どうしましたか?」
「誘拐されたんじゃ無いのか?」
誘拐?あぁ、一弥にされたなぁ。どう言えばいいかな…
「駆け落ちしてましたぁ~」
「はぁ?誰とだね?」
誰と…う~ん…
「まぁ、隠していた彼と…どうにか落ち着いて、生活出来る様になってきたので、出勤しました」
「その彼の名前は?」
「佐藤一弥ですけど…」
あっ!弟って設定だったっけ?まぁ、いいか。
「何?一弥君…だと…う~ん…そうか、訳ありなんだな。わかった。口裏を合わせる。だが、事情は話して貰えるかね?」
あぁ~、どうしよう。出勤初日にポカをしてしまったよ。
『目暮警部だけ、連れ帰って』
って、一弥の声が脳裏に響いた。
「わかりました。目暮警部だけ、今夜一緒に来てください」
これで、乗り切れるのかな?
---児嶋加奈---
復職した。一弥に背中を押されたのだ。なりたかった教師の道を進めって…挫折したら、その時は一緒にいるって…約束してくれたし。
「鬼の児嶋…復活かよ」
「他校へ引き抜かれたんじゃ無いのか?」
なんか、随分なことを言われているような。
「おい!生徒が教師を鬼とか言うんじゃ無い!」
一喝すると、鬼でもみたような顔をする生徒達。あれ?どうして?まぁ、いいか。この仕事、舐められたらダメである。それに、私を舐めていいのは、一弥だけだからね!
仕事が終わり、一人とぼとぼ帰る。以前、仲の良かった教師達も、今の私に引いているような。久しぶりの教師で、熱を入れすぎたかな?
「今、終わりか?」
車から声を掛けてきた一弥。迎えに来てくれたようだ。
「うん…乗っていいの?」
「いいけど、乗り心地は保証できないよ」
ドアを開けて乗り込むと…なんだ、このシートは?
「アルミで出来たシートだよ。乗り心地よりも、軽さと丈夫さを優先っていうか…」
峠仕様ってこと?
「今度の休み、美和子と峠に行くんだよ。その為に、車を用意したんだ」
そうなんだ…って、免許有るのか?
「あ?!あぁ、免許か?国際免許だよ。大英帝国発行のね」
産まれ代わっても、王女3名との婚礼は破棄されなかったらしい。
「えっ!」
何これ?軽く発車したのに、Gの掛かり具合がスゴイ。改造車か?
「シートベルトはしてね。違反切符は切られたく無いから」
6点式なのか
「ちょっと、止まって!閉め方が分からないよ~」
路肩に止めて、シートベルトをしてくれる一弥。なんか、卑猥な絵面になっているような…
「あ!いいところに気づいたねぇ。これ、助手席のは見た目、亀甲縛りされている気分になれる、6点式なんだよ」
このド変態男…なんて物を開発したんだ。恥ずかしさを怒りに変えてぶつけたいが、身動きができない。強烈なGが私の身体を押さえつけ、なんとも言え無い感覚に引き込んでいく。まるで見えない誰かに襲われている気分に…
「濡れても大丈夫だよ。アルミの削り出しだから、シミにならないし」
なんてことを楽しそうに言うんだ、このド変態男は…既に、イキそうなんですけど…あぁぁぁぁ~!プチ昇天を繰り返す私。これは、家ではナニもしてくれないかもなぁ…