※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

26 / 39
第二話「カルネ村」

 カルネ村は帝国と王国の境界線となっている山脈──アゼルリシア山脈の南端の麓に広がる森林──トブの大森林の外れに位置する小さな村だ。

 人口は大凡120人の25世帯から成る村の主な収入源は森林でとれる森の恵みと農作物だ。薬師が薬草を得るために来ること以外では徴税吏が年に一度来るだけの、外から人がやってくることはほとんどない、時が止まったままという表現がぴったりくる村だ。

 そんな村のある日大きな出来事が起きた。深夜であるにもかかわらず闇を全て消し去ってしまうかのような大きな輝きと大地を揺るがすような爆音がトブの大森林の上空に確認されたのだ。この輝きと爆音を確認したのはこの村だけではなく、トブの大森林の南側から東側にかけての広範囲、さらには王国の城塞都市エ・ランテルや王国との国境近くにある帝国の都市でも確認された。

 木造の家の壁にある隙間や窓の薄いカーテンから入り込む強烈な光と、窓ガラスが割れてしまいそうになるような大きな音に、眠っていた周辺の村民たちは無理矢理起こされて騒然となる。

 すぐに光と音は消えたが、村民たちはいつまたあのような事が起こるのか、何か災いごとの予兆ではないのかと床に就く処ではなくなっていた。

 眠れない夜であろうとも村の朝は早い。太陽の出る時刻に村民は起き出すと、重い瞼を擦りながらしなくてはならない仕事を始める。

 血を流しながら森の中を走る、カルネ村の猟師のラッチモンもその一人だ。

 獲物を求めて狩りに出かけたラッチモンだが、普段よりもよく眠れていないことが災いして若干集中が欠けた状態で普段より深く森に入ってしまったため、気が立っている悪霊犬(バーゲスト)の接近に気が付けずに襲われてしまったのだ。

 森の賢王と呼ばれる大魔獣の縄張りだったこともあり、気が抜けてしまっていたのもあったのかもしれない。

 

(クソっ! なんて厄日だ!)

 

 体力の余計な消耗を抑えるために心の中で叫ぶに留めているラッチモンだが、余裕など殆どない。悪霊犬(バーゲスト)に対して対抗できるだけの力を持たない彼がこうして走って逃げることができているのにしても、悪霊犬(バーゲスト)が嗜虐性を満たすためにわざと獲物を甚振っているためか、あるいは狩猟遊戯(スポーツハンティング)の真最中だからだろう。

 ラッチモンは森の中で悪霊犬(バーゲスト)に襲われた時点で自分が生きて帰れる可能性は低いと考えていた。無論、生き残るために抵抗はするが、下手に真っ直ぐ村まで逃げてしまうと追ってきた悪霊犬(バーゲスト)によって村人たち──特に老人や子供たちにどれだけの犠牲者が出るかもわからない。

 そうなるくらいならば……と考えながら走っていると、前の茂みがわずかに揺れる。考えるよりも先にラッチモンが横に飛びのくと、茂みから悪霊犬(バーゲスト)が飛び出して頭にある前に突き出した二本の角で突き刺しにかかっていた。

 

「うおぉぉぉっ!」

 

 悪霊犬(バーゲスト)の角はラッチモンのすぐ脇を通り過ぎ、木に突き刺さる。

 先回りされていたのかとラッチモンは考えたが、それは後ろからもう一匹の悪霊犬(バーゲスト)が合流してきたことで最悪の形で否定される。

 一匹でさえ手に余る魔獣だというのにそれが二匹。ラッチモンの胸中では諦めが広がっていた。

 木から角を抜いた悪霊犬(バーゲスト)がもう一匹と共にラッチモンににじり寄ると、ラッチモンも同じだけ後ずさる。それを数回繰り返すうちに、ラッチモンは背中を木に抑えられてこれ以上後ろに下がることができなくなる。

 自分はどのようにこの悪霊犬(バーゲスト)たちに殺されるのか。すぐに死ねるならばまだいい。ひょっとしたら、此処からさらに甚振って動けなくしてから生きたまま貪り食われるのかもしれないと考えると、ラッチモンの膝は恐怖で震えてきた。

 その様子を見た悪霊犬(バーゲスト)達がただの獣にはできない邪悪な笑みを浮かべる。そしてラッチモンに向けてとびかかろうとした時、頭上から飛来した一本の矢が一匹の悪霊犬(バーゲスト)の頭蓋を突き破った。

 

「ギャッ!!!」

 

 突然のことに驚く悪霊犬(バーゲスト)とラッチモン。そこに茂みから草木をかき分ける音が聞こえてくる。

 ラッチモンがその方向に目を向けると、そこには一つの死そのものが存在した。

 

「あっ……、あぁぁぁ……」

 

 ラッチモンは弱弱しい悲鳴を上げる。

 細やかな装飾の入った漆黒のローブを纏い、白骨化した頭蓋骨の空虚な眼窩には、濁った炎のような赤い揺らめきがある。それがラッチモンに向けられ、次いで悪霊犬(バーゲスト)に向けられると、肉も皮もない骨の手を悪霊犬(バーゲスト)に向けて──

 

《魔法の矢(マジック・アロー)》

 

 死を体現した存在から放たれる10の光弾が悪霊犬(バーゲスト)に殺到し、悪霊犬(バーゲスト)は糸が切れたように崩れ落ちた。

 

「悪霊犬(バーゲスト)程度であれば第一位階の魔法でも一撃で仕留められるのは、ユグドラシルと変わらないのか」

「モモンガさん、周囲にはほかに悪霊犬(バーゲスト)とかはいないよ。って、おっさんの怪我やばいじゃん。はい、ポーション」

 

 モモンガと呼ばれたアンデッドの隣に降り立つように、キラキラ輝く金色の派手な鎧を着用した鳥の頭をした亜人が上空から降りてくる。こちらの様子を見た亜人は此方に駆け寄ると、懐から赤い液体の入った瓶を取り出す。

 

「そ……それは一体?」

「何って、治癒のポーションだけど。……ひょっとして、この辺りではこういうの無かったりする?」

「あっ……い、いや。俺が知っているポーションはどれも青かった(・・・・)から」

「ああ、そうだったんだ。とりあえず、危ないものじゃないから飲んで」

 

 ラッチモンは人懐っこそうな亜人に言われるままに受け取ると、一息でそれを飲み干す。そして驚きの表情を浮かべた。

 

「そんな、嘘だろ……。傷が……」

 

 自らの体を触り、信じられないかのように繰り返し体を捻ったり屈伸したりする。

 

「痛みはなくなったか。《記憶操作(コントロール・アムネジア)》」

 

 いつの間にか仮面を被り、無骨なガントレットを腕にしたアンデッドが何かを唱えると、ラッチモンは不思議な感覚に見舞われた。

 俺はなんで助けてくれた魔法詠唱者(マジック・キャスター)に怯えたんだ? 怪しい仮面はしているし、ガントレットも魔法詠唱者らしくないけど、それにしたって命の恩人に失礼だろう。

 二人は何か話しているが、先ほどまでの自分について考え事をしていたラッチモンには聞こえなかった。助けられたからにはお礼をするべきだろうと考え、ラッチモンは二人に話しかけた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 普段ならば日が沈み始める時間には獲れた獲物を持ち帰ってきている猟師のラッチモンがまだ帰ってきていないことに、昨夜起きた眩しい光の一件もあって村人たちは不安を覚える。

 この狭くて人口も少ない村では住人は皆親戚のようなものだ。

 大人たちで探しに行くべきかという話が出て道具を持った村人たちが森に繋がる村の入り口に集まったところで、ラッチモンが奇妙な二人組を連れて森から戻ってきた。

 一人は顔をすっぽり覆う、泣いているような、怒っているような形容しがたい表情が彫られた仮面を被った人物だ。無骨なガントレットを両手にしており、吸い込まれるような漆黒のローブを纏った姿は絵本に出てくるような悪い魔法詠唱者(マジック・キャスター)に似ているような気がした。

 もう一人はキラキラ輝く金色の派手な鎧を着用したおそらく……亜人だ。姿は人の形をしているが、猛禽類のような鳥の頭をしていて背中には二対の翼が生えている。それに、肘と膝から先も鳥の鉤爪になっていて、立派な鎧を着ていなかったらモンスターと言われても納得してしまうかもしれない。

 

「聞いてくれ、みんな。彼らは俺が悪霊犬(バーゲスト)に襲われていたところを助けてくれた恩人だ。それだけじゃない、ポーションも使ってくれたおかげで、大怪我も治してくれたんだ」

 

 ラッチモンの言葉に集まっていた村人たちは騒めく。

 治癒のポーションと言えばそれ一本を買うだけで金貨が必要になるような高級品だ。

 そのような高価な物を使って治療してくれたことに感謝するとともに、態々そうしたからには何か大きな対価が求められるのではないかと不安になったからだ。

 

「お騒がせしてしまって申し訳ない。私はモモンガ、そして此方は友人のペロロンチーノと申します」

「バードマンのペロロンチーノです。よろしく」

 

 頭を軽く下げて自己紹介をする二人組に、村人たちはどうするべきか小声で話し合う。

 ──バードマンという種族は聞いたことがないぞ。

 ──こんな村に何のために来たのだろう? 

 ──昨夜の出来事と関係があるのだろうか? 

 村人たちが疑問に思う中、村長が人だかりから一歩前に出て話を聞く。

 

「村長ですが、この度はラッチモンを助けていただきありがとうございます。それで、どのようなご用件で村を訪れたのでしょうか?」

「実は、この村に少しの間泊めていただきたいのです。もちろん、対価はお支払いします」

 

 そう言ってモモンガと名乗った魔法詠唱者(マジック・キャスター)風の男はローブから二枚の金貨を取り出した。一枚が男性の横顔が、もう一枚は女性の横顔が彫られた立派な金貨だ。

 

「……これでお支払いしたいと言った場合、どの程度の間、滞在できますか?」

「見たことがない金貨ですので、おそらく使えるとは思いますが交金貨と比べてどの程度価値があるのかを確かめてからになってしまいます。それに、この村では基本的に銅貨や銀貨を使っていて金貨は基本的に使用していないので、ラッチモンを助けていただいたお礼も含めてお釣りの貨幣をお支払いできるか……」

「これは非常に、非常に遠い地で使われていた硬貨です。確かめていただいても構いませんよ。それと、先の御礼を含めて貨幣が足りないようでしたら、代わりに数日ほどこの村の宿に泊めさせていただくのを報酬とさせていただいて構いません」

「おお……、ありがとうございます。ですがよろしいのですか?」

「ええ。自分で言うのもなんですが、私たちのような怪しい者たちをいきなり追い払おうとせずに話を聞いていただけた、少しばかりのお礼です」

 

 自分達よりもいかにも強そうな亜人を連れた魔法詠唱者(マジック・キャスター)を追い払おうだなんて怖くて言えなかった。村人たちは一同に心の中で思うが、それを口にしないだけの常識はあった。

 それに、ラッチモンを助けてもらった恩があるのにそのような恥知らずなこともしたくない。

 

「それではその金貨の価値を調べるために、お二人ともひとまず私の家に来ていただけませんか?」

「ええ、私は構いませんよ。ペロロンチーノさんも構いませんよね」

「ええ、俺も構いません」

「ありがとうございます。それでは案内しますので……こちらです」

 

 この場での交渉がまとまり、村長はラッチモンと共に二人を連れて自宅へと歩き出す。

 村長の自宅に二人とも入って玄関が閉まるのを確認した村人達は、思い思いに自分の感想や考えを小声で話しながらそれぞれの自宅に戻っていく。

 エンリ・エモットも畑仕事から帰る途中でその場面に出くわし、一部始終を見ていた。

 家に戻ったエンリは、夕食の席で両親と妹のネム・エモットにその内容を話す。

 

「まあ、そんなことがあったの。ラッチモンさんが無事に戻ってきて本当に良かったわ」

「旅人さん、どんなお話聞かせてくれるかな。お姉ちゃん?」

「ネム。旅の方は吟遊詩人ではないと思うから、そういうのは駄目よ」

「えー」

 

 村人が無事戻ってきたことを嬉しそうに話す母親に対して、ネムはやってきた者たちから面白そうな話を聞かせてもらえるかもとワクワクしているようだ。

 娯楽のほとんどないこの村では、薬師の人の護衛として訪れるような冒険者の話も貴重な娯楽となる。

 妹の気持ちもわからなくはないが、旅人たちから無理に聞き出そうとするのは失礼だろうとエンリは妹を窘める。

 それに、まだ幼いネムはともかくエンリや両親には毎日の畑仕事や薪拾いがあるのだ。昨夜あったようなことが今夜も起きたら、寝不足で仕事に差し支えてしまう。

 そうならないことを祈りながら夕食をとるエンリ達であった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 旅人を泊める際に使う家屋の中で、モモンガが粗末なつくりの椅子にもたれかかると、椅子はモモンガの体重に鋭敏に反応してミシリミシリと嫌な音を立てる。

 ペロロンチーノは木製の壁に体を預けて寄りかかっている状態だ。

 

「いやぁ、無事に泊めて貰えてよかったですね、モモンガさん」

「そうですね、ペロロンチーノさん。昔たっちさんから教えてもらった、『情けは人の為ならず』の正しい意味を実感しましたよ。今は骨ですけど」

「それを行ったら俺は鳥人間ですよ」

 

 笑い合いながら二人は集まった情報を整理し始める。

 

「俺たちがこの村を訪れて分かったことは、まずはこの世界はユグドラシルではない事です」

「ええ。リ・エスティーゼ王国やバハルス帝国、スレイン法国といった名前は、ユグドラシルや元ネタの北欧神話には無かったはず」

「その辺りは、遠い所から旅をしているのでこの近辺の国名が正確に伝わっていなかったということにして誤魔化せましたけど、今後は気を付けないといけませんね」

 

 二人が周辺地理の名前を確認すると、モモンガはローブから幾つかの異なる貨幣を取り出す。

 

「次に、貨幣についてです。この周辺の国では大別して4種類の単位の貨幣が使われていて、下から順番に銅貨・銀貨・金貨・白金貨に分かれています」

「確か、ユグドラシル金貨がコウキンカ2枚分の重さだったね。村ではほとんど銅貨と銀貨が使われていて、金貨は殆ど使わないし、白金貨になると使ったこともないと」

「ええ。ユグドラシル金貨はまだ十分な量がありますが、今後生活していくことを考えると小規模な買い物に使う銅貨や銀貨も必要になってきます。白金貨はなくても当面は大丈夫でしょう」

 

 そう言って、モモンガは取り出した貨幣をローブに仕舞い直して話を続ける。

 

「それに、この世界にも魔法詠唱者(マジック・キャスター)が存在することも分かりました」

「ラッチモンさんの話では、近くの都市に住む薬師が魔法詠唱者(マジック・キャスター)で、ポーションを作っているみたいだけど色は青色だって言ってた。ユグドラシルのポーションのような赤色の物は見たことがないってさ」

「ポーションの素材が違うのか……それとも作る工程が違うのか」

 

 情報を集めるほど新たな謎が湧いてくる状況に、頭を悩ませる二人。しかし、それよりも頭を悩ませる自体があった。

 

「そして、森で発生したという謎の現象についてですけど……」

「ええ……闇夜をかき消すような光と大地を揺るがすような爆音。これって……」

「「俺たちが最期に打ち上げていた花火ですよね」だよね」

 

 自分達がユグドラシルで最後に行った行動でこの村に迷惑をかけてしまったことに、二人は罪悪感を覚える。

 いち早く復帰したのはモモンガの方だ。アンデッドの種族的特殊能力である精神作用効果無効による強制的な精神の安定化によるものだ。

 

「ラッチモンさんが悪霊犬(バーゲスト)に襲われたのって、夜に花火で起こされたことで気が荒くなっていたからですよね……」

「助けたお礼を言われたけど、原因がこっちにあるから良心が痛む……」

「この村、すぐ近くの森が『森の賢王』という魔獣の縄張りだった影響で、村ができてからずっと村をモンスターに襲われたことがないそうです。その影響もあって村を覆う柵もなかったとか」

「モモンガさん。提案なんですけど、少しの間この村に滞在して森を見回りしません? 森の賢王とかもイライラして村を襲ってくる可能性もゼロではなくなっていますし、こうして泊めてくれた村が滅びましたとか後味が悪すぎるよ」

 

 ペロロンチーノの提案にモモンガは腕を組んで考える。小鬼(ゴブリン)や悪霊犬(バーゲスト)は大したことないから問題ない。問題があるとしたら伝説の魔獣と言われている森の賢王がどの程度の強さなのかだ。もしもレベル100プレイヤーでも危険な相手だった場合、後衛二人組では不意の一撃が怖い。かと言って、放置してカルネ村に問題が起きるのも訪れたばかりというタイミング的に良くない。

 それに、この体になってから人間に対する同族意識が薄くなっているが、助けた人間がいる村に害が及ぶのはなんか嫌だし、ペロロンチーノが嫌がっているのを無視して放置することでもない。

 

「うーん……、そうですね。いつまでもという訳にはいきませんけど、2~3日くらいは見回りしておきましょうか。それから先は村の自己責任ということで」

「ありがとうございます、モモンガさん」

 

 その後、二人は他にもわかった事や今後の予定を確認していく。

 途中でペロロンチーノが「この村の女性達って昔は綺麗そうだったり、これから綺麗になりそうな子たちばかりだと思いません?」といってモモンガにドン引きされたりしたが、この日は特にこれ以上の騒動はなく夜を迎えるのであった。

 

今後、最新話を投稿する際の投稿場所は、何処が良いか

  • 該当する章の最新話(今のまま)
  • 新たに最新話の章を設けて、そこに投稿
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。