※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第十八話 ※エロ無し

 ラキスケたちが王都を出率してから数日後、リ・エスティーゼ王国のヴァランシア宮殿における宮廷会議は荒れに荒れていた。

 本来ならば八本指の一斉摘発を指揮した功績をザナック第二王子に与え、押収した証拠品で切り捨てる貴族と懐柔する貴族に選り分けるための会議であり、バルブロ第一王子も新しい麻薬を他国に蔓延させようとした計画は秘したまま他の部門との癒着を糾弾して謹慎させるはずだった。

 しかし、会議の前日になって王都の貧民街である問題が発生する。重度の薬物中毒者を摘発しようとしていた衛士が複数個所で殺害される事件が発生したのだ。

 最初の1件目は野犬の類に襲われて食い殺されたのかと思われた。

 その数時間後の2件目は折れた槍(スピア)や欠けた鎧着(チェインシャツ)から、王都に魔獣が入り込んだのかもしれないと騒ぎになった。

 真相が明らかになったのはそれから間もなく起きた3件目。3人で組んでいた衛士のうち逃げ延びた1人の衛士の証言によって魔狼(ヴァルグ)や悪霊犬(バーゲスト)を従えた人狼(ワーウルフ)が貧民街に出没し、衛士を食い漁っている事が明らかになったのだ。

 この情報によって冒険者組合に貧民街に出没したモンスター退治が依頼され、無事に討伐されてこの事件は終わりになる……はずだった。

 モンスターを討伐した金等級冒険者が目撃したのは、息絶えたモンスターたちの姿が瘦せこけた人間に変わっていく様子だった。

 冒険者組合が至急その遺体を調査した結果、正体は重度の麻薬中毒に陥った行方不明の貧民であった。

 さらに魔術師組合の協力で遺体の血中から抽出された薬物は、これまで王国で確認されているどの薬物とも合致しない新しい薬物だという事も判明。その効能は非常に強い多幸感と中毒性・凶暴性をもたらすのに加えて、過剰摂取によって人間を魔獣や獣人に変貌させてしまうという恐ろしくも悍ましいものであった。

 そんな中、王都ではある噂がどこからか流れる。

 

 ──曰く、バルブロ第一王子は犯罪組織と結託して周辺諸国に新しい麻薬を蔓延させようとしている。

 ──曰く、その麻薬は人を化け物にしてしまう物だという。

 ──曰く、その犯罪組織が一斉摘発されたことで一部でその麻薬が横流しされている。

 

 あまりにもできすぎた噂の出所はわからず、しかしその噂は驚くほどの速度で広まっていき、王城にもその噂は届いてしまった。

 それによってバルブロ第一王子を廃嫡し断罪するべしと非難する貴族と、これはバルブロ第一王子を陥れるための謀略であり、冒険者組合と魔術師組合こそが元凶であると非難する貴族に分断されることとなる。

 更には帝国が逆に流してきた麻薬であると言う者や、一斉摘発をした者達が行った自作自演ではないかと訝しむ者まで現れ、宮廷会議は混沌の様相を示していた。

 明確な根拠もなく互いに相手の派閥を非難し中傷しあう不毛な会議。

 

「お前たち、静ま──!」

 

 貴族たちの身勝手な発言の数々に耐えかねたランポッサ国王が、声を張って止めようとしたが、

 

「──ゴホッ! ゴホッゴホッ! ──」

 

 口を押さえて繰り返しせき込むランポッサ国王。

 バルブロ第一王子を次期国王に据えようとしている者たちにとっては、ただの咳でも国王の健康不安を煽って譲位を迫る事も切っ掛けにできる。いまだバルブロ第一王子への沙汰が決まっていない状態ならば、無理やりでも王位に就かせることもできるだろう。そうなれば、八本指との癒着や不正などいくらでももみ消せると踏んでいるのだ。

 ぺスペア候を推薦している貴族たちも譲位を迫ろうとする動きは同じだ。

 一方のザナック第二王子を推薦しているレェブン候にとって、このような事態は想定外で非常に困る状況だ。八本指の一斉摘発の指揮という形で功績をあげたザナック第二王子だが、バルブロ第一王子を追い落とす準備はまだ完了しているとは言い難い。そのような状況で貴族たちが国王に譲位を迫る動きを見せる切っ掛けを見せてしまったのはよろしくない。

 しかし、この時点での貴族たちの楽観的な目論見や悩みは、すぐに覆されることとなる。

 元より齢六十のランポッサ国王のほっそりとした体は以前から健康的とはいえず、顔色もよくはなかった。それに加えてスレイン法国と一部の王国貴族が画策したいくつもの村を巻き込んだガゼフ暗殺未遂や、八本指の一斉摘発で明らかになったバルブロ第一王子の不正の数々は、彼の心身をこの数日で急速に蝕んでいた。

 

「──ゲホッ! ゴホゴホッ! ゴヴォッ!」

「陛下!」

 

 口を押さえている枯れ木のような手指の隙間から、暗褐色の血がこぼれ出る。見開いた瞳の焦点は定まらず、空気を求める呼吸は浅く、すぐにせき込んで血を伴って吐き出してしまう。

 玉座から崩れ落ちそうになるランポッサ国王の体をガゼフが支えることができたのは、彼が国王の近くで不動の姿勢を保っていたからだ。

 

「誰か、神官を至急呼んでくれ!」

 

 ガゼフの悲痛な叫びが宮殿に響き、ここにきて会議に参加していた貴族たちも、国王の容態が想像以上に深刻である事にようやく気が付いた。

 このまま誰を次代の国王にするかを決めないままランポッサ国王に死なれてしまったら、バルブロ第一王子とザナック第二王子、そして多くの貴族たちからの指示が厚いぺスペア候の間で王位をめぐる権力闘争が発生することになってしまう。最悪の場合は三つの勢力に分かれての内戦だ。

 しかし帝国との合戦を前にしてそのような事態になればどうなるか……。そこまで気が付いている者は少数だ。そういった者たちの動きは素早かった。

 

「わ、私の親衛隊に神官がいる! すぐにでも連れてこよう!」

「なっ! レェブン候、抜け駆けするつもりか!」

「今はそんなことを言っている場合ではないだろう! 早くしなければ手遅れになってしまうぞ!」

 

 他の貴族と言い合う時間さえも惜しいといわんばかりにレェブン候は走り出し、宮殿の外に控えさせている親衛隊を呼びに向かう。

 

「私もクライムにラキュースを呼んできてもらいます!」

 

 ラナー第三王女も、アダマンタイト級冒険者であり友人でもある神官戦士のラキュースを連れてきてもらうために、宮殿の門前で警護に当たっているクライムのところへと向かう。

 

「お前たちが連れてきている配下の中に神官や薬師はいないか! いるならば至急呼んできてくれ!」

「私の配下に薬師がいる! 至急呼び寄せよう!」

「助かる、ぺスペア候!」

 

 ザナック第二王子は他の貴族たちにも治療に携われる部下がいないかを確認し、真っ先にぺスペア候が手を挙げた。

 少し遅れてボウロロープ候やウロヴァーナ辺境伯も争っている場合ではないと判断してそれぞれの部下に命じ、リットン伯やブルムラシュー候さえも自らの目的のために国王を救うべく動いている。

 今まで派閥に分かれていがみ合っていた者たちが、国王の危機を前に一致団結しているのは皮肉なものであった。

 ……たった一人を除いて。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ランポッサ国王が自室へと運ばれて駆け付けた神官や薬師たちによる治療を受けている中、中止となった宮廷会議で貴族たちによる非難の応酬の原因となっていた人物であるバルブロ第一王子は、自室で不機嫌になっていた。

 

「糞が。あいつらめ……」

 

 バルブロは堪え切れずに自分を追い落とそうとする者たち──脳内で思い描いたザナック第二王子やレェブン候への罵声を漏らす。

 次期国王の座をめぐる政敵である弟によって、帝国に勝つために準備してきた八本指との協力関係を台無しにされだけでなく、功績となるはずだった行動を悪行であるかのように風潮されたと感じたからだ。

 忌々しいといえば妹であるラナー第三王女もだ。顔は良いが頭の良くないあの女は、昔からわけのわからない綺麗事ばかりの思い付きをいくつも提案して会議を邪魔してきた。

 大半は賢明な貴族たちが潰しているが、いくつかは愚か者の協力によって成立してしまっている。

 国に属さない冒険者風情にモンスター討伐の報奨金を払うなどという無駄で無意味なことも、価値のない平民を少しでも有効利用するための奴隷制を廃止した事も、この国を衰えさせることにしかならないというのに。

 あんなくだらない事に無駄な時間と金を費やしていなければ、自分ならばもっと有意義に活かすことができたのにだ。

 

(それもこれも、あの死にぞこないの老い耄れが私に王位を譲らないからだ!)

 

 流石にこの言葉は誰かに聞かれてしまったら拙いと判断して心の内で吐き出すに留めるが、バルブロの憎悪の矛先は父親であるランポッサ国王にも向けられる。

 もはや宮廷会議に耐えることすらできないほど体は弱っているにもかかわらず、ザナックとレェブン候によって演出された見せかけの功績に踊らされて、長子継承というあるべき王位継承を行うことも決断できない優柔不断な役立たず。

 もはや正常な判断はできないほどに耄碌したと考えるのが妥当だろうとバルブロは結論づける。

 

(そうなると、王位を速やかにわが父から私へと譲らせなければならないが、今の状況でそれが叶うか? どうすればザナックやレェブン候を筆頭とした邪魔者たち黙らせて貴族たちの支持を得られる?)

 

 現状はバルブロにとって不利な状況だ。

 考えられる範囲で支持を得るために理想的なのは、今年の帝国との合戦で華々しい活躍を見せることだ。それも例年のような狩るぶつかり合いでは得られないような大きな功績が望ましい。

 どうしたものかとバルブロが思案していると、扉からコン、コン、とノックする音が聞こえてきた。

 思案しているところを邪魔されて不機嫌になるバルブロだが、ぐっと飲み込んで取り繕う。

 

「誰だ?」

「ブルムラシューにございます、バルブロ殿下。実は殿下と内々にご相談したいことがございまして、失礼ながらこうしてお伺いさせていただきました」

 

 ブルムラシュー候と言えば六大貴族の中でも随一の財力を誇り、王位継承の話題では我関せずの態度を示していた人物だ。

 確証はないが帝国との繋がりも噂されるような人物がこのタイミングであちらから接触しに来たのは何故か分からないが、誰かにこの場面を見られるわけにもいかないと考えたバルブロは、自室へと招き入れる。

 

「ふむ……入れ」

「ありがとうございます、殿下。内々の話が外に漏れ出てしまうのを防ぐために、防音のマジックアイテムを使わせていただきますね」

 

 扉を開けて入ってきた男の服装は豪華で、それなりに整った顔立ちはまぎれもなくブルムラシュー候だ。護衛を付けずにやってきたことは不用心としか言いようがないが護衛の者にも聞かせられないような話なのだろうか? 

 

「それで、相談したい事とはなんだ?」

「はい、実は──」

 

 

 ────────────────────

 

 

 八本指の今回の緊急会議もまた、ヴァランシア宮殿での宮廷会議と同様に荒れていた。

 まず、本来集結しなければならない全部門長が集まっていない。集まっていないメンバーは3人。

 1人はコッコドール。彼は一斉摘発によって各部門の拠点が襲撃された際に捕られてしまった事が明らかになっている。こちらは大きな問題にはなっていない。

 もう1人はヒルマ。彼女の拠点も襲撃を受けたが逃げ延びたという情報はあるものの、その後の足取りが掴めていない。これは裏切りの可能性ありという事で粛清の対象となる問題だ。

 しかし一番の問題は残る1人──八本指最強の男であり警備部門の長でもあるゼロだ。

 奴隷売買部門・麻薬取引部門・警備部門が連携し、2年前に八本指にたてついた人物を六腕総出で始末する計画だったが、結果はまさかの返り討ち。六腕全員が死亡し、しかも秘密結社ズーラーノーンと結託していたなどというどの部門も身に覚えのない嫌疑までかけられる始末だ。

 議論は紛糾する。

 ゼロの死で空いた穴をどうするか。コッコドールやヒルマはどうするか。

 どの部門も自分の手の者を据えようと行動し、牽制しあい、遅々として進まない。

 もしもヴァランシア宮殿でランポッサ国王が倒れたという情報が入っていなければ、さらなる追撃を警戒するためにお互いに妥協して協力し合う可能性もあっただろう。しかし、国王が倒れたことによる混乱で八本指を摘発する勢いは削がれ、彼らに余裕が生まれたのだ。

 五人の長と議長が話し合いという名の探り合いをしている中、会議室の扉が開かれた。

 

「あ~ら、遅れてしまってごめんなさ~い♪」

 

 甲高い声を上げながら部屋に入ってきたのは、勾留されているはずのコッコドールだった。

 首から下を完全に覆い隠すようにクロークを被っているが、この甲高い声と特徴的なケツアゴはまぎれもなくコッコドールであることを証明している。

 

「コッコドール! お前、釈放されたのか!?」

「いや、その前に……身体は大丈夫なのか?」

 

 彼らのもとに集まった情報ではコッコドールは両腕と左足を失い、右足も複雑骨折していて再起不能のはずなのだ。しかし、目の前に姿を現したコッコドールは両足でしっかりと立ち、クローク越しだが腕で扉を開けていた。部下を誰も連れてきていないのは不可解だが、失ったはずの手足が戻っていることと比べたら些事と言える。

 

「ヒルマが新しい手足を用意してくれたのよ。おかげでこうして元気よ~♪」

「ヒルマのやつが! それに、手足を用意……だと!?」

 

 コッコドールの口から行方知れずになっているヒルマの名が挙がった事もそうだが、失った手足の代替品を用意するなどという伝手が彼女に有ったことに部門長たちと議長は驚かされた。

 確かによく見ると、コッコドールの手足の動きはどこかぎこちないようにも見える。

 

「そうなると、お前を釈放させたのもヒルマが?」

「いいえ、この手足の具合を確かめるついでに貴方達にお披露目したくって……詰所の連中を皆殺しにして自主出所しちゃった♪」

「「「「「「……は?」」」」」」

 

 コッコドールの発言に部門長たちと議長は何を言っているのか理解できなかった。自主出所という事は要するに脱走だ。だがいくら衛士の実力が一般人に毛が生えた程度しかないとはいえ、皆殺しなどコッコドール如きの実力でできるとは思えないからだ。それに、コッコドールはこんなに陽気な性格ではなかったはず。

 困惑している彼らを余所にコッコドールは奴隷売買部門の席へと向かうと、全身を包んでいたクロークを脱ぎ捨てた。

 

「……なっ!」

「コッコドール……その身体は!?」

 

 コッコドールの身体を目視した者たちの驚愕と恐怖を含んだ視線が彼に集まる。

 コッコドールの頭から下は人間の体からは程遠い、異形の肉体となっていた。

 昆虫を彷彿とさせる褐色の外骨格で胴体と足は覆われていて、生半可な武器では容易く弾いてしまいそうな強固さを持っていそうだ。

 左腕は蟷螂の腕部のような構造の鋭利な刃が生えており、右腕も人間の腕ではなく蚯蚓が肩から生えていた。背中には翅があることから、飛翔することも可能だろう。

 数々の悍ましい所業を行い・行わせてきたと自覚している彼らですら、コッコドールの今の肉体には強い怖気を感じた。

 

「どう、この新しい身体は? 以前のひょろっとした脆弱な身体とは比べ物にならないでしょう♪」

「あ……あぁ。見るからに何もかも大違いだ……」

「あ・り・が・と♪ それでね、みんなに提案があるんだけれども」

「な、なんだ……?」

 

 本音では今のコッコドールには関わり合いになりたくないというのがこの場にいるほかの八本指のメンバーの総意なのだが、そのようなことを言った瞬間に彼に殺されてしまいそうな恐怖が勝っていて誰も口に出すことはできなかった。

 故にコッコドールの提案が終わり次第この緊急会議を終わりにして帰ろうというのが、普段は足を引っ張りあっている彼らがアイコンタクトで通じ合って出した結論であった。




コッコドール、まさかの蟲合成獣(インセクト・キマイラ)化。
ちなみに、コッコドールの脚は、蝗害を引き起こす飛蝗の群生相です。

今後、最新話を投稿する際の投稿場所は、何処が良いか

  • 該当する章の最新話(今のまま)
  • 新たに最新話の章を設けて、そこに投稿
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