※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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今回の話には、原作には出ていないオリジナルの魔法が出てきます。
威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が単独での都市破壊も容易であるという設定から着想を得たものです。


第七話「陽光聖典 後編」

(魔法っていう奴は本当に何でもありだな。モモンガ殿には感謝するばかりだ)

 

 天使たちを次々と切り伏せながら、ガゼフは笑みを浮かべる。

 自分と森の賢王のみで行う作戦を部下に伝えた時には、反対の声が多く説き伏せるのに苦労したが、それに見合うだけの……いや、それ以上効果を発揮している。

 息切れ一つ起こさず普段よりも力に満ち溢れ、身体も羽根のように軽い。そして本来ならば知覚できないような範囲と精度で相手を感じ取れている。

 相手の攻撃は尽く意味を成さず、こちらの攻撃は一撃が致命のものとなる。まさに英雄譚に描かれるような無双の戦いをしているのだ。

 これらは己の武技や切札による強化ではない。モモンガが自分と森の賢王に施した無数の魔法の恩恵だ。

 これまでガゼフは魔法の凄さというものに対してピンとこなかったところがある。

 王国と毎年戦争している帝国にはフールーダ・パラダインという第七位階、あるいは第八位階といった英雄譚や伝説にのみ残っている位階魔法を使える大魔法詠唱者が存在し、その存在は近隣諸国に轟いているが、その実力がどれほどのものなのかは、彼が王国との戦争に出たことが無いために知らないのだ。

 モモンガが彼のフールーダ・パラダインと肩を並べるほどの魔法詠唱者なのかは分からないが、少なく見積もってもアダマンタイト級冒険者の実力を凌駕している技量の持ち主であることは明白だとガゼフは直感していた。

 

「最高位天使を召喚する! 総員、時間を稼げ!」

 

 敵の指揮官と思しき男の声が聞こえ、懐から虹色に輝くクリスタルを取り出す。

 最高位天使という者がどれほどの力を有しているかは分からないが、だからこそ召喚を許すわけにはいかない。

 ガゼフは密度が濃くなった天使の軍勢に加え、魔法とスリング弾の弾幕を切り伏せ、いなしながら、森の賢王と共に敵陣を最短ルートで突っ切っていく。

 ガゼフの前を遮っていた天使たちを薙ぎ払い、メイスと円形の盾を持つ他よりも大きい天使を森の賢王が仕留めてあともう少しという所で、指揮官を天使が空高くへと連れて行ってしまう。

 

「ははは! 惜しかったな、ガゼフ! 森の賢王! この戦い、我々の勝利だ!」

 

 指揮官は勝ち誇った表情のままクリスタルが砕かれ、そこから光が輝く。

 それは、隠れようとする太陽が地上に出現したかのようだった。草原は爆発的に白く染め上げられ、微かな芳香が鼻腔をくすぐる。

 

「見よ! 最高位天使の尊き姿を! 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!」

 

 それは光輝く翼の集合体だ。翼の塊の中から、王権の象徴である笏を持つ手こそ生えているものの、それ以外の足や頭の類は一切見られない。外見こそ異様だが、その姿を見せた瞬間から、周囲の空気が清浄なものへと変化していったために、誰もが聖なるものであることは感じ取れた。

 

「これが、スレイン法国の切り札……!」

「そうだ! これこそが最高位天使の姿だ。本来であれば魔神との決戦の様な戦いでこそ使うべき代物だが、ガゼフ・ストロノーフ。今のお前たちにはそれだけの価値があると判断させてもらった。誇れ! お前たちの力は魔神にも匹敵することに! 今回受けた任務さえなければ、本国が見限るほどにまで王国が腐り落ちていなければ……個人的にはお前たちを同胞として迎え入れたかったぐらいだ。だからこそ、せめてこのニグン・グリッド・ルーインはお前たちの事を覚えておくぞ。ガゼフ・ストロノーフ、森の賢王!」

 

 上空からのニグンの称賛の声に対して帰ってきたのは、冷静に戦況を見極めてどうやって打破するかを考える言葉であった。

 

「森の賢王よ……いけるか?」

「今ならば、限界の壁を超えられれば勝てるでござるよ」

 

 ガゼフは森の賢王と意見が一致したことに笑みを浮かべる。

 普段の自分では王国の五宝物を装備していてもかなり困難な相手であろう。モモンガの魔法による強化が無ければ森の賢王と共闘していても不可能だ。しかし、今この時だけは、あの存在に勝てる可能性が僅かにだがある。

 単独での都市規模での破壊すら可能な最高位天使を前にしてもなお勝つことを諦めていない反応は、ニグンにとっても予想外であった。

 

「何? 最高位天使を前にして、人の身で勝てるとでも思っているのか!」

「ああ、やってみなければわからないだろう?」「そうでござるよ?」

 

 希望と可能性に満ちた返答に、ニグンの思考は加熱していく。

 

「最高位天使よ! この愚か者たちに《聖なる極撃(ホーリースマイト)》を放て!」

 

 極めて一部の例外を除いて人間では到達不可能と言われる領域が魔法には存在する。それは第七位階以上の魔法である。

 スレイン法国では大掛かりな儀式を行うことで、バハルス帝国では“逸脱者”とも“超越者”とも呼ばれる生きた伝説であるフールーダ・パラダインのみが達することができているが、最高位天使である 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は単独でその位階の魔法である《聖なる極撃(ホーリースマイト)》が使うことができるのだ。

 

「ガゼフ殿!」

「ああ!」

 

 最高位天使による魔法の発動を前にして、ガゼフ達の動きは素早かった。ガゼフは森の賢王に騎乗すると、最高位天使に向かって走り出す。

 今までよりもさらに早くなったことにニグンは焦りの色を浮かべて 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)に指示を下す。

 

「早く放て! 最高位天使!」

 

 早急な魔法の発動を求める召喚者の思いに呼応して、 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は手に持つ笏を利用した特殊能力の使用を中断して無詠唱化した魔法を行使する

 

 ──《聖なる極撃(ホーリースマイト)》

 

 魔法の発動と同時に、光の柱が落ちてきた。

 無詠唱化によって威力が下がっていても、悪しき存在ならば絶対なる清浄の力の前に跡形もなく消滅する。たとえ善なる存在でも一部分くらいは残るだろうが同じことだ。

 そうでなければオカシイ筈の一撃を、ガゼフを乗せた森の賢王はさらに加速することで上空から落下してきた清浄な青白い光の柱をギリギリで躱して突き進む。

 

「躱した……だとぉ! ならば最高位天使よ、《聖なる爆裂(ホーリーブラスト)》を使え!」

 

 ニグンが 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)に命じた《聖なる爆裂(ホーリーブラスト)》は第六位階魔法。第七位階である《聖なる極撃(ホーリースマイト)》と比較すると威力は大分落ちるが、代わりに広範囲をまとめて攻撃することができる。

 召喚者の命を受けて 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が放った《聖なる爆裂(ホーリーブラスト)》は、直撃こそ躱されたもののガゼフと森の賢王を巻き込む様に聖なる爆発を引き起こした。

 

「やったか!」

 

《聖なる極撃(ホーリースマイト)》に威力で劣るとはいえ、それでも片手で数えるほどしか到達したものがいない第六位階の魔法を受けて生きていられる人間など居るはずがない。

 それにもかかわらず、爆風によって巻き上げられた土埃からガゼフを乗せたままの森の賢王が跳び出してきた。

 勿論無傷という訳ではない。《聖なる爆裂(ホーリーブラスト)》によってガゼフの身体は所々が焼けて、森の賢王も白銀の毛皮が燃えて煙を上げている。

 しかし彼らの戦意も速度も衰えることなく 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)目掛けて突き進み、森の賢王が跳びかかった。

  威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は手に持つ笏で森の賢王を叩き落とそうとするが、叩き落とされる直前にガゼフが森の賢王から 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)へ飛び移って駆けあがっていく。

 

「な、何をするつもりだ!」

「この最高位天使とやらを、超えさせて貰う!」

 

 ガゼフはそう言うと、大技である《六光連斬》を 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の胴体部にある赤い宝玉のようなもの目掛けて叩き込む。

 本来ならば一撃を振るう刹那に、周囲の敵に六度の斬撃を叩き込む神速の武技で、攻撃がばらける命中率の低い剣閃という弱点があるので周囲を包囲された時などに使うべきである。

 しかし、モモンガが自分たちに施した数々の強化魔法の恩恵を受け、さらには切札の指輪を解放して戦士としての能力が引き上げられた今の自分であれば、この六つの斬撃を完全に制御できるという確信がガゼフにはあった。

 同時に放たれる六つの斬撃は寸分の狂いもなく一点に集約され、 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の身体に僅かだが亀裂を入れていく。

 それを二度、三度と《流水加速》と《即応反射》で無理矢理体勢を立て直しては、《六光連斬》に繋げて亀裂を広げていく。

 だがそれだけでは致命傷には至らない。 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)がガゼフを振り払い、手に持つ笏が砕け始めるとその破片が周囲をゆっくりと旋回し始める。

 ガゼフの戦士としての直観が、次の一撃を許せば危ういことを悟る。一撃で死に至る可能性もあるし、仮にそうでないとしても全力で戦うことができなくなるのは明白だ。そうなれば、ただでさえ細い勝ち筋が途絶えてしまう。

 その前に仕留めるためにさらなる一撃を放とうと空中で体勢を立て直し、森の賢王の螺旋を描く様に丸めた尻尾の先端に着地して、そのしなりと合わせて再び 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)に突貫する。事前に打ち合わせをしたわけではない、その場で何が必要かを互いに感じ取っての行動だ。

 一点に集約した連撃では突破できなかった。ならば次に放つべきは確実にその生命活動を刈り取る一撃。

 イメージするのはかつて王国で開催された御前試合の決勝戦で戦った戦士、ブレイン・アングラウス。汎用性を切り捨てて一点特化を突き詰めた、相手の急所に致命的な一撃を叩き込む彼のオリジナル武技《瞬閃》。

 模倣することができるのかという不安はない。もとよりただ模倣するだけではこの最高位天使を仕留めることができないのは承知の上だ。

 ガゼフが求めるのはそこからさらに昇華した究極の一撃。無意識の中で叫んだそれは、奇しくもある最強の攻撃と似通っていた。

 

「《次元斬》!」

 

 それは、ユグドラシルに置いて最強の近接職と言われた職業であるワールドチャンピオンの切り札、次元断切(ワールドブレイク)。

 本来ならば高い物理耐性を誇る 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の身体を熱したナイフでバターを切るかのようにグレートソードが切り裂き、先に入っていた亀裂が広がっていく。

 周囲を旋回していた笏の破片はその動きを止めて地面に散らばり、身体に走る亀裂が一周して繋がった時、最高位天使は左右に割れた。

 切断面から光の粒があふれ出し、翼の塊も光の粒に分解されながらバラバラになって周囲にまき散らかされる。

 ガゼフは最高位天使(足場)が倒れたことで眩しさに眩みながら空中に投げ出されるが、地面に激突する前に森の賢王が自らの背中で受け止める。

 

「やったでござるな、ガゼフ殿!」

「ああ、森の賢王が協力しくれたおかげだ。俺一人ではどうしようもなかっただろう」

 

 本当はここでモモンガの功績も讃えたいところだが、彼に迷惑をかけてしまうからそこはぐっと堪える。

 断面から噴き出していた輝きが勢いを無くし、 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)という光輝の存在を失ったことで、周囲の光量が一気に落ち込んだ。

 もはや、この戦いの勝敗は誰が見ても明らかなものとなっていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 カルネ村の倉庫では、ガゼフと 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の戦いをモモンガとペロロンチーノが遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)と幾つかの情報系魔法のスクロールを使って映し出した画面と音声で観察していた。

 敵部隊の隊長が最高位天使を召喚すると発言した時には、その手に持つ魔法封じの水晶──それも超位魔法以外は封じられる代物を見て熾天使(セラフ)級(クラス)が出張ってくる可能性を考えて、ガゼフとハムスケをいつでも村に転移させてペロロンチーノが敵部隊に対して遠隔爆撃した後に、村人たちや戦士団と共に逃走する準備を進めていた。

 結果ははるかに格下の 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)だったが、様々な強化魔法をかけられている二人でも魔法の時間制限もあって厳しい相手のはずであった。

 しかし結果はまさかの勝利。《究極の妨害(アルティメット・ディスターブ)》によって二人の魔法耐性をかなり引き上げていたので 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が行使できる魔法は1~2回ならば耐えられる算段だったとはいえ、予想していなかった武技で大物狩り(ジャイアントキリング)を果たしたガゼフに、戦士団や村人からは歓声が上がり、モモンガは精神安定化が何度も発動しながら興奮しきりであった。

 

「見、見、見……見ましたか! ペロロンチーノさん! ……ふぅ。……あれって規模こそ小さいですけど次元断切(ワールドブレイク)ですよ! ……ふぅ」

「っちょ、モモンガさん、何度も賢者モードになってるよ!? どんだけ興奮しているんですか!」

「っとと、すいません。最後の武技の名前も次元断切(ワールドブレイク)と似ていましたし、何か関連性があるのかもしれませんね。後で詳しく話を聞きたいです」

「ちゃんとポーションとかで彼らの治療をしてからにしてくださいよ。それにしても、スレイン法国の敵部隊がユグドラシル由来の魔法やアイテムを使ってくるとは思わなかったな」

「そうですね。ひょっとしたら、他のプレイヤーなんかもこの世界にやってきていたのかもしれません」

 

 精神安定化の影響で落ち着きを取り戻したモモンガがペロロンチーノと相談していると、画面から敵部隊の隊長の叫び声が聞こえる。

 

『あ……ありえん。ありえん! ありえん! ありえん! 最高位天使が人類に敗れるなどぉ! こんな事はあってはならないぃ!』

 

 スレイン法国の最高位天使がまさかの敗北する事態に、特殊部隊の隊長はもはや己の感情を制御することができなくなっているようだ。

 彼──ニグンにとっての不幸は、最高位天使を討ち取った相手が、直属の部下以外は孤立無援であると思い込んでしまったことである。

 王国では元々魔法が軽視されていて優秀な魔法詠唱者が非常に少ないことに加えて、ガゼフはそう言った支援を受けられないと思い込んでその可能性を考えもしなかったために、ガゼフ達が幾つもの強化魔法によって大きく底上げされていた可能性が頭から抜け落ちてしまったのだ。

 狼狽するニグンに対して、ハムスケから降りたガゼフは罅が入ったグレートソードを地面に突き刺して叫ぶ。

 

『俺は王国戦士長! この国を愛し、守護する者! この国を汚す貴様らには負けん!』

 

 普段のニグンであれば夢物語だと嘲笑し、命の価値の違いを語っていたであろう。しかし最高位天使を滅ぼされ、精神の均衡を大きく乱している状態では違う言葉が溢れだした。

 

『この国を愛し、守護する者……だと。ふざけるな! この腐りきった国に守る価値などあるものか! 人類の未来を見据えずに己の欲だけを満たす強欲で無能な貴族ども、現状を嘆き憂いながら自ら変わろうとしない怠惰な民、そして意志を貫き通す力のない只々流されるだけの無力な国王! そのような屑共がどれほど諸国を、人類を脅かしているのか分かっているのか!?』

 

 それは王国の全てに対する怨嗟の言葉。ニグンは血走った眼を見開いて絶叫する様に語る。

 

『我が国はこの国が誕生した時から陰ながら尽力してきた。安全で肥沃な大地は多くの者を生み、その中の優秀な者たちから異種族の侵攻と戦う勇者たちが育つことを信じて! しかしこの国は多くの民を育むべき肥沃な土地を無意味に枯らし、心身を破壊する麻薬を内外にばらまき、守るべき道徳を冒涜する堕落した者たちで溢れかえらせた。貴様らは、我らの信頼を裏切ったのだ!』

「うわぁ、随分な言われようだな……」

「この国の状況がどうなっているのか知らないのでどうこう言える立場じゃありませんけど、ここまで言われるほどこの国は酷い有様なんですか?」

 

 モモンガの質問に対し、その場にいた戦士団の者たちや村長は顔を曇らせながら答える。

 

「本来は立場的に言うべきではありませんが、正直に言うと貴族の大半に関しては大部分が当てはまります。国王も民を慮る方ではありますが、貴族たちの妨害の所為で状況を改善できていないのは事実です」

「数年前にラナー第三王女が撤廃させるまで奴隷売買が合法だったしな……俺も戦士長に拾われていなかったらと思うと」

「だが、最近でも借金のカタに連れていかれるケースもかなりあるそうだぞ」

「近年は帝国と毎年行われる戦争で働き手を徴兵されるので、収穫期に作物の収穫に手が回らなくなって税を治めるのにも一苦労です。この村はトブの大森林の近くなので森の恵みのおかげでまだどうにか凌げていますが、商人から聞いた話だと村を維持できなくて廃村になった村もあるとか」

 

 腐敗貴族に形を変えて残る奴隷制度、明らかに狙われている収穫期に合わせた戦争……。予想以上に未来が暗い情報がどんどん出てくる事態にモモンガは頭を痛める。

 

(なんだよ、この絵に描いたような末期の封健国家は。陰ながら支援して出来上がったのがこんな有様なら、確かに見限りもするよ)

 

 カルネ村の人々やガゼフ(気に入った人たち)を害そうとした連中には微塵も容赦するつもりがないモモンガだが、さすがに王国がここまで酷いとスレイン法国にもちょっとだけだが同情したくもなる。

 

「あっ、モモンガさん。奴らが撤退していきますよ」

「予想よりも相手に人的被害は出ませんでしたが、これでひとまずは安心でしょう」

 

 もしも自分たちの正体がスレイン法国に露見していたならば、あの特殊部隊は生かしてはおけなかった。だが正体どころか存在にも気づかれていないならば下手に追撃する必要もないだろうとモモンガは考える。

 此方としても追い払えればいいわけで、全滅させることが必須ではないからだ。むしろ全滅させることによって生じる様々な不利益の方が大きいかもしれない。

 

「それでは、戦士長とハムスケを……この村を救った英雄たちを迎えに行きましょうか」

 

 

 ────────────────────

 

 

 村に戻ったガゼフとハムスケがカルネ村に戻ると、戦士団や村人たちが取り囲む。

 彼らからの無数の賛辞や感謝の言葉を受けている中、ガゼフの視線にモモンガ達の姿が見えた。

 

「戦士長殿、ご無事で何よりです。戦況はマジックアイテムで確認させていただいておりましたが、見事な活躍でしたね」

「いや、モモンガ殿、ペロロンチーノ殿、それに森の賢王殿に感謝する。私が助かったのもあなた方のおかげだ。この気持ちをどのように表せばよいのか。王都に来られた時には必ずや私の館に寄って欲しい。歓迎させていただきたい」

「それは大変名誉なことです。ではその時はよろしくお願いします」

「いやぁ、照れるでござるよ。ガゼフ殿の歓待を楽しみにしているでござるよ」

「はは、森の賢王殿を満足させる食事を作ってもらうためにも、料理人たちには頑張って貰わないといけないな」

「某とガゼフ殿はもう戦友と言っても差し支えないでござる。だから、森の賢王と畏まった呼び名ではなくて、殿から与えられたハムスケと呼んで欲しいでござる」

「そうか……わかった。ハムスケ殿。この度は本当に助けられた。重ねて礼を言う」

 

 ハムスケとの信頼関係を築いたガゼフは、改めて礼を重ねると微笑みながらガントレットを外してハムスケの前足を握る。

 すると、ペロロンチーノはガゼフの左手薬指に指輪がはまっているのを目ざとく見つけた。

 

「いやー、戦士長も奥さんを泣かさないで良かったじゃん」

「??? 私は独身だが、ペロロンチーノ殿はどういった理由でそのような勘違いを?」

「あれっ違うの? 左手薬指に指輪をはめていたからてっきりさ」

「戦士長殿。私たちがかつていた所では、既婚者はペアの結婚指輪をそれぞれ左手薬指に嵌める風習がありまして。それでペロロンチーノさんは勘違いしてしまったようです」

「ああ、そういうことであったか」

「某も同族を見つけ出して番になりたいでござるなぁ」

「大丈夫ですよ。ハムスケ様ならば、きっと立派な相手が見つかります」

 

 ハムスケが寂しそうに言うと、村娘の一人──エンリが励ます。

 

「……さて、モモンガ殿達はこれからどうされるのかな? 私はこの後部下たちと共にこの村で一晩休ませてもらうつもりなのだが」

「我々はあと数日程この村に滞在するつもりです。そのあとは、また旅に出ようかと考えています」

「そうか……。であれば、出発前に明日にも私からの紹介状を一筆認めさせてはもらえないだろうか。王国内を完全に自由とまではいかないが、亜人であることを理由に番兵に門前払いされることは無くなるだろう」

「おお、それはありがたい」

「戦士長、ありがとう。凄く助かるよ」

 

 ガゼフからの提案に、モモンガ達は感謝を告げる。実際、自分は幻術などで騙せば都市にどうにか入れるかもしれないが、ペロロンチーノやハムスケは幻術で隠しきれないその容貌からかなりハードルが高いだろうとモモンガは考えていた。どうするか頭を悩ませていた問題がガゼフのおかげである程度解決したのだ。

 目立ってしまうデメリットはあるが、それに関しては亜人だと思われているペロロンチーノや魔獣であるハムスケを連れている以上、どちらにしろ目立つのだから悪い意味でなければいいか。モモンガはここにきてある種の開き直りに入っていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「何という事だ……まさか最高位天使が敗れるとは」

 

 スレイン法国の首都である神都にある六大神殿。その内、土神殿で、土の神官長──レイモン・ザーグ・ローランサンは神都最大聖域に一つである『土神の目』と呼ばれる場所で土の巫女姫が映し出していた魔法の投射映像の報告を見て、信じられないものを見たような表情をしていた。

 その光景は、リ・エスティーゼ王国の王直轄領の村で起きた陽光聖典と抹殺対象となった王国戦士長ガゼフ・ストロノーフとの戦いだ。

 陽光聖典隊長であるニグン・グリッド・ルーインに切り札として持たせた、最高位天使を召喚するスレイン法国の秘宝が使用されたのを受けて、土の巫女姫による《魔法上昇(オーバーマジック)》を用いた大儀式魔法である第八位階魔法《次元の目(ブレイナーズ・アイ)》による占術を試みたところ、映し出されたのはガゼフを乗せた白銀の魔獣に相対する最高位天使の姿であった。

 その時点のレイモンは白銀の魔獣の存在こそ想定外であったが、最高位天使によってガゼフの抹殺は滞りなく行われると予想していた。

 ガゼフ・ストロノーフは表舞台に立つ戦士としては近隣諸国最強と呼ばれているが、それでも英雄の壁を超える存在ではない。過去に行われた風花聖典の調査ではそのような結論に至っていたはずだった。

 しかし、魔神さえも屠る最高位天使が行使する魔法を受けながらガゼフも魔獣も生き残り、逆に最高位天使を討ち取ったことでその予想は大きく裏切られることになる。

 

「まさか力を隠していたのか? 風花聖典を欺けるほどに? いや、それはありえん。第一、それほどの力を以前から持っていたならば毎年行われている帝国との戦争でその力を振るわない理由がない。だとすると、風花聖典の調査の後に何らかの理由で力を得たのか? 魔法やマジックアイテムによる強化? いや、王国は魔法を軽視しているからその線は無い。そもそも最高位天使はその程度で倒せるような柔な存在ではない。仮にそれが可能となるならば、それは神の御業としか言いようがない。ならば、あの白銀の魔獣が関与している可能性は……」

 

 鋭い視線で報告書を見ながらレイモンはあり得る可能性を列挙していく。やがて、レイモンはある仮説に行き当たる。

 

「よもや、ガゼフ・ストロノーフは神人だったというのか? 奴の容貌は近隣諸国では珍しい黒髪黒目。あの忌々しい八欲王の拠点であった南方の国の民の特徴と似ている。それが陽光聖典との戦いが切欠で血に目覚めた? 待て、結論を急ぐな。どちらにしろ、陽光聖典を退けた時点でこの案件はもはや私だけで処理して良いものではなくなっている。他の可能性も含めて最高執行機関の者たちにも意見を聞かねばならんな」

 

 自分一人では結論を出せないと判断したレイモンは、ため息をついてぼそりと呟いた。

 

「まったく……あの国にも昔から裏切られてばかりだ」

 

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