※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第十七話 ※エロ無し

 八本指の一斉摘発が行われた夜から三日ほどたった明け方、その日はラキスケ達の出立を祝福するかのように、青々とした空がどこまでも広がっていた。

 漆黒の鎧を纏って姿を隠しているラキスケに、ラキュースは問う。

 

「もう帰ってしまうのね。もう少しなら、ゆっくりしていけるのに」

「気持ちは嬉しいですけれども、俺の帰りを待っている恋人がおりますので。この節は、本当にお世話になりました」

「こちらこそ、色々と世話になったわ」

 

 ラキュースにとって同じ神官戦士であるラキスケは、出自が同じ四大暗黒剣を持つ者同士という事もあって意識してしまう相手であった。作戦の後は時折、信仰系魔法や四大暗黒剣に関わる話題で華を咲かせたりした際には、ただ高位の信仰系魔法が使えるだけではない、高い教養もラキスケから垣間見ることとなった。

 人格破綻者が多いワーカーという肩書からは信じられないくらいに理知的な言動や行動も、良い意味でイメージとのギャップとなってラキュースに好感を与えている。

 何より、神官戦士と暗黒神官という光と闇の相反する信仰を共存させている彼は、内なるラキュースであるダークラキュースと心の中で戦いを繰り広げている身(という設定)としては、目を離せない。趣味の執筆活動も捗るというものだ。

 帝国に拠点を置く立場である事は、今回の八本指の一斉摘発の情報が漏れる危険性はあるが、そもそも帝国のスパイが提供してきた情報なので今更だ。

 

「イビルアイちゃ~ん。ラキスケは帝国に帰る予定だけれども、俺やモモンガさんはしばらくはエ・ランテルにいるから、機会があったら遊びに来てね~」

「っはぁ……。機会があったら考えておく。尤も、エ・ランテルに転移の起点を作るついでになるだろうがな」

 

 ひらひらと手を振るペロロンチーノに、イビルアイは本来ならば感じるはずがない疲れ──おそらくは精神的な気疲れだろう──を感じながら含みを持たせた言い回しではぐらかす。最初の接触の際のペロロンチーノの言動で、若干だが苦手意識が芽生えているようだ。

 イビルアイから見て彼らがプレイヤーであるかどうかの疑惑は、プレイヤーの血を引いた神人の可能性も否定はできないが、結構な確率でそうであろうという所だ。問題はその本質が善性なのか悪性なのかだ。その部分が未だ読み切れていない状態でツアーに話を持っていくのは、起こす必要のない問題を引き起こす可能性がある。

 ラキスケが帝都へ帰るのに対して、モモンガ達はエ・ランテルに残るのは、この世界にやってきてからまだ日が浅い事からまずは生活基盤をしっかりと整えてからにした方が良いとラキスケに説得されたからだ。

 モモンガとしても親しいとはいえ、恋人がいるギルドメンバーの所に我儘を言って突撃しに行くほど非常識なつもりはない。だからエ・ランテルを自分たちの拠点として冒険の準備をすることは提案としては有りであった。それに、この世界の未知を切り開いてそれを彼に自慢したいという欲求もある。

 

「モモンガ、相手に困っていたら俺の所に来いよ。あの時の礼も兼ねてたっぷりと俺が抱いてやるからよ」

「あ、あはは……。謹んで遠慮させていただきます」

「おいおい、そんなつれないこと言うなよ」

 

 豪快に笑い飛ばすガガーランに対して、モモンガは苦笑いをしながら断りを入れる。モモンガの好みのタイプが黒髪巨乳系だ。肉食ガテン系のガガーランはモモンガにとって、彼女いない歴=年齢の童貞的に色々と相性が悪い。

 ガゼフは朝から王宮勤めのため、この見送りには来ていない。尤も、そうなることは先に分かっていたので、モモンガ達も既に別れの挨拶は済ませている。

 

「それでは、そろそろ出発しましょうか。蒼の薔薇の皆さん、またいつか友好的に会える日を楽しみにしています」

「こちらこそ、次に会う時もこうして協力できることを願っています」

 

 ラキュースとラキスケが互いに軽く頭を下げる。

 そして、ラキスケ達は背中を見せて歩き出していった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 時を遡って、八本指の一斉摘発が行われた翌日の夜。ランポッサ国王は秘密裏に一斉摘発に関わったレェブン候とザナック、ラナーを自室に呼び寄せた。

 ランポッサの懐刀であるガゼフとラナーの騎士であるクライムは部屋の外で警備にあたっている。

 一斉摘発によって制圧した拠点から運び出された、証拠品となる資料や物品の目録をガゼフから渡された者たちの表情は一様に険しい。

 貴族たちが八本指と癒着していた証拠品があまりに膨大だったことではない。確かに証拠品の多さは王国の腐敗を端的に表すものではあるが、それは覚悟の上であり、憤慨こそしてもここまで気持ちを沈ませるものではない。ならば何が彼の気持ちを沈ませているのか? 

 

「バルブロ……、なぜこのようなことを」

 

 ランポッサは悲痛な声で息子の名を零す。

 それは、証拠品の中にバルブロ第一王子が八本指と癒着していた内容があったことだ。それも一つの部門だけではない。

 奴隷売買の部門とは、バルブロが国王になった際に現在は廃止されている奴隷制を復活させる契約を、警備の部門とは王宮の警備や他国との戦争の際に六腕を含む戦力の提供を受ける契約を結んでいた。

 この二つの契約については、長が捕縛ないし死亡したことで大打撃を受けて実質的に有名無実化している。ここまではザナックも兄を王位継承権の争いから引きずり落すネタが手に入ったと内心喜んでいた。しかし、麻薬取引の部門から押収したバルブロに纏わる証拠品を確認した時、その笑みは凍り付いた。

 それはバハルス帝国やスレイン法国などの近隣諸国へ新しい麻薬を蔓延させる計画が記された書類に、バルブロの直筆のサインが記されていた事だ。

 事細かに記された計画書の内容を読んだレェブン候は、目頭を押さえて何度も見返しては顔を引きつらせてため息をついている。ザナックも、この情報は手放しに喜べないのか弛みがある顔が引きつっていた。

 ラナーは口元を抑えて嗚咽が漏れそうになるのを堪えているのは、ランポッサにとってもとてもつらいものがある。

 

「レェブン候よ。念のために聞いておくが、この書類は八本指が偽造したものではないのだな?」

「はい、陛下。残念ながら、この計画書に記されているサインの筆跡はバルブロ第一王子のものと一致しましたし、使われているインクも特別な物です。まぎれもなく、バルブロ殿下が自らサインしたものでしょう」

「そうか……」

 

 レェブン候の返答を聞いたランポッサの脳裏に、つい数日前の帝国の布告官の宣言文が思い出される。

 

 ──近隣諸国に広まっている麻薬に対して、リ・エスティーゼ王国がそれを黙認しているのは、人民を守る国家の義務を蔑ろにするものであり、近隣諸国に対する侵略行為でもある。

 

 布告官が開戦の理由に挙げた内容は、正鵠を射た指摘であったことを痛感する。

 しかし、これらの不祥事を無暗に公にすると、この証拠品の数々が王派閥と貴族派閥の争いの激化をもたらすことは目に見えている。

 八本指の根はどちらの派閥にも相当根深く食い込んでおり、下手すれば帝国との戦争が迫っているのを前にして国が割れて内紛が起きかねない。そうなれば、帝国は王国に統治能力はなしとみて、戦火に晒される事となる民を守るためと言った方便で侵攻を開始するだろう。

 だからといって下手に隠匿しようものならば、ただでさえ危うくなっている民からの王家や貴族への信頼は完全に失墜し、国が大きく荒れることになるだろう。

 

「陛下。此度の八本指の一斉摘発自体は、国の成果として公にするべきでしょう。ですが……」

「レェブン候、分かっている。少なくとも、この麻薬を蔓延させようとした計画に関してはバルブロの責任を追及することはできない」

「それは……兄上がこの計画で蔓延させようとしていたのが複数の国で禁止されている違法薬物ではなく、まだ認知されていない新薬だからですか、父上?」

「そうだ、ザナック。バルブロが八本指を利用して蔓延させようとしていたのは、この国を含む周辺国で存在自体まだ認知されていない新薬だ。たとえ八本指の者たちやバルブロがどのような物なのかを知っていたとしても、この新薬を規制して取り締まる法律がまだどの国にもない以上、麻薬取引の罪で裁く事は出来ん。この一件でバルブロに釘をさすことが出来ればよいのだが……」

「兄上ならば今の状況で問い詰めても、むしろ『敵国を弱体化させる作戦を何故妨害したのか』と開き直るでしょう。貴族の中にも、その考えに同調する輩が出てくるかもしれません」

「このような無辜の民を苦しめる方法で戦っても、帝国に大義名分を与えてしまうだけなのに……」

 

 ザナックの発言は、バルブロを次の国王に推している六大貴族のボウロロープ候、リットン伯と貴族派閥の貴族を念頭に置いたものだろうとランポッサは考える。特に貴族派閥の中心人物であるボウロロープ候は娘をバルブロに嫁がせている事もあり、強く同調する可能性がある。

 逆に同じ六大貴族のウロヴァーナ辺境伯もバルブロを推しているが、彼は王派閥であり、人間的な意味で魅力を持つ人物だから同調するとは考えにくい。

 ラナーの言葉にも、ランポッサは意識を向ける。一応は王派閥とされている六大貴族のブルムラシュー候は、金のために王国を裏切って帝国に情報を売り渡しているという噂がある。疑う余地のない決定的な証拠がない事から王国一の財力を持つ彼を処罰することが出来ないが、彼にこの情報を渡すわけにはいかない。

 

「今は八本指の力をできる限り削いでいく方策と、八本指に深く関わっていた貴族たちへの対応に注力するのがよろしいかと」

「そうだな。それと、協力してくれた者たちには何か謝礼を出してやりたいところだが……」

「冒険者は原則として、国の政に関わることに介入することは許されておりません。蒼の薔薇の方々は最高位のアダマンタイト級だからこそ、限度を超えなければ黙認されているにすぎず、もう一組の方々も個人的な事情で八本指に敵対していたとの事ですので、そのお気持ちだけで今回は十分と謝礼は固辞していました」

「そうか……ガゼフが話していた、カルネ村と言う開拓村を救ってくれたモモンガとペロロンチーノという御仁だったな。人間ではないそうだが、機会があったら王としてではなく個人として話をしてみたいものだ」

 

 ランポッサはガゼフが話していた恩人たちが、結果論とはいえ再び王国のために動いてくれたことを嬉しく思うと共に、本来ならば自分達が解決しなければならない問題に彼らの手を煩わせてしまった事への罪悪感を抱く。

 この埋め合わせは、この国を自分の代で少しでも健全な状態にした上でザナック、或いはラナーに王位を継承させて民が安心して住みやすい国へと変えていくしかない。

 今回の一件でランポッサの中では、国王をバルブロに継承させる考えは消えていた。今まではいつかは自分の気持ちを分かってくれると信じていたが、バルブロと八本指の深すぎる癒着は国をさらに衰退させ滅びへと向かわせる事だろう。これまでの自分の甘さがこの事態を招いたというのならば、自分が責任を取らなければならない。

 バルブロを正しい道へ進ませてやれなかった後悔と共に、ランポッサはこれからどうしていくのかを話し合う。その様子を覗いている不可視化された小さな蟲に気が付くものは、誰もいなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 琥珀色の輝きを宿した液体が注がれたグラスを持ちながら、彼は魔法による投射映像──リ・エスティーゼ王国に忍び込ませた情報収集に特化した蟲から送られてきた映像──を眺めながら鼻で嗤う。

 

「ふん。此処まで分かっていながら第一王子を始末する選択ができないか。ここまでくると凡庸を通り越して暗愚だな。親の情などというものに縛られているから、このようなことになるのだ」

 

 そう呟きながら、彼はグラスに口をつける。

 喉を焼くような熱が胃の腑から全身に広がっていく感覚は、この身体(・・・・)には心地よい。

 

「さすがは自国の女を戦力目的で孕ませてきた王様だね。言う事が違うよ」

「俺とて、力に目覚めたものがいれば少しは厚遇してやろうとは考えていたぞ。そう言う意味では、100年前のアレは実に惜しかった。あのインキュバスが狩りの邪魔をして余計な時間をかけさせなければ、奪われることもなかったというのに」

 

 紫色の毒々しい煙を上げるキセルを持った色白の女──ヒルマ・シュグネウスの言葉に、彼は現在の民たちの不甲斐なさを嘆くとともに、かつての記憶を思い出す。

 争いを嫌う無能な王を滅ぼして王となって間もない頃、かつて法国の切り札だった女を騙して捕らえ、犯した時のことだ。

 孕ませるところまでは上手くいったものの、子供が生まれる前に漆黒聖典に奪われた。その時はこの身体の同僚──確かビアンゴという名だった──が、エルフの王国の秘宝を持ち逃げして他の有象無象と共に脱走を図ったので、自分が直接始末しに出ていた。本来ならば時間をかけずに始末できるはずだったが、インキュバスの神官戦士が邪魔に入って逃げられただけでなく時間を浪費したことが拙かった。

 あの忌々しいインキュバスを思い出し、彼は舌打ちした。裏切り者は始末できず、所有物である子供は奪われ、八本指を使って王国を腐らせることによる法国への嫌がらせも未遂に終わった。

 

「まあ、法国への嫌がらせという意味では、あの国はまだ利用価値があるか。そうなると……」

「なんだい? 何か面白そうな悪だくみでも、思いついたのかい?」

「いや、大したことではない。どうせ今年の合戦で滅びる連中ならば、精々、俺の役に立ってから滅んでもらうだけだ。第一王子にも、リ・エスティーゼ王国にもな」

「おお、怖い怖い。それで、あたしは何をすればいいんだい? わざわざ私を手元に置いてこんな話をするんだ。私にやらせることがあるんだろう?」

「無論だ。王都の外でお前に作らせていた“ビースト”の過剰摂取による影響実験をあの国で行う。場所は貧民街辺りが良いな。騒ぎが起きたタイミングで王国の貴族や帝国に情報を流してやれば良い」

「なるほど、えげつない事を考えるものだねぇ。“ビースト”の副作用はとっくに知っているくせにさ。でも、帝国はそれに食いつくかい?」

「そこは相手の出方次第だ。どうなっても問題ないように、考えられるパターンをいくつか用意して、その時々で選べばいい」

 

 ヒルマは肉体こそ脆弱で母胎に相応しくないが、こちらの考えを汲む知恵と行動力に優れている所を彼は気に入っている。この数十年間滞っていた計画も、ヒルマとコネクションを作った2年前から順調に進むようになっている点も、彼の機嫌を良くしている。

 グラスに残っている液体を飲み干すと、彼はその場を後にした。長年の習慣となった自国の民に子を産ませるための作業があるからだ。折角スレイン法国との戦争という環境を用意したのに向上心を見せない民の事は、既に見限って方針を変えているのだから止めても良いのだが、急に止めてしまうと周囲から怪しまれてスレイン法国に気づかれる可能性があるため、なかなか止めることが出来ない。

 

「母体への着床率の改善と妊娠期間の短縮ができれば、無駄を減らせるのだが。ヒルマに開発させてみるのも面白いかもしれないな……いや、優先度はアレ(・・)の研究の方が上か。白金に気づかれないようにするには研究を行う人数を絞らなければならないのが困りどころだな」

 

 最強の竜王、ツァインドルクス=ヴァイシオンに気づかれれば、スレイン法国を巻き込んで滅ぼしてでも止めようとするだろうと彼は予想する。それだけの計画を彼は秘密裏に進めていて、ツァインドルクス=ヴァイシオンの始原の魔法(ワイルドマジック)は強力なのだ。

 この国そのものはどうでもいいが、計画の条件を満たせる環境を失うのは致命的だ。気づかれるにしても、もはや止める術がないところまで進んでから出ないと困る。

 

「わが父の願いは、私が引き継ぐのだ」

 

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