※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第十四話 ※エロ無し

 リ・エスティーゼ王国、王都リ・エスティーゼ

 古き都市という言葉こそ最も相応しい、良く言えば歴史ある、悪く言えば古めかしいだけのしょぼくれた都市の中央通りを、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは茜色に染まりだしている空を見上げてから自宅へ帰宅するために歩を進めていた。

 様々な国の中継地点としても利用されるエ・ランテルと比較すると舗装されていない道路が多い王都だが、その中では珍しく石畳でしっかりと舗装され、大きな道幅を持った通りだ。

 活気に満ちた人々に反して、ガゼフの巌の様な顔は顰められている。その理由は、数日前に王城ロ・レンテの敷地内にあるヴァランシア宮殿、幾多の貴族や重臣が集まっている宮殿の一室で行われた宮廷会議での出来事にあった。

 毎回行われるおべんちゃらや権力闘争が横行する会議では、例年よりも早く帝国から来た布告官が持ってきた宣言文に対する協議と、それに伴う威勢だけはいい貴族たちの言葉が飛び交っていた。

 宣言文を要約すると、

 

 近隣諸国に広まっている麻薬に対して、リ・エスティーゼ王国がそれを黙認しているのは、人民を守る国家の義務を蔑ろにするものであり、近隣諸国に対する侵略行為でもある。

 王国は直ちに麻薬の製造・拡散を強力に摘発し、近隣諸国の治安を担保しなければならない。

 従わないのであれば、バハルス帝国は王国に侵攻を開始し、それを代行する。

 これは正義の行いであり、王国の怠慢と不法を正して人民の平穏を守るものである。

 

 読み上げられた内容は近年、帝国が王国に対してクレームをつけている内容を戦争の理由にこじつけたものだ。

 レェブン候やボウロローブ候といった一部の貴族は、帝国が開戦の時期を早めた事を訝しんでいるが、宮廷会議に参加している貴族の多くは楽観的で、嘲笑する者も少なからずいた。

 貴族たちは例年ならば四軍──4万人規模の軍勢を用意していた、帝国軍が昨年は一軍減って三軍しか動員していなかった事から、帝国は動員できる戦力が先細りつつあると楽観的に言い、今年こそはこちらから攻め入るべきだと無責任に活気づく。

 しかし、ガゼフからしたらそれは全くの誤りで、王国が例年通り徴集する兵力に対して動員する兵力を減らしても問題ないという帝国の余裕の表れだと受け取っている。

 力をつけていっている帝国とは対称的に、年々国力を落としている王国の実情を理解していない貴族たちの、恒例ともいえる無神経な発言にガゼフは内心で苛立っていた。

 だが、一番腹を立てていたのはその前の、国王ランポッサ三世への報告のためにガゼフがカルネ村で起きた出来事を語った時の事だ。

 実際は王には他の貴族たちに極秘で真実を打ち明けているが、貴族たちの前で王に報告しないのは怪しまれる。だからこそ、貴族の前で王に報告を行ったという既成事実のために、カルネ村で事前にモモンガと話し合って決めた範疇を言葉にする必要があった。

 特に細かく説明したのはカルネ村を守った森の賢王──ハムスケについてであり、旅人であったモモンガやペロロンチーノに関しては、できる限り貴族たちの印象に残らないように注意していた。

 捕縛した騎士たちは、王都に着くや否や役人と兵士達に無理矢理連れていかれてしまった。おそらくは六大貴族の中でも貴族派閥に属する者が手を回したのだろう。既に証拠隠滅のために始末されているのではと考えると、奴らの背信行為を暴く機会が潰されたのは痛い。

 そうなるとスレイン法国の工作員については、むしろ真実はごく少数が知っていればよい話となる。そのままこの話題を持ち出すのは不味いと判断して、所属不明の信仰系魔法詠唱者の集団という事となった。

 数百年の時を生きると言われる伝説の魔獣に関する話題は、王だけでなくトブの大森林の近郊に領地を持つ一部の王派閥の貴族たちから感嘆を込めた言葉が出たが、幾人かの貴族──いずれも大貴族派閥の者たちからは森の賢王やガゼフを軽視する発言が幾つも飛び出す。曰く、

 

 ──胡散臭い話だ。

 ──トブの大森林に住み着いている害獣ごときの力を借りなければならない戦士長の力量が知れる。

 ──本当にそれは森の賢王なのか、そもそも森の賢王という存在自体が子供に読み聞かせるおとぎ話で、それを騙った獣(ケダモノ)なのではないのか。

 ──それに、情報を聞き出そうとすると死に至る魔法など、そんな都合のいい話があるはずなどない。

 

 果ては、話に出た魔法詠唱者が自分を売り込むため、或いは帝国のスパイとして潜り込むためにその魔獣と騎士や魔法詠唱者を動員して御膳立てしたのではないかという意見すらあった。

 ガゼフは口下手な自分では言葉では貴族たちには勝てないことが分かっているので、決して顔には出さないように怒りを堪えていた。しかし貴族たちからハムスケやモモンガ達を捕らえるべきという話まで出てきて、さすがに口を挟む。

 王も貴族たちを諫めてその場は収まったが、そうでなかったら会議は恩人たちに仇で返すような内容になっていたかもしれなかった。

 

(……いかんな。何を考えているんだ俺は。訓練の時もそうだが心に雑念ができてしまっている)

 

 昨日の武技を用いた訓練では、あの戦いの時ほどではないが六光連斬の精度も向上し、同時に起動できる武技の数も、切札を使わずに7つに増えていることが確認できた。

 自身の身に起きている変化、いや……成長の切欠には心当たりがある。カルネ村の一件で戦った、スレイン法国の最高位天使だ。ハムスケと共闘し、モモンガの支援を受けたあの激闘は、成長の限界に達しつつあった自身の殻を破ってくれたのだろう。

 英雄譚では強敵との戦いを切欠として、物語の主人公がさらなる強さを得る展開はよくあるが、まさか自分がその経験をするとは思ってもみなかった。

 だが、それでもあの戦いで最後に放った新たな武技──次元断を再び使用できる領域には未だに達していない。あの時の感覚はしっかりと覚えているが、それを再現するには自身の能力がまだ不足しているのだ。

 

(目指す先は遥か先……か)

 

 ガゼフは弱音とも受け取れる言葉を、心の内で考えていた。もし大貴族派閥の者に聞かれでもしていたら、王に対する格好の攻撃材料を与えてしまいかねないため、実際に言葉に出すことはできない。

 だが、ガゼフには悲壮感はなかった。モモンガの魔法的な支援と切札による強化があったとはいえ、一度は到達した高み。再び至れずして何が王国戦士長か。

 それに、あの戦いで魔法詠唱者(マジック・キャスター)が戦いに与える影響の大きさを実体験することもできた。帝国では、生ける伝説ともいえる大魔法詠唱者(フールーダ・パラダイン)の下で魔法詠唱者(マジック・キャスター)の教育に力を入れているという。

 兵も武具も質で劣り、魔法技術は話にならない。王国が軍事面で帝国に対してアドバンテージがあるのは、農民の徴兵による物量だけだ。そのアドバンテージも、国力を疲弊させる代償を伴いながら無理矢理捻出している。

 

「(戦士団と共に戦う魔法詠唱者(マジック・キャスター)の部隊設立を王に具申するべきだが、どれだけ早くても今年の戦争には間に合わないな。それに、魔法詠唱者(マジック・キャスター)を軽視している者が多いこの国の貴族の妨害は確実にあるだろう。それでも、王国の未来のために今年の戦争を何としても耐え凌ぎ、無理してでも通さなくてはならない)」

 

 通りを歩く人々とぶつからないようにすれ違い、今後の事を考えながら家路を黙々と歩いていると、ぐう……と腹が鳴った。

 ガゼフは貴族たちのいる王宮で鳴らなかったことに感謝しながら、今夜からしばらくの間は自宅に住込みで働いている老夫婦がいないことを思い出す。

 

「(そういえば、孫の奥さんにもうすぐ子供が生まれるから休みを与えていたんだった。そうなると……今日は何を買っていくか。折角だから味の濃いものを食べたいところだ)」

 

 料理を作る事は全くダメなガゼフがそう考えて再び歩き出したところで、横の通りから声をかけられた。

 

「おや? ひょっとしてガゼフ殿でござらんか?」

 

 聞き覚えのある深みのある静かな声の方を振り向くと、そこにはカルネ村で共闘した森の賢王、ハムスケがいた。

 ハムスケのすぐ脇にはモモンガとペロロンチーノ、それと蒼の薔薇のガガーラン。そして、初めて会う角の生えた面頬付き兜(クローズド・ヘルム)を被り、金と紫で縁取りされた漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んだ人物がいる。

 

「これはハムスケ殿。それにモモンガ殿とペロロンチーノ殿も王都に来ていたのか」

「ええ、つい先ほど到着した所でして。蒼の薔薇のガガーランさんが王都を案内してくれていたんです」

「戦士長の家には、明日訪れようかなって思っていたけれども……ここで出会ったのも何かの縁という事で、もしよかったらばだけれども一緒にご飯食べに行かない?」

 

 ペロロンチーノからの誘いに、ガゼフは少しばかり考えてから答える。

 

「ふむ……分かった。王都に来てくれた際には歓迎すると約束していたしな。折角だから今晩の食事は俺が奢るとしよう」

「えっ、良いの! ありがとう!」

「ガゼフ殿、某も沢山食べさせてもらうでござるよ~!」

 

 ガゼフからの提案に、ペロロンチーノとハムスケがハイタッチして喜ぶ。

 その様子を間近で見たガガーランが、感心したように呟いた。

 

「へえ、マジで王国戦士長と知り合いだったとはなぁ」

「モモンガさんもペロロンチーノさんも、無自覚に人誑しですからね。あの二人が切欠で同じチームに所属したメンバーも結構いましたよ」

「へえ、その中にはお前も含まれているんだろ?」

「ええ、勿論。ちょっと事情があって結構長い間離れ離れでしたけど、こうして再会できたのは、ある意味では奇跡だと思っていますよ」

「詳しい経緯とかも聞きたいところだが、それは野暮ってもんだな。そんじゃ、ガゼフのおっさんも加えて行くとするか」

 

 

 ────────────────────

 

 

 茜色に染まっていた空が暗くなった王都の大通りを、数は少ないながらもすれ違う仕事帰りの人々とぶつからないように、四人の人物が器用にすり抜けながら歩いていた。

 一人は漆黒のローブで全身をすっぽりと覆い、額の部分に朱の宝石を埋め込んだ仮面を被った魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)。イビルアイ。

 そしてオレンジに近い金色の髪をした、スラリとした肢体を全身にぴったりと密着するような黒色の衣装で包んだ双子の女性。ティアとティナ。

 最後に煌びやかな装備に身を包んだ、命の輝きともいえる様な生命力あふれた魅力を見せる女性、ラキュース・アインベル・デイル・アインドラ。

 四人とも、同じアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”のメンバーだ。

 四人が向かっているのは拠点にしている冒険者の宿屋。急いでいるのにはいくつか理由があった。

 それは数時間前にティアとティナの二人が集めてきた新たな情報を、別行動をとっていたガガーランに伝えるためだ。

 一つは王国に巣食う巨大な裏組織、八本指の最強戦力である六腕全員が王都から出払っているというもの。

 六腕は一人一人がアダマンタイト級冒険者に匹敵するとも噂され、危険なアンデッドである死者の大魔法使い(エルダーリッチ)も所属しているとも言われる。

 蒼の薔薇の人数は5人。欠員がいなければ6人いる六腕と真っ向からぶつかり合いになるのは、数の差もあってイビルアイはともかく他のメンバーが非常に危険なのだ。

 そのような存在が王都を離れている状況は、国の行く末を憂いているラナー第三王女の願いでひっそりと八本指と戦い続けている蒼の薔薇の面々にとっては、千載一遇のチャンスともいえる。

 もう一つは、八本指の王都における拠点の情報。

 真偽の検証を終えたラナーの推察では、王国に潜んでいる帝国のスパイが提供してきたのではないかという。

 提供した情報を王国が有効利用して八本指を摘発しようとすれば、必然的に八本指とぶつかり合うことになる。敵国が自浄作用を発揮すれば、帝国自らが矢面に立たずに巨大な裏組織を弱体化させながら、敵国の力も短期的には削ぐことが出来る。

 反対に、王国がこの情報を握りつぶすなりリークするなりして八本指を利する行為を行った場合、王国にはこの地を治める資格なしと帝国が攻め込む大義名分を与えることとなる。

 そして、八本指と深く癒着している貴族が多い王国では、このままではほぼ確実にこの情報は活かされない。それだけこの国を蝕んでいる腐敗は深いのだ。

 ならば、ラナーの様なごく一部のみで動いて対処するしかない。

 ガガーランと合流する際に伝える内容を頭の中で整理していたラキュースだが、目的地がある大通りで人だかりができている事に気がつく。

 何事かと耳をそばだてると、人だかりからは驚きと恐怖を含んだ声で不安を滲ませながら話していた。

 

 ──宿の庭にいるあの魔獣と亜人は一体何なんだ? 

 ──あれほど立派で聡明そうな魔獣は見たことがない。

 ──俺達に襲い掛かったりしてこないよな? 

 ──でも戦士長と蒼の薔薇のガガーランが一緒にいるなら、大丈夫なのか? 

 

 どうやら目的地にガガーランの他に戦士長と魔獣、亜人がいるらしい。正直言って、どんな状況なのかがさっぱり読めない。

 ラキュース達が人だかりを抜けて大通りの横手にある宿屋へと向かうと、確かに庭には初めて見る魔獣がいた。

 その魔獣は蛇の様な鱗を持つ長い尻尾の生えた白銀の四足獣だ。漆黒の瞳は英知を感じさせこの魔獣の強大さを感じさせる。そんな魔獣が大皿に大量に乗せられた野菜や果物をむしゃむしゃと美味しそうに食べていた。

 目的の人物──ガガーランは魔獣の近くに置かれた大きな丸テーブルに他の人物と共に座っている。

 同じテーブルにガガーランの他にいたのは4人。一人は金と紫で縁取りされた漆黒のローブを纏い、形容しがたい表情の仮面をつけた魔法詠唱者(マジック・キャスター)風の人物。もう一人は角の生えた面頬付き兜(クローズド・ヘルム)を被り、金と紫で縁取りされた漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んだ人物。

 此処まではまだ冒険者なら実力を値踏みする意味の興味を持つだけで済んだ。問題は残る二人だ。

 一人は、キラキラ輝く金色の鎧を着用した、猛禽類の頭と翼を持つ鳥の亜人だった。

 イビルアイとティアは王国では見ない亜人に警戒するが、魔法詠唱者(マジック・キャスター)風の人物と鳥の亜人の首元に、冒険者であることを示すプレート──その中でも上位の白金級を示すものが掛けられている事に気がつくと、幾分かは警戒を緩めた。王国と隣接している評議国の冒険者は亜人が多いと聞くからだ。

 そして残る一人が、近隣諸国で戦いに関係する仕事をしている者ならば知らぬ者はいない、近隣諸国最強の戦士。王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ。

 骨付き肉に豪快に齧り付いて飲み込み、酒を大きな口で一口飲んだガガーランが、ハスキーな大声を上げた。

 

「おっ、ラキュースじゃねえか! 待ちくたびれて先に飯食っちまっているぞ。詳しい話は後でするからよ、先に飯食おうぜ」

「はぁ。本当はすぐにでも聞きたいけれど、周りにこれだけ人がいたら、それも無理そうね。分かったわ。みんな、まずは食事にしましょう」

 

 ガガーランに対して、ラキュースはため息をつきながら応えるのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 食事を終えて、ハムスケと呼ばれた白銀の魔獣が馬小屋で夢の世界に入った所で、宿屋2階の大部屋一つを貸し切ってイビルアイが防音対策用のマジックアイテムで周囲に音が漏れないようにする。

 そうして始まった話は、まずガガーランとモモンガ達が出会ったいきさつからとなった。

 その過程で漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んでいたラキスケが顔を見せると、ティアとティナ、イビルアイが強く警戒したが、ガガーランとラキュースが止めに入って話は続けられた。

 ちなみにラキスケが顔も隠せる漆黒の全身鎧(フルプレート)を身に着けていたのは、王都に入る際に八本指のものに察知されるのを防ぐためである。その際にはルーシーという偽名も使っている。

 

「──つまり、ガガーランは貴方達に助けられたという事ね。ありがとう、貴方達がいなかったら私たちは大切な仲間を一人失ってしまう所だったわ」

「いえ、こちらも蒼の薔薇の皆さんにこうしてお会いできましたし、アレを放置するわけにはいきませんでしたから」

「それにしても、ヘカトンケイルと言ったか? 王都の近くにそれほどの脅威が迫っていたとは……私からも礼を言わせて欲しい」

 

 ラキュースとガゼフがモモンガ達に謝意を述べるのに対して、イビルアイはヘカトンケイルに変貌した下位単眼巨人(レッサーサイクロプス)が使ったものに興味を向けていた。

 

「気になるのは、ただでさえ脅威な下位単眼巨人(レッサーサイクロプス)をさらに上位の存在に変貌させたマジックアイテムについてだな」

「私が知る限りでは人間種を巨人に転生させるマジックアイテムの存在はありますけれども、本来の過程を無視して最上位種にするものは知りませんね」

「下位単眼巨人(レッサーサイクロプス)に従っていた巨人たちやヘカトンケイルになった奴に自我が残っていなかったことも妙なんだよなぁ。あれはまるで、禁断症状で暴れる麻薬中毒者みたいだったぜ」

「麻薬……ひょっとして、八本指が絡んでいる?」「でも、いくら八本指でもそんなマジックアイテムを用意できる?」

「こうなってくると、ヘカトンケイルを粉々にしたのは失敗だったかなぁ」

 

 イビルアイの話から各々がその話題について語り合う。

 現物があれば、《道具鑑定(アブレイザル・マジックアイテム)》で調べることもできたのだが、それを纏めていた袋はヘカトンケイルを倒す際に一緒に燃え尽きてしまい、草が生い茂る広い草原から、僅かに零れた分を判別して探し出すのは無理だった。

 

「現状では答えが出ないその話は後にして、そろそろ本題に入りましょうか」

 

 ラキスケは皆の注意を惹く様に両手を叩くと、蒼の薔薇に要件を話し始めた。

 

「今回、私が蒼の薔薇の皆さんにお会いしたかった理由は、八本指を叩き潰す協力をして欲しいからです」

「言っておくけどよ、俺個人としては受けて良いと思っているぜ」

 

 ラキスケの簡潔な説明に、ガガーランは蒼の薔薇の他のメンバーに先んじて自分の意思を告げる。

 

「ガガーラン……」

「助けられた恩を返す意味もあるけどよ。俺じゃ倒せなかった怪物をあっさり倒せる奴らが、八本指と敵対しようとしているんだ。これはチャンスだと思うぜ」

「丁度、六腕は王都から出払っているし、全てではないけど拠点も明らかになっている」

「成功すれば大きなリターンが得られるのは確か」

「あまりに都合が良すぎて怪しくは思えるが……。ラキュース、お前が乗るならば私は別に構わんぞ」

「そうね……。明日にでもラナーと相談して決行の日取りを決めましょう」

「ありがとうございます。でも、良いんですか? ほとんど初対面の俺の言葉をこんなに簡単に信じて」

「このまま対症療法的に八本指の末端を叩いても、じり貧になるだけだもの。それに、ガガーランがここまで信じている相手を無下にするのはねぇ」

「ガガーランに春が来た」

「すみませんが、俺には恋人がいますのでそういう関係はちょっと……」

「ガガーランの春は終わった」

「そもそも始まってすらいねえだろ。というか、そういう目では見てねえよ」

 

 ラキスケからの要請を快諾した蒼の薔薇の脇で、ガゼフはモモンガに尋ねていた。

 

「なるほど、食事の後も俺を引き留めていたのは、この一件に引き込む為だったのか」

「すみません、戦士長。戦士長の人柄ならば信頼できると考えて、勝手に進めるよりは話だけでも通しておこうと思いまして」

「モモンガ殿、謝らなくて大丈夫だ。俺としても、この国を蝕んでいる八本指はどうにかしたいと思っていたからな。戦士団を動かすとなると国王の許可はいるが、おそらくは大丈夫だろう」

「ありがとうございます」

 

 ガゼフもモモンガから事情を聴いて快諾する。

 そこにペロロンチーノが疑問を投げかけた。

 

「六腕が王都から出払っているって話だけど、どういう連中なの?」

「六腕は、八本指最強の六人の事で、一人一人がアダマンタイト級に匹敵する猛者だと言われている。現在の六腕は、“不死王”デイバーノック、“空間斬”ペリュシアン、“踊る三日月刀(シミター)”エドストレーム、“千殺”マルムヴィスト、“幻魔”サキュロント、そして警備部門の長“闘鬼”ゼロ。外見は──」

 

 ティアがペロロンチーノの疑問に答え始めた所で、ラキスケは考え始め、何かを思い出したような反応をした。

 

「ん? ゼロにサキュロント? ……あっ」

「ラキスケさん、どうかしましたか?」

「ああ、いえ。もう終わった事だったからさっきまで忘れていましたけど、ティアさんの説明で思い出しまして」

「何だ? まさか六腕と遭遇しているだなんて言わないだろうな?」

「エ・ランテルで返り討ちにした八本指の構成員、名前とか特徴がその六腕と一致していたもんで。そもそも、俺が八本指を潰そうとしているのは、俺と恋人を狙って襲い掛かってきた奴らへの報復ですし」

「ああ、あの時の彼らでしたか。冒険者組合で調べた結果では八本指の最上位の戦闘員だろうって結論でしたけど、まさか最高戦力だったんですね。そうだと分かっていれば、誰かは生かしたまま捕らえて、情報を引き出すこともできたのですが」

 

 ラキスケが思い出した内容を話すと、モモンガもラキスケと再会した時にいた者たちの事を思い出す。

 その話を聞いたガガーランがポツリと呆れながら呟いた。

 

「ラキュース。八本指の拠点を襲撃した後の懸念が、一気に無くなっちまったな……」

「そうね、ガガーラン。もう、彼らだけでも大丈夫なのではないかしら……」

「いや、あいつらだけだと王都中を虱潰しになるだろうから途中で逃げられるかもしれないし、無関係な連中も大勢巻き込まれる」

「そっかぁ……。彼ら、この国に配慮してくれたのね」

 

 六腕の壊滅を知ったラキュースは、嬉しい筈なのに苦笑いするしかなかった。

 




ちなみに作中では話題としては省略しましたが、八本指がズーラーノーンと結託していた(誤解)ことも伝えられています。

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