※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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第八話 ※エロ無し

 下風月の中旬頃、ビアンゴは拠点としている地上船に届いた自分あての手紙を読み進めていた。

 その手紙にはかつて自分と共にエルフの王国を出奔し生き残った部下にして同郷の森妖精(エルフ)達、その中で現在もオリハルコン級冒険者として活動しているチーム“森妖”の一人である戦士のアラビータから、闘技場の闘技大会に参加するので観戦しに来ないかという誘いの文と闘技場のチケットが添えられていた。

 戦闘好きの彼らしいと苦笑しながらビアンコは三枚(・・)あるチケットを眺める。

 

(これって、私やラキスケだけじゃなくてツアレちゃんも誘えってことよねぇ)

 

 一人だけ除け者にしないという彼なりの配慮なのだろうが、死者が出ることも珍しくない闘技場の試合を彼女が見て卒倒しないかという心配があった。

 かといって闘技場の演目で最も人気が高い闘技大会のチケットは他の演目と比べて若干高い。それを三枚も用意してくれたのに見に行かないのも申し訳なく思えた。

 

「まずは二人に見に行くか聞いてみるところからね」

 

 そう言って、ビアンゴは《伝言(メッセージ)》でラキスケに連絡を取る。

 

「ラキスケ、ちょっといいかしら?」

『ビアンゴかい? ちょっと待って……良いよ。何か用事かい?』

「アラビータから闘技場の観戦チケットを三枚貰ったのだけれども、貴方も観戦しに行く?」

『闘技場か……、演目は何だい?』

 

 ラキスケはチケットの演目を尋ねる。闘技場の演目には亜人奴隷を魔獣と戦わせる殺戮ショーのような悪趣味なものも存在し、そういう類の演目は好まないからだ。

 

「闘技大会だそうよ。アラビータが参加するのですって」

『闘技大会か……、ほかにどんな選手が出場するかも気になるし、久しぶりに観戦しに行こうかな。ちょうどツアレも一緒にいるから一緒に行くか聞いてみるよ。三枚っていう事はツアレにも確認をとるつもりだろう?』

「あら、ツアレちゃんも一緒にいたのね。明るい内のお楽しみは程々にしておくのよ」

『ははっ……残念ながら御想像とは全く違うよ、ツアレに魔法の基礎を教えていたんだ。神聖娼婦の職業はユグドラシルには存在しなかったけれども、現実世界(リアル)では宗教に纏わる役目として存在した覚えがあってね、ひょっとしたらと思って試しに巻物(スクロール)で《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》を使ってもらったら使用できたんだ』

 

 ラキスケがツアレと一緒にいることを知ったビアンゴが茶化すと、ラキスケは笑いながらツアレに魔法を教えていたことを話す。

 

「それは良かったじゃない。それで、ツアレちゃんにはどんな魔法を教えるつもりなのかしら?」

『魔法の修得には年単位の時間はかかると思うけど、今のところは信仰系魔法を中心に教えてみようかなって思っているよ。あとは《兎の耳(ラビッツ・イヤー)》《兎の足(ラビッツ・フット)》《兎の尻尾(バニー・テール)》辺りかな』

「前半はともかく、後半は分かり易い位に欲望に忠実ね……」

 

 兎さん魔法と呼ばれ、三つを同時に唱えると女性の服装が変わる魔法も習得させようとしているラキスケにビアンゴは呆れる。

 

「まあいいわ、それじゃあ、一時間後に甲板に集合で良いかしら?」

『ああ、それで大丈夫だよ』

「それじゃあ、《伝言(メッセージ)》を切るわよ」

 

 ビアンゴは《伝言(メッセージ)》を解除すると、出発の準備を始める。

 ツアレの事だからラキスケが行くならば一緒に行くだろう。ラキスケがこの船に連れてきた2年前と比べて、彼女の人間恐怖症は精神を安定させるマジックアイテムである鳩を模った指輪を常日頃から嵌めていることもあって大分和らいでいる。

 今ではラキスケが随伴すれば他人がいる所にも怯えずに行くことができるのは、船の外に出ることを恐れていた当時からすれば大きな進歩と言えるだろう。

 機会があったらツアレにおしゃれをさせるための買い物に三人で出かけて、ラキスケにツアレのファッションを品評させてみるのも面白いかもしれない。

 そう考えたところで、ビアンゴは昔のことを思い出して口から言葉が漏れる。

 

「もう叶わないけれども、あの子ともまたおしゃれとか買い物とかしたかったわねぇ……」

 

 

 ────────────────────

 

 

 バハルス帝国でも帝都にしか存在しない独特な建物である闘技場は、公共の娯楽施設の一つであり帝都内でも人気の高い観光スポットでもある。

 入るためには入場料が必要になるが、市民の不満解消の意図もあって絶対に手が出せないほどの額ではない。それもあって帝都の庶民にとって最大の娯楽の一つになっている。

 興行主(プロモーター)たちによって日々様々な演目が行われており、死者が出ない日は滅多にない。むしろ死者が出るほど盛り上がりを見せ、その中でも最も人気がある演目が今日行われる闘技大会だ。

 到着したラキスケ・ビアンゴ・ツアレの三人は受付で闘技大会の観戦チケットを見せるとそのまま階段を昇り、指定された観客席へと向かう。

 

「みなさ~ん、こちらですぅ」

 

 座る観客席の近くからラキスケたちに声を掛けられる。そこにはピンと小さく尖った耳に栗色の髪と透き通った碧色の瞳を持つ少年の姿が手を振っていた。

 その周囲にはビアンゴも見知った顔が4人。闘技大会に参加しているアラビータ以外の“森妖”のメンバーだ。

 

「あら、マリナラじゃない。みんなも元気してた?」

「ええ、ビアンゴさん。元気に商いをさせて貰っておりますよ~」

 

 マリナラは一見すると幼い少年──マリナラ・ラッドは、100年前にエルフの王国を出奔した森妖精(エルフ)の一人の女性と今は滅びたアベリオン丘陵の丘小人(ヒル・ドワーフ)の生き残りとのハーフであり、その容姿に反して長い時を生きている。

 母親共々商人としての手腕は優れており、彼の商会が取り扱う商品は幅広い。冒険者やワーカーが使用する武具や魔法のアイテムから、日常生活に必要な雑貨品まで様々である。

 実際、修理する当てがないためにアイテムボックス内で温存されているユグドラシル時代の装備の代わりとして、ラキスケやビアンゴが普段使いしている装備にも彼が仕入れた商品が含まれている。

 

「ビアンゴ様もお元気で何よりです」

 

 初めにビアンゴに挨拶したのは金髪翠眼のエルフの男だった。

 男は オリハルコン級冒険者チーム“森妖”のレンジャー兼リーダーのカチャトラ。

 ほっそりとした体つきをしており、指には魔法効果が込められた指輪がはめられている。着ているものは皮鎧だが、履いている靴と合わせて指輪と同様に魔法効果が込められている。

 

「今回はアラビータが闘技大会に参加するということで、皆様をお招きさせていただきました」

 

 ラキスケたちを招待した経緯を話す、背中に全身を覆うことができる大きさの薄緑色の大盾を担いでいる茶髪藍眼の男はアチューガ。

 味方を守るガーディアンでありながら着ている装備は鎧着(チェインシャツ)以外は防御力を念頭に置いたものではない軽装だが、それは彼が担いでいる大盾に理由がある。

 彼がエルフの王国を出奔する際に持ち出したこの大盾は強固にして魔法耐性も有し、致命的な破損さえ防げば再生する機能が備わっている。

 そして最大の特徴が、使い手が特定のキーワードを唱えることでナックルガードのついたジャマダハルと小盾を伴った全身鎧(フルプレートメイル)へと変形する能力だ。

 はるか昔にドワーフの王が生み出した逸品とも異世界の加工技術が使われているとも言われるこの大盾の出所は、エルフの王国が興された時から当時のエルフの王に仕えていたらしいビアンゴでも詳細は知らないという。

 

「強いて言えば出会いがないから春が来ない」

「“フォーサイト”のイミーナ嬢には彼氏がいるから失恋済みで冬の時代」

 

 二人揃って自身の恋愛状況をネタにする双子の兄弟は、ハイ・ドルイドのジェノーベとフォレスト・メイジのヴァージリッコ。

 ともに第四位階までの魔法を行使できる魔法詠唱者(マジック・キャスター)で、容姿がエメラルドグリーンの髪と金の目で同じ双子を見分けるコツは、羽織っているクロークに縁どられた色と手に持つ杖の種類である。

 緑色の線が縁に入ったクロークを羽織って長い杖を持つのがジェノーベ、青色の線が縁に入ったクロークを羽織って短い杖を持つのがヴァージリッコである。

 どちらも交際相手ができず寂しいようだ。

 

「みんな変わった様子がなくて安心したわ、誘ってくれてありがとね。ジェノーベとヴァージリッコは残念だけど、私でも恋人の斡旋・紹介は無理よ」

「恋愛成就はギガントバジリスクの討伐より難しい」「そもそも出会うことが稀なのもそっくり」

 

 ビアンゴ達の会話の脇では、マリナラがラキスケと商談を行っていた。

 

「装備の更新や補修の方は大丈夫ですかぁ? もしよろしければ、特別価格で私共が対応いたしますよ~」

「装備の方はまだ大丈夫かな。……そうだ、代わりに情報系魔法が込められたスクロールとか、それに類するマジックアイテムをお願いできるかい?」

「情報系魔法の類は希少価値が高いのでその分お値段は張りますが、よろしいですか~?」

「ああ、構わないよ」

「畏まりました~。今日の闘技大会が終わり次第、見繕ってきますね~」

 

 ラキスケの大雑把な注文に難色を示すことなく了承するマリナラ。噂では帝国魔法省やドワーフの国とも独自のコネクションがあるとも言われているが、実際の所は不明である。

 

「書面での契約は後程として、今はもうそろそろ始まる闘技大会を楽しむとしましょうか~」

「そうだね。アラビータがどこまで行けるのか楽しみだ」

「そうですね~。今日の闘技大会の参加者リストはっと……おやおや、昨日まではいなかった飛び入りの参加者がいますねぇ」

「飛び入りの参加者? 誰なんだい」

「えーっと……、闘技場では無敗の剣士と名高い“天武”のエルヤー・ウズルスですねぇ」

 

 エルヤーの名前が出た瞬間、“森妖”のメンバーたちは顔を顰める。

 

「よりによって彼か……」

「直前になってということは、アラビータが参加するのを知って自分が上だと知らしめるために狙って参加した可能性もあり得るな」

「俺たちをバカにしたうえで何かとちょっかいかけてきてウザったい」

「見た目だけ大きくなっても、中身は癇癪持ちの子供」

 

 “森妖”のメンバーからのエルヤー評は散々なものだった。実際、彼らは度々エルヤーから難癖をつけられてはトラブルになっているのだから当然である。

 “天武”はワーカーチームでこそあるが実質的にエルヤー個人で成り立っている。というのも、エルヤー以外のメンバーは彼が購入した女性の奴隷のみだからだ。

 エルヤーは自身の剣の腕に裏打ちされた傲慢さと、森妖精(エルフ)のような人間以外の人間種や亜人種を侮蔑しつつ森妖精(エルフ)を奴隷として使役しては慰み者にしたり使い捨てるように扱う嗜虐心を持つ。

 森妖精(エルフ)の奴隷の大部分は、エルフの王国で戦争に駆り出された者たちがスレイン法国に捕らえられ、様々な方法で心を砕かれたうえで奴隷に堕とされた者たちである。

 帝国の奴隷制度では帝国臣民の場合は人間種でも亜人種でも、奴隷であっても帝国の法律によって守られる。しかし、他国の人間種や亜人種はその範疇に含まれないため、あくまでエルフの王国の奴隷森森妖精(エルフ)を虐げているエルヤーの行為は帝国の法律に違反するものではないのだ。

 それでも、スレイン法国とエルフの王国との間で戦争が勃発した時に出奔した彼らにも、かつての故郷の同族に対する憐憫の情は残っている。

 

『皆様お待たせしました。ただいまより本日のメインイベント、闘技大会を開催いたします!』

 

 一同の中でエルヤーへの悪口がこれ以上続く前に、マジックアイテムによって増幅された進行係による闘技大会の開催を告げる声が闘技場に響き渡る。

 

 

 ────────────────────

 

 

 始まった闘技大会の試合は多くが一進一退の攻防が繰り広げられる組み合わせが多い中、他の試合に比べて突出して短い試合があった。エルヤーの試合とアラビータの試合だ。

 アラビータという男はアチューガと同じ茶髪で藍色の瞳を持つエルフである。

 熊の魔獣の毛皮を被せた兜にダークブルーの全身鎧、金属質な鳥の羽根でできたマントを羽織っており、戦士でも両手で扱う前提の大斧を片手で振り回す膂力の持ち主だ。

 エルヤーが剣技で対戦相手を一刀のもとに切り伏せたなら、アラビータはその膂力をもって一撃で対戦相手を吹き飛ばす。

 そうして闘技大会は進んでいき、決勝戦で両者はぶつかり合うことになった。

 

『闘技大会も残すところ決勝戦! ここまで勝ち残った二人の選手の入場です! まずは帝国のオリハルコン級冒険者チーム、“森妖”の“狂腕”アラビータ!!!』

 

 闘技場内に響く観客の歓声の中、アラビータは人間大の大きさがある大斧を肩に担いだまま片方の入場口から現れ、堂々とした足取りで闘技場の中央まで歩を進める。

 その道中で不敵な笑顔で観客やチームメンバー、ラキスケたちに手を振るのも忘れない。

 

『対するは帝国闘技場で常勝無敗の天才剣士! ワーカーチーム“天武”エルヤー・ウズルス!』

 

 反対側の入場口からは、エルヤーがアラビータに負けない自信に満ちた足取りで向かってくる。

 互いに所定の位置についたところで相対するや否や、二人は言い合いに突入する。

 

「おやおや、人もどき風情が決勝まで上がってくるなど、どうやらそちらの対戦相手はよほど弱かったのでしょうねぇ」

「はっ、そういうてめえは独りぼっちなまま見た目だけ育って中身は全然変わってねえなぁ、エルヤー」

「ふんっ、人間様に劣る劣等種物がほざくなよ」

「その劣等種と呼んでる森妖精(エルフ)にしか相手してもらえない、てめえのシモの短刀が哀れだなぁ」

「貴様!」

『おおっと! 試合開始前から二人の舌戦が始まったぞぉ! これは荒れる試合になること間違いなしだぁ! だがっ、だが試合開始の鐘が鳴るまでは堪えてくれよ!』

 

 進行役の二人を煽りながらも暴走は抑えようとするアナウンスが入る。

 

「この試合が終わったら、無様に這い蹲っているお前の耳を削ぎ落してやりますよ」

「始まる前から勝った気になるなんて、とんだ妄想野郎だな」

「妄想などではなく確定している結末ですよ」

 

 一触即発な状態を維持しながら二人は互いに獲物を構える。

 試合開始を告げる鐘が鳴った。

 先手を取ったのはエルヤー。構えていた刀に武技を乗せて振る。

 

「《空斬》!」

 

 放たれた斬撃は空を切り裂き、アラビータに向かって走る。

 アラビータは羽織っているマントで飛ぶ斬撃を弾く。彼のマントは斬撃耐性がある金属質な羽根で編みこまれており、低位の武器ならばこれだけで防いだうえで刃毀れさせることができる。

《空斬》の連撃を防ぎながらアラビータは片手で大斧を振りかぶりながら走り出してエルヤーに接近を試みる。

 

「どぉぅりゃぁ!」

 

 攻撃をものともせず重戦士とは思えない機敏な動きに、下手な戦士ならば大斧の一撃で沈められるのは避けられないだろう。

 しかしエルヤーは、アラビータの一撃をギリギリまで引き付け、足を動かさずに横にスライドする様に移動して避ける。

《縮地改》と呼ばれる、本来は前方にしか移動できない武技《縮地》を前後左右へと移動できるように改良した武技だ。

 アラビータの闘技場の大地を深々と砕く一撃にも動じずにエルヤーは刀を振り下ろす。

 

「ちぇぇい!」

 

 エルヤーの斬撃を、アラビータは避けずに背中を向いてマントで受け止める。

 闘技場に金属同士が激しく擦れあう音が響く。エルヤーの武器が刃毀れした様子はない。

 

「オラぁ!」

 

 アラビータは反撃に大斧を持たないほうの手で裏拳を放つが、エルヤーの《縮地改》による後方移動で避けられる。

 エルヤーが最小限の動きでアラビータの裏拳を避け、追撃をしようとしたところで、今度は大斧の薙ぎ払いが迫る。アラビータは裏拳が避けられること、そしてエルヤーが即座に反撃に移ることを予想して、回転する動きに合わせて大地に突き刺さっていた大斧を力づくで引き抜いてそのまま横薙ぎにしたのだ。

 あの一撃は受けたら不味い。そうエルヤーは判断してとっさに《縮地改》による緊急回避して距離をとる。

 

「はぁっはぁっ……糞が!」

「ちっ! さっきのでも当たらねえか」

 

 アラビータの攻撃は一発も当たっていないが、短時間での武技の連続使用はエルヤーにとっても負担になる。

 一方のアラビータも今のところエルヤーから致命となる一撃こそ受けていないが、《空斬》を受け続けたうえで攻撃が一向に当たらないことに苛立ちを覚えていた。

 

「だったら、これでどうだぁ!」

 

 アラビータが大斧を地面に叩きつけながら振り上げると、巻き上げられた土の塊が砕け散りながら礫となってエルヤーを襲う。

 

「そんな猿知恵の攻撃が当たると思って!」

 

 エルヤーは大きな土塊は避け、小さな土塊は刀で切り払いながら左右に移動して《空斬》で反撃する。

 アラビータもエルヤーの《空斬》を時には受け止め、時には回避しながら土礫をまき散らして反撃する。

 闘技場の大地が抉られながら近接距離でも遠距離でも互いに決定打を避ける戦いが続き、観客席からは歓声の声が上がる。

 

「劣等種の分際でこの私に余計な時間をかけさせるんじゃない!」

「だったらとっととギブアップしちまえよ。そうすりゃ人生からリタイアはしないで済むぜ?」

「だったらこれで終わりにしてあげますよ。武技! 《能力向上》《能力超向上》!!!」

 

 エルヤーにとって自慢であり切札である武技を発動する。《能力超向上》は本来ならばエルヤーのレベルでは習得不可能とされる武技だ。

 この武技を修得しているからこそ、エルヤーは自分が天才であり強者であるという自負を持っている。

 

「だったらこっちも! 武技《能力向上》《外皮強化》《痛覚鈍化》!」

 

 負けじとアラビータも今まで使用しなかった武技を発動する。

 互いに相手に向けて突進し、獲物を振りかぶる。

 先に振り下ろしたのはアラビータの方だった。アラビータの渾身の一撃をエルヤーは《縮地改》で大斧が届かないギリギリの所まで後ろに下がってやり過ごし、それから振り下ろす一刀のもとで両断しようとしたところで、

 

「《怒涛震撃》!!!」

 

 アラビータが新たな武技を発動して、そのまま大斧を大地に叩きつけた。

 その瞬間、闘技場が揺れた。それは比喩的なものではなくアラビータが放ったオリジナルの武技による一撃で発生した局所的な地震である。

 エルヤーは一瞬理解できなかった。アラビータの一撃は確かに回避したはずなのに、地にしっかりと足がついていたはずなのに、宙に浮いて自分が吹き飛ばされていることを。

 ダメージは深くない。止まっていた思考を瞬時に再起動させてエルヤーは着地しようとするが、そこでエルヤーに不運が襲う。

 着地先の大地は先ほどアラビータが抉った穴が複数あり、そのうちの一つに片足が嵌ってしまったのだ。

 

「なぁっ!」

 

 衝撃を殺し切れていない状態で後ずさった片足が嵌り、エルヤーはバランスを崩す。

 そしてアラビータはその隙を見逃すほど甘くはなかった。地面に深々と突き刺さった大斧を手放し、小手(ガントレット)をはめた拳で追撃を仕掛けてきたのだ。

 

「こいつで、終わりだぁ!」

 

 エルヤーがとっさに振り下ろした刀をアラビータは左手で手首を掴むことで防ぎ、右手の握り拳をエルヤーの胸当てに叩きつける。

 

「こひゅぉっ!」

 

 エルヤーがそのままさらに吹き飛ばされる……事はなかった。片足が穴に嵌ったうえで片手を掴まれて無理矢理繋ぎ止められたことで、衝撃を逃がすこともできなくなっている。

 鎧の胸当てがメキメキと悲鳴を上げて拉げ、心臓を強く圧迫する。同時に肋骨もベキベキとへし折れる音がエルヤーの体中に響きながら、肺から空気が無理矢理押し出される。

 激痛と酸欠によってエルヤーは吐血しながら朦朧とした意識で必死に考える。

 なぜこんな事になったのか、劣等種でありながら群れてオリハルコン級という分不相応な立場を持っている連中に現実を見せつけるいい機会だったはずだ。

 なのに実際は追い詰められ致命の一撃を受けているのは、どうしてか? それは闘技場に空いた穴に足をとられたからだ。それがなければあのまま押し切ることだって容易かったはずだ。

 だったらこの闘技場の地面を施工した奴が悪い! きっと、いや絶対にこいつと裏で繋がっていてこうなるように仕込んでいたはずだ! 見つけ出してこの落とし前をつけさせる必要がある! 

 非合理な怒りを燃やすエルヤーの思考は、アラビータが追撃として蹴り上げた金的による局部を守っていたものが砕け散る衝撃と何かがつぶれる鈍痛、そして浮遊感を最後に途切れた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 闘技大会の閉会式が終わった後、ラキスケたちはマリナラや“森妖”のメンバーと共にアラビータと合流して彼らが宿泊している宿屋で祝勝会を開いていた。

 

「優勝おめでとう、アラビータ。怪我の様子はどうだい?」

「なあに、治療魔法を使うまでもない程度だよ。ラキスケの旦那」

「それは良かったわ。今回の試合は上手く噛み合って大した怪我もせずに勝てたけど、ちょっとでも流れが違っていたら大怪我じゃすまなかったでしょ?」

「まあビアンゴの大将の言うとおりだわな。いくら布石は仕込んでいたとはいえ、あのタイミングであいつが穴に足をとられたのは俺にとっても予想外だったからなぁ」

 

 アラビータはそう言うと、骨付き肉を一口齧り取り咀嚼する。

 戦いに疎いツアレはドリンクを飲みながら、彼らの話に首をかしげる。

 

「ツアレのお嬢が良く分かってない様子」「素人にもわかりやすい説明をしてあげるべき」

 

 ヴァージリッコとジェノーベの言葉に、咀嚼していた肉を飲み込んだアラビータが話を続ける。

 

「しゃあねえな……つまりだな、地面を掘り起こしていたのは別の目的があって、今回はたまたま違う形で引っかかったんだよ」

「別の目的……ですか?」

「地面を凹ませたり土塊をぶちまけることで、エルヤーの奴の武技による移動を制限するためのな。まず、《縮地》は体勢を変えないで移動できる武技だ。その改良版である《縮地改》は本来前進しかできないのを前後左右に動けるようにした武技だ。実用性の高い武技なんだがこれにはある欠点がある」

「欠点……、ああ! ひょっとして、跳んだり跳ねたりすることができないのですか?」

「その通り。武技による移動は便利なようで融通が聞かない部分があってな。例えば《縮地》の場合、跳んでる最中に空中で使用することはできないし、《縮地》を使用している間は跳ぶこともできない。そして、《縮地》による移動は足を動かさずに行われるが、地面に触れていないわけじゃないし高低差の影響も受ける。まあ馬車みたいなもんと考えればいいか。つまりだ……」

「つまり、凸凹道にすることでエルヤーの機動力を殺して」「アラビータの馬鹿力で叩き潰すのが本来の流れだった」

「お前ら、あとちょっとという所で説明役奪うなよ……」

 

 最後の最後で結論を話すヴァージリッコとジェノーベに、アラビータは呆れた様子で止めていた食事を再開する。

 

「しかしまあ、エルヤーは今回の試合で敗死したようですね」

「まあ、生き残ったとしてもあの怪我に加えて彼の名声を支えていた闘技場で無敗という肩書は消える以上、恨みも多く買っている彼は早晩立ちいかなくなっていた事でしょう」

 

 カチャトラとアチューガがエルヤーの顛末を語る。

 三人いた奴隷エルフに関しては、あの後アラビータが優勝賞金と個人資産で一括購入したことにした上で奴隷契約変更の誓約を行って帝国の法律で守られるようにした。奴隷の証として半分に切り落とされていた耳もラキスケが治療している。

 装備の強化や更新のために貯めていた費用が大分消えたとアラビータはぼやいていたが、そもそも彼の装備はそれこそユグドラシル時代の品や国宝級でもない限りはこれ以上強化するのは難しい所まで突き詰めている。

 それに、マリナラの商会に元奴隷エルフたちが働けるように頼み込んでいたことを知っている一同は、彼女たちが社会復帰するためのモチベーションとしてわざとそう言っているのだとも気が付いている。

 実際のところ、アラビータは同情や善意だけで彼女たちを助けた訳ではない。「弱者は強者のために働き、強者は弱者を守るために戦う」という彼の価値観に則って強者となった自分のために彼女たちが十全に働ける環境を整えた結果である。

 帝国の法で守られていない状態では彼女たちを守れているとは言えないから、奴隷契約を変更し耳の治療を頼んだ。彼女たちが自分のために働けるようにするために信頼できるところを斡旋した。

 美談のように思える話も蓋を開けてしまえばこの通りである。それでも、奴隷として使い潰されるはずだった彼女たちを結果的に救ったことには変わりない。本人にその気はなくても、彼女たちから少なからず好意を抱かれる理由にはなっている。

 思い思いに食事をとり、酒を飲み、話をしていると、ラキスケはマリナラに話しかける。

 

「そういえば、マリナラは近日中に王国に行く予定ってあるかい?」

「そうですね~。来月の頭辺りにエ・ランテルへ都市一番の薬師とポーションの契約交渉をしようとは考えておりますね~」

「じゃあその時に一緒に乗せて行ってもらえないかな?」

「別に良いですけれども、理由を教えていただいても構いませんか~」

「うーん……よし、分かったよ。遅かれ早かれ伝えることだしね。王国の大都市でツアレと一緒に妹の消息を本格的に探そうと思ってね」

 




この作品では帝国に置けるエルフや亜人の扱いが原作と若干変わっています。
その辺りも、長年ラキスケが帝国で住んでいた影響が出たものです。

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