日が沈み、夜の顔を見せている帝都、中央通りから少し外れた場所にある建物──ロバーデイクが運営する孤児院では、誕生月である孤児たち──中にはいつ生まれたのかが分からないので孤児院に入所した日を誕生日としている孤児もいる──を祝う、月に一度のパーティが開かれていた。
孤児たちに出されているシチューは軟らかく煮られた野菜や根菜で具沢山、しかも普段とは違って孤児たちがお替りもできるだけの量が用意されている。大皿には小ぶりなハンバーグがたくさん積まれていて、美味しそうなソースの香りが食堂を満たしている。
ワイワイと楽し気にお喋りする孤児たちの世話をロバーデイクに任せ、ツアレとアルシェは子供たちが食べ終わった料理の大皿を片付けとデザートの準備に追われていた。
「ツアレ、こっちのお皿に載せたデザートを運んで頂戴」
「はーい」
デザートの盛り付けを終えたアルシェはデザートを載せたトレイをツアレに渡し、食後の飲み物の用意に取り掛かる。
デザートの内容は、余って硬くなってしまった残り物のパンを店から安値で譲ってもらい、卵液に浸して作ったパンプティング。食後の飲み物はかつての仲間が経営する店で仕入れた物を安く譲ってくれた柑橘類のジュース。
普段ならば特定の曜日にだけ素朴な味わいの絞りクッキーが添えられるだけなのだが、この日は誕生パーティ。小さいとはいえデザートとジュースが出されるのだ。
この孤児院でこのようなパーティが開けるのは、ロバーデイクがワーカー時代の稼ぎの多くを孤児院の運営に使っていることに加えて、帝国が優秀な人材になりうる子供を保護・確保する一環で行っている孤児院への支援制度を利用しているためだ。
育ち盛りな孤児たちの食欲は衰え知らずだ。ましてや普段はなかなか食べられないデザートとなればなおさらである。それでも孤児たちで奪い合いにならないのは、ロバーデイクがしっかりと教育した賜物だ。
「みんな、食後のデザートが用意できましたよ」
「やったー!」
「おいしそう!」
「ツアレお姉ちゃん、はやくー!」
デザートを載せたトレイを手にツアレが孤児院の食堂まで運ぶと、孤児たちからは歓声が上がる。
ツアレはロバーデイクと一緒に細かく刻んだナッツ類が振りかけられているパンプティングを孤児たちの前に並べていく。それから少し遅れてジュースの入った瓶をアルシェが運んできた。待ち遠しそうに席に座っている子供たちにジュースを注いだコップを配ろうとしたアルシェの前に、アルシェに似た二人の幼い少女がトテトテと歩み寄ってきた。
「お姉さま、私も配るー」
「私もー」
「クーデ、ウレイ。二人ともありがとう」
二人はアルシェの妹であるウレイリカとクーデリカ。大好きな姉のお手伝いをしたくてアルシェからジュースを受け取り、席で待っている孤児たちに配っていく。
そうして忙しくも楽しい時間は過ぎていき、お腹を満たした孤児たちが寝静まった頃、後片付けを終えた三人はアルシェが入れたハーブティーで一息つきながら談笑していた。
「本当にありがとうございます、ツアレさん。帝国からの援助のおかげで資金面は大きな心配はないのですが、元ワーカーの院長というのがどうにも敬遠されて人手不足なもので」
「気にしなくて大丈夫ですよ、ロバーデイクさん。後片付けとかは年長組の子供たちも手伝ってくれましたし」
「ウレイとクーデも手伝ってくれたのは嬉しかった」
アルシェが顔を綻ばせているのは血の繋がった姉妹の成長についてだ。二人ともまだ5歳だが白い頬をほのかに赤らめた様はまるで天使のようで、近い将来二人はとても美人さんになるとアルシェは思っている。
事実、ウレイリカとクーデリカの二人は孤児院でも人気者だ。仕事の傍らで孤児院の手伝いをしてくれるアルシェの妹という事もあるが、元々は貴族の生まれであることを感じさせる気品がありながら誰とでも分け隔てなく仲良くなれる人懐っこさは孤児たちにとっても好ましいようだ。
「本当にラキスケには感謝している。彼がいなかったら私たち家族は生きていなかったから」
「ええ。彼は私たちフォーサイトにとっても人生の恩人です」
フォーサイト。それはアルシェとロバーデイクを含む四人で構成されていたワーカーチームのチーム名だ。
チーム自体はリーダーの双剣士ヘッケランが相棒であるハーフエルフの野伏イミーナと結婚して解散しているが、今でもお土産を持ってきてくれたり商品を安く譲ってくれるなど良好な関係を築いている。
アルシェが思い出すのは、フォーサイト最後の戦いともいえる一年前の出来事。
二年前、フルト家は鮮血帝によって貴族位を剥奪された。アルシェは家族を養うために帝国魔法学院を出て、危険だが稼ぎの良いワーカーとなったが、当主である父親はいつか返り咲く日を夢見て散財しては借金を重ねていた。
ある日、依頼を終えて実家へと戻ったアルシェが目にしたのは、父親の散財の過程で集められた調度品が消えて空っぽになった応接室で大怪我を負って蹲る執事のジャイムスの姿であった。
そこにウレイリカとクーデリカ、そして両親の姿はない。
何が起きたのかアルシェがジャイムスを介抱して問いただすと、父親が懇意にしている金貸しの商人とは違う男達が借金の取り立てに来て一方的に財産を根こそぎ差し押さえ、それでも足りないと家族を連れて行ってしまったのだという。
「今でもあれはよく生き残れたなって自分でも思う。連れていかれた家族を救出するために、みんなにはとても迷惑をかけた」
「ズーラーノーンの十二高弟の一人、魔法を使いこなすトロール。あれは本当に恐ろしい相手でした」
ロバーデイクが思い出すのは、アルシェが自分たちに助けを求めてきた事だ。若くして自分と同じ第三位階まで修めているアルシェが、借金のかたに連れ去られた家族を助けてほしいと泣きじゃくりながら懇願してきたときはとても驚いた。
ワーカーとしてのリスク管理で鑑みればこのようなリスクばかりの面倒事は断るのが妥当だ。しかしアルシェにとって幸運だったのはフォーサイトのメンバーは彼女を妹のように可愛がっていた事。そして、アルシェの父親が借金していた商人が何者かに襲われて借金の証文を根こそぎ奪われていたという情報をヘッケランがたまたま耳に入れていたことだ。
だからこそ、フォーサイトはアルシェの家族を救出するために動いた。
その中で明らかになる秘密結社ズーラーノーンの暗躍。ズーラーノーンの構成員との死闘。そして立ちはだかるは十二高弟の一人にして、喰らった相手が習得している魔法を自らの物とする
アルシェが保有する
そんな絶望的な状況を覆してくれたのが、帝国魔法学院を出ていったアルシェを訝しんだフールーダが依頼した調査を引き受けた帝国最強のワーカーであるラキスケであった。
フォーサイトが一丸になっても敵わなかった相手を苦もなく倒し、儀式の生贄のために連れ去られたアルシェの家族を含む人々を無償で一緒に救出してくれた事は、ロバーデイクの脳裏に深き刻み付けられている。
この一件が切っ掛けとなって、フォーサイトは円満に解散となった。
ヘッケランとイミーナは結婚し、夫婦で雑貨店を営んでいる。
自分はズーラーノーンの被害を受けた孤児たちを保護するこの孤児院を運営している。
アルシェはフールーダが休学扱いにしていた帝国魔法学院に復学して無事に卒業。今は魔法省の職員として働いている。彼女の両親も恐ろしい経験をした上で娘が命を賭けて自分たちを救おうとしていたのを目の当たりにした事が良い方向に働いたのか、今では真面目に働いているそうだ。
アルシェが両親と離れて暮らしているのは、両親なりのけじめらしい。それでも、そう遠くない未来にまた一緒に暮らすことができるだろうとロバーデイクは思う。
三人はその後もラキスケの武勇伝を交えた雑談に花を咲かせ、食後のひと時を楽しむのであった。
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翌朝、冒険者組合を出た漆黒の剣のメンバーは、これからどうするかの話をしていた。
「朝早いっていうのに、エ・ランテルと比べて依頼があまり貼りだされていなかったな」
「帝国はモンスターの間引きなども帝国騎士が担っているから、王国と比べて冒険者の重要度が高くないとは組合の受付から聞いているのである!」
「需要が全くないわけではないけれども、この様子だと王国よりは冒険者への仕事の依頼も少ないみたいだね」
「滞在が長引く場合はある程度生活費を出してくれるっていう話ではあるけどなぁ……」
「彼のご厚意に甘えて何もしないのは、冒険者として……人として良くないですからね」
「だよなぁ……」
極端な話をすれば、生活を切り詰めればラキスケが出してくれる生活費の分で賄う事自体はできる。しかし、根本的に人が良い漆黒の剣のメンバーはそれを良しとせずに冒険者としての仕事の依頼を探していたのだが、王国のエ・ランテルと比べて帝国の帝都では仕事の依頼があまり多くないことにため息をついていた。
正確に言えば薬草採取などの依頼は一応あるのだが、帝都に来たばかりで土地勘がない彼らには不向きな依頼のため、確実にこなせるであろう他の依頼を探していたというべきだろう。
冒険者が必要とされる依頼が少ないことは、それだけ帝国の治安が良く冒険者に依存しなくても大丈夫であることの証左だ。しかしそれは同時に冒険者としては安定した稼ぎが少なくなる事に繋がる。
予想していたよりも帝国が繁栄していて、それでいて冒険者という職業が強く求められていない事実に一同は改めてため息をつく。
「まあ……悩んでいても仕方ないし、まずは予定通り装備の更新に行かないか?」
「そうですね。今日は地理の把握も兼ねて、市場や商店を見ていきましょうか」
「帝国の魔法技術は王国よりも進んでいるという話だから、どんなマジックアイテムがあるかも楽しみだね」
「新しい薬草なども補充したいところであるな!」
そういう事からペテル達が気持ちを切り替えて足を運んだのは帝都の中央市場だ。
イモ洗い状態に例えられる中央市場の人混みと活気は、エ・ランテルの中央広場と比べても負けていない。
ペテル達はどこにどのような露店や商店が並んでいるのかを確認し覚えていきながら、途中からは観光に近い気分で数時間ほど市場を見回っていた。
「さっきの所は”でぱーと”って言ったか? まさか一つのでかい建物にあんなに沢山の商店入っているなんて思わなかったぜ」
「高くて手を出せなかったけど、第三・第四位階の
「ポーションの質は流石にバレアレ薬品店の方が良かったであるが、それ以外の店と比べても品質にムラがなかったのである!」
「それではあと一軒くらい見たら、そろそろ目星をつけた商品を買いに行きましょうか」
「そうだな。それじゃあ……っと。お、あの店なんかどうだ?」
もはや観光気分となっているルクルットが指さした店の外見は、豪華さや派手さはないが清潔感がある。建材に使われている素材の新しさからオープンしてからまだそれほど経ってはいない店なのだろう。近づいてみると店名と思しき”フォーサイト”と書かれてた看板には、およそ半年前にオープンした日用雑貨・食料雑貨を取り扱う店であることが併記されていた。
「生活用品系のマジックアイテムだけじゃなくて食用雑貨も取り扱っているみたいだし、小腹もすいてきたからこの店で何か食うもの買っていこうぜ」
そうい言ってルクルットを先頭にしてペテル達が扉をくぐった先の店内はそれなりに広くしっかりとしていて、床もきれいに磨かれている。入り口側から見て右側は調理済みの食料品が、左側には生活用品系のマジックアイテムが並べられていた。
「いらっしゃい!」
来店したペテル達に気が付いた従業員と思しき男の身長は170センチ台中ほどで、年齢は二十になるくらいだろうか。金髪碧眼と日に焼けた健康的な肌をした近隣諸国では珍しくない外見をしている。
美形ではなく大勢いればその中に埋没してしまいそうな容貌だが、その顔に浮かべている薄く朗らかな笑顔や自身に満ち溢れた堂々とした所作からは、どことなく人を引き付ける魅力を放っていた。
「あれ? あそこにいるのって……」
店内を見まわしたニニャは、見覚えのある縁が青色のクロークを羽織ったエルフ──オリハルコン級冒険者のヴァージリッコを見つける。
その隣には仕立ての良い服を着た初老の男性もいて、何か説明をしているようだ。
ヴァージリッコの方も漆黒の剣の面々に気が付いたようで、軽く片手をあげて挨拶すると初老の男性を連れて近づいてきた。
「やあ、昨日ぶり」
「こんにちわ。初めて入ったお店でこうしてヴァージリッコさんとお会いするとは思いませんでした」
「自分は100年後を見据えて今からフラグを構築中」
「え、フラグ?」
意味の分からないことを話すヴァージリッコに対して困惑するニニャ。
反応したのは従業員の男の方だった。
「おーい、ヴァージリッコ。イミーナは俺の妻なんだからいい加減諦めろよ」
「諦めたら心が死んじゃうんだぞ、ヘッケラン。お前が大往生するまでは手は出さないから、それまではイミーナ嬢に貢がせて? というわけでこれを頂戴」
「……ったく、お買い上げありがとうございまーす」
ヘッケランと呼ばれた従業員はヴァージリッコが差し出した数枚の金貨を受け取ると、彼が指さしている商品を持ってくる。
その商品は端的に言えば、金属製の瓶だ。高さは15センチほどで、幅は大体10センチほどといったところの円柱状の形をしている。
「ヴァージリッコさん、この商品、飲み物を注ぐ瓶にしてはかなり高くありませんか?」
「ふふ、これは水差しではない。というわけで烈火の旦那、この商品の説明を彼らにお願い」
どのような商品なのかを尋ねたニニャに対して、ヴァージリッコは烈火と呼ばれた初老の男性に説明を丸投げする。
「その二つ名はもう返上したんだけどなぁ……わかった。これは俺が開発してこの店に卸した商品でな。名前はアイスクリームメーカー。砂糖・卵・牛乳の三種を混ぜて蓋をしてから起動させると、1時間もすればアイスクリームが出来上がる最新のマジックアイテムさ」
「アイスクリームって、作るのに料理人だけでなく氷の魔法を使える魔法詠唱者も必要な上に手間暇かけてようやく作れるっていう、王侯貴族とかしか食べられない菓子じゃありませんでしたっけ!?」
「それは一から手作業で作る場合の話だ。これは複数のマジックアイテムを組み合わせることでそれらを自動化している。流石に熟練の料理人と魔法詠唱者が合作で作るものには劣るが、材料があれば誰でも手軽に繰り返し作れるのは大きいぞ」
「ほえぇ、帝国ってこんなものまで売っているんだぁ」
帝国の魔法技術の高さと発想力に、ニニャは素直に関心する。
王国では魔術師組合がマジックアイテムの作成を一手に担っているが、魔法を軽視する傾向が王国貴族には根強く、国からの援助はほとんどない。そのため、庶民の生活の質を向上させるための新しいマジックアイテムの開発は滞っているのが現状だ。
昨日からこうも帝国と王国の差を見せつけ続けられると、このままでは王国に帰りたくなくなってしまいそうになる。今まで人生を捧げてきた姉の救出が叶い、更に別の人生の選択肢も提示されたことで王国に残る理由が薄れている事も影響しているのだろう。
「俺自身、数年前まではこっちの才能があるなんて思ってもみなかったんだぜ。戦争で1回死んで生き返った時は帝国騎士としての才能の限界を感じたもんだが、まさか余生の道楽で始めたマジックアイテムの開発がここまでうまくいくなんてなぁ。世の中、何が起きるかわからないもんだ」
「才能の限界なんて言われたら、かなりの数の帝国騎士が自信喪失しちまうぞ? 元帝国四騎士の一人、”烈火”のゲオルグ・ヴィルヘルムの旦那」
ヘッケランが明かした初老の男性の意外な過去に、ペテル達は再び驚かされるのであった。
詳細は描写せずに過去を盛っていくスタイル!
こういう時、ズーラーノーンの存在は便利ですね。
そのままでも金等級冒険者でようやく相手になるトロールが、第四位階魔法まで行使可能という現地の人々にとっての恐怖。
今後、最新話を投稿する際の投稿場所は、何処が良いか
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該当する章の最新話(今のまま)
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新たに最新話の章を設けて、そこに投稿