---宗方一弥---
東に見えるうっそうとした木々を見ている。
「琴美、あれは何だと思う?」
「木立?」
ここに移り住んでから、気になっていたスポットである。森の崖の隣に有るうっそうとした木々のあるエリア。石組の柵で四方が取り囲まれているように見え、柵の内側には侵入者を拒むように、棘のある木々がうっそうと生えている。木々の合間から見える、中央部分には、何かの石碑が建立されているように見えるのだが。
「入り口は、どこだと思う?」
「上しか無い気がするけど…」
「ワナが有りそうだよな?」
「もれなく有ると思うよ」
だよな。う~ん…
「これか?問題のエリアは」
古地図の束を抱えて、土御門がやってきた。今日は、ここの調査である。
「古地図によると…坂本龍馬の石碑で、『世界を洗濯するぜよ』と彫られているそうだ」
『せんたく』するのか…世界を選択か…まさかなぁ…
「ここって、土佐藩の土地か?」
「違うな。土佐藩は、もっと南にあったようだけど…そもそも、ここが城だったのは、江戸時代より前だぜ」
なんで、坂本龍馬は、あんな物を建立…いや、誰が建立したんだ?龍馬が建立したとは思えない。もしかして、龍馬はここから、異世界を選択したのか?
「龍馬の知り合いに、金持ちっていたか?」
「石崎弥太郎だにゃ。四菱財閥の創始者だ」
「この辺に四菱財閥の土地ってあったか?」
「あぁ、ここから5分ほどの処に、保養所があったはずだ」
そうなると…可能性はある。
「琴美、シスターズに確認してくれ。あの地下まで掘られているのか」
「わかった」
◇
目の前に石碑がある。文言が古地図に出ていた物と違うんだけど…
『龍馬 世界を選択せよ』
龍馬はここで世界を選択したのか?誰が建立して、龍馬に託したんだ?
ここの地下は掘られていなかった。石組みにの壁で覆われていたそうだ。その上、壁は岩盤よりも下に伸びているらしい。誰が建立したんだ?岩盤を掘る道具って、大昔にあったのか?謎が多い場所である。
ここには、座標指定タイプの転移術で侵入した。周囲を結界で囲まれており、結界を破壊すると、ここのギミック自体をも破壊しかねないと、インデックスが読み解いた為である。
石碑の裏面には、古代ヘブライ語で文字が刻まれていた。
『神器の順番を答えよ』
とある。神器に順番なんか、あったか?
『無いと思う』
って、インデックスが即答してきた。結界の為か、磁場の影響か、スマホで連絡が取れなかった。なので、精神間での会話、念話で会話している。
順番って、限られた数のセット物かな?
『神器にセット物って無いよ』
無いよな。うん?いや、この国にはある。セット物の神器が…三種の神器と呼ばれている物である。八咫鏡・八尺瓊勾玉・天叢雲剣の3品である。だけど、順番って、無いよな?
『ねぇよ』
土御門が即答である。さすが、腐っても陰陽師であるなぁ。順番のある神器なぁ…ふと、琴美が目に入った。まさか…あれか?
石に刻まれた数字を順番通りに押して見た。次の瞬間、俺と琴美は別の場所にいた。周囲に小さな祠がいくつも円周上に並んでいる。上を見ると、随分と天井が高い。あの石碑の下ってことか?
『何が起こったんだよ?一弥とワーストの気配が消えたんだけど』
少しパニック気味のインデックス。
『入れたよ。周囲に祠がたくさんあるよ。転移の祠っぽいなぁ』
祠を調べて見る。中に入ると、転移しちゃいそうなので、周囲を見ていく。特に特徴は無い。出た所勝負なのか?転移した後、どうすれば帰還出来るんだ?ふと、視線を足下に向けた。う~ん、こんな場所に説明書が…
『帰還する場合、「石の記憶」と、唱えよ』
と、だけある。シンプル過ぎる説明書だな。石の記憶?あの石碑の記憶なのか?
『石の記憶』と唱えてみた。すると、あの石碑の前に転移していた。
『次回からは、「石の記憶」と唱えれば、入れるぜよ』
と、脳裏に響く声。この声って、誰だ?
◇
古文書の類いを片っ端から読んだが、あのギミックの正体がわからない。
「で、神器の順番って、なんだったんだ?」
土御門に訊かれた。
「あぁ、あれは132だ」
「132って、どういう順番だ?って、何の神器だ?」
「宗方家の者にしかわからないことだよ。宗方家には『斧』『琴』『菊』の3つが1組の神器とされているんだよ。続けて読むと『よきこときく』で、『良き事を聴く』になるのさぁ」
「で、それに順番ってあるのか」
「それ自体に順番は無いよ。だけど、名前に置き換えると、琴3、菊2郎になる。そこに石崎弥太郎って名前がキーになってくるんだよ。俺の名前は神器から取られた訳で無いからね」
「石崎弥太郎が、どう関係するんだ?」
「石の先の弥太郎だよ。一番前が弥太郎。太郎は長男の名前だろ?だから、弥1郎って考えられる。斧は『よき』だから『良』だろ?音読みは『りょう』だ。で、もし弥太郎が龍馬だったら、弥太郎は『りょう』になるって、仮説を立てて、組み合わせると132ってことだ」
「なるほど…だけど、そうなると、あのメッセージはお前宛って事になるんだが」
「なるよね~。そこが問題だよ。誰が、俺に宛てたギミックなのかだ」
いや、答えは出ている。弥一の逆が一弥である。それは、俺は弥太郎の影ってことだ。たぶん、暗殺された龍馬は俺で、本当の龍馬は弥太郎なんだろう。
弥太郎は異世界貿易で巨万の富を得たのかもしれない。そうなると、歳、背、格好の似た俺を、どこかの異世界からスカウトでもしたのだろう。
「考え過ぎだよ。一弥は一弥だよ。ねぇ、お腹すいたよ~」
巨大胃袋にご指名された俺。あぁ、厨房という戦場へ向かわないと…
◇
異世界へ向かう準備をする。美和子の記憶を、あの事件以前までにして、高木刑事に引き渡した。事情は目暮警部へは話しておく。戻れない危険があるのだ。美和子を置いたままで、旅立て無い。ベルツリー探偵社は、俺が戻るまで探と江戸川コナンに運営を任せた。この二人が組めば無敵なはずだ。
同行者は、琴美と深雪とラフタリアである。五和も欲しいところだが、巨大胃袋対策で、置いて行く。
「連絡は、ミサカネットワークを介して、行えば大丈夫なはず」
インデックスが自信なさげに言う。まぁ、初めの旅で、巨大胃袋との連絡手段を探さないと、危険が一杯だな。
「連絡が取れれば、インデックスと土御門の知識を頼る。謎があれば、コナン、探に任せる」
「あぁ、任せろよ。だけど、ぜっていに、戻って来いよ!」
コナンの目は真剣である。
「当たり前だろ。工藤新一のフォローをしないとダメだしなぁ」
「あぁ…頼むぜ」
「頼まれた。留守中、蘭をおかしくするなよ」
「努力はする」
「探、警視庁の方のフォローを頼むぞ」
「美和子さんだね。わかった」
これで連絡事項は終わりかな?
「なぁ、ボクには一言無いのか?」
真純が訊いて来た。
「コナンを困らせるなよ」
こいつ、子供姿の工藤新一が好きな気がする。
「そんなことはしないよ。ボクは一弥一筋だよ」
はいはい。英国では探に首ったけだったのになぁ。
「じゃ、行こうか」
4人で石碑の前へ転移した。
◇
ラフタリアに祠の選択を任せ、祠の中へ入ると、景色が歪んでいき、知らない場所に転移した。念話でインデックスへ連絡をしてみるが、ダメなようだ。琴美を介しての連絡もダメなようだし。まぁ、異世界って、こんな物なんだろうな。
ラフタリアが何かに反応して、走って行く。それを追いかける俺達。
「ごしゅじんさまぁ~!」
幼女が盾を持つ男性に声を掛けた。だけど、幼女が魔石に取り込まれていく。
「フィーロ!クソっ!ここまでか…」
「尚史は私が護る!」
もう一人の幼女が、水系の魔法を唱えるが、敵に効果は無い。
「盾の悪魔よ!これでおしまいだな!」
「尚史様!」
その悪魔に、ラフタリアが声を掛けた。
「何?ラフタリアだと…」
「強い味方を連れて参りました」
俺達のことか?
「盾の悪魔を助ける者に明日は無い!三勇教の力を味わえ!」
へ?宗教戦争なのか?なんか、デカイ火の玉が落ちて来たんですが…俺が触れると消え去った。
「何?神の裁きが消えただと?」
術者である司祭が狼狽えている。その時に生じた隙のせいで、琴美の能力により、始末された。額部分に5寸釘が刺さっているし。後方に控えていた大量の信者らしき者たちは、深雪の能力により精神を凍らせられ、失神しているようだ。
「尚史様…」
「ラフタリア…」
抱き合う男と幼女。親子にしか見えないなのだが、きっと感動的なシーンなんだろう。
「あんた、何者?」
青毛の幼女に訊かれた。
「なぁ、クレープの木を探しているんだけど、ロックバレーって、どこ?」
「はぁ?そんな場所無いわよ」
無い?あれ?まさか、飛び込んだ時間が早すぎたのか。う~ん、悩む俺。苦笑いする深雪、含み笑いする琴美。どうするかな?
「で、あんた達は何者?」
「お前、頭悪いのか?クレープの木を探している探検者だよ」
「ご主人様、フィーロを助けてもらえますか?」
ラフタリアが俺に縋り付いて来た。あぁ、さっきの魔石か?『強奪』で引き寄せ、魔石という牢獄の幻影を消し去った。すると金髪の幼女が現れた。
「ごしゅいんさまぁ~」
金髪の幼女も男に縋りついている。なんか、報われない俺。まぁ、いいか。幼女では出来無いし…
「じゃ、ラフテリア。元気でな。『石の記憶』」
颯爽と別れた俺達とラフテリア。別れって、つらいから。だけど…祠の間に戻れていない俺達。あれ?
「お兄ちゃん、あれから時間がだいぶ経った世界だよ」
って、琴美。石の記憶は、俺をクレープの木へと導いてくれたのか?街へ行き、地図を買う。お金は道中に倒した魔物を売って稼いだ。
「おぉ、ロックバレーみっけ!って、谷なんか無いじゃん。これって、海辺の街だよな?」
「そうですね。あら、不思議…」
深雪も不思議がる地名の由来。なんだっけ。知っていたはずなんだが…時が経ち、経年劣化した記憶の為、忘れたようだ。
◇
ロックバレーに着くと、クレープの木があった。結構、デカイなぁ。どうやって盗むか?ロックバレーでは、クレープの木で収穫されたクレープが売られていた。人数分買って、まず試食。う~ん、旨い。
「上品な味ですね」
「何個でも食えそうだよ、お兄ちゃん」
値段が結構良い値段なので、3個目で琴美にストップを掛けた。さて、どうやって、盗むかな?そんなことを考えていると、背後から、不意を突かれて、抱きつかれた。この俺が、相手の気配をまるで感じなかった。警戒心の強い琴美ですら気づかなかったようだ。
「ご主人様ですよね?私です。ラフタリアです」
背中に当たる物は、気持ち良い感触である。あれから、どの位経ったんだ?
「ご主人様の為に、クレープの木の苗を取り置きしてありますよ」
耳元に吹きかけられる彼女の息吹、背筋に何かが走った感じである。彼女から漂う甘い香り…悪く無い。
「ラフタリアは、良い人が見つかったのか?」
「私は…ご主人様の下僕ですよ。今迄、尚史様に預けられていただけです。もう、置いて行かないでください。大人の行為だって出来ると思います。だから…」
恥じらいながらの言葉…そそるんですけど。さて、どうするかな?琴美に視線を移すと、
「お兄ちゃん、連れ帰ろうよ。私が気配を読めないって、たくさん鍛錬をしたんだと思うし」
琴美が珍しく、女性の側にいる。大抵、嫉妬心から、いびるかスルーするんだけど。彼女の努力を買い、彼女のスキルを買ったのだろう。
「私もそう思います」
深雪も同意のようだ。
「ラフタリア、お前の本来の主はアイツだろ?」
女性に囲まれている男性を指差した俺。
「いえ、尚史様はハーレムをお持ちです。私がいなくても問題は無いですよ」
って、俺の頬に自分の頬を重ねるラフタリア。長い年月の隙間を埋めるように、俺にマーキングしているようにも見える。ハーレムか…絶倫なのか。いいなぁ。まぁ、クレープの木が手に入ったし、良いか。
「わかった。クレープの木とセットで持ち帰る」
「はい」
嬉しそうなラフタリアの足下には、何かの苗木があった。
「これがそうなのか?」
「えぇ、移植後3日くらいから、収穫が出来ますよ」
それは楽しみだ。俺達は、自分の世界へと転移した。果たして、どのくらいの時間をロストしたかが、問題であるが…シワシワの蘭や青子は見たく無いなぁ。
◇
移植して3日目、クレープが1つ収穫出来た。それを、インデックス、ミサカ、美琴、琴美で試食をした。
「う~ん、まだまだだなぁ~」
親木のクレープを食べた琴美。
「いや、十分に美味しいよ」
素直な感想の美琴。インデックス、ミサカの巨大胃袋ペアは、静かに味わっていたので、奥深い旨さだったのかもしれない。異世界から戻って来ての懸案事項だったロスタイムは1日だった。たぶん、あの大量な祠を総て回れってことの恩恵な気がするのだが。
「次はどの異世界狙いだ?」
土御門に訊かれた。
「入って見ないと分からないよ。道標になる人物がいないと、どこへ転移するかわからない」
今回はラフタリアがいたから、無事にクレープの木に逢えたのだと思う。
「だけど、謎が1つ増えた。あれがゲートならば、異世界からの魔石は、アソコに山積みしていないとおかしい」
あの祠の間には魔石は1つも無かった。本来の出口は、違う場所にあるような気がする。
「なるほど…言われて見れば、そうだな」
魔石の算出場所の特定が先かな?