※この作品はR-18です。

【R-18】男淫魔と元奴隷メイドの情愛   作:エヌット

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原作開始後
第九話 ※エロ無し


 リ・エスティーゼ王国の城塞都市エ・ランテルは、その名に相応しい三重の城壁で囲まれた大都市である。その城壁に取り付けられた門は、外周部分にある者が最も強固且つ巨大であり、のしかかってくるような無骨な重厚感に満ち満ちていた。

 その門の横手には検問所が設けられており、旅人のチェックと違法な荷物の運搬や他国のスパイの発見のために幾人もの兵士が詰めている。

 早朝の門が開いたばかりの筆舌に尽くしがたい忙しさを超えて、太陽が天空の最も高い所に登りつつある頃、桟のみの窓からぼんやりと外を眺めていた兵士の一人が、ちらほらと旅人の姿が見え始めた街道にその一団とは別に進んでくる荷馬車の一団に目を止めた。

 

「来た方向からして帝国からの隊商(キャラバン)か。こりゃ忙しくなるぞ」

 

 座っていた兵士は溜息をつきながら、今からくる隊商(キャラバン)を迎えるために立ち上がる。

 兵士たちが見守る中、馬車の一団は門の前まで進み、動きを止めた。

 先頭の馬車の扉から降りてきたのは四人の男女であった。

 一人はピンと小さくとがった耳をした栗色の髪と透き通った碧色の瞳の少年は恐らく半森妖精(ハーフエルフ)だろう。仕立ての良い服を着ていることから森妖精(エルフ)を愛人にした商人の息子辺りかもしれない。

 もう一人は王国や帝国にはよくいる青い瞳に金髪で愛嬌のある顔立ちの女だ。羽織っているローブは地味な色合いだが仕立ては良く、柔らかな光を放っていそうな宝玉が柄にはめられた杖を握っている。

 

「あの女、魔法詠唱者(マジック・キャスター)か?」

「かもしれないなぁ」

 

 検問対象としては厄介な魔法詠唱者(マジック・キャスター)かもしれない女に兵士は小さく顔を歪める。

 目を引いたのはほっそりした体つきの金髪翠眼の森妖精(エルフ)の男で、皮鎧を着て弓を持っていることから野伏(レンジャー)だろう。驚いたのは首からぶら下げている冒険者プレートがオリハルコンであることだ。

 エ・ランテルに存在する冒険者組合の冒険者は、最高位でミスリル級だ。オリハルコン級はその一つ上の位階に存在し、人類の英雄とも評されるアダマンタイト級の一歩手前であることを意味している。そう考えると自分達では想像することもできない人物であることが分かる。

 問題なのは瞳孔が縦に割れた銀色の瞳に、紅い頭髪の左右のこめかみから山羊を思わせる角が軽い曲線を描いて後ろに向かって伸びた男の亜人だ。

 亜人は基本的に人間よりも高い身体能力を持っている種族が多い。

 亜人が村などに現われて交流することはあるらしいが、王国の都市に堂々と現れたという話は殆ど聞いたことがない。

 それに加えてその亜人は武具を装備している。それもただ皮鎧を着ているだけのような簡素なものではなく、兜を外した全身鎧に加えて腰に剣とメイスを差しており、本格的だ。

 見える範囲だけでもそれらの装備が放つ輝きはただの鋼ではなく、より上位の金属で作られている事を物語っている。

 

「皆様方、お仕事お疲れ様です~。私、日常生活の品から冒険者の装備まで商売させていただいている、商人のマリナラ・ラッドと申します~。そして此方は護衛をしてくださった冒険者一党のリーダーと、相乗りしていただいたラキスケさん方一行でございます~」

「どうも、チーム“森妖”のリーダーを務めさせていただいているカチャトラと言います」

「ラキスケです」「えっと……ツアレです」

 

 兵士が亜人へどのように対応するかを決めあぐねている間に、先頭にいた少年が兵士達を労いながら自分たちの簡単な自己紹介を行う。

 一見すると礼儀正しいようにも聞こえるが、自分達よりはるかに強いであろう亜人が商人に雇われた護衛ではなくて相乗りした旅人だとわかったことで、兵士は油断なく彼らに近づく。

 

「まずは色々と確認したいことがあるので、詰め所に来てもらっても構わないかね?」

「ええ。構いませんよ~」

「はい、分かりました。ですが彼女は人見知りなので、私と一緒で構いませんか?」

 

 他の旅人たちもやってき始めているこの時間帯に一人一人別々に応対していたら時間が足りなくなってしまうので、兵士も了承して詰め所に連れていく。

 隊商(キャラバン)の荷物の検査の担当になった兵士は、横目で詰め所に入っていく彼らを見ながら最近起きた出来事を思い出す。

 大凡一週間前の深夜に発生した、トブの大森林の上空を中心とした闇を完全に消し去るかのような謎の発光現象。大地を揺るがすような爆音が連続して鳴り響いたかと思ったら、その音と光は瞬く間に消えていったという。

 エ・ランテルからもはっきりと観測されたそれは、都市内でも噂となっており、様々な憶測が生まれている。

 トブの大森林に住まう森の賢王の怒りか!? と慄く者もいれば、帝国が何かの実験を行っていたのではないのか? 怪しむ者もいた。荒唐無稽な憶測では、神が降臨したとトブの大森林の方角に向かって礼拝を捧げる神官も現れたという。

 

「頼むから面倒ごとは起こさないでくれよ……」

 

 

 ────────────────────

 

 

 エ・ランテルの墓地区画、その最奥にある霊廟のさらに奥の石の台座には隠し階段へ通ずる仕掛けがある。

 そこを通った先の広い地下空洞に二人の人影があった。

 一人は目が落ちくぼみ、土気色という言葉がふさわしい顔色の痩せた男だ。頭部どころか体毛と呼べる毛が一本もないのではないのかと思えるほど毛らしきものがない。

 血の色にも似たどす黒い赤のローブを纏い、アンデッドモンスターに似た容貌の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。

 もう一人は漆黒のフード付きのマントを纏った短い金髪の女だ。猫化の動物じみた愛らしさと肉食獣としての危険性を内包した顔立ちをしている。

 

「やっほー、カジっちゃん」

「その挨拶は止めないか。それとカジットと呼べと言っているだろうに……それで、今度はどんな理由でここに来た? ここで儂が死の宝珠に力を注いでいることは知っておろう」

 

 女の気の抜けた挨拶にカジットは顔を顰めながら、女が来た目的を問う。

 

「ふふーん。ここで頑張っているカジっちゃんのために、これを持ってきてあげたんだよー」

 

 そう言って女がマントの下でごそごそと手を動かして取り出したのは、蜘蛛の糸のような細さの金属糸の所々に無数の小粒の宝石がつけられ、水滴が付着した蜘蛛の巣のような繊細なつくりのサークレットであった。

 

「それは! スレイン法国の最秘宝の一つである叡者の額冠ではないか! 確かにそれが使えれば儂の計画は一気に前進することにはなる。使えればな……」

 

 着用者の自我を奪い、その人間そのものを人間が使える限界を超えた高位魔法を使用するためだけのマジックアイテムに変貌させる狂気の神器を前にしてカジットは目を見開くが、すぐにそれが使い物にならないことを思い出して溜息を吐く。

 

「本来ならばこのアイテムに適合するのは女性だけ、しかも百万人に一人の割合だから使い物にならないねー。けど、この街にはまさにうってつけの生まれながらの異能(タレント)──すべてのマジックアイテムを使用できる人物がいるでしょ? そいつならこのアイテムも使えると思うんだよねー」

「……なるほど。噂に聞くあれか。だが奴は今、ミスリル級冒険者を連れて町を出ているぞ」

 

 適合者という問題を解決できる目途がついたにもかかわらず、カジットはすぐに目的のために実行することを躊躇している様子を見せる。

 

「ええー、なんでいないのさー。でもさ、例の儀式の準備はもう大体は揃ってるんでしょ?」

「確かにそれを使えれば、儂の計画は大きく前倒しして実行することはできる。しかし、そいつを攫って使わせることができたとしてもすぐに計画を実行することは出来んぞ。ズーラノーンにとって警戒しなければならない輩が、帝国からこの街に訪れておるからだ。神官戦士の亜人であるラキスケだ」

「うげー、ラキスケって言ったらスレイン法国でも亜人でさえなければ漆黒聖典に勧誘されていたって、その道では有名な奴じゃん。なんで来ているんだよー」

 

 予想外の相手に女は顔を顰めてぶつくさと文句を言う。

 

「知らんわ。相棒の森妖精(エルフ)はおらんから個人的な用事かもしれん。どのみち奴に嗅ぎつけられたら儂の五年間の努力が水泡に帰すことになる」

「カジっちゃんってば、やけにそいつを警戒するねー。まあしょうがないよねー。相性は最悪だし、ズーラーノーンの十二高弟の一人にして、魔神にも匹敵する災厄と呼ばれたアンデッド将軍を、あの帝国最強の大魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるフールーダ・パラダインがいたとはいえ倒しちゃうくらいなんだからさー」

 

 百年前にあったとされるズーラーノーンの十二高弟の一人によるバハルス帝国未曽有の危機。表向きはフールーダが死闘の末にカッツェ平野で首謀者を討ち取ったことにされているが、スレイン法国の諜報機関やズーラーノーンに伝わっている話では、カッツェ平野を縦断しようとした亜人と森妖精(エルフ)の一団の助力があってこそだったということが分かっている。

 

「分かっているならば、しばらくはこの街で騒ぎを起こすでないぞ。クレマンティーヌ」

「はいはーい。善処しまーす。それじゃーねー」

「……まったく。何事も起こらなければいいが」

 

 クレマンティーヌが気の抜けたような返事をしながら出ていくのを見たカジットは、一抹の不安を感じながら計画の要となる死の宝珠に力を注ぎに戻るのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「っふう、この姿のまま王国の都市に入ったのは初めてだけど、入れてよかった」

 

 ラキスケはツアレと共に、城塞都市エ・ランテル最高級の宿屋である「黄金の輝き亭」に宿泊することとなった。

 検問所に派遣された魔術師組合の魔法詠唱者(マジック・キャスター)による《魔法探知(ディテクト・マジック)》と《道具鑑定(アブレーザル・マジックアイテム)》による調査で、身に着けている幾つものマジックアイテムが反応して一騒ぎは起こったが、マリナラが兵士たちに何かを見せると兵士は詰め所を出て走り出し、しばらくして明らかに肥満体の男──パナソレイ都市長がやってきた。

 マリナラと親しそうに話してから、滞在を許可する証明板が発行されることとなったのでこうして入ることができたのだ。

 ちなみにその際に通行税と合わせて多額の献金が行われたがこれは賄賂の類ではなく、正規の規則に則った保証金である。額が跳ねあがったのはラキスケが亜人であることに加えて、多数のマジックアイテムを都市内に持ち込むことになるためだ。

 そして都市長自らが滞在許可を出した相手をみずぼらしい安宿に止めるわけにはいかないと、紹介されたのがこの宿である。

 都市の商会ギルドに赴いたマリナラや、彼に護衛として雇われた“森妖”の面々とはここからは別行動となる。なぜならば、大凡一週間前の深夜に発生したトブの大森林の上空を中心とした闇を完全に消し去ったかのような、大きな爆音を伴った謎の発光現象があったからだ。

 依頼人の護衛に専念したいということもあり協力を取り付けることは期待できない。

 そしてビアンゴは拠点である地上船を使って別の依頼に赴いているため、此処にはいない。

 ラキスケ達の目的であるツアレの妹──セリーシア・ベイロンの情報を探すのは自分達の足と耳が基本になる。

 

「私、本当に……王国に戻ってきたんですね」

 

 ツアレが呟く。自分から望んで再び足を踏み入れたが、それでも彼女にとって王国はつらい思い出ばかりがある土地だ。

 関係が無いのは理解しているが、都市長の容姿が彼女を妾として連れ去った肥え太った貴族を思い出させて気分を落ちこませる。

 

「大丈夫、俺が君を守るから」

 

 ラキスケはそう言うと、ツアレの唇にキスをしながら優しく抱きしめる。

 ラキスケと初めて肌を重ねた時のように、お互いの唇を舌でなぞったり舌同士を触れ合わせる。

 

「んっ……くちゅ、レロ……ちゅぱ」

 

 情欲を誘い貪り合うようなキスとは違う、昔を思い出してささくれていたツアレの心を癒すような優しいキスを二人はしばらく続ける。

 キスを終えて抱きしめていた腕を放すと、二人はベッドに腰掛けて今後の相談を始める。

 

「まずは今の段階で分かっている、妹に関しての情報をおさらいしようか」

「はい、妹の容姿は最後に見た時の記憶から変わっていなければ、濃い茶髪で私と同じ青い瞳をしています」

「そして、幻術で人間になりすまして前にツアレ達が暮らしていた村で聞き込みをした時には、君が領主である貴族に連れ去られてから6年後、今から4年前に妹は旅に出てそれっきり村には戻ってきていない。おそらく、彼女は君を助ける方法を得るために旅に出たんだと思う。そして発端が貴族である以上、貴族の力を借りる選択肢はほぼ有り得ない」

「セリーは、そこまでして……」

 

 前もってそれまでラキスケが得ていた情報は聞かされていたが、改めて聞いているとツアレに瞳に涙が込み上げてくる。

 

「そして、これは本人か確定できていないけれども俺が最期に得られた情報では、魔法の個人塾を開いている人に才能を見込まれてしばらくの間教育を受けていた子供たちの中に、似た容姿をした子供がいたそうだ。その子は本来ならば数年かかる魔法の習熟をその半分の期間で修めた天才だって褒めていたよ」

「あの子にそんな才能が……」

「まだ本人かは分からないけどね。今回はその子が妹であると仮定して、その足取りを追っていこうと思う。今思いつく中ですぐ候補に挙げられるのは、魔術師組合の組員に冒険者、それとワーカー辺りかな? そのうち魔術師組合は検問で詰め所に来た魔法詠唱者(マジック・キャスター)に確認してみたけど、そういう特徴を持った女性の組員はいないってはっきり言われてしまったからひとまず優先度を下げておくよ」

「そうなると、今回調べていくのは……」

「冒険者やワーカーが中心になるね。国への帰属意識が低い傾向にあって戦争にも駆り出されない冒険者は、力や食い扶持が必要な妹にとっては都合が良いだろうし」

 

 ラキスケはそう言って腰かけていたベッドから立ち上がると、ツアレの前に手の平を差し出す。

 

「それじゃあ行こうか」

「はい。行きましょう」

 

 ツアレはラキスケの小手を嵌めた掌を握って立ち上がると、一緒に部屋を出た。

 

 

 ────────────────────

 

 

 エ・ランテルの貧民街を歩く複数の人影があった。

 暴力を生業とするような雰囲気を放つ男たちに囲まれて歩くのは、皮の服を着た、濃い茶髪に青い瞳の若者だ。肌は白く中世的な美しさをしており、呼吸と共に漏れる声はやや甲高い。ベルトからぶら下げられた奇妙な形の瓶や変わった形の木工細工が、歩く動きに合わせて揺れる。

 

(姉さん……! 待ってて、今行くから!)

 

 銀級冒険者チーム“漆黒の剣”の魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるニニャは、溢れそうになる感情を必死に抑え込んで歩いていた。

 幼い頃に唯一の肉親であった姉を領主である貴族に妾として連れ去られたニニャは、姉を取り戻し貴族に復讐するために力を得る手段として冒険者となった。

 自らの適性と生まれながらの異能(タレント)が噛み合い、それを教えることができる師匠にも恵まれた。

 自分が貴族を憎み、姉を助けようとしているのを知りながら、チームに加えてくれた“漆黒の剣”のみんなという良縁にも恵まれた。

 おかげで、恥ずかしいが若くして『術師(スペルキャスター)』の二つ名で呼ばれるくらいには優秀な素質を持つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)になることができた。

 それでも、目的を達成するためにはまだ力が足りない。そのためにも、もっと力をつけないといけない。

 そう思っていたある日、モンスター退治に赴く前のアイテム調達のために他のメンバーと分担して買い物をしていると、後ろから自分を呼び止める声が聞こえた。

 

「“漆黒の剣”のニニャ、いや……セリーシア・ベイロンだな」

 

 “漆黒の剣”の他のメンバーにも伝えていない、自分の本当の名前を呼ばれてニニャは目を見開いて後ろにいる男の方を振り向く。

 

「貴様の姉、ツアレニーニャ・ベイロンに関して話がある。一緒に来てもらおうか」

「お前……、姉さんを知っているのか!」

 

 有無を言わせない高圧的な態度で姉の名前を出す男にニニャは詰め寄るが、背後から近づいてきた男達に囲まれ、肩を掴まれて引き離される。

 

「くっ! ……一緒に行けば、姉さんのことを教えてくれるんだな?」

「話が早くて助かる。ついてこい」

 

 ニニャは男たちの要求通りについていくしかなかった。

 人影のない裏通りを進みながらニニャは考える。

 彼らは真っ当な立場の人間ではないことは明白だ。かといって姉を連れ去った豚貴族は自尊心や虚栄心が強く、民衆と貴族の立場の違いを思い知らせて優越感に浸るために、姉を連れ去った時のように部下を引き連れた馬車に乗って自分が直接出向くはず。

 そこから考えられるのは、姉の身柄はあの豚貴族から目の前にいる彼らの雇い主に移っており、尚且つ姉に関して彼らにとって不利益な問題が起きたことだ。

 恐らく自分は、その損失の穴埋めのために連れていかれるのだろう。もう二度と、日の目を見ることはできないかもしれない。

 

(ペテル……、ダイン……、ルクルット……、ごめん)

 

 心の中で仲間たちに謝罪しながらニニャは、考えられる可能性ごとに何をするべきかを考えて足を進める。

 男たちに連れていかれた場所は、貧民街の中でも廃棄された区画にある小さな広場だった。

 

「サキュロント様、例のガキを連れてきました」

「おう、分かった。おまえらは周囲を見張っていろ」

 

 光に当たってないような青白い肌に、痩せこけた頬と相まって死肉をあさる猛禽類のような鋭い目つきをした男が上司らしい。

 如何にも暴力に慣れた、冒険者よりもワーカーのような汚れ仕事が似合う男だ。

 

「ね……姉さんはどこにいる」

 

 その雰囲気に呑まれそうになっている自分を心の中で叱咤しながら、ニニャはサキュロントと呼ばれた男に問いかける。

 

「ここにはいないな。会いたかったら、俺たち八本指に協力しろ」

「八本指……」

 

 八本指という言葉にニニャは握っている杖を構える。姉の足取りを探す過程で知った、王国に根を張る裏組織の名だ。

 此処でその名前が出てきて自分に協力を強要してくるということは、姉は八本指やそれらに手を貸している貴族たちと敵対する誰かの下に──それも親しい間柄でいる可能性が出てくる。

 希望的観測が過ぎる考えだが、もし当たっていた場合、自分がここで捕まったら十中八九、人質か何かにされてしまう。

 

「断る……って言ったらどうする」

「その時は、痛い目にあわせてから言うことを聞かせるだけだ」

 

 サキュロントがゆっくりと剣を構える。その剣は同じ冒険者チームの戦士であるペテルのものと比べてもはるかに上等な金属で作られていることを示すように、輝きを放っている。

 周囲で見張っている男達も、それぞれが武器を手に持ってニニャににじり寄る。こちらもサキュロントの剣には劣るが自分たちの装備よりは上等だ。

 数の上でも、装備の質の上でも、そして感じ取れる実力で見ても、ニニャに勝機がないことは本人が良く分かっている。それでも、何もしないで言いなりになる事だけはしたくない。

 

「《衝撃(ショック・ウェ)》……! ガハっ!」

 

 ニニャが僅かにあるかもしれない突破口にかけて魔法を詠唱しようとしたところで、唐突に腹部に殴られたような鈍痛が走る。

 

(そんな、誰も近くにいないはずなのに……)

 

 ニニャは薄れゆく意識の中でその答えを探そうとするが、続く頭部への衝撃でそれも叶うことなく意識が暗転した。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ラキスケ達がエ・ランテルでツアレの妹を探し始めて二日が経過した。

 分かったことと言えば、妹と同じ髪の色と瞳を持つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)で有名な生まれながらの異能(タレント)を持つ少年(・・)が、この都市の冒険者にいることだ。

 名前はニニャ。『魔法適正』という魔法の習熟にかかる時間を本来の半分にする生まれながらの異能(タレント)で、若くして第二位階まで至っているという。

 所属している冒険者チームの名は“漆黒の剣”。銀級冒険者チームで、若いながらも連携の取れたチームで今後が期待されている。

 冒険者組合の受付嬢の話では、大きな爆音を伴った謎の大規模な発光現象という異常事態が起きたトブの大森林近辺へ赴くことは、冒険者組合の正式な調査が行われるまで自粛するように低位の冒険者や依頼人に要請されている。

 その間、糊口を凌ぐためにどうするかを仲間と相談していたところを前日の夕方に見たのが最期だという。

 二日目はラキスケの特殊技能(スキル)によって生み出した影の悪魔(シャドウ・デーモン)も動員されているが、今のところ誰かに気が付かれた様子はないものの有力な手掛かりもつかめないでいた。

 探していた特徴に合致する人物が少女ではなくて少年であったことに落ちこむツアレ。ひょっとしたらと期待していただけに外れてしまって少なからずショックを受けているようだ。

 ラキスケはツアレを励ましながら太陽が沈み《永続光(コンティニュアル・ライト)》式の街頭が辺りを照らす通りを歩いていると、後ろから呼び止めるものがいた。

 

「そこの亜人、あんたに渡すもんがある」

 

 声に反応すると、そこにいたのは堅気とは言い難い雰囲気を持つ一人の男だった。

 

「……あなたは」

 

 問い掛けながらもラキスケはツアレを自身の背中に隠すように移動する。

 

「俺はあんたにこれを渡してくるように言われた、ただの案内人だ」

 

 そう言いながら男は懐から丸められた一枚の羊皮紙を取り出すと、放り投げるようにラキスケに手渡す。

 ラキスケは警戒しながら羊皮紙を開くと、驚いた容姿で固まる。

 

「どうかしたのですか? ……!!!」

 

 ラキスケの様子を心配したツアレが横から羊皮紙を覗くと、そこにはツアレにとって予想外の内容が書かれていた。

 

『八本指に逆らう愚かなラキスケへ。ツアレニーニャ・ベイロンの妹、セリーシア・ベイロンは預かった。その命が惜しければ、ツアレニーニャとともに二人でエ・ランテルの共同墓地の霊廟前まで来い』

 




ニニャの本名が明らかになったので、「フェリシア」から「セリーシア」へと変更させていただきました。
それと、門前の兵士たちはツアレを魔法詠唱者と認識しましたが、本人はまだ自力で使える魔法を修得できていないので見た目だけです。

今後、最新話を投稿する際の投稿場所は、何処が良いか

  • 該当する章の最新話(今のまま)
  • 新たに最新話の章を設けて、そこに投稿
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