※やまもおちもいみもなく、キスはあるけどエロはない
「比呂ちゃん、コンビニ行かない?」
通学路にあるコンビニまであと数メートルのところで、隣を歩く皐月さんが言った。ついでに腕を組んで歩いている。端から見れば女の子同士で仲がいいとか思われてそうだけど、残念ながらオレらは男だ。皐月さんは女装趣味で、オレは仕方なく女装中。いや、最近は仕方なくはないけども。
「なにか買うの?」
「最近暑いし、涼もうかなって。なにかほしいなら買ってあげるけど、ほしいものある?」
「アイス食いたい。暑いしさ」
「アイス? 買う買う。買う! ああもう、比呂ちゃん可愛いっ」
ぎゅっと抱きしめてくるが、暑いんだけど。
「暑い! いいから、早く行こうぜ」
引き剥がした皐月さんの腕を取って、コンビニまで小走りで行く。本当は登下校時の買い食いはダメなんだけどな。けど、そんなの守ってる奴は少ないし、問題を起こさなければ基本的に黙認されている。なんてったって、放課後は腹がへるからな。
「涼しー。比呂ちゃんのアイスアイスーっと」
中に入れば、すぐにアイス売り場へと向かう皐月さんの後を追う。肩を少し越した髪が左右に動く。後ろから見ても、皐月さんは綺麗だな。男だけど。
「どんなアイスがいい?」
「なんでもいいけど」
ならこれにしよ。当たればもう一本貰えるし、と一番手前に置いてある棒つきアイスを手に取った。
「飲み物も買おうかなー」
アイスのドア(?)を閉めて、皐月さんはオレの腕を取る。近くにある飲み物コーナーに行けば、どれにしようかと悩んだ。
「比呂ちゃんは飲み物いる?」
「いらない。皐月さんの貰う」
「えっ!?」
「え? あー……嫌なら買うけど」
目を丸くさせる皐月さんに言えば、「違う違う」と頭を振った。
「どういうこと?」
緩く首を傾げるオレに対し、皐月さんは頬を赤らめる。
「か、間接キスだなって……。比呂ちゃんと間接キスできるなんて、幸せすぎる」
「はぁ!? ばっ、かなこと言うなよ!」
いまので体温上がったんだけど。
「可愛い」
「バカなこと言ってないで、買うなら早く買え!」
腕を離して胸を押せば、「照れる比呂ちゃんが可愛すぎて動悸が……」と意味の解らないことを言ってきた。もう一度バカと言えば、皐月さんはお茶を取り出す。
「先に外行ってて」
「解った」
涼もうって言ったのは誰だと、心の中でごちりながら外へと向かう。皐月さんの横顔も美人だよな。ってナチュラルに皐月さんを見すぎだよな。いかんいかん。
「比呂ちゃんお待たせー」
一分もかからないうちに、後ろから抱きしめられた。
「だから暑いって」
「暑さ避け」
はいとアイスを渡され、素早く封を開けた。もちろんゴミはゴミ箱へだ。どうやら皐月さんは袋を貰わなかったらしい。お茶を開けて飲む皐月さんの手には、コンビニ袋が見当たらないから。
「ん?」
「エコ?」
「あ、袋のこと? アイスとお茶だけだしね」
「まぁ、そうだけど」
「こっち日陰だから」
また腕を取られて、自転車置き場に連れられる。確かに、いい具合に日陰になっていた。
皐月さんは壁に持たれてまたまたオレを抱きしめてくる。後ろからだからアイスを食うのには困らないけど。
「制服汚れるぞ?」
「気にしないよ。それより、比呂ちゃんいい匂い」
すんすんと匂いを嗅がれるが、いつものことなので気にしない。気になるけど、いまは気にしない方向でいく。ソーダ味のアイスを無言で食う圧力にひれ伏せばいいからな。
「――あ、」
「どうしたの?」
「当たった! 初めて当たった!」
皐月さんの選んだアイスがよかったのか、棒には『あたり』と押印してあった。残りを急いで食べて、ほらほらと皐月さんに見せれば、よかったねと頭を撫でられた。ついでその棒を舐める。
「なにしてんだ!?」
「なにって、比呂ちゃんの体液が店員につくでしょ。阻止しなきゃ」
オレの手から棒を奪い取り、それを舐める皐月さんは変態の中の変態だと思う。けど、なんかエロい。
満足したらしい皐月さんはポケットティッシュをカバンから出して棒を拭く。ってティッシュがあるなら初めからティッシュで拭けよ!
「これは換えてくるからちょっと待ってて」
返事を聞く前に走って行くのは早すぎだろ。いいけども。
待つこと数分、ガコンとゴミ箱の蓋が動く音がしたあとに、横から腕が伸びてきた。
「はい、どうぞ」
「ありがと。けど、一本食ったから、これは皐月さんにあげるよ。ほら、あーん」
一応受け取ってから、すぐに皐月さんの口元へとやった。
「比呂ちゃんっ!?」
「なに?」
「そんな……そんなっ、恋人みたいなことっ! いや、俺と比呂ちゃんは恋人だけど! なにこれ、夢? ――じゃないな」
確認するなら自分の頬を触れや。
「いいから、早く食べろって。溶けるから」
「ん、解った」
小さく頷いてアイスを口に含むが、やはりエロい。垂れる髪を掻き上げる仕草も、アイスを舐める舌も。
「あ……あとは自分で食えよ!」
どうしても耐えきれなくなり、皐月さんの手にアイスを持たす。なんで変な気分になるんだよ、オレは!
「えー、楽しくない」
心底残念そうな顔をする皐月さんに、「楽しくなくていい」と返して顔を背けた。少なからず盛ってしまったから、いたたまれないのだ。
「可愛い」
「可愛いくない! 皐月さんなんか知らないっ」
思わず顔を戻して反論すれば、アイスを食べながら目を細める皐月さんを見てしまった。恥ずかしくなり、もう一度顔を背ける。
「比呂ちゃん」
「知らない」
「ゴミ箱行ってくるね」
「へあ?」
ゴミ箱ですか? すぐに顔を元に戻せば、皐月さんと目があった。
「嘘」
「っ……」
お茶をオレの頬に当てて、皐月さんは笑う。
「俺を見て」
「さ、皐月さんのアイスの食べ方がエロいからっ……だから、見れない……」
「え? エロいってなにが? 普通に食べてるだけだし」
緩く首を傾げる皐月さんはアイスを口に含んだ。チロリとアイスを舐める赤い舌は、挑発するかのよう。確かに普通に食べてはいるけど、やっぱりエロいっつの! また顔を背けるのは、致し方ないことだよな。
「まぁ、比呂ちゃんも男の子だもんね」
数分後、アイスを食べ終えて棒だけをくわえる皐月さんは、オレの視線に口端を上げた。
「だから?」
「男の子はエッチな生き物ってこと。もちろん――俺もね」
オレの腕を引っ張り、唇を重ねてくる。
「皐月さん!?」
「言っとくけど、俺はいつも比呂ちゃんにムラムラしてるよ。比呂ちゃんが思うよりずっとね」
爆弾発言をかました皐月さんは、「さ、帰ろ」とオレの腕を引いた。
アイスの棒はもちろんゴミ箱行き。そしてオレは、最終的に皐月さんにめちゃくちゃにされてしまったわけである。
end
【 あとがき 】
アイスを食べさせるの萌える! ということで書いてみました。
食べさせるのは、攻から受でも受から攻でもどちらもおいしいです。アイスじゃなくても、氷でもよいよい。氷だと、口移しがいいな。
(公開 : 2012.06.12)