---宗方一弥---
「ねぇ、週末、暇だよね~」
琴美が訊いて来た。コイツ、なんかやらかしたのか?
「新作のイリュージョンを作る予定なんだけど…」
「じゃ、ヒマだね。お友達の家でパーティーが開かれるんだ。そこで、お兄ちゃんのイリュージョンと料理の披露が、決定しているからね」
決定済みなのか?うん?俺の耳は幻聴を聞いた気分なんだが…
「俺のイリュージョンだけだよな?」
「うん?お兄ちゃんはバカになったかな?理解出来無いの?お兄ちゃんのイリュージョンと料理だよ」
満面の笑みを浮かべる琴美。
「どうして、俺の料理なんだ?」
「お兄ちゃんの料理はサイコーって自慢したんだよ」
満面の笑みを維持している琴美。
「なぁ、何のパーティーだ?」
「琴美のお兄ちゃんの帰国パーティーだよ」
コイツ、何を考えているんだ。
「私のお兄ちゃんを自慢しまくるパーティーだよ」
俺は自慢出来る兄では無いはずだ。手は汚れているし、精神だって…
「誰がなんと言おうと、お兄ちゃんは自慢出来るお兄ちゃんなんだよ」
コイツ、俺に泥酔しすぎていないか?
◇
週末、琴美を後部シートに乗せて、パーティー会場である、琴美の友人宅へ向かった。
「ここみたいだよ」
表札に『中森』とある。割と大きな家だな。
「で、琴美のボーイフレンドってどんなヤツ?」
「うん?青子ちゃんは女の子だけど…」
「百合なのか?」
「お友達だよ。勘違いしないでね、お兄ちゃん」
あぁ、単なる友達なのか。呼びリンを押すと、蘭に似た少女が出てきた。髪型と胸のボリュームが違うけど。
「あの~、どちら様ですか?」
琴美を知らないようだ。家を間違えたのでは?
「青子ちゃん。私だよ、コトミンだよ」
「え…」
なんか、戸惑っているけど…あぁ~!そういうことか。
「おい!琴美、お前、今日は休日モードだろ?」
はっとした琴美。たぶんこの子は、ダサ少女メイクをしていない素の琴美を知らないんだろう。
「青子ちゃん、洗面所を借ります」
家人の許可なく上がり込む琴美。まったく、ムダなメイクをして学校へ通うからだよ。
「あの~、どういうことですか?」
「あぁ、あれが素顔の琴美だよ。忘れてやってくれ」
ダサメイクの件を伝えると唖然としているし。
「悪い虫がつかないように、ダサい女の子を演じていたんですか?」
「まぁ、琴美が言うにはそういうことらしい。そうだ、これはプレゼントです」
空中からバラを一輪出して。青子へ手渡した。
「ネタを仕込む段階で、トゲは総て抜いてありますから、掴んでも大丈夫ですよ」
「あ…ありがとうございます」
瞳をキラキラさせて俺を見てくれた。そういう表情を見たいんだよ。イリュージョニストはね。
◇
キッチンの説明を聞き終えた頃、ダサメイクを終えた琴美が戻ってきた。
「コトミン、聞いたよ。なんてムダなことを…」
「ムダじゃないよ。変な虫が付いてからじゃ遅いんだよ」
ダサメイクで力説されてもなぁ。出来上がっている料理を次々にテーブルの上に置いていく。あらかじめ料理した物を、空間収納術でしまっておいたのだ。慣れないキッチンでは、火力などが違うし。
「えっ!もう、こんなに料理をしてくれたんですか?」
琴美との会話をして、振り向いた青子の目に、俺の料理達が映ったようだ。
「煮込み物は、少し時間がかかるけどな」
温め直しの時間は必要である。
「コトミンが自慢するだけのことはあるのね」
そうこうしていると、琴美と青子の友達が次々にやってきた。なぜか、知り合いがいるし。
「探!」
「えっ!一弥か?まさか、琴美さんのお兄さんて…」
留学先での自由時間に通った手品スクールで出会った俺と真純と探。そうか、全員帰国していたのか。
「真純には先週会ったよ」
「あの女流探偵も帰国しているのか?」
「こっちで探偵なのかは、知らないけどな」
「白馬君の知り合いなの?」
青子が訊いて来た。
「あぁ、ロンドン時代のボクのワトソンだよ」
「医者の卵?」
知らない女子に聞かれた。普通の人間では無い気配…魔法使いかな。ヒーラーの雰囲気では無いし。
「俺はイリュージョニストを目指しているんだ」
空中からバラを取り出し、一輪ずつ女子に配っていく。
「なんですって?」
魔法使いなら、今のタネはわかったはずだ。俺を見る目が変わった魔法少女。
「紅子ちゃん、すごいでしょ?私のお兄ちゃんは」
魔法少女の名前は紅子か。調教するのも悪く無いなぁ。
「じゃ、少しイリュージョンでもしましょうか?」
紅子の額に手を翳しつつ、『マリオネット・プレイ』を発動した。その状態で、後ろに押し倒し行く。頭が倒れると同時に足が上がっていく。床と、頭と足のラインが平行になると、空中浮遊が完成した。
「上下、左右、前後をチェックしてみてください」
紅子の身体を、みんなのへそ辺りまで上昇させて、チェックしやすいようにした。
「ワイヤー、台や棒で支えていないことをチェックしてみてください。探ならトリックがわかるかな?」
「ふふふ、僕には一弥のネタは解けない。それだけの完成度だよ、君のイリュージョンはいつもね」
俺のファンである探。コイツの前ではハンパなイリュージョンはしたくないし。
「青子、何か食い物は無いか?って、空中浮遊か?」
遅れて来た男が、チェックをし出した。コイツは手品師か?
「青子、アイツは誰だ?」
「隣に住んでいる幼なじみの黒羽快斗です」
黒羽?まさか…
「黒羽盗一の息子か?」
「そうですよ」
なるほど…ねぇ。少し面影はある気がする。
「えっ?タネが分からない」
頭をかしげる快斗。
「じゃ、彼女を解放してあげるかな」
紅子の横に立ち、つま先を床方向へ動かし、直立不動な状態にし、首筋に細工をした後、意識を戻してあげた。
「あれ?」
「あれって、お前がしたのか?」
「そうだよ、快斗君。君にトリックは分かったかな?」
「う~ん…」
手品師の前で手品をするのは楽しい。
「では、カードマジックでもしますか。青子、トランプある?」
「普通のだけど、いいの?」
「普通のヤツがいいんだよ。ネタの仕込むヒマの無いカードがね」
探にカードをシャッフルしてもらい、青子にその束を持ってもらった。
「一番上のカードをタップすると、ハートのエースが出ます」
一番上のカードをタップし、青子にめくってもらうと…
「スゴイ、ハートのエースだよ」
「じゃ、好きな場所に入れて。入れた直後にタップすると…」
何度やっっても、ハートのエースは一番上に来るのだ。
「ちょっと待て、俺にやらせろ!」
黒羽快斗が乗り出た。何かやらかすようだ。ハートのエースを手に取り、山に戻す振りをして、ポケットにしまっている。俺がタップすると、ジョーカーが一番上から出てきた。
「ふっ!失敗だな」
「あれ?ジョーカーは除いて渡したんだけど…」
驚きの声を上げた青子。カードケースを開けると、中からハートのエースが出てきた。
「そんなはずは…」
快斗のポケットからは、紅子のパンティーが…お約束だと思う。紅子に頬を叩かれた快斗。ズルにはズルで対抗しますからね。そのことが引き金になり、パーティーはお開きになり、琴美を後部シートに載せて、帰宅だな。疲れた…
---小泉紅子---
琴美の兄も魔法使いのようだ。それも私よりも上位の魔法使いのようである。あの時、何かをされた気がする。急いで家に戻り、自分の部屋へ戻った。背筋に冷たい物が流れている。それはお尻の沢を駆け上がり、洞窟に向かって流れ込んでいる気がする。服を脱ぎ、姿見で確認をした。鏡に映った姿を見て固まる。何…これは…全身の皮膚に触手らしき物がプリントされていた。その触手は皮膚の上を蠢いている。乳首を舐めまわしているのが居る。その刺激を感じる私の身体。濡れていく下腹部、その湿り気に集まる触手達。一部は体内に侵入しているようだ。
「どうだい?『這い虫』の感触はさぁ」
這い虫…皮膚の外皮と内皮の間に虫をいれる魔術である。絶対に駆除は出来無い。皮膚をまるごと剥がさないとダメだと訊いたことがある、憎悪系の魔術だ。
「言う事を聞けば、助けてやるぞ」
声は這い虫のどれかが発しているようだ。乳房に手が現れ揉み始めた。気持ちいい…意識が飛びそうだ。口元からヨダレが零れ落ちていく。立っているのがつらい。
「どれ、初めてかな?」
「やめてください…」
身体の底にある2つの穴から串刺しにされた感覚ある。足の裏は床に着いていず、空中をブラブラしているだけの両脚。
「あぁぁぁぁぁ~」
乳首から亀頭が二つ現れた。体内を貫かれたようだ。これは幻覚だろうか?いや、幻覚であって欲しい。亀頭のような乳首から白い液体がこぼれて行く。2筋の支流は1本の本流となり、身体の中心にある裂け目に向かっていく。
ダメ…そこには入らないで…心の中で絶叫をした。声が出ないのだ。裂け目に轟音を立てて流れ落ちる本流…そんなイメージが脳裏に流れている。
「逆らえば、正夢にしてやる。我が名はナイトメアだよ。ふふふふ」
---宗方一弥---
翌日、青子に呼びされた。昨日のお礼をしたいって。お礼って言われても…特に何にもしていないし。待ち合わせの場所に向かうと、知った顔が数名いるのは何故?
「一緒に美術館でもどうかなって…」
もじもじしている青子。そそる表情であるが、まだお子ちゃまだしなぁ。
「いいけど、なんか物々しくないか?」
「怪盗キッドから予告状が届いたみたいなのよ」
怪盗キッド…この国を荒らし回る和製アルセーヌ・ルパンらしい。
「だから、探偵もどきが多いのか?」
探がいる。真純もいる。何故か、蘭と園子がいるし、あの少年もいる。
「お父さん、お弁当よ」
「おぉ、いつも悪いな青子。うん?新しいボーイフレンドか?」
青子のオヤジは警備員か?
「そうじゃないよ。友達のコトミンのお兄さんだよ」
「ふ~ん…」
「中森警部!」
「おぉ~、今行く!」
警部?青子のオヤジは警察官なのか。
「ここの館長の鈴木次郎吉って人は、いつも怪盗キッド挑発しているんだよ」
鈴木?園子の関係者なのか。
「お~い!探!」
「あぁ、一弥。うん?青子ちゃんとデートか?」
「この警戒はなんだ?デートも何も無い気がするんだけど」
物々しい為、デート気分では無い。
「今夜8時にここで展示している宝石を盗むって、予告してきたんだよ」
探が写真を見せてくれた。大きなエメラルドのようだ。う~ん、これ宝石では無く魔石じゃ無いかな?
「なぁ、これ、宝石じゃ無いんだけど…」
「そうなのか?これは、なんだい?」
「詳しく鑑定しないとわからないけど、魔石の一種だと思う」
魔石は魔法を秘めた石である。魔石にもいろいろな種類があるので、どういった物かは、鑑定してみないと確定は出来無い。
「わかった。鑑定出来る様に、手を回してみるよ」
探が、蘭達の方へ走っていった。
◇
目の前にあの石がある。鑑定ルームには俺の他、探と、鈴木次郎吉、なぜか園子と蘭と真純に、あの少年と、青子、青子のオヤジ、知らない刑事が数名いる。
俺の身元保証は探がしてくれた。後、スコットランヤードとMI6が、国際警察機構を通して保証してくれたそうだ。身分的には、非科学的な物に関する調査員って言う、胡散臭い身分であるけど。
手袋をして鑑定をする俺。光に翳すと、内部で何かが蠢いていた。魔石は確定であるが、何の魔石だ?封印系の気もするけど…
「どうじゃ?」
次郎吉に訊かれた。
「魔石は確定です。この光を通すと、中で蠢いているでしょ?」
ろうそくの光など低温の光源に翳すと、よく分かる。高温だと、防御の為に固まる場合が多いからな。
「確かに、何かが息づいているな」
「この手の石に封じ込まれているのは、良くない物か、敵対していた者で、まぁ、あれですよ」
「あれかぁ…どう処分すれば良いのじゃ?」
「一番確実なのは、出てきた処を倒すのが確実だけど、被害は想定出来ません」
何が出るかわからないので、想定出来無い分、被害は甚大になる。
「そうだ!これって、どこで見つかったんですか?」
「いや~、オークションで巡り巡ってだからな、わからんのだ」
そういうやつって、ニセモノか、マジ本物の2択だよな。まぁ、これ後者だけど…
「粉砕していいなら、今対処しますけど」
「粉砕か?う~ん…」
「粉砕の方が、残留物は多く確保出来ると思います」
生まれる時は、内部の物質を取り込む為、残留物は少なくなるのだよ。
「わかった。粉砕してくれ」
「探と真純と次郎吉は残って、後は出て言ってくれ!探は方角を確定してくれ。真純は次郎吉を護れ!何が出るかわからないから」
「わかった」
「まかせろ」
だけど、あの少年が出て行かなかった。椅子の影に隠れている。しょうが無いなぁ…
「真純、蘭だけを入れろ、あのガキが出て行かない」
「えっ!コナン君か?わかった。蘭ちゃんだけ、入って、コナン君が出ていかないんだよ」
「えっ!コナン君がぁ!」
蘭が入った来てので、ドアに封印をしていく。
「次郎吉、外部と繋がるのはドアと、あの通風口だけか?」
「後は、そうじゃなぁ。電灯線とセキュリティーの為のコントロールラインの類いじゃな」
そうか、現代だと、そういう穴もあるのか。面倒だな…
「次郎吉、別の場所で処分していいか?」
「それはダメじゃ。ここで頼む」
床に魔方陣を描き、中心に魔石を置いた。うん?
「どうしたんだ、一弥」
俺の様子で探が気づいた。
「本人とは違うヤツが2名、ここにいるんだけど…一人は、アイツで、もう一人が問題なんだよ。石をすり替えたようだ」
魔石が模造品に変わっていた。もう時間は無いのに、欲の皮の厚いやつがいるようだ。
「なんだって…誰に化けたんだ、怪盗キッドよ!」
探が蘭、園子、真純、コナン。次郎吉を見回す。
「言っておくけど、あれが生まれたら、被害は覚悟しろよ」
脅してくが、動じないようだ。波動を強く感じ始めた。産まれ出るなぁ。人肌に触れて、促進したようだ。
ドーン!
空気が大きく震えた。その瞬間、『強奪』『強制転移』を連続して発動した。これで、被害は最小のはずだ。
「何が起こったんだ?」
探が震えて床に蹲っている。生まれる瞬間に恐怖をバラ蒔いたようだ。大丈夫だったのは蘭と俺だけのようだ。
「生まれたんだよ。今、石を強奪したヤツのポケットは液体塗れで、気持ち悪いと思うよ」
「ソレは誰だ?」
探の問い掛けをスルーして、
「蘭、真純、その女を確保しろ!」
「えっ!」
恐怖が抜けない真純は、生まれたての子鹿のように、立てないでいた。蘭が、園子を制圧した。
---江戸川コナン---
蘭が怪盗キッドを捕まえた。だけど、この部屋から出て直ぐに、脱走していった。この部屋は、キッドの運動能力を制限していたようだ。なのにアイツと蘭は何故か普通に動けていた。どうしてだ?
「で、中身はどうだったんじゃ?」
次郎吉じいさんが訊いた。
「確認する間も無く、封印したんで、まだ確認していません。あぁ、これが、残留物です。中身の物資は、生まれるタメに消費されて、残っていません。一番の外側はエメラルドで間違いは無いと思いますが、鑑定はしてください」
残留物を次郎吉じいさんに手わたしたアイツ。
「探、悪いけど報告書は頼めるか?」
「あぁ、まかせろ。書類仕事は俺の分野だ。悪いな、デート中に」
「あっ!そうだ!青子!」
デート相手を探しに行ったアイツ。おいおい…一方、蘭は、唖然としていた。なんでだ?
「蘭姉ちゃん…」
「お願い…来ないで!コナン君…」
悲しそうな顔の蘭。何が起きたんだ?
「どうして?」
「私の身体は…彼の加護で護られているの…それがどういう意味か、わかったのよ」
涙をこぼしている蘭。アイツの加護だと?アイツの加護で、あの異常な空間で、アイツを除いて蘭だけが、正常な動作が可能だったのか?
「蘭ねえちゃん…」
蘭の肩にふれると、ビクッと反応した蘭。
「触らないで…迂闊に触らないで…」
俺が触ることで蘭に何かが起きたようだ。何が…
「もう。戻れないの…あの日には…」
どういう意味だよ…
---黒羽快斗---
あの一弥って野郎は、何者なんだ?魔石だと…確かにいきなり炸裂して、何かが出て行ったようだ。急に軽くなったし。その後のあれは何だ?急に恐怖を感じて…パニックに陥るとは。
中に入っていた液体は、分析の結果、不明だった。年代測定も不可なくらい古い液体のようだけど。魔石について調べる必要がありそうだな。
うん?窓の外を見ると、青子と一弥が寄り添って帰宅してきた。どういう関係だ?聞き耳を立てて会話を聞き取る。
「今日は悪かったな」
「いえ。ありがとうございます。お父さんに花をもたしてくれて」
「でも、結果的に取り逃がしてしまったし」
「いいんです。一弥さんは探偵でも警察でも無いんですから」
なんか、良い雰囲気の二人。俺のおかげだろうに…
『なるほど…親子二代で…ふふふ』
脳裏に誰かの声が響いた。部屋の中を見回すが、誰もいない。誰だ?!