※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第十話 ※エロ無し

 エ・ランテル外周部の城壁内の大凡四分の一。西側地区の大半を使った巨大な一角にエ・ランテルの共同墓地がある。

 これほどの大きさになっているのは王国と帝国の戦場が近くにあり、戦争による多数の死者をアンデッドにしないための巨大な墓地が必要とされたためだ。

 その最奥にある霊廟に程近い場所に複数の人影が存在した。

 各員がそれぞれ違った武装を纏っており、兵士などの雰囲気は皆無だ。

 

「ボス、ターゲットは本当に来るのか?」

 

 光に当たってないような青白い肌に痩せこけた頬と相まって死肉をあさる猛禽類のような鋭い目つきをした男──六腕の一人である『幻魔』のサキュロントが呟く。

 その目の前に倒れている人影──貧民街で気絶させて此処迄運び込んだ少女(・・)のニニャが、後ろ手に手足を縛られて猿轡を噛まされた状態で転がされている。着ていた皮の服は剥かれ、一糸まとわない状態だ。

 

「来ようとも来なかろうとも、既に奴は詰みだ。馬鹿正直に来たらこのままこいつを人質にして俺たちで嬲り殺しにすればいい。そうでなければ罪を着せて権力で捕らえてから始末するだけだ」

「それにしてもボス、こんな簡単に済むならこの都市で一番の薬師の孫も攫えば良かったんじゃないですか? 孫を押さえて婆を脅せば、この都市のポーションの権益も俺らの所に転がせるわけですし、悪くないと思うんですが」

「ふん、そのためにまだ戻ってきていない人間を待つと? 冒険者たちに敵対されるリスクも読めんのか。我らが敗れるなどとは思っていないが、今はオリハルコン級冒険者が滞在しているのだぞ。余計な敵を増やしてそれを始末する間に救出されたら面倒だ」

 

 サキュロントの言葉に、墓穴から話しかけられたような、背筋を凍らせるような声が虚ろに響く。

 その声の持ち主は黒く染め上げられて裾をまるで炎を象っているような真紅の糸で縫い上げられたフード付きのローブを被った死者の大魔法使い(エルダーリッチ)──『不死王』のデイバーノックである。

 

「そうそう、そんなんだからあんたは六腕の中では一番下にみられるんだよ。それでボス、人質は用事が終わったらサクッと殺しちゃうの?」

 

 薄絹を纏い手首や足首に金の輪をつけて、腰のベルトには六本の三日月刀(シミター)が釣り上げられている身軽そうな女──『踊る三日月刀(シミター)』のエドストレームがクスクス笑いながらゼロに人質の扱いを尋ねる。

 

「いや、人質と例の女はできればコッコドールに渡す手筈になっている」

「あらあらかわいそうに、ウフフ」

 

 短く答えるゼロにエドストレームはクスクス笑ったままだ。

 

「しかしまあ、人質を見つけた矢先にターゲットの方からやってくるとはね。おかげで手間が省けたね」

 

 煌びやかな金糸刺繍を施した上着やチョッキ(トラへ・デ・ルーヘス)を着用し、薔薇から剣先が突き出したようなレイピアを持つ優男──『千殺』のマルムヴィストが軽薄そうに話す。

 隣にいる無骨な全身鎧(フル・プレート)で身を守り、剣をしっかりと鞘に収めている男──『空間斬』のペリュシアンは終始無言のままだ。

 

「どうやら要求通りに来たようだぞ。歓迎の準備をしてやろうじゃねえか、お前ら」

 

 ゼロの言葉に六腕の面々はそれぞれの武器を手に取る。

 ほどなくして部下がターゲットを連れてやってきた。兜を外した全身鎧(フル・プレート)を身に着けた亜人のラキスケと、柔らかな光を放っていそうな宝玉が柄にはめられた杖を握って地味な色合いだが仕立ての良いローブを羽織っている女は、且つてはコッコドールの所の娼婦だったツアレニーニャだ。どちらも眉間に皺を寄せ、ゼロたちを睨みつけている。

 彼らを案内させた部下をゼロは下がらせる。

 

「お前たちが俺たちを呼んだ八本指の連中か」

「セリー……!!!」

「おっと、これ以上近寄るなよ」

 

 妹の惨状にかけ出そうとしたツアレだが、サキュロントが少女の頭を踏みつけてミスリル製の剣をその首に突きつけたことでその足を止める。それでも少女が目覚める様子はない。

 

「今はまだ薬で眠っているだけだ。だが、こいつの命は俺たちの手にある。殺されたくなかったら言う事を聞くんだな。まずは武具を全部外してもらおうか。当然、マジックアイテムもだ」

「……分かった」

 

 ゼロの要求にラキスケは苦虫を噛み潰したような表情で装備を外していく。

 魔法効果が施されたオリハルコンの鎧が、剣が、メイスが、そしてツアレの持っている杖が地面に落ちる。ラキスケの十の指の内、八か所にはめられた指輪も外して小袋に入れて地面に置かれる……。

 

「なんて量の装備とマジックアイテムよ……」

「一体、どうやって手にいれたんだか……、八本指でも個人には与えられない数だね」

「やはりな。奴が二年前にパウークを始末できたのも、それだけ多くのマジックアイテムを総動員したからか」

 

 ラキスケが外していく数々の装備とマジックアイテムにエドストレームとマルムヴィストが言葉を漏らす。その質と量には六腕の面々も苦笑いするしかないほどだ。

 ゼロの推測に、ラキスケは何も答えずに鎧着(チェインシャツ)ごと上着を脱いで上半身裸になる。

 

「……ふん。沈黙は時に雄弁に真実を語るぞ。人質を無視して戦っていれば俺たちの何人かは道連れにできたかもしれないのに、馬鹿な野郎だ」

「俺が身に着けている武具とマジックアイテムはすべて外したぞ」

 

 ゼロの嘲笑にも、ラキスケは動じずに答える。

 

「気に食わねえ。その澄ました顔をぐしゃぐしゃにして、八本指に歯向かったことを後悔させてやる」

「好きにしろ。ただし、ツアレとセリーシアには手を出すなよ」

「ラキスケ様……」

「大丈夫だよ。だから、ツアレは後ろに下がっていて」

 

 心配するツアレを、ラキスケは後ろに下がらせる。

 

「お別れは済ませたな。お前が生きている間は手を出さないでやるよ。尤もその時間はすぐに終わって、すぐに姉妹揃って娼館送りだがな!」

 

 苛立つゼロがラキスケの鳩尾に拳を叩きこむのを見た他の六腕がニヤニヤと嗤う。ゼロの拳は強固な鉄の扉さえも突き破り、手刀ならば紙を破る様に切り裂くこともできる。そのような一撃を生身で受けて無事であるはずがない。

 ……そう、無事であるはずがないのだ。本来ならば。

 

「どうした? 随分と優しくボディタッチするんだな」

「てめえ! おい、お前らも加われ! 全員で殺すぞ!」

 

 顔色一つ変えずにゼロを嘲るラキスケに、ゼロは他のメンバーに総攻撃を指示する。

 

「ゼロ、いったん離れろ。《火球(ファイヤー・ボール)》! 《雷撃(ライトニング)》!」

 

 デイバーノックの指先から火球と雷撃が放たれる。

 

「踊りなさい、死の舞踏(ダンス)を!」

 

 エドストレームが舞踏(ダンス)の魔法付与(エンチャント)が施された宙を舞う五本の三日月刀(シミター)でラキスケを包囲し、全方位から切り刻む。

 

「俺の『空間斬』を喰らえ!」

 

 ペリュシアンが口を開き、己の魔技を叫びながら鞘から剣を抜き放ち、三メートルは離れた先にいるラキスケに超速の斬撃を放つ。

 

「こいつで惨たらしく死にな!」

 

 マルムヴィストが致死性の猛毒が仕込まれたレイピアによる、閃光の如き突きを連続して放つ。

 本来ならばどれか一つだけでも相手を絶命に至らせる必殺の魔技。周辺諸国で最強の戦士とされている王国の戦士長ガゼフ・ストロノーフでも絶命させるであろう四連撃を受けてもなお、ラキスケの素肌には傷一つついた様子はなく、涼しげな表情だ。

 装備はすべて剥がしたはずだ。にもかかわらず今なお無傷で立ったままの亜人にデイバーノックが、エドストレームが、ペリュシアンが、マルムヴィストが恐怖を覚える。

 

「かぁぁぁぁああああああ!!!」」

 

 警備部門の長であり、六腕筆頭の『闘鬼』ゼロの雄叫びが上がる。

 一日の使用可能回数の制限から、本来ならば温存するために一種類のみの使用に留める己の特殊技術(スキル)を全て同時起動させることで成り立つ最強の一撃を放つためだ。

 それは何の小細工もない、特殊技術(スキル)と数々のマジックアイテムで限界まで強化に強化を重ねた正拳突きだ。ゼロ本人でも制御が困難なほどに高められた速度と破壊力を持つこの一撃が、ラキスケの腹部に突き刺さった。

 ゼロの最強の一撃を受けたラキスケは……、それでも倒れるどころか手傷を負った様子もなく平然としていた。

 

「ばか……な」

 

 絶句するゼロと他の六腕たちがラキスケを信じられないような目で見る中、ラキスケはゼロの拳を無造作に掴む。

 とっさにゼロは正拳突きを放った右腕を引こうとするが、ラキスケに掴まれた腕はびくともしない。

 

「て、てめえ何をしてやがる! 人質がどうなっても良いのか!!!」

「もう手遅れだよ、お前ら」

 

 叫ぶゼロに対して、それまでの怒りを抑え込むような言葉からはかけ離れた、氷のように冷たさを感じさせるラキスケの言葉に六腕は息を飲む。

 

「サキュロント! 人質を始末し……!」

 

 六腕の誰かが咄嗟に人質を取っているサキュロントの方を振り向いて叫んだ言葉は最後まで続かなかった。

 サキュロントは、全身が漆黒の痩せこけた人型の異形に背後から取り押さえられていた。その異形は瞳のみが病的な黄色の輝きを放ち、蝙蝠のような羽と途中から鋭利な爪と化している指を持っている。サキュロントが抑えていた人質もそのうちの一体に確保されている。

 ラキスケを総攻撃するために意識から逸れていたとはいえ、何故サキュロントの異変に気が付かなかったのか。ゼロは闇から這い出てきた一体が持っている道具が、八本指でも他者に聞かれたくない会話をする場合に用いられる、一定範囲内の音を外部から遮断するマジックアイテムであることに気が付く。

 これによってサキュロントを聴覚的に孤立させて奇襲を仕掛けたのだ。

 

「何だ……こいつらは」

「俺の特殊技術(スキル)で呼び出した悪魔だ。偵察とか調査とか、他にはこういう奇襲とかに便利なんだよ」

「悪魔……だと!?」

 

 六腕の面々は知らないことだが、この悪魔はラキスケがこの都市で情報収集するために特殊技術(スキル)で昼と夕方に分けて6体ずつ呼び出した影の悪魔(シャドウ・デーモン)だ。

 特殊技術(スキル)で呼び出した悪魔なので時間制限はあるが、六腕にとっての不運はラキスケが影の悪魔(シャドウ・デーモン)を呼び出したのが案内人と遭遇する数十分前で、制限時間にはまだ十分に余裕があった事だった。

 6体の影の悪魔(シャドウ・デーモン)のうち、サキュロントを取り押さえている個体と人質を確保した個体以外の4体が、残る4人の六腕に襲い掛かる。

 応戦する六腕の面々だが、初めて見る悪魔の闇に溶け込む能力で攻撃のチャンスが掴めずに攻めあぐねている。闇を照らし出すような魔法は存在するが、六腕の中ではすでに取り押さえられているサキュロントしか使用することができない。

 八本指の最強戦力である六腕と拮抗している悪魔を目にした、ラキスケを案内した構成員は逃げようと走り出す。しかし、影の悪魔(シャドウ・デーモン)の一体が投げた石礫を後頭部に受けて脳漿をまき散らしながら絶命した。

 そうしている内に人質を確保した個体がツアレの下に到着し、人質の少女を引き渡す。

 

「ありがとうございます。セリー、ごめんね……。私の所為でこんな酷い目に合わせてしまって」

 

 涙をポロポロと零しながら、未だに目覚めない妹を抱き寄せて謝るツアレを見たラキスケは、ゼロの方に向き直る。

 

「さて……ツアレを悲しませた分の落とし前、つけさせてもらうぞ」

 

 ラキスケは空いている手を空中に伸ばしてアイテムボックスから何かを取り出す。ゼロからすれば、ラキスケの腕が途中から消えて何もない所からなにかを取り出したように見える。

 取り出した物は汚泥を煮詰めて固めたような細身の漆黒の剣であった。そのあまりの禍々しさにゼロの表情が引きつる。

 

「な……なんだそれは!? いったいどこからそんなものを!」

「腐剣コロクダバールさ。昔、遺跡で見つけた武器でね。危なすぎて普段は使わないけれども、その力の一端を味わってもらおうか」

 

 200年前の英雄の一人が所有していたと言われる剣の名前を出されて青褪めるゼロに対して、ラキスケは鍛えこまれたゼロの左足の太股に腐剣コロクダバールを突き刺す。

 

「ぐわぁ! ……な、何が起こっている!?」

 

 ゼロが感じた痛みは一瞬だけ。不可解に思ったゼロが左足を見ると、腐剣コロクダバールによって傷つけられた場所が瞬く間にどす黒く変色していく様子が目に映った。そして太股から先の感覚が無くなって力が入らなくなる。

 十三英雄の一人で悪魔の血を引くとされる“黒騎士”が所有していたという四本の漆黒の剣。そのうちの一本である腐剣コロクダバールは、癒えない傷を与えるとされている。

 その正体は治癒の阻害とステータスダメージ効果、さらに腐食のスリップダメージに現在HPの認識阻害という四重のデバフを相手にもたらす呪いの剣。

 痛みが一瞬だったのは現在HPの認識阻害の呪いが痛覚の麻痺という形で再現されたためだ。

 程なくしてゼロの左足が腐った個所からぐじゃりと崩れてゼロがバランスを崩すと、ラキスケは続けてゼロの右足・左腕・右腕と順番に同じように突き刺す。

 

「がぁっ! 止めろ! ぐぉっ、止めてくれ! ひぃっ! せめて……、普通に殺してくれぇぇぇ!」

 

 痛み無しに体が腐り落ちていく感覚に、ゼロはラキスケに慈悲ある死を懇願するが……。

 

「ツアレは、お前たちの所で二年間も地獄を見てきたんだ。それでも、お前たちの方から手を出してこなければ……俺達はこれ以上関わらないつもりだった。それなのにお前たちはツアレの妹を嬲って、彼女達を再び地獄に引きずり込もうとした。お前たちを俺は許さない。お前はそのまま朽ち果てていけ」

「あぁ……俺の、腕が……足が……」

 

 己の武器であり六腕最強を誇った自慢の肉体を失ったゼロを地面に転がすと、ラキスケは腐剣コロクダバールをしまい、ツアレに歩み寄ってアイテムボックスからローブを取り出してツアレの妹(セリーシア)を覆うように被せる。

 そしてラキスケは外させられた武具を回収しながら影の悪魔(シャドウ・デーモン)と交戦している残る六腕を睨みつけた。

 さすがはアダマンタイト級に匹敵すると言われる六腕だけあって、レベル30に近い──難度にして80~90ある影の悪魔(シャドウ・デーモン)を相手に拮抗した戦いを繰り広げている。最初に取り押さえられてもがいているサキュロントを除いてだが。

 

「さて……さすがに影の悪魔(シャドウ・デーモン)の時間制限まで粘られた場合は面倒だな。早くセリーシアの治療もしたいし、残りはさっさと殺すか」

「それなら俺たちに任せてくれませんか? ラキスケさん」

 

 聞きなれていないはずなのになぜか懐かしさを感じさせる言葉に、ラキスケは咄嗟に声がした方向を振り向いた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ラキスケが振り向いた先に現れたのは、非常に高価そうな漆黒のローブを纏った魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の格好をした者だった。

 自分も持っているがツアレに出会い愛し合うようになってからは被れなくなった奇妙な仮面──嫉妬する者たちのマスクで顔を隠しており、を示すプレートを首から下げて両腕には無骨なガントレットをしているが、かつて現実世界(リアル)でユグドラシルを遊んでいたころに所属していたギルドのギルドマスターを彷彿とさせる。

 

「あ……あなたは?」

 

 突然現れた人物にツアレは困惑して妹を抱きしめる。

 

「え……そんな、まさか……。ひょっとして、モモンガ……さん?」

「ええ……お久しぶりです、ラキスケさん。ペロロンチーノさんも一緒に来ていますよ」

「おーい、ラキスケ。元気だったか! それと、そちらの美人さんは誰?」

 

 上空から聞こえてきた声の主は猛禽類の頭と翼を持ち、肘と膝から先も鳥の爪のようになっているバードマンだ。

 纏っている金色の派手な鎧からは、まるで金色の粉が散っては消えていくような輝きを放っている。手に持つ太陽の輝きを持つ弓は“有翼の爆撃王”の異名を象徴する彼のメインウェポンである羿弓(ゲイ・ボウ)だ。こちらも銅級(カッパークラス)を示すプレートを首から下げている。

 

「ペロロンチーノさんも! 二人とも、どうしてここに?」

「積もる話は沢山ありますが、まずはあちらをどうにかしましょう。頼むぞ、ハムスケ」

 

 ツアレが目にしたのは圧倒的な存在感を放つ白銀の毛皮と蛇の尻尾を持つ四足獣だった。深みある英知を感じさせる漆黒の瞳を持つ、伝説の魔獣といっても差し支えない強大さを感じさせる。

 しかし、ラキスケにとっては違うようだ。

 

「えっと、この……でかいハムスターは一体何?」

「ラキスケさん、このでかいハムスターはハムスケ。トブの大森林で森の賢王と呼ばれていたこいつが同格の妖巨人(トロール)に襲われていたのを助けたら、懐かれました」

「この者が殿たちの御友人でござるか? 某は森の賢王、殿たちに助けられハムスケと名付けて頂いた恩義のために忠誠を尽くす所存でござる」

「この大魔獣が、伝説の森の賢王……! なんと英知を感じさせる雄姿なのでしょうか」

 

 ツアレの感想を聞いたラキスケが困惑した表情で彼女に問いかける。

 

「えっ……ツアレ? 見た目ハムスターだよ? 大型鼠(ジャイアント・ラット)をもっと大きくしたような生き物だよ」

「ラキスケ様……、あの大魔獣を 大型鼠(ジャイアント・ラット)と同類に扱うのは失礼にあたるかと……」

「えぇ……」

「ラキスケさん、慣れましょう……」

「俺達も通った道だからさ」

「……あ、はい」

「それでは、行ってくるでござる!」

 

 釈然としないラキスケを尻目にハムスケはそう言って、影の悪魔(シャドウ・デーモン)と交戦中の六腕の四人の所に向かって走り出す。

 

「影の悪魔(シャドウ・デーモン)、今からやってくる魔獣は味方だ。連携して残る六腕を始末しろ」

 

 気を取り直してラキスケは影の悪魔(シャドウ・デーモン)にハムスケとの共闘の指示を送る。サキュロントを取り押さえていた個体はその際にサキュロントの首をへし折ってから援護に回ったが、ラキスケにとっては些事であった。

 ただでさえ自分たちと同じ数の影の悪魔(シャドウ・デーモン)と拮抗していた六腕の四人にとって、新たに一体追加されただけでなく圧倒的な存在感を放つ魔獣の参戦は致命的であった。

 蛇の様な鱗に覆われた硬質な尻尾による突きが放たれる。哀れな第一の犠牲者となったのはマルムヴィストだ。

 

「ごぴゅぅっ!」

 

 己の渾身の突きよりも遠い射程からの一撃を受けて顔面が半壊しながら絶命した。

 第二の犠牲者はエドストレーム。マルムヴィストを沈めた一撃を受けまいと思わず五本の三日月刀(シミター)をハムスケの前面に展開したことで、がら空きになった背後から2体の影の悪魔(シャドウ・デーモン)が襲い掛かり、その鋭利な爪で胴体と首を刎ねられた。

 ペリュシアンはハムスケを狙って超速の斬撃を放つが、見た目にそぐわぬ金属質な毛皮に阻まれて傷一つ付けられない。

 

「お、俺の『空間斬』が……こいつにも効かないだと! な、ならばせめて、うおおぅ!」

「ほう、某を前にしてなお立ち向かうでござるか。その心意気やよし! 協力者殿、この者は某が相手をするから残るアンデッドを任せるでござる!」

 

 鞘から取り出した斬糸剣を鞭のように振るい、ハムスケに切りかかるペリュシアンに、戦士としての矜持を見たハムスケは1対1で相手することを選ぶ。

 とばっちりを受けたのは5体の影の悪魔(シャドウ・デーモン)の相手をすることになったデイバーノックだ。《火球(ファイヤー・ボール)》や《雷撃(ライトニング)》をいくら連射できるとは言ってもこの数に包囲された状態では手数が圧倒的に足りない。

 

「くっ! むざむざ滅ぼされるくらいならば! 《下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)》! 《第四位階死者召喚(サモン・アンデッド・4th)》!」

 

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)に包囲される前にデイバーノックは自身に強化魔法を唱えた上で四体の骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を召喚すると、影の悪魔(シャドウ・デーモン)にぶつけて一目散に霊廟へと逃げ込もうとする。

 

「なんと! 仲間が一騎打ちをしている最中に戦わずに逃げるとは、戦士の風上にも置けない奴でござる!」

 

 ハムスケの渾身の体当たりを受けて吹き飛ばされ、壁に激突してそのまま動かなくなったペリュシアンを尻目に敵前逃亡したデイバーノックをハムスケが非難する。

 

「ほざけ! 私にはより多くの魔法を修得し、魔導の深淵を覗きこむ大望があるのだ! このような所で滅ぼされ……」

 

 デイバーノックの叫びは最後まで続かなかった。

 ラキスケが仕舞っていた翼を広げ、逃げるデイバーノックに飛翔して肉薄すると、その頭蓋を掴んで大地に向けて一気に力を込めて叩きつけたのだ。

 バキバキと骨がへし折れる音を響かせながら、デイバーノックはその偽りの生命をあっけなく滅ぼされる。

 

「お前如きが、彼の悲願と同じ言葉を口にするな」

「嘘だ……。俺たちが、六腕がこんなあっさりと全滅するだなんて……そんな、そんな……」

 

 残るゼロも肉体を蝕む腐食の呪いによって絶望に打ちのめされながら朽ち果てていく。

 こうして、八本指の最強戦力である六腕は一夜にして瓦解することとなった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「あの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)、態々霊廟の方に逃げようとしていた。霊廟に伏兵でも置いていたのか?」

「ラキスケさん、俺の特殊技術(スキル)で確認しましたがその霊廟の中からアンデッドの反応が多数ありますよ」

 

 手に着いた骨の欠片を払いながら、ラキスケは疑問を口にすると、モモンガが霊廟に潜むアンデッドの存在を告げる。

 

「そっか……。統率者を喪ったアンデッドたちが暴走する危険もあるからまとめて浄化しておくか。念のためにモモンガさんは少し離れてもらっていいですか?」

「分かりました」

 

《魔法最強化(マキシマイズマジック)》《浄化(フレイムサークル)の(・オブ・)炎陣(ピュアリフィケイション)》

 

 ラキスケがこれから発動する魔法の効果範囲外にモモンガが出たのを確認すると、最上位浄化魔法を唱え、霊廟を包む様に炎の陣が描かれて陣内の大地が輝く。

 

「こちらが分かる範囲ではアンデッドの反応は全部なくなりましたね」

「確認ありがとうございます、モモンガさん」

 

 ラキスケは回収した装備やマジックアイテムを着直しながらモモンガにお礼を言う。

 すると、ペロロンチーノが武器を拾ってラキスケの方に持ってきてくれた。

 

「ほい、理由は分からないけど身ぐるみはがされていたんだろ。拾っておいたよ」

「ありがとう。影の悪魔(シャドウ・デーモン)が奴らを奇襲する準備が整うまで引き付けておく必要があったからさ。要求を呑んで装備を外して時間を稼いでいたんだ」

「弱い装備ばかりだけども、本来の装備はどうしたんだ?」

「ああ、そっちはアイテムボックスの方にしまってあるよ。普段使いするには周囲に目立ちすぎるし、修理する当てがないからいざという時のために耐久力を温存しておきたいっていうのもあったからね。現地である程度安定して調達できる範疇で揃えるとしたら、アダマンタイト鋼から一段落ちるミスリルかオリハルコン辺りまで抑える必要があったんだ」

「そっか……。そう考えると俺達も普段使い用の格落ち品を用意しないとダメかなぁ」

 

 ラキスケが本来よりはるかに格の落ちる装備をしていた理由を聞いて、ペロロンチーノとモモンガは自身の装備に頭を悩ませる。

 神器(ゴッズ)級よりは数段劣る手持ちの他の装備にしても、アダマンタイト鋼より上位の金属をいくつも使っている装備ばかりで、現地ではそれらも伝説に謳われるような装備になってしまうからだ。

 

「まあ、その問題は俺個人の感性による部分もあるから好きにしていいんじゃないかな?」

「目途がつくまではこの問題はいったん棚上げしておきますか」

「そうだね。ところで、一緒にいるあの女の子は誰?」

「彼女はツアレ。俺の恋人だから手は出しちゃだめだよ」

「寝取り寝取られは範囲外だから安心して……って、「恋人!?」」

 

 ペロロンチーノに釘をさすラキスケに対して、モモンガとペロロンチーノはラキスケに恋人ができたことに驚愕する。

 モモンガとペロロンチーノはかつて妻帯者や彼女がいる一部を除いたギルドの男性陣でモテない同盟を結んでおり、その中にはラキスケも含まれていた。

 無課金同盟よりも大所帯かつ長期にわたって続いていた同盟から、時を越えて離脱者が出た事実にモモンガ達は打ちのめされる。

 

「つまり、御二人は番(つがい)だということでござるな! 某も子孫を残すために同種の雄と番になりたいでござる……」

「まあ、色々あって二年前に出会ってからおつきあいしているんだけど、今回はそれ絡みで報復に来た犯罪組織から刺客が送られてきたんだ」

「ラキスケ様がいなかったら、私は二年前のあの日に殺されていました」

「まるで、たっちさんの現実世界(リアル)での奥さんとの馴れ初めみたいですね。……ってハムスケ、お前メスだったのか!?」

「酷いでござる、殿ぉ。どこからどう見ても某は立派なメスでござる!」

「それなんて恋愛ゲー的展開? ラキスケってばこっちの世界で人生エンジョイしてない?」

 

 話題がごちゃごちゃしてきて収拾がつかなくなりそうな気がしたので、ラキスケは一旦咳払いして話を切り出すことにする。

 

「とりあえず、人質にされていたツアレの妹(セリーシア)に盛られた薬を先に解毒するから、詳しい話は落ち着いてから宿屋でしましょう」

「そうですね。俺もラキスケさんとは落ち着いたところでお話したいです。ここの事後処理は冒険者組合に任せるとして、組合にはどう説明したものか……」

 

 ラキスケはツアレに歩み寄って眠っているツアレの妹(セリーシア)に《大治癒(ヒール)》を唱え、それから《生命の精髄(ライフ・エッセンス)》や他人の状態異常を調べる魔法で異常がないことを確かめる。

 

「これで大丈夫なはず。それじゃあ、街に戻ろうかツアレ。妹は俺が運ぶよ」

「分かりました。妹(セリー)をよろしくお願いします」

「ふむふむ、この展開は妹ともフラグが立っての姉妹ど……「言わせないぞ、ペロロンチーノ」……あっはい、すみません。ドスの利いた低い声は姉ちゃんを思い出すから勘弁して」

 

 ラキスケはツアレからいまだに眠ったままの彼女の妹を受け取って、所謂お姫様抱っこで運ぶ。

 ズーラーノーンの十二高弟の一人の野望を打ち砕いたことに気が付かぬまま、ラキスケ達は墓地を後にするのであった。

 




当初はツアレも衣服を全て脱ぐようにサキュロント辺りに言わせようとしましたが、そういう前提でシミュレーションしたらラキスケが問答無用で殺しにかかってしまい、ニニャもといセリーシアの安全が確保できないという理由から没になりました。

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