新しい生活の始まり
---山内 一弥---
『YX MO 1412』
そんな文字列が脳裏に浮かんだ。はて?封印されていた記憶が脳内へのアップロ
ードがされていく。
「お兄ちゃん、朝だよ」
義妹の起床の合図と共に、腹に衝撃が…義妹のやつ、フライング・ボディープ
レスをかましたようだ。
スパッツにTシャツで、ノーパンノーブラで接する義妹の茜。スタイルは良
い。なので、こいつを抱き枕にして、二度寝に移行する俺。うなじの香りを嗅
ぎながら、もう一眠り…狸眠りをして記憶を整理していく。
俺は山内一弥。捨て子だったが、義母である上杉悠に拾われ、養子となり上杉
家の長男となった。義姉妹は長女が蓮で、次女が茜である。
義母は神の手を持つ天才外科医であるが、俺のヒール能力を使用したなんちゃ
て天才外科医である。
「おい!起きろよ」
殺気を感じ、迫り来る正拳突きを手首を掴みねじ伏せた。記憶が戻った俺は、
最強の戦士である。こんなへなちょこな正拳突きなど問題はない。
「痛っ」
長女の蓮の声。腕をたぐり寄せ、身体を堪能する。
「お姉ちゃん、ずるい」
蓮は『おはよう』の口づけをしてきた。
「馬鹿やっていないで、学校に遅れるわよ」
義母の声。そうだ、学校に行かないと。
◇
学校では蓮は麗人として女子に人気があり、茜はアイドルとして男子に人気が
ある。俺はモブとして空気である。
蘇った記憶を整理して、これからのことを考える。散らばった仲間を集めない
と。活動資金をどうするか。探偵たちの対策、これは目立たなければ良いか。
など…
そして、放課後。俺は帰宅部、家に直帰して悠の手伝い。悠の助手に入り、手
術でヒーラーとして活躍する。医師免許を持たぬ俺は、手をかざすだけなら医
事法違反にはならない。癌などの異物は『強奪』すれば問題ないし。
「本当は神の手を持つのはお前なのに」
と、悠が苦笑いしている。悠しかいない医院だから出来ることである。大病院
だと、俺は手伝えない。
夜、悠から重大発表があった。再婚するらしい。俺たちは祝った。めでたいこ
とである。が、相手はデカい病院の経営者の上、連れ子として娘が五人いると
いう。
「彼が言うには息子はいらないって。まして私の養子だしね」
将来、優秀な医師を婿として入れるらしい。娘達を駒として…
「それって、私たちは病院のコマなの?」
蓮が反発した。それはそうだ。自由恋愛は禁止ということである。
「ねぇ、お兄ちゃんを捨てるの?」
ブラコン気味の茜も反発してくれている。
「ごめん。これは決定事項なのよ」
って、何かの書類を俺に手渡してきた悠。書類に目を通すと、弁護士の紹介状
である。そこには『妃英理』と記されていた。
◇
避けて通りたい道なのだが、探偵に近づきそうだ。翌日、弁護士の事務所に向
かう。よく知った道である。事務所に着くと、よく知った顔と身体がいた。
「山内一弥くんね。入って」
と、よく知った声が聞こえる。弁護士の英理に悠から受け取った書類を手渡し
た。
「君のDNAを検査した結果、本当の親が見つかったわ」
俺のDNAで、行方不明者のDNAと照合してくれたようだ。悠の指示だろうか。
俺の両親は資産家だったらしく、俺は幼い時に誘拐され、行方不明だったらし
い。その両親、祖父母も既に亡くなっており、遺産が宙に浮いているそうだ。
「受け継げるものは、土地と建物よ。お金は親類筋で分配済みで、取り返せな
いかもしれない。土地も相続人ではない親戚筋により売却済みだって言う」
憤慨してくれる英理。
相続手続きをしてもらい、受け継いだ場所を見に行くと…あの場所だった。円
墳状の墓のある墓地、ここが始まりの土地である。ここの地下にはアレがある
はず。隣接した土地は、ヘリポート付きの破綻したホテルがあった。その周囲
には公園、マンションなどがあり、多分売却された土地だろうな。
「この墓地と、破綻したホテルの残骸が、あなたの相続した土地よ」
これだけあれば、とりあえずは十分かな。取られた分は取り返すだけだ。
こうして、竹ノ内一弥は独立した。
◇
相続すると、すぐに相続税を払えという。溜まっている十年分の税金と共に。
無一文の俺に迫る国税局。払えないと物納で、墓以外を差し出せという。この
国は敵認定でいいかな?
俺は異なる世界線で知り合った数馬を『強奪』した。いきなり知らない場所に
現れて戸惑う数馬の耳元で、記憶を呼び覚ます合い言葉を口にした。
「兄さん…ゴメンナサイ。あのときは…」
俺をあの国に売ったことだろうか?
「それはいい。お金が欲しいんだ。取り敢えず、この土地を買ってくれない
か?」
お金をただ用意するだけでは良くない。どこから手に入れたかの証拠は残さな
いと。
「この廃ホテルの土地ですか?どの位、必要ですか?」
国税局からの請求書を見せた。請求書に書かれた住所と面積から算出していく
数馬。
「これ位ですね」
必要額を上回る額である。
「これを元で増やして返す、だから、居住権をつけてくれ。後、俺の口座を作
り、そこに振り込んでくれるか?」
「了解です」
これで一安心だ。
◇
翌日、数馬が越してきた。宇佐美と共に…
「今度こそ兄さんを守り切ります」
と…
坂本不動産の下請けの建築業者が、ホテルを住める状態にしてくれる。
「兄さんと住めるなら、これ位はサービスですよ」
って、良い笑顔の数馬。
税金の支払いは宇佐美がしてくれたようだ。
取り敢えず、敵認定済みの国家に転移して、カジノの金庫から、1万ドルほど
拝借した。そして、数馬への支払いにする。1年ほどでかえせるだろう。
「ドルでなくて、敵認定の鈴木家から持ってくれば良いのに。」
そうか。それもアリだな。
さて、取り立てに向かうか。俺から遺産を奪った奴らへ。
◇
まずは、俺の受け取るべき遺産を奪った奴らを確定し、奪ったという幻想をぶ
っ壊す。登記簿の所有者欄には、俺の名前が現れる。これで、所有権が俺に確
定した。それから坂本家のお抱え弁護士たちに、丸投げである。英理には荷が
重すぎる訴訟である。
訴訟とは別に、個人相手にも攻撃を仕掛ける。まず、家や会社に保管している
札束を『強奪』していく。これって、裏金の類いだろうし。ふつうの家庭には
札束は無い。銀行へ預けるだろう。これだけの行動で、数馬への支払いは全額
返済できた。どんだけため込んでいたのだか?
裁判所からの呼び出し要請を無視する強奪犯たち。弁護団が民事では無く、刑
事として訴える。警察からの呼び出し要請すら無視をする強奪犯たち。
売り払った先の末端は、鈴木不動産である。そこへ立ち退き要求を出してい
く。
---鈴木次郎吉---
財閥傘下の鈴木不動産がポカをやったらしい。所有者の許可無く、物件を買い
取り、開発をしてしまったという。相手は山内財閥の現当主だという。幼い頃
に誘拐され、最近見つかったそうだ。
売主は、遠い親戚筋という怪しげな人物。調査すると、本当の親類だったり、
赤の他人だったそうだ。
「どうして、調査を徹底しなかった?」
誘拐にあった家系である。傷物の物件だ。もっと買叩けるか。
「山内旧財閥の土地に固執したのは相談役でしょ?」
そうだったかのう。記憶が定かでは無いが。お宝が眠っているといわれている
土地である。手を出さない訳にいかな。開発の折、深く掘ったが何も出てこな
かった。
そうか、あのホテルの下か、墓地の下だったのか。
「買い戻せ。あの墓地を含めてじゃぁ。いいか、買い叩くんじゃぞ」
---山内一弥---
二束三文の価格で、ホテルと墓地を買いたいと鈴木不動産が言ってきた。なに
を言っているのだろうか?既にあちらこちらを掘り返した上、墓地までも掘り
返すつもりなのか?アレは古墳に近いんだぞ。掘り返すなんて、もってのほか
である。古墳の頭しか、見えていない。アレをピラミッドとした場合、ピラミ
ッドの発掘を見えた箇所から切り崩すのだろうか。宝に目がくらんだ愚か者で
ある。
まだ調査前だが、墓地が隣接した法面には、すでにトンネルのような手彫りの
横穴が多数見つかっている。あの金の亡者はトレジャーハントしようとしてい
た証拠である。信用できそうな警視庁捜査一課に、墓地荒らしとして摘発して
もらうか。
この国を代表する財閥筆頭のお金持ちが、他人の家の墓地を荒らすとはな。
◇
そうだ。学校へ行かないと。山内家を預かる当主補佐の人物から、頼むから最
低、大卒になってくれと言われた。高校中退では箔がつかんらしい。
数馬たちと同じ高校へ行くかな。
戸籍が確定し、住民票を得て、高校への転入を考え始めた。そんな折、英理か
ら連絡があった。
「一弥くん、高校はどうするの」と。知らない間に、俺の後見人になっていた
英理。
「娘が、この近くの高校にかよっているのよ。そこはどうかな」
そこはベルツリー学園。中学高校の一貫校で、鈴木次郎吉が理事長である。そ
んな学校はパスである。
「クロス学院へ行こうと思っています」
十字教が後ろ盾の宗教色が濃い学校だが、数馬、宇佐美が通っている。
「幼い頃の記憶が戻り、幼なじみを思い出しました。連絡を取ると、そこに通
っているらしいんです」
数馬、宇佐美を幼なじみとした。まさか、以前の世界線では兄弟だったと言え
ないしねぇ。
そもそも、坂本家と山内家は主従の間柄だったし。問題は少ないだろう。
「蓮ちゃん、茜ちゃんもかよっているのよ」
この世界線の英理は、鈴木家寄りか?人質に蓮たちを取っていると言いたいの
か?
「それが、なにか?今は、誘拐される前の記憶を呼び覚ますのが先決だと思い
まして」
「あぁ、そうそう。刑事訴訟を他の弁護士に、どうして頼んだのよ」
まだ刑事にしていない。民事訴訟である。刑事訴訟にするには。まだ証拠が足
りない。
「山内家を知る、山内家の弁護士に頼んでいます。妃先生は、刑事事件の担当
が多いですよね?刑事事件に発展したら、依頼します」
と、お茶を濁しておく。英理がどこサイドなのか、はっきりするまで、お茶を
濁すか。
◇
クロス学院…昔の伝手を頼り、転入してみた。それと同時に、彼奴らに知られ
てしまい、巨大胃袋たちが越してきた。
「ようやく一弥の料理を口にできるのねぇ~」
と、インデックスが俺に抱きついてきた。俺としては、五和か火織に抱かれた
いのだが…人生そんなに甘くないのだろう。
救いはラストオーダーことミサカが、シスターズを引き連れてきてくれたこと
と、土御門が、メイド学校に通っている義妹を連れ込んだことだな。これで人
材不足が解消するかな。ここなら、シスターズをすべて、住み込みで、働いて
もらえる。
「琴美ことワーストは、この世界線では美琴の姉で、来週あたりに合流だに
ゃ」
面倒事は土御門に任せるかな。