※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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当初の予定ではあと1~3話くらい間を挟んでからこの話に入る予定でしたが、早く王国と帝国の戦争を書きたいと思い、詳細は省略されることとなりました。



第二十話 ※エロなし

 帝国の宣言から二ヶ月が経過し、茹だる様な暑さの真っ只中にある季節となった。

 その中でも城塞都市エ・ランテルは、普段の活気だけではない喧騒と熱気に包まれていた。

 熱気の発生源はエ・ランテルを囲む三重の城壁のうち、最外周部の城壁内。そこには無数の人がいた。ほとんどがぱっとしない恰好をした者たちばかりで、大半が平民だろう。その数、おおよそ二十万。

 如何に三ヶ国の領土に面していて人や物資、金銭などが多く行きかうエ・ランテルでも、この区画に常時二十万もの人間はいない。

 彼らが今ここにいるのは、迫っている帝国との合戦のために集められたからだ。

 一部の若者たちが、木と藁で形を作ってべこべこに凹んだ鋼鉄の鎧を着せて盾を持たせた的めがけて、刃の付いていない槍で突く戦闘訓練をしている。

 威勢の良い掛け声が飛び交うが、前向きな気持ちで声を出している者は少ない。ほとんどがこれから行われる命の奪い合いへの恐怖、訓練しなくては生きて帰れないという焦燥感などに突き動かされているだけだ。

 しかし、真面目に訓練するものばかりではない。むしろ歳が上に行けば行くほど戦意はなく、生きて帰る事だけを望む兵士の割合は多くなっていく。

 それでも、例年に比べれば全体としての戦意はまだマシな方であった。

 王国の各領地の村などでは、麦畑が収穫の時期に向けて先端を膨らませて金色に色づき始める時期だ。

 例年ならば収穫の時期に合わせて帝国との合戦が行われていたために収穫に回せる人出が減って泣く泣く無駄にせざるを得ない麦も相当量あったが、今年は時期が早まって収穫前に合戦が行われる。巧く生き延びてすぐに故郷の村に帰る事ができれば、収穫の時期に間に合うかもしれない。ひょっとしたら、例年ほど飢えに苦しまずに冬を越せるかもしれない。

 そういった根拠の薄い希望的観測に縋りつくように、照りつける太陽による暑さで倒れないように祈りながら、集められた兵士たちは必死に訓練を続ける。

 そんな兵士たちの横を、膨大な糧食を、物資を載せて膨れ上がった荷馬車が何台も走り抜けていく。

 無気力なそぶりを見せていた者たちが、その荷馬車を恐怖の目で睨みつける。自らのすぐそばまで近寄ってきた死神が振り下ろさんとする鎌を凝視するような眼差し。

 これから始まる事を理解している者たちは大抵そういう目をしていた。

 食料の大規模輸送。

 それは帝国との戦争の始まりが近い事を知らしめていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 エ・ランテル。三重の城壁の最内周部の城壁内。

 その中央に位置する場所にエ・ランテルの都市長であるパナソレイ・グルーゼ・デイル・レッテンマイの館がある。都市長という地位にふさわしいだけの立派な屋敷ではあるが、そのすぐ横に建築された建物と比べると幾分か見劣りしてしまう。

 エ・ランテルで最も立派に作られたその館は貴賓館。国王やそれに準ずる地位の人間が来た場合にのみ、開かれる館だ。

 そして現在、その館の一室にはザナック(・・・・)第二王子と大貴族を中心とする男たちの姿があった。

 例年ならば国王であるランポッサ三世が参加しているが、齢六十の高齢である事と二か月前に倒れてから未だに回復しきっていない事が重なって王都の城内で療養している。

 バルブロ第一王子もこの場にはいない。宮廷会議での一件以来、自発的に謹慎すると言って城内に籠ってしまっているからだ。こういう時にこそ自ら前に出ようとする彼らしくない態度と行動に周囲は訝しんだが、目前に迫っている帝国との戦争への対処が先決だったこともあって放置されることとなった。

 部屋の真ん中にある大きな机を、ガゼフを傍らに控えさせたザナックと共に主だった貴族達が囲み、そこに広げられた大きな地図を睨みつけ、帝国との戦争に向けて派閥を超えての綿密な打ち合わせ、そして激論を交わしていた。

 その激論も終わりが見え、皆の顔に濃い疲労の色を見せる中、レェブン候が口を開く。

 

「皆様、お疲れさまでした。これで、とりあえずは、ですが期日までに準備は終わりました。これより帝国との戦争に向けて計画を進行させます」

 

 レェブン候は全員を見渡すと、羊皮紙をその場の皆に見えるように持ち上げる。

 

「このように数日前に帝国から合戦の場所を記載した宣言書が届きました。それで戦場は──」

「もったいぶるな、レェブン候。いつもの場所であろう? というよりもあそこ以外にどこがあるというのか」

「そうです、ボウロロープ候がおっしゃる通り、例年の場所。呪われた霧のかかる地、カッツェ平野。その北西部すぐです」

「同じ場所をしてくるとは、帝国の侵攻も例年通りという事だろうな」

 

 貴族の一人が安堵するように言った言葉に対し、レェブン候は頭を横に振った。

 

「残念ですが、そうはいかないでしょう。帝国は今回、かなりの兵力を動員してきたという報告が上がっております。私の配下の元オリハルコン級冒険者チームに調べさせましたが、兵力は不明なれど、紋章は計五軍団分あったとのこと」

「五つも!?」

 

 ざわめきが場を支配した。

 帝国騎士団は一軍団で一万の騎士を総数で八軍団保有するが、今までの争いで参戦したのは最高で四軍団だ。昨年は三軍団だったが、今回はそれまでよりも多くの軍勢が動くという。

 

「帝国は本気……か?」

 

 貴族の一人が不安げな顔のまま口にする。

 今までの戦争は王国軍二十万対帝国軍四万で、帝国騎士に個々の力量で劣るのを圧倒的物量で拮抗させてきた。

 ……拮抗という言い方は正しくない。それまでの帝国の狙いは王国を徐々に疲弊させることであり、糧食を無駄に消費させることができれば合戦の目的は果たしたと果たしたことになる。

 

「例年よりも早い合戦と動員された数を考慮すると、今までのようなひと当たりで終わりというような軽いものでは終わらない事も考えるべきでしょう」

「……今からでも、追加徴兵はできないのか?」

「それは無理でしょう。今から改めて徴兵してもエ・ランテルに集結させて戦闘訓練を受けさせる時間も、先ほどまでの打ち合わせを一からやり直す時間もありません」

 

 帝国が本気で王国を獲りに来ている可能性を察知していたレェブン候としては、本来ならばより多くの兵力を動員したかったところだ。しかし、あの宮廷会議でランポッサ三世が倒れてしまったためにその対処に追われ、更に本来ならば八本指の一斉検挙を機に拡大するはずだった王派閥の勢いが削がれてしまった。その結果、動員兵力は例年通りを維持するので精一杯であった。

 ガゼフが進言しようとしていた、戦士団とともに戦う魔法詠唱者(マジック・キャスター)の部隊設立の話も、その煽りで立ち消えとなってしまっている。

 

「そうなると、戦士長殿と戦士団、そして私の精鋭兵団を早い段階で前線に投入するべきだろう。それにあたって殿下、一つ質問が」

 

 ボウロロープ候は一拍おいて自分の言葉に耳朶を集めてから発言する。

 

「此度の戦争、誰が全軍指揮を? 私であれば問題ありませんが?」

 

 場の空気が変わった。

 これは不穏な発言だ。質問の形でザナックに問いかけているが、実際の中身はまるで違う。そこにあるのは全軍の指揮権を寄越せという不可視の圧力。

 ボウロロープ候は軍隊の指揮官として優秀だ。彼が組織した専業兵士たちである総数五千の精鋭兵団は戦士団の戦士よりは弱いが、それでも帝国騎士と同等以上の実力がある。

 ましてや彼が今回の戦争で準備した兵数は、王国軍二十万のうち約四分の一である四万五千と貴族たちの中でも首位だ。

 ザナックには指揮官として優れた才覚も、バルブロ第一王子のような恵まれた体格も、妹であるラナー第三王女のような智謀も、そして父であるランポッサ三世のような人望もない。そのような人物が指揮権を持っていたとしても、貴族派閥に所属する貴族たちがそれを素直に受け入れるはずがないだろう。

 

「……ボウロロープ候、戦士団以外の指揮を候に任せる。全軍を無事、カッツェ平野まで進軍させよ。そして軍の展開、および陣地の作成を任せる」

「はっ! 畏まりました!」

 

 ボウロロープ候は完全ではないが欲しかった地位を得ることができたことを内心喜びながら、ザナックの命を受けて頭を下げる。

 本音を言えば戦士団の指揮権も得たかったところだが、あれは国王直属の部隊だ。今のザナックが国王の代理に近いとはいえ王子の一存で勝手にその指揮権を移すことはできないし、それを強く批判すれば国王に対して叛意ありと疑われてしまうかもしれない。だからこそ、ボウロロープ候もそれ以上は要求せずに引き下がった。

 

「他に何かあるものはいるか?」

 

 ザナックは暫し返答を待つが、質問に返すものはいなかった。

 

「……ならば出陣の準備を始めるぞ。明日にも出る。戦場まで二日はかかる見込みだ。準備は怠らないように。では、解散だ。ボウロロープ候、後はよろしく頼むぞ」

「畏まりました。殿下」

 

 出立の準備を整えるべく、貴族たちは続々と部屋から出ていき、残ったのはザナックとガゼフのみとなる。

 ザナックがゆっくりと首と肩を回すと、ゴリゴリという音がガゼフの耳にも届く。

 

「お疲れ様です、ザナック殿下」

「あぁ~。本当に疲れた。父上はこんなことを毎年やっていたのか」

「はい。陛下もこの会議が終わった後は、決まってその動きをして身体を解していました」

「ほぅ……そうなのか」

 

 王派閥と貴族派閥の縮図ともいえるこの会議をザナックは何とか乗り切った。その疲労は半端なものではないだろう。親子で似通っている部分を発見したことにガゼフは苦笑を浮かべる。

 

「……すまんな、戦士長殿。全軍の指揮権をボウロロープ候に取られてしまった。父上であればレェブン候に任せる事ができたのだろうが、俺では率先して動くボウロロープ候を選ばない理由が咄嗟に思いつけなかった」

「いえ、殿下のおかげで私の戦士団は候の指揮権から外れております。もし戦士団の指揮権も候に握られていたら、私たちは使い潰されていたでしょう」

「そうか……、そう言ってくれると俺も少し心が楽になる。レェブン候にも後で謝罪しておかなくてはな。……それにしても、父上の体を癒すための万能薬、その材料となる極めて稀少な薬草を手に入れられなかった事が、このような形で響いてくるとはな……」

「殿下」

「ああ、いや。あいつらを責めているわけではないんだ。蒼の薔薇には何の責任もない」

 

 ザナックはガゼフに弁明しながら、ラキュースから沈痛な面持ちで報告された内容を思い出す。

 三十年前、当時のアダマンタイト級一チームと随伴のミスリル級二チームによる合同依頼の時でさえ、非常に危険な任務だったといわれる、トブの大森林の奥地にあるといわれる超希少な薬草採取。今回依頼を引き受けた蒼の薔薇によれば、目的地周辺はあまりにも酷い惨状だったそうだ。

 大地は悍ましい汚濁をその身に満たした粘性生物(スライム)の群体が這い回り、森は枯れ果て、水は腐り濁り、空気は呼吸するだけでその身を蝕む。まさに地獄の一つが顕現したような環境。

 その粘性生物(スライム)の推定難度は平均して六十。特に中心部にあった超巨大な樹人(トレント)の死骸に住み着いていた超大型個体は推定難度百二十という規格外の怪物で、別件でトブの大森林を訪れていたある冒険者チームやその依頼人であるトブの大森林の湖に住まう蜥蜴人(リザードマン)達の協力がなければ、その粘性生物(スライム)達は餌を求めてトブの大森林を南下してエ・ランテルまで到達していた可能性もあったという。

 冒険者組合と魔術師組合に提出された粘性生物(スライム)の核の大きさと危険性から、その話は真実であったことも裏付けられている。

 

「……ままならないものだな」

 

 

 ────────────────────

 

 

 眼前には赤茶けた大地が広がっていた。緑がほとんどない荒涼たる大地。血染めの大地と口さがない者たちが囁く、死の大地。

 カッツェ平野──アンデッドやその他モンスターが蠢く場所であり、昼夜関係なく存在するアンデッド反応を示す薄霧によって危険な地として広く知られている。

 帝国ではフールーダ・パラダインの研究とあるワーカーチームの活躍によって、隠された居城の存在などがごく一部には明らかになっているが、王国と帝国が合戦を行う時だけ何故その薄霧が引くのかは今なおわかっていない。

 一本の線を引いたようにそんな大地と草原が隣り合っている様子も、カッツェ平野が呪われていると言われる所以でもあった。

 大地におおよそ一年ぶりの太陽の慈悲が降り注ぎ始める中、祝福なき地を見下ろすかのように、線を引いた向こう側──生者の世界に建造された巨大な建物がその威容を現す。

 周辺の草原では見当たらない大木を無数に使って造られた頑丈な塀の向こうでは、無数の旗が揺らめく。その中でも最も多いのは帝国旗──バハルス帝国の国章だ。

 この建築物こそ、帝国の対カッツェ平野駐屯基地。今回の出兵で動員される五万の騎士を含む多くの人間を一つの駐屯基地に収めることができるのだから、この基地がどれほど巨大であるかを語る必要はないだろう。

 この建築物はなだらかな広陵地帯の上に造られているが、これは数年間にわたって魔法も併用した土木作業によって地形を作り変えて建築したものだ。

 場合によっては王国軍数十万の兵を相手に籠城戦を行う事も考慮されたこの巨大要塞の建造に対して、王国は何の対処もしてこなかった。それは王国にこの駐屯地を攻め入るだけの戦力も余裕もなく、貧乏くじを引きたくなかったという単純な話だ。

 そんな巨大な駐屯地へと向かって三台の豪華な馬車が疾走する。

 草原にもかかわらずその馬車の動きが驚くほど安定しているのは、快適な車輪(コンフォータブル・ホイールズ)や軽量積荷(ライトウェイト・カーゴ)といった様々なマジックアイテムやそれに準ずる処置が施されているためだ。

 貴族であっても目玉が飛び出るほどのコストをかけて作られた超高級馬車を牽引する生物も、それにふさわしい特別なものだ。それは馬に似た魔獣、八足馬(スレイプニール)。

 一頭だけでも恐ろしいほどの値が付くこの魔獣をそれぞれの馬車の牽引に用いているのだから、掛かった費用は計算することを放棄したくなるほどだ。

 そんな馬車の周囲を警護するのは、見事な体躯の馬に乗った総勢四十名以上の帝国近衛の騎士達だ。その中で目を引くのが、先頭を進む女性騎士と最後方を務めている壮年の騎士。

 女性騎士の方は騎士槍(ランス)とは違う種類の歩兵が持ちそうな槍を装備し、面当てを上げているが、顔の右半分を白い仮面で覆っているのが異様だ。一方の壮年の騎士は武器を持たず、タワーシールドを二つ装備している。

 一般的な騎士からは外れている装備をした二人だが、その身を包む全身鎧(フル・プレート)を知らない騎士はいない。それは希少金属であるアダマンタイトで作られ、更には強力な魔法によって魔化された鎧だ。帝国でもこれほどの鎧は数えるほどしかない。

 その鎧を着る者たちこそ、帝国最強の四騎士、”重爆”レイナース・ロックブルズ、そして”不動”ナザミ・エミック。

 それだけではない。馬車の一団の上空には鷲馬(ヒポグリフ)に乗り、今は起動させていないが不可視化の魔法と同じ効果を発揮する超希少マジックアイテムを装備した皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の精鋭達と、レイナースやナザミの鎧と同様の材質・処置が施された全身鎧(フル・プレート)を身に着けた帝国四騎士、”激風”ニンブル・アーク・デイル・アノック。

 これほど厳重な警護を受けている馬車の一団の主人こそ、バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスその人である。

 更に馬車の一団の真ん中に乗るジルクニフとの相席が許されているのは二人。帝国四騎士筆頭、”雷光”バジウッド・ペシュメル、そして帝国最強の首席宮廷魔術師、”三重魔法詠唱者(トライアッド)”、”逸脱者”フールーダ・パラダイン。これほど厳重な警備を突破することは、たとえ最強の生物と呼ばれる種族、竜種であっても不可能であろう。

 鷲馬(ヒポグリフ)に乗って空を駆けるニンブルが先行して駐屯地に降り立ち、ジルクニフを乗せた馬車の一団が門前に到着すると、準備していた騎士や魔法詠唱者(マジック・キャスター)達が馬車へと集まる。

 例え中に誰が乗っていようとも、それこそ皇帝ジルクニフであったとしても駐屯地に確認なく入ることはできない。それも目視だけでなく魔法やマジックアイテムも使って幻術などによる変装や不可視化が行われていない確認するのが基本だ。

 これが王国であれば魔法を使用してまでの確認は行わないが、魔法技術を国家の柱とし魔法がどれだけ恐るべきものなのかを知っている帝国だからこそ、しっかりとルールとして確立し、魔法による警戒を強くしているのだ。

 担当する騎士たちが検査を始める中、レイナースがそのうち数名を呼び止める。

 

「貴方達は待機を。あと一台、いえ……一隻が降りて来るのでそちらの検査をお願いしますわ」

「畏まりました。しかし一隻? それに、降りてくるというのは一体?」

「ふふ……すぐにわかりますわ」

 

 微笑んだレイナースが指さした上空に騎士たちが視線を向ける。太陽に照らされている空を飛翔する鷲馬(ヒポグリフ)とそれに乗る皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の精鋭達の姿が見える。

 しかしよく見ると、その隊列は何かを囲むようになっている。まるで、そこに見えない何かが飛んでいるかのような。

 そう思った騎士たちの予想は正解だった。鷲馬(ヒポグリフ)達に囲まれている中央に今まで不可視化していたものが姿を現した。

 それは一隻の双胴船(カタマラン)だ。騎士たちの脳裏に、帝都に拠点を構えているというワーカーチームが保有する地上船の存在がよぎる。しかし記憶にある情報と比較すると、この船舶とは形状が異なり、大きさもだいぶ小さいことから、別物であると判断する。

 そんな双胴船(カタマラン)が馬車の一団から少し離れた場所にゆっくりと降り立った。全長は三十m程度と船舶としてはやや小型で、白く塗装された船体の全体に巧緻な金細工が施されている。

 既に馬車を検査している者によって中央の馬車に皇帝ジルクニフがいる事が分かっていなければ、こちらに彼が乗っていると言われても納得してしまうだろう。

 

「理論上は問題ないとわかっておりましたが、帝都から此処まで”プロト・ヴィマーナ”を問題なく運用できた事は大きな成果ですぞ、陛下」

「素晴らしいな、じい。船そのものもそうだが、乗り手が優秀であることがよく分かる」

「ええ。彼女は若くしてこの大任を勝ち取った秀才ですからな。陛下が褒めていたと知れば、彼女も喜ぶでしょう」

「へ、陛下!?」

 

 バジウッドとフールーダを護衛として、馬車から降りていたジルクニフの存在に気が付いた騎士たちが慌てて最敬礼を取ろうとするが、ジルクニフは手を前にかざしてそれを制する。

 

「ああ、最敬礼はよい。それより、速やかに規則に従って検査を進めてくれ」

「はっ! 畏まりました!」

 

 ジルクニフの命を受けて双胴船(カタマラン)の検査を始めた丁度そのタイミングで、船橋から甲板へと二人の人影が姿を現した。

 

「着いたか……思っていたよりも早く到着したな。お疲れさん」

「お疲れ様。今回は陛下の馬車と速度を合わせていたけれども、単独ならばもっと早くできる。それより、乗り心地はどうだった?」

「ああ、揺れは全くと言っていいほどなかったから、下手な馬車に乗るよりもずっと快適だったぞ」

「そう、それはよかった。今後のためにもその意見は参考になる」

 

 その二人のうち一人は少女だ。十代半ばから後半という所の少女は痩せぎすで、艶やかな金髪は肩口辺りでざっくりと切られ、鼻立ちは非常に整っている。美人というよりは気品があるという雰囲気の美だが、人形のような無機質さをやや感じさせていた。

 一方、もう一人は青く染められた髪と茶色い瞳の男だ。ほっそりとした体躯だが痩せてはおらず、むしろ実戦の中で鍛えられた引き締まった肉体をしている。

 装備は鎧着(チェインシャツ)の他にはベルトに引っ掛けた皮のポーチとネックレスに指輪、そして腰に下げた二本の武器と、騎士の重装備と比べると軽装だといえる。

 

「折角だ。カーベイン最高司令官より先にお前たちに紹介しておこう。彼女はアルシェ・イーブ・リイル・フルト。この試作魔導浮遊船”プロト・ヴィマーナ”の魔導操舵手だ。そしてこちらの彼が……此度の戦争でガゼフ・ストロノーフに対抗するために竜王国より臨時で雇った、”爪斬り”のブレイン・アングラウスだ」

 

 何者なのか? という疑問を浮かべる騎士たちに答えるように、ジルクニフはそう口にした。




カーベイン将軍「お願いします、陛下。前線には出ないで帝都で成果を心待ちにしていてくださいorz」

今後、最新話を投稿する際の投稿場所は、何処が良いか

  • 該当する章の最新話(今のまま)
  • 新たに最新話の章を設けて、そこに投稿
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