※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第五話「騎士の襲撃」

「ふわぁ~~~。あれ? ここは……ああ、思い出したでござる。昨夜は村で一晩過ごしたのでござった」

 

 早朝、ハムスケはカルネ村で目を覚ました。

 簡単に身繕いをしてから朝食のために森へ向かおうとする途中、井戸で水を汲んでいる胸元位の長さに伸ばした栗毛色の髪を三つ編みにしている少女──エンリ・エモットと出会った。

 

「おはようでござる、村人殿」

「おはようございます……っへ? きゃっ!」

 

 声を掛けられたエンリがハムスケの方に振り向くと、驚いて甕に汲もうとしていた水桶を井戸に落としてしまう。

 

「す、すみません。森の賢王様、驚いてしまって」

「こちらこそ仕事を邪魔してしまって申し訳ないでござる」

「いえ、森の賢王様が謝る事ではありません。それで、何か御用でしょうか?」

「朝食を採りに森へ向かう途中で村人殿を見かけたので、一声かけておこうと思った次第でござる。この時期は瑞々しい果実が実る頃でござるから、ついでに幾つか村人たちの分も持ち帰ってくるのでござるよ!」

「そんな、良いんですか!?」

「構わないでござる。短い間とはいえ殿たちや某の寝床を用意してくれているささやかな御礼でござる」

「あ、ありがとうございます。森の賢王様」

 

 ハムスケの心遣いにエンリは恐縮しながら感謝の言葉を述べる。

 村で果物を食べる場合、大抵は保存性を良くするために干し果実にしてから食べるので、瑞々しい果実を食べる機会というのは意外と少ないのだ。

 

「そういえば、名前は何というのでござるか? 某は殿たちからハムスケという名前を頂いたでござるが」

「私ですか? 私はエンリ、エンリ・エモットと言います」

「エンリ殿でござるか。……うむ、村人殿と呼ぶよりもずっと親しくなれたような気がして良いでござる。某の事は気軽にハムスケと呼んで欲しいでござるよ」

「分かりました。ハムスケ様」

「それではエンリ殿もお仕事頑張って……ん?」

 

 お互いに名前で呼ぶのを確認したハムスケは満足そうにしながら森へ向かおうとするが、途中で足を止めて耳と鼻をひくつかせ始める。

 

「ど、どうかしましたか? ハムスケ様」

「エンリ殿。この村に馬に乗った集団が近づいているのでござる」

「一体、何でしょうか?」

「某が様子を見てくるから、エンリ殿は殿たちにこの事を伝えて欲しいでござる」

 

 ハムスケはエンリに言伝を頼むと、来訪者の集団を感じ取った方向へ走り出す。

 エンリは漠然とした不安を抱きながら、ハムスケに言われた通りモモンガ達が宿泊している家屋へと向かうのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 モモンガとペロロンチーノは宿泊している家屋の中で、交代で正面に据えられた鏡の前で何やら珍妙な動きをしていた。

 直径1メートルほどの鏡の中に映っている像は、二人の姿ではなくて草原で、二人が手を動かす度にその光景も様々に動く。

 二人の目の前にある鏡の名は遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)。指定したポイントを映し出すマジックアイテムで、一見すると便利そうだが低位の対情報系魔法で簡単に隠蔽されるうえに、さらには攻勢防壁による反撃を受けやすい欠点があることから微妙系に数えられるアイテムだ。

 手持ちのアイテムを確認するついでに整理していたら出てきたこれを見たペロロンチーノが、その場のノリで使ってみようと言い出したのが始まりである。

 

「この動きだと……画面をスクロールして、こうやると視点変更して同じ場所を観察するのか」

「うーん。いくつかの動作は分かったけど、もうちょっと俯瞰した画面じゃないと見られる範囲が狭いな」

「ユグドラシル時代ならばコンソールで簡単に操作できたんですけどねぇ」

 

 モモンガが言うように、使い始めてみるとこれもこの世界に来てから使い方が変わったアイテムだったようで、それまでは表示されたコンソールで操作していたのが手の動きに反応して操作することが分かり、現在その操作方法を検証中である。

 正直に言うと既に鏡の操作に飽き始めているが、あともう少しで使い方が一通り分かるところまで来ているのにそれを投げだすのもなんかなと思い、せめて俯瞰の高さを調整するやり方が分かるまではと惰性で続けていた。

 モモンガが虚ろな面持ちで適当に手を動かしていると、鏡に映る光景の視点が大きく変わった。

 

「おっ!」

「おおっ! 一気に映る範囲が広がりましたね、モモンガさん。どんなふうに動かしました?」

「えっと……確かこんな風だった気がするから。よしよし、そうなると反対に動かせば……やった!」

 

 何度か似たような行動を繰り返して俯瞰の高さ調節の方法を特定すると、モモンガは一旦鏡の操作を手放して背伸びする。アンデッドの肉体なので疲労はしないが、気分的な疲れはじわじわと溜まっていっているような気がしたからだ。

 

「お疲れ様、モモンガさん」

「いやー、中々結果が出ない間はいつまで続けるんだって思っちゃいますけど、こうやってひと段落すると達成感がありますね」

「そうですね。それにしても、麦畑ってこうやって見ると綺麗だね。昔の小説なんかでは黄金のカーペットとか表現していて本当かよって思っていたけど、ブルー・プラネットさんはこういう光景を見たかったのかもしれないよ」

「ブルー・プラネットさんがこの世界に来ていたら、どれだけ興奮していたかなぁ」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーにして現実世界(リアル)ではほとんど失われてしまった自然をこよなく愛した男の事を二人は思い出す。

 すると、玄関の扉がノックされる音が響いてきた。

 

「ん、誰だ? ……はい、どちら様ですか」

 

 ギルドメンバーとの思い出を思い返すことを邪魔されたことにモモンガは少し苛立つが、気を取り直して遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)をしまう。建物の中などは見れないにしても、村人たちを観察できるアイテムを出したままにしておくのはあまり良くないだろうと考えての事だ。

 

「失礼します、モモンガさんとペロロンチーノさんですね。ハムスケ様から伝言を預かってきました」

「君は……ネムちゃんのお姉ちゃんのエンリちゃんだね。どうしたんだい?」

 

 入ってきた少女は、昨日ペロロンチーノが一緒に遊んでいた子供たちの姉のようだ。自分達にはさん付けでハムスケに対して様付けなのは、やはり森の賢王として結果的に村を守ってきた100年間の違いだろう。

 それにしてもハムスケからの伝言とは、一体何があったのだろうか。

 

「ハムスケ様が馬に乗った集団を感じ取ったと言って様子を見に行ったので、モモンガさんたちにもそのことを伝えて欲しいとの事です」

「馬に乗った集団? 一体何だろう?」

「トブの大森林で発生した現象の調査隊とかでしょうか? とりあえず、ハムスケの所に行ってくるからペロロンチーノさんは村の周辺を一応見張ってくれませんか?」

「分かったよ。モモンガさんも気を付けて」

 

 

 ────────────────────

 

 

 カルネ村に近い草原に隠されているような街道に、十人を超える複数の人影がそれぞれ馬に騎乗して歩を進めていた。

 全員が面頬つき兜(クローズド・ヘルム)を被り金属製の全身鎧を着こんでいて、胸元にはバハルス帝国の紋章が刻まれている。

 

「ふわぁ……、次はこの先の村だ。とっとと始めるぞ」

 

 隊長と思しき男が、欠伸をしながら部隊に命令を下す。その男からは緊張を感じさせる雰囲気は皆無であった。

 隊長の不真面目な態度に、部下の一人であるロンデス・ディ・グランプは面頬つき兜(クローズド・ヘルム)で相手に表情が見えないことに感謝しながら顔を顰める。

 隊長の名はベリュース。祖国であるスレイン法国ではある程度の資産家で、戦士としての力量も心構えも素人にもかかわらず箔を付けるために今回の作戦に参加している。

 実際、この男はある目的のためにバハルス帝国の騎士に偽装してリ・エスティーゼ王国の城塞都市エ・ランテル周辺の村々を襲撃する今回の作戦で、村娘に襲い掛かって己の下衆な欲望を発散しては部下に殺害させるような、品性を疑わざるを得ない行動を度々行っている。

 

「ああ、そうそう。若い女がいたらすぐには殺さずに連れて来い。お前たちにも少しは役得を与えてやる」

 

 にやついた顔でそんなことを指示するのだから、今回も同じようなことをするつもりなのだろう。

 この言葉に対する反応は侮蔑と歓喜の二つに綺麗に分かれている。侮蔑は元々祖国の部隊に所属する正規の軍人たち、そして歓喜は今回の作戦に当たってベリュースが部隊に加えた子飼いの連中だ。

 上官でさえなければ叩き切りたいし、子飼いの連中がいなければ事故死に見せかけて始末したいところだ。しかし、どちらもできない以上は不平不満を飲み込んで本来の命令を淡々とこなすしかない。

 せめて自分たちの様な正規の軍人が見つけたならば、下衆な連中に貞操を汚されずに殺してやることもできるから、そうなることを祈るくらいだろう。

 ロンデスがそんなことを考えていると、何かに見られているような違和感を覚えた。降りた馬たちもどこか不安そうにして周囲を見回している。

 他の正規の軍人たちも同じような違和感を覚えているようだが、ベリュースとその子飼いの連中の多くは気が付いた様子が無い。

 

「おいお前ら、何をしている。とっととこの村の人間を殺しに行くぞ」

 

 それどころか子飼いの連中の一人であるベランジェはロンデス達に対して怒鳴りつける。

 この男は人間を殺しても咎められないことを理由に今回の作戦に参加した危険人物だ。ベリュースに取り入り、率先して村人を惨たらしく殺して回っている。

 最近ではバハルス帝国の戦力が増している一方でリ・エスティーゼ王国の衰退が進み、王国に巣食っている裏組織が密造している麻薬などと一緒にこのような人物が王国から流出することが各国で問題になっている。

 ロンデスが苛立ちながら従おうとしたとき、何処からか深みのある静かな声が響いた。

 

「聞き捨てならない言葉が聞こえたでござる。そなたらはこの先の村の者たちに害をなすつもりでござるか」

「だ、誰だ!」

 

 ベリュース達は一部を除いて声の主を探そうと左右を見渡し、ロンデス達は咄嗟に息の合った動きで外向きの円陣を組んで警戒する。

 

「某は森の賢王。この村を諦めて早々に立ち去るならば、某は追わないでおくが……、どうするでござるか?」

 

 森の賢王という名前に多くの者が驚愕し息を飲む。トブの大森林を支配する、数百年の時を生きると言われている伝説の魔獣の名だ。

 目撃情報は極端に乏しいが、魔法を操り蛇の尻尾を持つ白銀の四足獣だと言われている。

 もしも本物ならばとても自分たちが敵う存在ではない。そうでなくてもこの人数の騎士に気づかれることなく接近する技量の持ち主を相手にしては無用な犠牲が出ることになりかねない。

 しかしそのことに全く気が付いていない愚か者がいた。ベリュースだ。

 

「はんっ! 森の賢王だか何だか知らないが、所詮は寂れた村でイキがっている程度の奴が何を言う。隠れている奴を始末したら、そのまま向かうぞ!」

「それがそなたらの選択でござるか。それでは命の奪い合いをするでござる!」

 

 その時、空気がしなったような気がした。そして金属が悲鳴を上げて凹む音が響き、ベリュースの身体が横方向に馬から離れて地面に倒れる。

 被っていた面頬つき兜(クローズド・ヘルム)は無残にも半分以上拉げ、曲がってはいけない方向へと折れ曲がっているベリュースの頭部をぐちゃぐちゃに潰して地面に血だまりを作っていた。

 驚いた馬がパニックを起こし、倒れたベリュースを勢いよく蹴り飛ばすと、カルネ村とは反対の方向へと走り去っていく。

 

「はて? あれだけ啖呵を切ったのだから、見た感じ弱すぎても何かあると思っていたでござるが……もう終わりでござるか?」

 

 蛇の様な鱗に覆われた尻尾が街道の脇の茂みへとゆっくりと戻ると、声の主は困ったような声を出して困惑しながら茂みを掻き分けて、その姿をロンデス達に晒す。

 

「なっ! こ、これが……森の賢王」

「や、やべえ。俺たちの手に負える相手じゃねえ! なんてことしてくれたんだよ、ベリュース隊長!」

「抵抗できない連中を殺すだけの簡単な任務じゃなかったのかよ!」

 

 森の賢王の姿を見た騎士たちは大きく目を見開き、先ほど死んだベリュース隊長の愚かな行為を口々に非難する。

 

「ど、どうしてこんな巨大な魔獣の接近に誰も気がつかなかったんだ!」

「それは某が隠れながら近づいたからでござるよ。丁度このように!」

「っへ?」

 

 誰かの叫びに対して、森の賢王は白銀の体毛に包まれた体に浮かんでいる奇怪な文字にも似た文様を輝かせると、ベランジェに急接近して鋭い爪の生えた前足でその首を刈り取る。

 刈り飛ばされた頭部はぽかんとした表情のままクルクルと宙を舞って地面に落ち、頭を失った体が崩れ落ちると、すかさず尻尾による突きがロンデスの隣にいた騎士の頭を打ち抜いた。

 瞬く間に二人の命が奪われたが驚くのはそこではない。驚くべきなのは爪が肉を裂き骨を断つ音も、ベリュースを屠った時の様な尻尾と面頬つき兜(クローズド・ヘルム)がぶつかり合う金属音もないままにこれらの行為が行われたことだ。

 よく見ると森の賢王の輪郭がぼやけ、姿を把握しにくくなってもいる。

 

「《静寂(サイレンス)》と《溶け込み(カモフラージュ)》の同時併用……!」

 

 ロンデスは森の賢王が伝承通りの存在であったことに戦慄しながら呟く。

 魔法詠唱者の多くは肉体的には脆弱であることが多い。しかし、目の前にいる森の賢王は複数の魔法を同時にこなした上で騎士たちを一撃で屠る優れた身体能力を保有している。しかも、森の賢王に刻まれている紋様は複数あり、まだまだ使える魔法がある可能性も高い。

 それらからロンデスが導き出した結論は、

 

「──総員撤退だ! 展開済みの弓騎兵を呼び戻せ! 残りの人間は、笛を吹くまでの時間を俺と共に稼ぐぞ! なんとしても、この情報を本国に持ち帰るんだ!」

 

 ベリュース隊長が死亡した事で生まれた指揮系統の空白を、自分で代替しての撤退命令であった。

 その判断自体は間違っていない。しかし、そう判断するには遅すぎた。

 

「今更逃げる気でござるか? 警告を無視しておきながら、某が黙って見過ごすとでも?」

「そうだな。話を聞くにこのまま逃げられるのは面倒だから、まとめて捕まえるとするか。《集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)》」

 

 森の賢王とはまた別の声が空から聞こえた。

 ロンデス達が上空に目をやると、漆黒のローブを身にまとい無骨なガントレットを両腕に嵌めて奇妙な仮面を被った魔法詠唱者と思しき者が浮遊しており、何かを唱えるとその場にいた騎士たちがその場に固定されたかのように動けなくなる。

 自身の身体なのに指一本動かせない事に騎士たちが狼狽する中、地面に降り立った魔法詠唱者はこめかみの所辺りに指をあてて新たに魔法を唱えてぼそぼそと話すと、程なくして黄金の鎧を纏った鳥の亜人がやってきた。

 

「言われた通り、村の周囲を囲んでいた騎士たちは無力化しておいたよ。モモンガさん」

「お疲れ様です、ペロロンチーノさん。ハムスケも良くやったな」

「いやぁ、それほどでもないでござるよ。それで、この者たちはこのまま殺すのでござるか?」

「いや、皆殺しにするのは容易いが、それではどうしてこの村を襲おうとしてきたのか分からないままになるからな。こいつらから情報を引きずり出すつもりだ。ハムスケ、生きている騎士たちの中で偉そうなのは誰だ?」

「それならば、この男でござる。もっと偉そうにしていたのは某が殺してしまったでござるが、先ほど他の者たちに命令していたからきっと他の騎士たちよりは偉い筈でござるよ」

 

 そう言ってハムスケと呼ばれた森の賢王が指さしたのは、ロンデスであった。

 

「そうか、色々と話を聞かせてもらうとしようか。《支配(ドミネート)》」

 

 モモンガが唱えた精神魔法によって、ロンデスの意識を完全に支配する。瞳から光が失われ、自由意志を喪失したロンデスはもはやモモンガの完全な支配下にある。

 

「さて、まずは──」

 

 モモンガはロンデスに対してどの国の所属なのか、この場にいない騎士たちは何名いるかを問いかける。

 意識を支配されたロンデスは澱みなく自分たちがスレイン法国の所属であること、そして散開済みでこの場にいない騎士たちの人数を答え、ペロロンチーノが屠った人数と一致することをモモンガは確認する。

 そしてモモンガが三回目の質問として、どうしてカルネ村を襲うつもりだったのかを問いかけ、バハルス帝国の騎士に偽装してリ・エスティーゼ王国の王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフをおびき寄せるためだを答えた後、ロンデスは突然吐血して息絶えた。

 

「……っえ? なんで死んだの?」

 

 突然の情報源の死にモモンガも思わず間抜けな声をあげるしかなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……はぁ、思ったより面倒ごとが舞い込んでくるな、この村は」

 

 モモンガは、カルネ村で宿泊している家屋の中でため息をつく。

 村長には事情を話して王国戦士長との縁はあるのかを確認したが、困惑した表情で村長は心当たりがないと言っていた。

 ペロロンチーノは不安がっている村の子供たちを落ち着かせるために、彼らと遊んでいる。

 あの後、他に生きている騎士にも同様に《支配(ドミネート)》をかけて尋問したが、何故王国戦士長をおびき寄せる必要があるのかの詳細を知る者はおらず、三回目の問いかけに答えると一様に吐血して息絶えたので、ペロロンチーノが無力化した数人を村から持ってきてもらった縄で拘束して広場でハムスケに監視させている。

 騎士たちを全員始末することも考えたが、この後来る可能性がある王国戦士長なる人物に引き渡した方が恩を売ることができるだろうという打算があってのことだ。

 それにしても、昨日ハムスケを森から連れ出したことがこのような結果を生むとは思ってもみなかった。ハムスケがいなかったら、なんだかんだ気が緩んでいた自分達では騎士たちが近づいてくるのが遅れて村に犠牲者が出ていたかもしれない。

 その分ハムスケは朝食を採りに森に行けなかったが、村人たちから感謝と共に収穫された野菜を貰えてご満悦のようだったから、気にしてはいないだろう。

 それに、エンリという少女がハムスケからの言伝を頼まれて自分たちの所に来てくれたから、ペロロンチーノが散開済みだった騎士たちに対処できたし、捕らえた騎士たちから不十分ではあるが情報を得ることができた。

 そう考えると、後味の悪い結果にはならずに済んだのではないだろうか、モモンガはそう思うことにする。

 ……実は騎士たちから引き出した情報の中で、村長に伝えていない事が幾つかある。現場とは別に騎士たち全体に指示を下している部隊の存在だ。

 王国戦士長を始末するために動員されている特殊部隊のようで、本来ならばその戦力も明らかにしたかったところだが、信仰系魔法詠唱者の集団である以外は騎士たちも知らなかった。把握しきれていないところが多いため、不安がらせないようにするために伝えなかったのだ。

 

(最悪の場合、王国戦士長を囮にして村の人たちを逃がす必要もあるな)

 

 そう考えたところでモモンガはふと自分がカルネ村の人たちを死なせない方向で考えている事に気がつく。

 初対面の時には蟲に向ける程度の親しみしかなかったが、話してみたりすると小動物に対して向ける程度には愛着が湧くし、寝泊まりしてみると割と親しみを覚えているのだ。

 

「ははっ、ペロロンチーノさんのことを言えないや。俺も大分絆されているじゃないか」

 

 モモンガは自嘲するように言うが、この感覚は嫌ではなかった。

 恐らくはペロロンチーノも一緒だからこそ、アンデッドの肉体となって強い精神の起伏を抑え込まれるようになってもなお、感情を残すことができているのかもしれない。

 これが独りぼっちだったらば、どうだっただろうか。もっと自由気ままな旅をしていたかもしれないが、何も思わずにこの村を見捨てたりしていたかもしれない。

 そう考えると、巻き込んでしまったペロロンチーノには申し訳ないが、彼がいてくれることはとても心強く感じた。

 

「ここまで愛着が湧いているんだ。ペロロンチーノさんとは相談する必要があるけど、この村がもうちょっと安全で豊かに暮らせるように何かしてやっても良さそうだな」

 

 モモンガは独り言を言いながら宿泊している家屋を出ると、村長を探し始める。こういうのは相手の話を聞いてどういったものが好ましいかを聞かないと、相手が喜ばない贈り物をしてしまうから気を付けるようにとギルドメンバーの誰かが言っていた気がするからだ。

 村長はすぐに見つかった。広場のすぐ隣でハムスケや数人の村人たちと真剣な表情で話をしている。

 また厄介ごとだろうか……モモンガは村長の元まで近づくと、村長もモモンガに気がついたようで緊迫感を浮かべていた表情が幾分か和らいでいるのが見える。

 

「……どうかされましたか、村長殿」

「おお、モモンガ殿。実は森の賢王がこの村に馬に乗った集団が再び近づいてきていると仰っていまして。ラッチモンが確認したところ、戦士風の者たちが近づいているとのことなのです」

「なるほど。王国戦士長の容姿やどういった装備をしているのかは分かりますか?」

「いえ、王直属の精鋭兵士達を指揮する方だとは以前訪れた商人たちが話しておりましたが、どのような姿をしているかなどは……」

「そうですか……任せてください。村人たちを村長殿の家の近くに至急集めてください。俺はこれから魔法でペロロンチーノさんにも連絡を取るので、村長殿は俺達と一緒に広場に」

 

 鐘を鳴らして村人を集める一方で、モモンガから《伝言(メッセージ)》を受け取ったペロロンチーノは村長の家の近辺に、ハムスケは拘束した騎士たちが逃げられないように配置する。

 やがて村の広場へと隊列を組んだ複数の騎兵の姿が静々と進んでくる。

 

「武装に統一性がないし、各々にアレンジされているね……。正規軍じゃなくて傭兵なのかな?」

 

 ペロロンチーノの呟きに、モモンガも同じような感想を抱く。

 今朝方この村を襲おうとした騎士たちは完全に統一された重装備であったのに対し、今度来た騎兵たちは各々が使いやすいようにアレンジが施されていて一人として同じ装備の者はいない。

 よく言えば歴戦の戦士集団だが、悪く言えば武装にまとまりがない傭兵集団だ。

 そして数にして二十人の騎兵一行が馬に乗ったまま広場に乗り込んできた。ペロロンチーノとハムスケに警戒しつつ、村長とモモンガの前に見事な整列を見せる。その中から騎兵一行の中でもリーダーと思しき最も目を引く屈強な一人の男が馬に乗ったまま進み出た。

 

「──私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」

 

 静かで深い声が響き渡り、モモンガの後ろの村長の家からもざわめきが聞こえてきた。

 

「この村の村長だな。横にいる者と、後ろにいる亜人について教えてもらいたい」

「王国戦士長殿。この方たちは数日前からこの村に宿泊している旅人たちで、この村がこの騎士たちに襲われそうだった所を未然に防いでくださった方たちです」

「初めまして、王国戦士長殿。私はモモンガ。ここから遠い所からこちらにいる友人のペロロンチーノと共に旅をしている魔法詠唱者です」

 

 村長からの紹介に合わせてモモンガは軽く一礼して自己紹介を始めた。

 それに対してガゼフは馬から飛び降り、重々しく頭を下げた。

 

「この村を救って頂き、感謝の言葉もない」

 

 王国戦士長という特別な地位に就く人物が、身分が明らかでないモモンガと亜人のペロロンチーノに敬意を示して礼を述べることに周囲の空気がざわりと揺らいだ。

 明らかにガゼフの方が上の立場であるにもかかわらず、態々馬から降りてモモンガに頭を下げることは、彼の人柄を雄弁に物語っている。

 

「……いえいえ、実際はこちらの森の賢王が騎士たちの接近に気がついてくれたから未然に防ぐことができたのです。礼は此方にお願いします」

「なんと! 森の賢王の噂は聞いたことがあったが、これほど立派な魔獣であったとは! 森の賢王殿、この村を救って頂き、重ねて感謝する」

 

 言葉が通じないことが多い魔獣に対しても実直に礼を示すガゼフに対し、モモンガ達は好感を抱く。

 

「某もこの村には殿と共に寝床を用意してくれた恩があったでござる。だから気にしないで良いでござるよ」

「森の賢王殿は喋れるのか! 確かによく見れば、深みある英知を感じさせる瞳をしておられる」

 

 ハムスケが喋れることにガゼフ一同は驚きの表情を見せるが、その上で本心から称賛する。

 

「……それでモモンガ殿、旅人のお時間を奪うのは少々心苦しいが、村を襲った不快な輩について詳しい説明を聞かせていただきたい」

「勿論喜んでお話させていただきます、戦士長殿。それと、こちらに捕らえている騎士達がその生き残りですので、後ほどそちらで引き取っていただけないでしょうか?」

「この者たちが……分かった。この者たちは此方で引き取ろう」

「一つ注意をしていただきたいのですが、この者たちはどうやら無理に話を聞き出そうとすると、何らかの条件を満たして本人の意思に関わらず自害させられる呪いのようなものを受けているようです。その所為で、この村を襲おうとした理由を問いただす過程で幾人か死なせてしまいましたが、どうかご容赦ください」

「なんと! そのようなものが……」

 

 モモンガから伝えられた機密保持の呪いの内容を聞いたガゼフは、その悪辣さに言葉を失う。ちなみに一定回数答えさせると呪いが発動することを言わなかったのは、無事な回数の範囲で聞き出せば死者は減らせたのではないのかと問いただされるのを防ぐためだ。

 

「さて、このまま立ち話も何ですし、モモンガ殿と戦士長殿を交えて私の家で詳しいお話をいたしませんか?」

「それはありがたい。それと、もし構わなければ時間も時間なので、この村で一晩休ませてもらいたいとも思っているのだが……」

 

 村長の提案にガゼフが答え、村長の家に行こうとしたときだった。一人の騎兵が息を大きく乱して広場に駆け込んできた。

 

「戦士長! 周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 




ハムスケが使用した魔法は、野性動物が持っていたら便利だったろうなというチョイスにした独自設定です。

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