世界の『せんたく』
---黒羽快斗---
紅子の元を訪れると、何かの儀式の準備をしていた。
「何をしているんだ?」
「この私が相手の術に嵌まるなんて、許せないのよ~。術を施される前まで、時を戻してやる」
なにやら、怒り心頭の紅子。
「魔女としての幻想は殺されたけど、魔法使いとしての能力は残っているし。おほほほほ」
勝ち誇った時の笑いをする紅子。
「なぁ、一弥サイドにいる魔女ってなんだ?」
「そうねぇ~、成仏できないマリアの亡霊かな」
マリア…二人共成仏出来ていないのか?
「実際のところはわからない。歴史書に書かれていないことだし」
そうだな。
「なぁ、どの位時を戻すんだ?」
「アイツらと関わる前までよ。快斗は、私の意思で落としたいのよ!」
コイツの執念もスゴイなぁ。
---佐藤一弥---
次の選択の時間が近づいてきた。この世界の『せんたく』をしないといけない。
「どうするんだ?次も俺達は出会うのか?」
「出会わない選択もありかな?出会うと事がでかくなりすぎる」
土御門が珍しくトーンダウンしている。別れの時間が近いからか?
「どんな選択をしたんだ?」
「これからするマジックの内容は話せない。だけど、お前達と敵対するのも良いかなって」
「ねぇねぇ、一弥の食事はもう食べられないの?」
涙目で俺に縋るインデックス。
「そうなるな。まぁ、出会い方にもよると思うけど。最悪、記憶のリミッタが外れれば、仲間集めをするから、そのときまでお預けだな」
「どんな身の上になるんだ?」
火織に訊かれた。
「天涯孤独もアリかな。復讐するのは世の中とか。目立たずに、目的を達成できると良いかな」
目的…この世界の均衡が保てるよう、一強独裁に走る国を滅ぼすことである。今回は、失敗である。俺達が目立った為、相手が強大になりすぎたようだ。ここまでデカくなると、下々の者にいらぬ苦痛を与えかねない。それは避けたいのだ。
「まぁ、次回は、もっとエロいことをたくさんしたいなぁ」
「え?散々したのにか?まだ、足りぬのか?」
火織が呆れている。
「インデックスとかミサカの歌声を聞いていないし」
「お前は次回はロリ好きなのか…」
土御門が呆れているようだ。まぁ、色々な人生があっても良いと思う。可能性は無限であるのだから。
「始まったようだな」
小泉紅子のイリュージョンが始まった。空気が揺らめいている。
「じゃ、俺達も始めようか…」
頷く仲間達…
◇
小泉紅子の時間逆行術に相乗りし、彼女の想定よりもはるか昔まで時間を遡らせた。
---宗方一弥---
留学先に届いた弟の変死体発見の一報。俺は、留学先の校長に事情を説明し、休学扱いで帰国をした。妹が心細く待っている、あの国へ…
弟は真面目で勉強好きの秀才タイプである。俺は、どっちかと言うと、興味のあることしか探求しない学者タイプだと言われたことがある。妹は、どうだろうか。自由奔放に生きるタイプかな。
俺達三人は三つ子である。もしかすると妹だけ、貰いっ子の可能性も否定は出来無いけど。いや、もしかすると俺が貰いっ子なのかもしれない。三人とも顔は似ていないし。
父は宗方当麻というイリュージョニストで、母は宗方仄というマジシャンであった。そんな家庭だったので、幼いときの俺達は、俺は手品に、弟の菊次郎は化学に、妹の琴美は変装術に興味を持ち、その筋のお勉強をしていた。
小学校に上がる頃、俺は祖父の知り合いが、校長をする学校に、潜在能力をスカウトされ、留学をした。それ以来、俺は帰国していなかった。いや、父、母の葬儀の時に一時帰国をしたかな?記憶は定かでは無い。
◇
成田空港に着いた。問題は、琴美の顔を知らないことだ。どうするかな…
「お兄ちゃん!」
俺に抱きつく、かわいい女性。琴美がこんなにかわいい訳が無い。
「どなた?」
「妹の変装が分からないの?」
分かるわけが無い。レパートリーを知らないし。
「私よ!琴美だよ」
「こんなに可愛かったっけ?う~ん、なんか俺は損をしていたような」
「損?実の兄とは寝ないよ」
あれ?義妹って設定では無いのか?ちょっと残念だ。
「それよりも、早く来て。兄さんの通夜に間に合わないよ~」
それはマズイ事態だな。
◇
通夜は葬儀場で行われた。自宅は現場検証中らしい。弟の死因は大量出血死だそうだ。琴美が帰宅すると、玄関が血の海になっており、そこで死んでいたそうだ。鋭利な刃物で腹部をやられたそうだ。誰にやられたんだ?
弟の遺体は、検死を経て、きれいに整えて棺に入れてくれた。
「兄さんが寝ているようでしょ?でも叩いても起き無いんだよ…もう…うぅっぅぅ~」
俺に抱きつき、泣きすがる琴美。ここまで一人で、気丈に耐えていたのかもしれない。俺は琴美を優しく抱きしめた。もう、家族と呼べるのは俺と琴美だけであるからな。
通夜には、警察関係者、近所の人以外、来なかった。弟のクラスメイトはどうしたんだ?担任は?アイツ、まさかクラス内虐めに遭っていたのか?疑念が脳内を駆け巡る。
「兄さんには、友達がいなかったんだよ、きっと…」
琴美に対して、参考書が友達で、試験が敵だと、常々言っていたそうだ。アイツはバカか?勉強好きの考えることは分からない。俺は、そんなに好きでは無いから…
◇
現場検証も終わり、規制線が無くなり、ようやく帰宅出来た。弟の部屋の物は総て押収されたのか、ほぼ何も残っていない。俺は俺の部屋へ向かった。俺の部屋は手品用品であふれていた。留学先で買ったネタやギミックの入った箱が積まれている。将来の為に買い漁った物である。総て、自宅へと配送して貰っていたのだ。
机に座り、机上にある写真立てに視線を移した。祖父、両親に俺達、それに両親の知り合いが一緒に写っていた。
ふと、引き出しに手を掛けた俺。あれ?カギが掛かっている。どうしてだ?この家の中でカギは不要である。カギが無くても有っても同じだからだ。全員、ピッキングのスキルを持っている。脱出マジックの基本であるからだ。
ピッキングをして引き出しのカギを解除した。そこには弟の日記と、ボイスレコーダーが入っていた。
弟の日記を読んでいく。俺に読んで欲しくて、警察には見られたく無くて、ここに入れたのだろう。
『兄さんが留学先で賞を受賞したそうだ。僕も全国模試の総合1位が取れたようだ。運が向いてきたので、明日、想い人に告白をしてみようと思う。兄さんに実況出来る様に、告白を記録しておくね』
う~ん。恋愛は運では無く、相性だと思うんだけど…雑誌とか漫画や小説を読まないアイツには、分からないのかもしれないなぁ。
『ダメだった。告白したのだが、取り巻きヤツに言われた。「彼女には旦那がもういるのよ。あなた、どこのクラス?そんなことも知らないの?」って…高校入学以来、ずっと同じクラスなのに…いつ、結婚したんだ、彼女は…俺の目は節穴なのか?生きていても無駄なのか…』
アイツ、自殺を他殺に偽装したのか?初めての敗北かな?挫折感からの自殺か…賛同は出来無いなぁ。好きな子が出来ただけでも幸せだと思うんだけどな。俺なんか、小学校入学以来、友達も好きな子も出来無かった。趣味で通い出したマジックスクールで一人二人できた程度だし。
次に、ボイスレコーダーを訊いた。
「これから言ってきます」
緊張しているような弟の声。
「毛利蘭さん、付き合ってください」
弟の声が震えている。相手の女性は毛利蘭って言うのか。
「あんた!何を言っているの?蘭には、もう旦那がいるのよ!」
これが取り巻きの男?いや、女のようだな、毛利蘭の親友か?
「アンタ、どこのクラス?そんなことも知らないって、お前の目は節穴か!蘭、行くよ」
「ごめんなさいね。あぁ、園子、待ってよ~!」
取り巻きの女は園子って言うのか。これは、きついな…死ぬ程では無いけど…クラスメイトにこれは無いだろうに。って、いうか、学生結婚アリなのか?弟の高校って…相手の男に興味があるなぁ。
◇
翌日から興味のあることを調べようと思ったのだが、留学先であるホグワーツのダンブルドア校長が手を回し、俺の転校先を勝手に決めていたのだ。国立魔法大学付属第一高等学校って、これって、どこにあるんだ?ネット検索をすると、八王子にあると出た。ここは江古田であるんだが…片道電車だけで1時間も掛かるのか…遠い…遠すぎる。
「お兄ちゃん、ここから通うよね?私を一人にしないよね?」
琴美が泣き縋って来た。う~ん、どうするよ、これ…通うしか無いのか…
翌日、初登校をした。制服や教材を買わないとダメのようだし。荷物を入れる為のバックパックを背負い、バイクで学校へと向かった。学校には遠いのでバイクで通う旨を伝えてある。雨の日とか雪の日はどうしようかな?
私服で教員室へ向かうと、早速制服を支給された。国立高校なので、制服も教材も支給されるらしい。それは、ラッキーーなのか?通学の為のガソリン代が馬鹿にならないんだが…
俺のクラスは1年E組だと言う。担任と共に教室へ向かい、自己紹介しろと言われ…
「イリュージョニストを目指している宗方一弥です。よろしくお願いします」
と、どこにも間違いの無い紹介をしてのだが、目の前のクラスメイト達が唖然としていた。あれ?なんか、やらかしたか?
「なぁ、マジック違いじゃ無いのか?」
後ろの方に座っている赤毛の女子に言われた。マジック違い?はて?
「この高校のことを知らずに入ったのか?」
その隣の男子に言われた。
「ホグワーツのダンブルドア校長が手続きをしたから、俺はこの学校のことは、場所しか知らないんだよ」
正直に答える俺。ざわめく目の前のクラスメイト達。
「ホグワーツって、あのホグワーツか?」
「そんなにあるの?あそこの正式名称は…なんだっけ?あぁ、ホグワーツ魔法魔術学校だよ」
一人を除いて絶句しているクラスメイト達。一人だけ目つきの悪い男子が、俺にガン見していた。なので、強制転移術で排除した。かよわい俺ではケンカは得策では無いから。
「おい!達也君をどうしたんだよ~!」
赤毛の女子が絶叫している。彼氏なのか?
「視線が怖かったので、排除しました」
「どこへ?」
「警視庁の捜査一課の部屋…」
「はぁい?」
なんか、クラスメイト達の俺を見る目が変わった気がする。まぁ、いいか。
◇
あの後、先生に怒られた。校内での強制転移術の使用を禁止された。なんでよ~。殴られたら、痛いじゃないか。
私服に着替えて、制服と教材は、学校の俺専用のロッカーに入れて、帰路に着いた。あの男が戻ってきて、因縁を付けられると困るから、急いでだ。あの赤毛の隣にいた男子は、デカい体格であり、素手でのケンカになると、勝て無い気がするし。
青梅街道は混むので、裏道を走る。立川辺りで、近未来都市のような場所に迷い込んだ。ここはどこだ?行き先表示板を探しながら走っていると、中学生らしき少女を見かけた。
「なぁ、ここはどこだ?」
「知らないで入って来たの?ここは学園都市だよ」
「江古田に帰りたいのだけど、どう行けばいいんだ?」
「どこかのゲートを出れば、大丈夫だよ」
親切に、ゲートの位置を教えてくれた。
「サンキュウ!俺は宗方一弥だ」
「私は御坂美琴だよ」
どこかで訊いたような名前…思い出せない。まだ、その時では無いようだ。
「また、会ったら縁があるかもな」
「そうかも。じゃあね、迷子さん」
肩で風を切るように歩いている。格好いいな。都会の女子は…って、ゲートへと向かう。これ以上、何かに巻き込まれませんように祈りながら…しかし、ゲートを無事に出た後、背中に異変を感じた。何か柔らかいまんじゅうが2つ当たっている。バイクを止めて、確認すると、白いシスター服を着た少女が、後部シートにちょこんと乗っていた。いつ乗ったんだ?転移してきたのか?って、なんで、俺のバイクに?
「お前は誰だ?」
不審なシスターに声を掛けた。
「私はインデックス。ねぇ、一弥、お腹すいたよ~!」
何故か、俺の名前を知っていて、メシをたかろうとする不審なシスター。
「なんで、ここに乗っているんだ?」
「懐かしい気配を感じて…転移してきたんだよ。それよりも、私、追われているんだよ。追っ手が来そうだよ、早く逃げようよ」
って、一緒に逃亡する嵌めに…なんで?意味が分からない。
◇
追っ手を振り切って、自宅へ帰り着いた。
「何?学校で陸釣りしたの?」
琴美が呆れている。
「この女は誰?」
琴美をこの女呼ばわりのシスター。
「この子どうするの?まさか、誘拐じゃ無いわよね?!」
誘拐するなら、もっとかわいい大人の女性が希望だな。
「そんな度胸は無いよ。俺のバイクの後部シートに転移してきたんだよ。どこかで会ったかな?記憶に無いんだけど…」
まぁ、空き部屋は有るし、飼うのも悪くないか。
「一弥!お腹減ったよ~!」
迂闊にも餌付けをしてみたら。とんでも無いことに…おい!こいつの胃袋は悪魔か?なんだ、この食う量は。痩せた小学生みたいな体型で、お相撲さん並に食うシスター。胃袋のバケモノのようだ。琴美が呆れてみているし。
「お兄ちゃんの手料理は確かに美味しいけど、そんなに食べるって、ある意味すごいよね」
って…感心しているのか?
◇
翌朝、目覚めると、シスターが全裸で、俺に抱きついて寝ていた。全然、反応しない俺のアレ。幼女系はダメだな。起こさない様にベッドを抜け、キッチンに向かった。朝飯を作らないとダメだな。シスターの食欲により、食材がまるで無いし。どうするかな。学校の食堂から食材を奪うか。食材を脳裏にイメージして、『強奪』と念じると、テーブルにイメージした食材が並んでいる。これで、食いつなげるな。俺のチート能力は、生活に不可欠であるし。
調理が終わる頃、玄関の呼び鈴が鳴り、応対しに行った。そこには、俺好みの女性が立っていた。
「あの…私、五和と申します。こちらにインデックス様が、ご厄介になっていると思うのですが、私は一弥様の専属メイドになりに来ました。よろしくお願いします」
って、俺に深々と頭を下げてきた五和と名乗った少女。あのシスターは幸運のラッキーアイテムだったのか?
「俺の専属のメイド?」
「はい。シモのお世話は勿論、夜のお供もいたします」
頬赤らみ、恥ずかしそうにうつむく素振りに、うっとりする俺。玄関先ではなんなので、家の中に連れ込むと、
「お兄ちゃん!朝一で陸釣りって、あり得ないわ~」
って、琴美が呆れている。そんな琴美を見て、五和が説明をしだした。あのインデックスってシスターは、十字教団でも最も高位なシスターであるが、気に入った者を見つけると、テコでも動かない頑固者だそうだ。で、五和は十字教団から派遣され、あのシスターの迷惑を軽減する役目があるらしい。
「お兄ちゃんの専属メイドって…ずるい、こんなかわいい人を一人占めって…」
って、言われても…どうするかな。そんな悩む俺を尻目に、琴美はダサメイクをしている。悪い虫が寄りつかないように、ダサい少女に変装して、毎日通学しているそうだ。ムダに高い変装技術は、日々の鍛錬によるものらしい。
「牛乳瓶の底のような眼鏡って、あり得ないだろ?」
「問題ないよ。伊達眼鏡だし。あぁ、防弾効果はあるよ」
目玉だけ撃ち抜く殺し屋っているのか?
「サラシを巻いて、小さな着け胸って、どうなの?」
「これはちょっと失敗だよ。今更大きく出来無いのが難点で、徐々に大きくする作戦なの」
なんか、ムダな努力が方々に有りそうだけどなぁ。家事全般を五和がこなしてくれるらしいので、琴美の顔が少し明るい。十字教団からあの巨大胃袋対策費も出るようで、俺も少し明るくなれそうである。