※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第十二話 ※エロ無し

 城塞都市エ・ランテルにある馬車の中でもマリナラが所有する馬車は立派だ。六人以上が乗り込んでもまだ余裕がある大型馬車の車内にいる面々は、ラキスケ、その隣にツアレ、そして向かいの席にモモンガとペロロンチーノの四人。ハムスケは馬車の隣で寝息を立てているがその眠りは浅く、誰かが近づいてくればよほど隠れるのがうまくない限りはすぐに目を覚ますようになっている。

 

「……よし、これでひとまずは大丈夫かな。それじゃあ二人とも、まずは何から話をしようか?」

 

 ラキスケが幾つかマジックアイテムを起動して外に声が漏れないようにしてから、モモンガとペロロンチーノに話題を尋ねる。

 モモンガは手を顎にやってどれから話題に出すかを考えていると、ペロロンチーノが挙手をして口を開いた。

 

「はいっ! それじゃあ、ラキスケとツアレちゃんの馴れ初めからで!」

「ペロロンチーノさん、いきなり本筋から脱線しないで下さいよ。もっと聞かなくちゃいけない事は沢山あるでしょう? ユグドラシルからこちらに来たのはいつ頃だったとか、他にプレイヤーと出会ったりはしたのかとか……」

「二人とも相変わらずのようで、安心しましたよ」

 

 ラキスケは昔の記憶と変わらない二人の様子に苦笑しながら、口を開く。

 

「そうですね……、俺の場合はユグドラシルでモモンガさん達と一緒に遊んでいる途中、頭痛がしたから断りを入れようとしたら意識を失って、此処から南にあるエルフの王国の近くにある森の中で目を覚ましたんです。それが大体、100年くらい前だったかな?」

「そもそも時代が違ったかぁ……。そうなると、こうして出会えたのは本当に奇跡だなぁ」

「ひゃ……百年。よく覚えていられたなぁ」

 

 モモンガは出会えた奇跡を噛み締め、ペロロンチーノが感心している。

 二人の様子から、ラキスケは少なくとも二人は自分とはこの世界にやってきたタイミングが違う事を察した。

 

「ラキスケ、ショックな話になるけどさ……お前、現実世界(リアル)では俺達がこっちに来る数年前に死んでいるんだ」

「えっ……ラキスケ様、が?」

「あぁ……異世界転移じゃなくて異世界転生の方だったのか。考えてみれば、現実世界(リアル)では身体ボロボロだったし、あり得ない話ではないか」

「あれ? 意外とショックが小さい?」

「う~ん。体感時間としては現実世界(リアル)よりもこの世界での方がかなり長く生きているからね。それに、この世界に残っているプレイヤーと思しき痕跡とかを調べると、俺がユグドラシルをプレイしていた頃は健在だったギルドと思しき廃墟が存在したりするから、少なくともこの世界にやってくるときに時間の流れは歪んでいるんだなって漠然とは感じていたし」

「待って、ギルドも転移していたりするんですか?」

「憶測の域は超えないけどね。現地の人たちでは作れないアイテムや装備品が発掘されることがあるから」

 

 現実世界(リアル)という場所で、ラキスケが死んだことになっている事を聞いて動揺しているツアレの頭を撫でて落ち着かせながら、ラキスケはワーカーとしての経験則に基づく推論を語る。

 

「まさかギルドごとこの世界にやってくる可能性があったなんて。ひょっとすると、ナザリックもどこかに転移している可能性が?」

「今後も含めると、可能性はゼロではないかな。それと、NPC達も設定をベースに不足分は製作者の性格が反映された状態で自我が芽生えるらしいよ」

「……え? NPCに、自我?」

「うん。ペロロンチーノさんのシャルティアなんか、凄い事になっていると思う」

 

 ラキスケの言葉に、モモンガとペロロンチーノの二人はそれぞれ自分のNPCを思い出して悶絶し始めた。

 シャルティアは、ペロロンチーノの性癖をこれでもかと詰め込んだ吸血鬼のNPCであり、モモンガのNPCであるパンドラズ・アクターは、中二病を患っていた制作当時のモモンガが思い描いたカッコよさを詰め込んだドッペルゲンガーのNPCだ。

 

「あ、あの……お二人とも、大丈夫でしょうか?」

「ツアレ、若かりし頃の恥ずかしい記憶を思い出しているだけだから、大丈夫だよ」

「あ……はい。ラキスケ様がそうおっしゃるなら」

 

 心配するツアレに問題ない──ある意味では大問題だが──事をラキスケが告げる。

 

「それはそうと、二人はどういう切欠でこの世界にやってきたんですか? その様子だと、俺の時とはだいぶ違うようですけど」

「あぁ……、俺達の場合はユグドラシルが最期を迎えるので、ナザリックの近郊で花火を盛大に打ち上げたら、気がついた時には草原にいましたね。大体10日前の夜です」

「……ん? 10日前で……夜で……花火?」

「「……あ」」

 

 二人が転移した時期や場所が、同じ頃にトブの大森林の上空を中心とした闇を完全に消し去るかのような謎の発光現象と被っている事に気がついたラキスケが、二人を問い詰め始める

 

「二人とも、ちょっと良いですか。花火はどんなのを使ったんですか?」

「そ、それは……その。花火自体は運営が安く販売した市販の打ち上げ花火です。ただ……結構な量はありました」

「なるほど……。どのくらいの数だったかは覚えていますか?」

「俺とモモンガさんで、五千発……ずつです」

「……では最後に聞きますけど、10日前にトブの大森林の近くで発生した爆音と発光現象について、思い当たる節は?」

「……ご、ごめんなさい。まさかあんなタイミングで異世界転移するだなんて、思わなかったんです」

 

 二人の自白に、ラキスケは目元を手で覆って天を見上げる。ツアレも、帝国と王国の両国で騒ぎになっている噂の正体に顔を引きつらせていた。

 

「どうか……どうかこの件は内密に!」

「カルネ村の人たちやガゼフ戦士長にバレたら、白い目で見られるどころじゃない!」

 

 二人の必死の嘆願に、ラキスケはなんで王国の戦士長の名前が出てくるの? と思いながら、口を開いた。

 

「……まあ、俺も吊し上げるために聞いたわけではありませんし、二人の場合は不可抗力だったわけですから、どうこう言える立場ではありませんけどね」

「「本当にすみません……」」

「ただ、森は相当荒れるでしょうから、フォローはしておいてくださいよ? ハムスケという森の賢王が不在になっているならなおさらでしょうし」

「その点は西の魔蛇と呼ばれるナーガのリュラリュースにハムスケの縄張りを引継いで貰ったりとか、周辺の村を襲わないようにする約束とかは取り付けたので、一応大丈夫なはずです」

「東の巨人って呼ばれていたトロールももういないから、モモンガさんが護衛と監視を兼ねて置いていった死の騎士(デス・ナイト)もいるし、トブの大森林はもうしばらくしたら安定すると思うよ」

「それなら、まあ……良いんじゃないかな? 他には──」

 

 情報交換を兼ねた交流はそれからも続いた。

 ラキスケと組んでいるビアンゴや、敵対するエルフの狂王などのNPCについて、日々の生活をどうしているか、Etc……。

 情報交換を兼ねた交流も進んだ頃、ラキスケの隣で聞き役に徹していたツアレが口を開いた。

 

「そういえば、ペロロンチーノ様は私とラキスケ様の馴れ初めをお聞きしたのでしたよね?」

「えっ良いの? 恥ずかしかったりしたら無理して話さなくても良いんだよ?」

「ツアレ……、思い出すことが辛かったら、無理しなくて良いからね」

「待って、そんなに重い話なの? 俺、聞いちゃいけないこと聞こうとしていた?」

「……いえ。私とラキスケ様の出会いは、昨夜の事にも大きくかかわっているので、話させてください」

 

 ツアレの口から語られたのは、ラキスケと出会うまでの悲惨な半生であった。

 幼少期に両親を喪い、妹と共にひもじい思いをしながら暮らしていた村娘の頃。

 下衆で醜悪な領主に妾として連れ去られ、慰み者として弄ばれた六年間。

 その領主に飽きられて八本指が経営する娼館に売り払われた地獄の二年間。日々下衆な客の慰み者になり、時には暴力を伴った輪姦や動物との交わりを強要されたこともあったこと。

 そして、当時の六腕の一人だった男にコレクションとして絞殺されそうだった所を、館に押し入ったラキスケに助け出された二年前。

 嗚咽を漏らし、涙を流しながらも話し続けたツアレを、ラキスケは抱きしめて彼女の背中をさすっていた。

 

「お“お”お“~! ひでえよ~!」

 

 ツアレの話を聞いたペロロンチーノも涙を流して嗚咽を漏らす。現実世界(リアル)でシチュエーションとして似たような話をしていた頃は、「それなんてエロゲ?」などと言っていたが、こうして被害者の実体験を聞かされると、相当心に響くようだ。

 モモンガも、涙を流せず感情の起伏も弱くなった身体ではあるが、ツアレを連れ去った領主や八本指に対する苛立ちを募らせている。

 

「ラキスケさん……、その八本指とかいう連中を潰しませんか? とりあえず、超位魔法とかでまとめて殲滅します?」

「待って、八本指に対して報復するのは確定事項だけども、それだと無関係な人たちを大勢巻き込んでしまうから待って……」

「ぐすっ……。モモンガさん、それは最終手段として取っておいて、ガゼフ戦士長に協力を仰ぐのはどうかな? 彼ならば、こういうことを知ったら協力してくれそうですし」

「ペロロンチーノさん。俺としては二人がこの短い間にどんな人脈を築いたのかは気になる所なんですけど」

 

 モモンガの過激な手段を抑えていると、号泣から立ち直ったペロロンチーノが協力者として王国戦士長の名を挙げる。

 実際、八本指や癒着している貴族たちに容易に潰されず、王に直訴できるような立ち位置の者とのコネクションは、ラキスケにとってもありがたい。

 元々は、女性のみで構成された王国のアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”に接触をはかり、女性を下衆な欲望を満たすための消耗品にする八本指に対する嫌悪感を駆り立てて協力を取り付ける予定であった。他にも八本指に不満を持つ者たちを焚きつけるつもりでもあったが、おかげで実行までの時間を縮めることができそうだ。

 

「それにしても、ガゼフ戦士長か……」

「彼と何か因縁でもあるんですか?」

「いや、俺じゃなくてビアンゴの知人がさ。四年前に王国で開かれた御前試合で、決勝戦の相手をしたって言う話なんだ」

「ほえー。その知人って、どういう人なの?」

「ブレイン・アングラウスっていう剣士でね。現在はビアンゴが紹介した竜王国って言う国で、ビーストマン相手に傭兵として戦っているって話だよ」

 

 

 ────────────────────

 

 

 竜王国のある町で、町を覆う外壁の門を遮る様に佇む一人の男──ブレイン・アングラウスがいた。

 ブレインの装備は鎧着(チェインシャツ)の他にはベルトに引っ掛けた皮のポーチとネックレスに指輪と、軽装だと言える。

 特徴的なのは腰に下げた二本(・・)の武器で、近隣諸国では珍しい“刀”という、南方の砂漠の中にあると言われる都市から時折流れてくる、魔法が掛かっていなくても下手な魔法武器を凌駕する切断性能を発揮する非常に高価で扱いの難しい武器だ。

 ブレインはそのうち一本は鞘にしまった状態で、自身を取り囲む様に集まっているビーストマンの一挙一動を観察していた。

 虎や獅子の顔を持つ肉食の亜人であるビーストマンは人間と比較して、同じように成人した場合でも人間とは10倍近い差のスペックを誇る。

 ビーストマンにとって竜王国は食料が群れている餌場という認識なのだが、どのビーストマンも目の前のブレインに対して強い警戒と怒り、そして恐怖の眼差しを向けていた。

 膠着した状況による緊張に耐えきれなくなった一体のビーストマンがブレインに跳びかかる。

 

「ちぇすとぉ!」

 

 ブレインが咆哮と同時に手に持つ刀を振り上げ、大上段から一気に振り下ろす。その勢いは豪風が舞うほどで、跳びかかったビーストマンを一刀のもとに両断する。

 肩から胴体に掛けて両断され、断面から大量の血を噴き出し臓物をまき散らしながら絶命したビーストマンを尻目に、ブレインはその茶色の瞳で他のビーストマンの動きを注視する。

 ブレインを取り囲んでいるビーストマンたちは唸り声を上げて威嚇するが、委縮しているのか同じように跳びかかってはこない。

 

「おいおい。同じ部族の連中かは分からんが、お前たちの族長を仕留めた奴を前にして尻込みしたままで良いのか?」

 

 ブレインの言葉に、ビーストマンの一部から大きな怒気が放たれると、他のビーストマンを掻き分けて他よりも一回り大きいビーストマンが前に出た。

 

「言ってくれるではないか! 貴様を討ち取って我が部族“血染めの肌(ブラッドスキン)”の汚名を晴らしてくれる! このガーダルフがな!」

 

 どうやら、ブレインがかつて討ち取った部族の関係者がいたようだ。ガーダルフは目を血走らせて怨嗟の籠った声を上げると、近くにいたビーストマンの頭を掴む。

 

「な、何をする──!」

「光栄に思え、臆病な貴様を有効利用してやるのだからな!」

「ま、待て! ぐぎゃぁぁっ!!!」

 

 他のビーストマンの抗議を無視してガーダルフはそう言うと、掴んだ頭をねじり切って噴水のように噴き出る血を全身で浴びる。すると、体毛に隠れて見えなかった全身の入れ墨のような模様が輝くと同時に、全身の筋肉が隆起した。

 ビーストマンは種としてのスペックが人間と比較して秀でているからなのか、個としての強者が少ない。しかし全く存在しないわけではなく、ガーダルフというビーストマンはその中でも更に稀少な特殊能力(スキル)をもつ個体のようだ。

 

「ガハハハっ! 今の俺をほかの凡百な連中と一緒にするなよ! 血を浴びた俺の強さは、こいつらの三倍だっ!」

「その能力……確か三年前に同じような能力を使う奴がいたな」

 

 高笑いするガーダルフに、ブレインは過去に戦ったあるビーストマンを思い出す。

 

「同じ部族の連中やお前に討ち取られた親父は、血に呑まれるなどと言って怯えるような臆病者ばかりだが、俺は違う! 俺はこの力で、ビーストマンの王となるのだ!」

「……」

「どうした? 恐ろしくて何も言えないようだな。だが、それもしょうが──」

「いや……あいつと違って、お前からは恐ろしさをちっとも感じなかったんでな」

「──ない。……なんだと!? 俺が、親父よりも弱いだと、ふざけるな!」

 

 憤怒するガーダルフに、ブレインは淡々と告げる。

 

「断言してやるよ。単純な身体能力だけならお前の方が上だろうが、強いのはあいつの方だ」

「きぃ! さぁ! まぁぁぁ!」

 

 自らが臆病者だと嘲笑した父親よりも弱いと言われ、ガーダルフはあっさりと激昂する。そしてブレインとの距離を瞬く間に詰めると、その鋭利な爪を振るう。

 今まで数多くの人間(食料)を鎧ごと切り裂いて屠ってきた自慢の爪だ。ガーダルフは無残に切り裂かれるブレインの姿を脳内に思い浮かべ、その腸を喰らう事を夢想し──ガーダルフの視界がくるくると回った。

 眼下には頭を失い、勢いのままに壁に激突する自らの身体がある。ブレインを引き裂くはずだった爪は虚しく何もない空間を薙いでいた。

 

(なん……で?)

 

 ガーダルフは状況を把握することもできないまま、頭が地面に落ちるとともにその意識は闇に落ちていった。

 

「ったく。あいつならこの程度でブチギレたりなんかしないで、俺を倒すために策をめぐらすぞ……って、もう聞こえていないか。……それで、お前らはまだ続けるかい?」

 

 ブレインの言葉に、周囲のビーストマンたちの戦意は急速に萎びていく。

 ガーダルフはあまりにも呆気なく討ち取られたが、それは彼が弱かったからではない。むしろこの場にいるどのビーストマンよりも強く、獰猛であった。

 それを傷一つ負う事なく首を刎ねて見せたブレインを前に、ビーストマンたちは後退りしてその距離を離していく。

 その時、此処からは離れた別の外壁の近くで、天高く火柱が上がる。

 

「あっ……あれは!」「に、逃げるぞ!」「早くしないと、俺達も燃やされる!」

 

 ビーストマンたちは怯えた様子で口々にそう言うと、ブレインに背を向けて蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。

 一方のブレインは相手に心当たりがあるようで、火柱自体には驚いた様子もなく呟く。

 

「あれは……あの人が来たのか。だとしたら、此処で待っていれば迎えに来るだろう」

 

 ビーストマンが去っていったのを確認したブレインは、ポーチから取り出した拭い紙で刀に付着したビーストマンの血や汚れを拭うと、刀を鞘にしまう。本格的な手入れは後で行うつもりだ。

 しばしの間待っていると、ブレインの言葉通りに視線の先に地面を滑るように移動するガレアス船が現れた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 今回のビーストマンの襲来を防いだ町、その中央にある大きな広場では、町の料理人たちと共に短いドレッドヘアのエルフ──ビアンゴが住民や防衛に携わった者たちへ炊き出しを行っていた。

 

「はいはーい。まだまだ沢山あるから、順番に並んでね~」

 

 ビアンゴは料理人たちと共に手慣れた手つきで炊き出しの料理を配っていく。

 

「あぁ……こんな温かくて美味しい料理を食べられるなんて、久しぶりだ」

「物資の補給だけじゃなくて、こういう事もしてくれるんだからありがたい話だよ」

「この炊き出し、食べると力が湧いてくるんだよな。なんというかこう……これからも頑張るぞーって気になれるんだ」

「そう言ってくれると、私も嬉しいわ~」

 

 口々に感謝の言葉を告げる人たちに、ビアンゴも嬉しそうだ。

 今回の炊き出しは、竜王国の依頼で運ぶ分の物資とは別にビアンゴが帝国で買い付けた食糧で行っている慈善行為だ。無論、完全な善意だけで行っているわけではない。

 決して規模は大きくないが、竜王国からの依頼を受ける度に行っているビアンゴの行為は、少しずつだが竜王国の意識に影響を与えている。

 表立ってではないが竜王国から多額の資金を見返りに救援のための兵力を派遣しているスレイン法国は、エルフの王国と100年にわたって戦争状態にある。かつては同盟関係にあったエルフの王国に裏切られた経験から、エルフという種に対する敵意がスレイン法国の中では根強い。

 一方のエルフの王国を支配する簒奪王は、竜王国の窮状に興味がない。女王であるドラウディロン・オーリウクルスを孕ませれば、彼女の血筋──竜王に由来する異能を戦力に組み込めるのではと考えているかもしれないが、行動に移していないのだからそこまでの価値を見出してはいないだろう。

 ビアンゴは法国のエルフ憎しの思想が竜王国にも伝搬するのを防ぐため、そして来るべき時に備えてバックについてくれる国を少しでも増やすために竜王国にできる範囲の支援を行っている。

 尤も、ビアンゴは元々料理を作ったり振る舞ったりすることが好きなので、趣味と実益を兼ねた行為になってはいるのだが。

 しばらくして、炊き出しを終えたビアンゴが片づけをしていると、ブレインが近寄ってきた。

 

「よう、ビアンゴさん。盛況だったみたいだな」

「ええ、みんな美味しそうに食べてくれていたわ。料理人冥利に尽きるって奴ね」

「それにしてもさっきの火柱……あんたの魔法だろ?」

「そうよ。今回は防衛の依頼はされていなかったけど、一発だけサービスしてあげちゃった♪」

 

 ウインクしながら何でもないかのように答えるビアンゴに、ブレインは苦笑いする。

 ブレインとビアンゴの出会いは4年前、リ・エスティーゼ王国で開かれた御前試合の決勝戦でガゼフ・ストロノーフに敗北した頃に遡る。

 自分の世界に籠っていたブレインに、王国にいる強者の調査という名目で観客として観戦していたビアンゴがしつこく話しかけた事が切欠だった。

 

 ──負けたから悔しくて引き籠っているんでしょうけど、あなたほどの逸材を腐らせるなんてもったいないわ! 

 ──私の見立てでは、潜在能力は貴方の方が上よ。負けたのは、それまで培ってきた経験の差ね。むしろ傭兵として活動していた彼を、才能だけであそこまで追い詰めたあなたが凄いというべきなんでしょうけど。そういう慰めはいらないでしょ? 

 ──ガゼフに勝ちたいなら、とにかく戦って経験を積むのが手っ取り早いわ。でも畜生に堕ちるのは駄目。貴方の真っ直ぐな心が淀んで何かの拍子にぽっきり折れるかもしれないもの。

 

 始めは好き勝手言うエルフだと苛立っていた。ビアンゴに反論する頃には敗北の絶望感を踏み砕いて立ち上がっていたが、今思えばあの出会いがなかったら、ガゼフに勝利するためにすべてを投げ捨てる剣鬼になっていただろうとブレインは考える。

 ブレインが竜王国にいるのも、ビアンゴが強者との戦いに困らない場所として紹介されたからだ。三年前の戦いを筆頭に何度も死にかけたが、おかげで人型の相手との戦いの経験をかなりに密度で積むことができた。

 今では戦って力を付けられる場所を示し、強くなるための手助けもしてくれている事にブレインは感謝している。

 あのロリコンのセラブレイトがリーダーのアダマンタイト級冒険者チーム“クリスタルティア”の連中と共闘したり、一緒に酒を飲んで話をしたりするのもそれなりに楽しく感じる。

 今は何らかの理由で本国に帰還している、スレイン法国の陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインから時折スカウトされるのは鬱陶しいが、集団戦での戦い方や時には装備を融通してくれたりと得難い経験もあった。

 何より──

 

「あっ! “爪斬(つめきり)”の旦那! この町を助けてくれてありがとうございます!」

「ブレイン殿、我々からも感謝の言葉を。貴方が門の一か所を受け持ってくれたおかげで、我らの部隊も他の門に戦力を回すことができました」

「傭兵の身としては、あんたみたいな人間になりたいもんだ」

 

 ──昔の自分では考えられないことだが、行く先々で感謝や尊敬の思いを受け取るのも悪くないとブレインは思えた。

 “爪斬(つめきり)”は三年前に竜王国を襲ったビーストマンの部族長とブレインの死闘の末に、開眼した新たな武技で爪を全て断ち切りながらその首を刎ねたことから付けられた二つ名だ。

 多くのビーストマンがその身体能力にかまけて策も何もないごり押しで戦う中、その部族長は効率的に“狩り”を行うために策を弄し、幾つもの都市を陥落させてきた猛者だった。

 ブレインが多くのビーストマンを屠った猛者だと知った時も、少数の戦力をぶつけては被害が出る前に引かせ、休む暇を与えない波状攻撃で疲労させてから仕留めようとしていた。

 実際、あの時にクリスタルティアの面々が救援に来ていなかったら、斃れていたのは自分だったとブレインは確信している。

 

「ふふっ。今の貴方、昔よりもずっといい表情しているわね」

「ん? そうか?」

「ええ。目標に向かってギラギラしている貴方も良いけど、綺麗で真っ直ぐな瞳って言うのは本当に良いものよね~」

 

 ビアンゴがブレインを褒めると、ブレインに感謝の言葉を送っていた陽光聖典の隊員が豪快に笑って賛同した。

 

「ガハハ! あなたはエルフですが、良い事を言いますな!」

「んも~、イアンさんってば。国を乗っ取った簒奪王がクソエルフなのは事実だけれども、みんなが同じではないのよ~」

「ほう……あの国の王は、同族である貴方にも憎まれているのですな!」

「そりゃそうよ! だってあれは自分の恋人だけじゃなくて母親や姉妹、娘まで女ならば片っ端から力づくで連れ去るような外道よ! しかも、産ませたらそのまま戦場に送り込んで放り捨てる。強すぎて反抗できないから従わざるを得ないって言うのが多いだけで、本心ではすぐにでもぶち殺してやりたいって思うのが大半よ」

 

 ビアンゴは簒奪王の目的を伏せてその所業を告げる。愛も肉欲もなくただ強い兵力を産ませるためだけに強姦しているなど言っても、信じてもらえないと分かり切っているからだ。

 イアンと呼ばれた男は、握り拳を作りながら力説するビアンゴの言葉に、ブレインと共に言葉を失う。

 陽光聖典の班長を務めているイアンはエルフに対して好感は抱いていないし、本国が捕らえたエルフを奴隷にしている事にも反発していない。しかし、話に出た簒奪王の様な非道の王の下で戦っていたエルフたちの事情には多少なりとも同情心が芽生えていた。尤も、本国から指令があれば個人の感情は無視して実行するが。

 

「……おいおい、リ・エスティーゼ王国の貴族でもそこまで大っぴらには……いや、以前は割としていたな」

「うーむ。碌でもない存在が力と権力を握ると、酷いことになる典型ですな! あの八欲王にも比肩する酷さがいるとは!」

「伝承の八欲王と違って、一人だから身内での潰しあいが期待できないのよねー」

 

 ビアンゴはため息をついたが、イアンにとっては同士討ちが期待できないのは、ため息では済まない頭の痛い問題だ。

 

「イアンさん、そういえばあなたの所の隊長を見ていないけど何かあったの? ブレインと一緒に伝えておきたいことがあったんだけれども」

「俺とニグンの奴に伝えたいこと?」

「ニグン隊長ですな。詳細は教えられませんが、本国に一度帰還しましたぞ。私が責任をもって隊長に連絡しますので、よろしいですかな?」

「あ~ら、ありがとう。それじゃあ……これで良しっと」

 

 ビアンゴはマジックアイテムを使って周囲に声が漏れないようにすると、ゆっくりと口を開いた。

 

「近い内に帝国が竜王国の救援要請に関して、派兵に向けた交渉をするそうよ」

「マジか……」

「それは朗報ですな!」

「それにあたって、今年でリ・エスティーゼ王国との戦争に決着をつけるつもりみたい。ブレイン、貴方が目標としているガゼフとの一騎打ちのチャンスは今年が最後になる可能性があるわ」

 




ブレインが刀を二本持っている件についてですが、一本は原作で使用していた武器です。
もう一本は、オリジナルの武器になります。

・竜攘虎搏(りゅうじょうこはく)
分類:刀
レア度:不明
南方から流れてきた大業物。
○物理ダメージ20%向上
○竜属性及び獣属性に対し50%のダメージ効果
○クリティカル率10%向上

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