あれから一度も小説書いてなかったので全然進歩してないです、すまぬ。
前置き書いてさっさとHシーンにいくかぁ……あれ、一万文字?
Hシーンにたどり着けない……
都合のいいオリキャラに加速してもらわないと
――IS学園 セシリアの自室
季節は7月初め、初夏も終わり本格的な夏の猛暑が襲ってくる季節。
窓辺から夕日が差し込む時間帯、最新技術の塊と言えるIS学園にもその驚異は遺憾無く襲っていた。
そんな絶賛蒸し風呂状態の学園のとある一室、そこにフラフラと覚束無い足取りで歩く一つの人影があった。
その正体は、学園へ主席で入学し全ての肩書きにおいて間違いなくエリート言えるであろう人物セシリア・オルコット。
何事にも自信で満ち溢れる彼女だが、日差しに照らされて見える彼女の顔には明らかな疲労が見られ、日頃の強気な歩調が嘘のように自身のベッドへと向かい歩いていた。
そして到着するや否や制服も脱がず倒れ込むように寝っころがり、鉛のように重くなった体をベッドに沈み込ませる。
室内は高温といっていいほど蒸し暑いのにも関わらず、部屋に設置された空調のリモコンにすら触れないところを見るに、電源を入れる気力すらないらしい。
「はぁ……」
セシリアはため息を一つ吐くと、眠たげな眼を擦り疲労の原因であるとある男の姿を思い浮かべてしていた。
織斑一夏……天才科学者"篠ノ之束"により開発されたマルチフォーム・スーツ、兵器として隔絶した性能を持ちながら女性にしか扱えないという欠陥を抱え、世界に女尊男卑という風潮を作り出した原因、そのISを唯一操縦可能にし、今の女性上位社会を崩し得る可能性を持った唯一の存在。
ギリッ
特定の人物像を思い浮かべれば当然その人物に関する記憶が嫌でも思い浮かぶものだ……セシリアその男がこのIS学園で活躍する姿がほんの少し頭によぎった瞬間忌々しげに顔を歪めた。
まるで名前を聞いただけでもだけで反吐が出るとでも言いたげにうつ伏せのまま自室の壁をを睨めつける。
「忌々しいですわ……」
喉の奥底から心底嫌悪しているであろう声色で呟く。
しかし、それも当然のこと、セシリアは女尊男卑の思想こそが世界の正しい形と疑わず人間の男という生物を地球に寄生する虫けら程度にしか思っていないからだ。
正常な人間が好き好んで害虫を好きになることが無いのと同じように、セシリアも物心付いた頃から男という生物に嫌悪以外の感情を抱くことはなかった。
それでも虫が大嫌いと口にしながら痛ぶって遊ぶ子供がいるように、セシリアも嫌悪感しかない男を一歩的に痛めつけて遊ぶことに関しては愉悦と快感を見出していた。
歪んだ男への認識、エベレスト級に高いプライド、その他数えるのもアホらしくなる様々な要因が合わさりセシリアは織斑一夏に対してマイナス以外の感情を持ち合わせていなかった。
「はぁ……」
二度目の深いため息。
何故自身が男如きに悩まされなければならないのか?セシリアの中にそんな怒りの感情がフツフツと湧き上がってくる。
しかしそれが解消されることなど無く織斑一夏への鬱憤ばかりが際限なく積み上がる。
「どうにかして篠ノ之博士と接触さえ出来れば……」
徐々に重たくなる瞼に逆らわずそんな事を口にする。
篠ノ之束…女が男を支配し管理するためのISを生み出しこの世界を女尊男卑へと作り変えた最大の功労者、女性にしか操作出来ないのも欠陥などでは無く篠ノ之束が意図的にそう作り上げた為……現実はどうあれセシリアの中での篠ノ之束とはを自身にとってこれ以上無い程都合のいい存在に解釈されていた。
「ふふ、篠ノ之博士ならきっと私に快く力を貸して下さいますわ」
協力を得られた時の未来を思い浮かべ先程までの強ばったセシリアの表情が緩む。
気が抜けたお陰か急激に襲ってきた睡魔。
セシリアは重くなる瞼に従うように目を閉じた。
ゆっくりと心地の良い感覚と共に意識が遠のいていく……
「あの男から皆さんを救って上げられる日が楽しみですわ……♥」
最後にそう呟くと同時にセシリアの意識は深い夢の中へと落ていった。
股間にスカートが不自然に盛り上がる程のナニかを残して……
――夢
セシリアがまどろむ意識の中眼を開くと其処には金髪の少女と少女とよく似た顔立ちの美しい女性が立っていた。
少女は少し怒っているかのように語気を荒げ、女性は困った様に微笑み少女を宥めているようだ。
(あぁ……これ、夢ですわね……お母様と小さい頃の私……)
「お母様っ!またあの人がペコペコ頭を下げていましたのよ!私達はこの国の貴族なのでしょう!?お母様からこれ以上オルコット家の恥を晒さないようキツく言ってくださいまし!」
「あの人って……セシリア、お父さんをそんな風に言うのは止めなさい」
実の父親を”あの人”呼ばわりする娘に母親軽く注意するも、小さいセシリアの癇癪は更に酷くなるばかり。
「私はあんな臆病で媚を売ることしか能のない男を父親だなんて絶対に認めませんわっ!お母様だって……ッ!」
「セシリアッ!!」
「ッ……」
母親の叱りつけるような声にセシリアは一瞬ビクンと肩を震わせる。
セシリアは自分の意見に共感してもらえると考えていた、母親が父親と会話するときに見せる疎ましそうな表情を知っていたから、母自身も何処か父親を避ける様な動きをしているのも知っていたから。
なまじ子供の頃から優秀な頭脳を持っていたセシリアは自身の立場を完全とは言えなくも理解していた。
そして少し歩けば聞こえてくる父親の陰口、婿養子という立場からよそ者と疎まれている父親が恥ずかしくて仕方なかった、毅然と振る舞えばいいというのに使用人にまで頭を下げるそんな弱い父親が……。
情けなくてプライドの欠片もない、母親に寄生するだけの男、それがセシリアの中での父親の全てだった。
ISが世界に登場してからはそのイメージが尚更強くなっていった。
そしていつしかそんな父親をきっかけに父親だけでなく男という存在そのものが弱くて価値のない生き物なのだと、セシリアの認識はすり替わり始めた。
その散々な評価の父親は、なんとか娘との距離を縮めようと遊びに連れ出そうとしたり、プレゼントを贈ったりしていたが、全てセシリアの神経を逆撫でする結果に終わっていた。
父親が何かしてくる度に”実の娘の顔色を伺う腰抜け”そんな言葉がセシリアの頭に何度も強く焼きついた。
父親からの愛情を感じなかったと言えば嘘になるが、セシリアそれ以上に父親を父親と認めることが出来ずにいた。
少し早い反抗期といってもいいかもしれない、このまま何事も無く成長していけば父親との蟠りも解け家族団欒の幸せな未来があったかもしれない――しかしセシリアの辿る現実はそれ程甘くはなかった。
場面は変わり教会の墓地。
多くの参列者が悲しみに暮れる光景は嫌でも葬式という言葉を連想させる。
そしてその中心、遺族に囲まれる二つの棺桶に項垂れるように抱きつく少し成長したセシリアの姿があった。
「お母様……」
セシリアは気を抜けば泣き崩れてしまうのでは無いかと思えるほど目に涙を貯めか細い声そう呟いた。
周りの大人たちはそんなセシリアの姿を痛ましそうに見つめていたが、言葉一つ掛ける素振りを見せなかった。
「お嬢様……そろそろお時間です」
しかしいつまでもこうしている訳にもいかず、セシリアの専属メイドであるチェルシーがセシリアの体を棺桶から引き剥がす。
「ねぇ……チェルシー、お母様とあの人は本当に事故だったの…?」
「…………はい、事故現場の調査結果ではそのように」
「そう……ごめんなさいチェルシー、少し胸を貸して貰えるかしら……」
「勿論ですお嬢様」
セシリアの両親は傍目から見れば完全に冷え切っていた。
しかし半ば別居状態の様な状況でもセシリアの両親は離婚自体はしていなかった、母親が多くの親族や関係者から離婚を進められても頑なにそれだけはしなかった。
隣り合わせに埋葬されるの両親の亡骸の入った棺桶を眺めながセシリアはチェルシーの胸元に顔をうずめるように泣き崩れた。
(お母様の死は今でも確かに悲しいと感じられますが、あの父親とも言えない男の死には今更何も感じられませんわね……)
チェルシーに泣き崩れるセシリアを最後に再び場面は切り替わる。
そこはオルコット家の邸宅、その家の当主に与えられる部屋。
当主席に座るセシリアと秘書の様に書類を纏めるチェルシーの姿が映し出されていた。
「流石はお母様ですわ……有事の際に備えて会社の経営者の代理、後処理まで完全にマニュアル化していますわ……」
「……そのようですね、これならお嬢様が直接経営の指揮を取らずとも問題ないかと思います、ただオルコット家としての職務はお嬢様に執り行って頂かなけれせん」
「わかっていますわ、今の私はオルコット家の現当主、この国の名門貴族として恥じない働きをしてみせます」
毅然とした口調で答えるセシリア。
両親の死から丁度一週間、両親の亡骸を前に涙を流していた少女とは、まるで別人の様な貫禄を出していた。
シンプルながら一目で高級品だと解る上質な生地が使われたブルーのレディースーツを齢十三歳の少女とは思えない程に着こなし、空中に投影されたホログラムディスプレイで確認するべき項目を的確に捌いていく。
顔には未だに幼さが残るもののその瞳はアウイナイトの玉石思わせる力強い意思をチェルシーに感じさせていた。
「ご立派でございますお嬢様、ですがご無理だけはなさらないように……」
「心配しなくても大丈夫よチェルシー、当主としての職務に問題はありませんわ、小さい頃からお母様に次期当主としての心構えはじっくりと教えて頂いておりましたの、なんでしたらお母様の行っていた経営を引き継いでも問題ないくらいですわ!」
堂々とした意思表明、しかしチェルシーの不安そうな表情は変わることはなかった。
セシリアが幼い頃からそういった教育を受けていたことは専属メイドのチェルシーは勿論知っていた。
セシリアの母親が些か前時代的かなと、心配しながら帝王学までかじらせていたのも知っている。
チェルシー自身もそれと合わせて専属メイドとして当主をサポートするための教育えお受けていたからだ。
チェルシーは職務について其処まで心配はしていなかった、もっとも心配しているのは其処では無く精神的なものだ。
両親が死んでからまだ日もそれ程経っておらず、あの日泣き崩れるセシリアの姿が未だに脳裏から離れずにいた。
チェルシーもそれ程年が離れているわけでは無いが、この年の子供が突然両親を失うショックは推して知るべしもない、寧ろ心配するなと言う方が無理であるだろう。
「……」
チェルシーは確認する様にセシリアの顔をジッと見つめる。
無言で凝視されれば流石にチェルシーが何を言いたいのか察したセシリアは安心させるように微笑みながら言葉を返した。
「……ふふ、チェルシー本当に大丈夫ですわ、あまりクヨクヨした姿を見せれば天国にいるお母様に叱られてしまいますもの」
ナチュラルに省かれる父親の存在にチェルシーが口を開こうとしたがすんでの所で停止する。
チェルシーとしてはとある事情で恩があるセシリアの両親、母親だけでなく父親に対しても好感度を上げて欲しいというのが実直な思いである。
しかしセシリアの父親……いやISが世界に登場してからの男嫌いはオルコット家の人間であれば周知の事実である。
変に擁護して庇う理由を聞かれても返せる答えなどチェルシーにはなく、口を閉じておく他なかった。
「申し訳ありませんお嬢様、いらぬ心配でした」
謝罪とともに頭を下げ仕分け途中であった手元の書類に眼を向ける。
其処には急遽当主の座に就任したセシリアへの面会を願う主旨が書面に書き記されていた。
親族、経営関係者、セシリアの両親の旧友を名乗る人物、まったく縁も所縁もない人物、様々な思惑があるにせよ、大半の目的はセシリアが両親から受け継いだ莫大な遺産であることがひと目でわかる、どれもこれも必ず遺産に関する事が一言二言据えてあるからだ。
当然そんな者をセシリア合わせることなど出来るはずもなくチェルシーが仕分けた後始めてセシリアの目に触れるようになっていた。
そして、そのことはセシリア自身には知らされていない。
確かに今のセシリアは表面上両親死を乗り越え職務を果たそうという強い気概を感じさせるものだが、チェルシーは逆にそのことに不安を感じていた。
職務は問題無し、やる気にも満ち溢れている、しかしそれでもチェルシーから見てセシリアの精神はまだ成熟しきれていない子供と言ってもいい。
実際に合理よりも好悪で判断する場面が少なからず見られた、同情で気を引こうとした相手にセシリアは損得を抜きにして手を差し伸べようとしたことなどもあったからだ。
それはまだいい、セシリアのそういった優しさはチェルシーにとっても望ましいものだからだ。
しかし矛盾するようだがチェルシーはそういう子供らしい所に危うさを感じていた。
遺産ではなくセシリア自身を利用するような者が現れれば、多感な年であるセシリアの性格形成に大きな影響を与えてしまうかもしれない、セシリアがそれ程単純では無いと思っていながらも、不安の芽は摘み取らずにはいられなかった。
「お嬢様……今後のご予定についてですが、暫くの業務は各方面の代表、親族の方々との顔合わせになります、こちらがその書類になります、確認しだい問題なければ承認の判をお願いします」
とは言ったものの全ての面会を拒絶など出来るはずもなく信用の置ける無害そうな書類だけを選別しセシリアへと手渡す。
「またですの……」
書類を受け取るセシリアの顔は先程までの自身に満ちたものではなく、うんざりとでも言いたげに顔をしかめていた。
「お嬢様これも立派な仕事ですので……」
「わかっていますわ……
ため息を一つ吐くとセシリアは渡された書面の確認を始めた。
遺産という単語が目に触れるたびにセシリアは表情を歪めるも順調に書類を消化していく。
しかし、此処でチェルシーは自身の人生で最大のミスとも言える失敗を犯していた。
正史とは一つ違う紙一枚の違い、紙が偶然重なり合っていただけのほんの些細なミス。
今のセシリアへ悪影響しか及ぼさないであろうISの登場と同時に生まれた存在。
ただの思想・運動から生まれ今では実質的に世界的な発言権まで得てしまうまでに成長した組織ともいえる団体。
『女権団体』
その団体からの面会願いであった。
そしてセシリアはその書類に眼を通してしまった。
両親が死んでから見せたことのない子供特有の無邪気で嬉しそうな笑顔を見て……。
その書面には母親にも共感して貰えなかった、人間の男という生き物に対する女権団体の見解が述べられていた。
今のセシリアの性格からしても過激だと言わざる得ない内容であるにも関わらずセシリアはその書面の文字を興奮した様子で何度も読み返していた。
読み返すごとに自身の考えは間違っていなかったのだと、男など所詮この程度の生き物なのだと、父親は私の思っていた通りの存在だと。
何度読み返したかわからない、数分が数時間い感じられる濃縮された感動と体験にセシリアは頭が澄み渡るような心地よさを感じていた。
そしてセシリアは少しの躊躇もなく家紋が入った判を押した。
父親の情けない姿を飽きいる程見てきた、だから将来情けない男とは結婚しないと決めていた。しかしセシリアの中でこれは前提からして間違っているといるのだと気がついた。
そもそも強い男などいない、男は情けない生き物で生まれながらにして無能、だから結婚など土台無理な話であると。
「ふふふ……」
「?……どうかされましたか」
「いえ、何でもありませんわチェルシー」
不思議そうにそう問いかけてくるチェルシーにセシリアは何でもないと答える。
チェルシーもそれ以上聞くことも無く会話は自然と打ち切られた。
――――――
―――
―
場面は変わり数日後
先ほどと変わりなくオルコット家の執務室、セシリアも変わりなく椅子に座り本日の業務予定を確認していた。
唯一の変化は何時も落ち着いた態度を崩さないチェルシーが張り詰めた表情をしているくらいだろうか。
「チェルシー?今朝から様子が変ですけれど、体調が優れないのでしたら私に気を使わず休んでかまいわせんわよ」
「いえ、お気遣い頂きありがとうございます嬢様、体調を崩したわけではありませんので業務に支障はありません……」
「そう、ですの……何か悩みがあるのなら遠慮無く言って下さいね」
「はい、ありがとうございますお嬢様、それでは本日の業務の確認を致しましょう」
いつもとは違う従者の姿に気遣うように話すセシリアだが、何でもないと言い張るチェルシーに対しこれ以上聞くことはしなかった。
「えぇ、とは言いましても今日の予定は面会者の対応のみ、確認するまでもありませんわね」
「はい、ですが何分人数が多いので面会者の顔と名前の照らし合わせ、加えてどういった立場の人間かの再確認だけして頂きます」
「わかりましたわ」
――――――
―――
その後何事も無く業務確認は進み、最後の面会者の名前を確認しようとした時、再びチェルシーの表情は張り詰めたものになった。
『女権団体』
チェルシー自身が絶対にセシリアと関わらせる前に阻止すると断言出来る団体。
その名前が何故か面会者リストの欄に入っているのだ。
書類は仕分け済みだったはず、どうして……と、チェルシーの頭の中ではそればかりが駆け巡っていた。
断ろうにも、此方から了承の主旨を伝えた以上理由もなく断る事など出来ない、そもそもの話セシリアの判断の元了承された面会を一従者が断りもなく中断することなど出来るはずが無かった。
「以上が本日の面会者の方々になります」
「ありがとうチェルシー、もう下がって頂いてかまいませんわ」
「かしこまりました……」
面会はセシリアと相手の二人っきり行われる、もはやチェルシーに出来ることは何も無く、何事もなく終わってくれることを願う他なかった。
――――――
―――
そして場所は日が沈み始める時間帯、客人を迎える為の応接間へと移り。
客人の相手を一通り終えたセシリアが肩を解す様に背筋を伸ばしていた。
「う~~~ん!はぁ……次で最後ですわね」
長時間に渡る会談による疲労が残る身体に気合を入れ、身なりのチェックをする。
問題無いと判断するとセシリアは椅子に腰掛け静かに眼を瞑り今日の面会内容を思い出した。
遺産、遺産、遺産と今日だけで何度同じ話をしたわからない無意味な会話、セシリアにとってはっきりと時間の無駄としか言えないものであった、特に男と二人きりの会話は苦痛でしかなくさっさと面会を打ち切り追い返したほどである。
「ふふ……」
しかしそれも次で最期。
ようやくこの退屈な時間から開放される喜びと、それとは違う心の底からこれから会う相手との会話に期待して頬を緩めていた。
コンコンコン……
「お嬢様、次のお客様が参られました」
「わかりましたわ、お通しして上げて」
控えめな従者の声に返事を返すと、暫くして応接間のドアが開く音が聞こえた。
ガチャ
「どうぞ此方にお入り下さい」
「失礼致します」
ドアから入ってきたのは客人の案内役を勤めるチェルシーと二十代前半の女性。
セシリアやチェルシーに劣るものの一般的に美人と言って差し支えない容姿をしていた。
「あ……初めましてセシリア・オルコット様、本日は御目通りの許可を頂き心より感謝致します。私『女権団体』から参りましたイスラ・エヴァンズと申します、本日はよろしくお願い致します」
室内に入室した女性はセシリアの姿を見るや否や大げさな程低姿勢で挨拶を交わし始めた。
「ふふ、そんなに畏まらなくてもよろしいですわよ、どうぞ椅子に掛けて下さいまし」
事前にどのような人物かチェルシーから渡された資料で知っていた為セシリアは落ち着いた様子で対応した。
イスラ・エヴァンズ
イギリスの貴族といえる家系の生まれ、幼少期より母親から前時代な貴族教育受けて育ち、極めて優秀な頭脳でパブリックスクールを首席で卒業。
その後も数々の功績を残し非凡な才能を遺憾なく発揮。
教育の影響か貴族以外の人間を見下す傾向があるも目上の人物に対しては非常に従順。
ISの登場と時代の変化によりイスラの両親がいくつか経営していた会社が倒産、お家没落の危機に貧した際女権団体からの援助という形で救われ、それがきっかけで女権団体に所属するに至った人物。
以降は団体が秘密裏に所持する研究主任として活動、ISを信奉し女尊男卑の思想を広めることに尽力。
コトッ……
「失礼致します」
セシリアが目の前の女性の情報を大まかに思い出すと、横からチェルシーの声とティーカップにを置く音が聞こえた。
「ありがとうチェルシー」
セシリアが軽く礼を言うと、チェルシーは無言で頭を下げ、静かな動作でドアを開き部屋から出ていく。
扉の閉まる音と共にセシリアは意識を目の前に座る女性へと移す。
「それで、今日はどういったご要件で参られましたの?」
「はい、オルコット様、本日は是非とも貴女様のお力を我々にお貸し頂く、その交渉に参らせて頂きました」
セシリアは随分と直球な物言いに眼を丸く見開いた、少なくとも一つ二つ世間話でも挟みながら本題に移るだろうと予想していたからだ。
とはいえ煩わしい薄っぺらい会話など先程まで飽きるほどしていたため、かえって好感が持ててしまう。
「あら、随分と下手に出ますのね、貴女方は既に巨大組織と言っても過言では無い力を有しているではありませんか?今更私のような小娘に頭を下げるメリットなんてありはしないでしょう?」
さも当然の疑問、セシリアは知識といて既にISの登場と共に誕生した大中小様々企業の女社長、中にはISが世に広まる前から存在する既存の巨大企業、更には政治家、その様々な分野の有力者達が巨額の資金、あるいは権力を貸しているのを知っているからだ。
今更こうまで下手に……いや懇願する様な姿勢を見せてくる理由が見当たらなかった。
「そんなご謙遜を……貴女様はこのイギリスでもっとも名門とされる貴族のご令嬢……失礼致しました現当主様であらせられます。齢十三でありながらもオルコット家をまとめあげるカリスマと才覚を持ち合わせた得難きお方、そんな貴女様にお力を貸して頂きたいと思うのは当然でございましょう?」
嬉しそうに、まるで歌い上げる様に語るイスラ。
こういったおべっかはセシリアにとっては聴き慣れたものだ、普段なら話をさっさと打ち切って次の話題に移るのだが……しかしセシリアの表情は嬉しさを堪えるように口角ヒクつかせ、イスラの話に聞き入っていた。
何故セシリアがこのようになってしまっているかというと、イスラの語る言葉に一言も嘘がなかったからだ、社交場や使用人から聞かされる薄いを通り越して透明と言える軽い言葉ではなく、セシリアに明確な情感を感じさせる本音の言葉だった。
セシリアは今まで感じたことのない高揚感を感じていた。
録に満たされたことのない自尊心、それが満たされていく感覚。
気を抜けばにやけてしまいそうな気分を誤魔化す為に紅茶に口を付け気分を落ち着かせる。
「そ、そうですのね……貴女方中々見る目が有りますわよ」
声色がかなり高くなっているがセシリアはそれに気が付くことはない。
相手が貴族様マンセーなそういう相手だと知っていても本心から褒められるのはやはり嬉しいのが子供心。
「勿論でございます!頭脳明晰、容姿端麗、そのオルコット様が目に付かないはずがございません!私個人の意見としては女尊男卑の火付け役となったIS、それを生み出した篠ノ之博士よりもはるかに優秀であると断言できます!」
貴族崇拝此処に極まれり、といった感じで大げさな動作で語り続ける。
その度にセシリアの満たされきった自尊心が行き場を求めるように膨らみ肥大化する。
「それは、流石に言い過ぎではありませんの?」
「いえいえ、とんでもございませんオルコット様……確かに篠ノ之博士といえばISの生みの親、偉大な人物ではございますが、所詮は極東の島国生まれ、碌な歴史も持たない平民の生まれです、それに引き換え貴女様は歴史ある由緒正しき貴族の生まれ、一介の研究者と貴女様、どちらに価値があるかなど比べるまでもありません、そうでございましょう?」
至極当然、とでも言いたげにその根拠を説明する。
貴族なのだから平民より賢いし偉い、要約するとイスラの言いたいことはこれに尽きた。
道端を歩く人間が聞けば首を傾げること請け合いのとんでも理論である。
ゾクッ……
しかしセシリアは自分でもわならない謎の感情に背筋を震わせる。
未だかつて両親からも教育係からも受けたことのない賞賛と肯定の言葉、その上のあの世界を揺るがした天才篠ノ之束よりも価値が有る、有能だと言われているのだ。
セシリアも内心ではそんなことはない……と自分に言い聞かせるが、イスラの常識を語りきかせる様な自然で耳障りのいい言葉が、少しずつ、少しずつ、セシリアの内面に刷り込まれ溶け込んでいった。
「た……確かにその、通りですわ……?」
普通に考えればISを開発した篠ノ之束以外にISの仕組みを説明出来る人物がいない以上、篠ノ之束以上に優秀な人間が存在しないことなど子供でも分かることである。
そんなことはセシリアにも当然わかっている、しかしイスラの言葉を聞いている内にまるで根拠のない自信、イスラの語る「ただの研究者と貴族である私、本当に私の方が偉いのでは?」という思想、感情が芽生え始めていた。
「当然でございます」
自信無さげに言葉を渋るセシリアに対して自信満々の肯定。
それが決定打となり、セシリアのまるで根拠の欠片もなく生まれた自信を確かなものにしてしまった。
幼いぶんチョロさにより拍車が掛かっているのも原因の一つかもしれない。
「……つまり私は篠ノ之博士以上に有能であり、貴女方にとって得難い価値を持った存在ということですの?」
一笑ものの質問を確認するように問いかけるセシリアだが、その表情は自身の思っている回答が必ず帰って来ると確信しきった笑みを浮かべていた。
「尊き血が流れる貴女様より価値があるものなど御座いません、ブリュンヒルデであろうと篠ノ之束であろうとオルコット様であれば容易に跪かせられる程の能力が貴女様にはあります、なにせ貴女様は名門貴族、下賤の輩に遅れを取るなどありえはしないのですから」
ここに来て更にセシリアを持ち上げまくるイスラ。
セシリアの期待以上の言葉、しかも本心からなのだからタチが悪い。
少しでも嘘が混じっていればセシリアもまだ引き返すことが出来たかもしれないというのに。
「ブリュンヒルデ……織斑千冬すらも……ふふ、未だにISにすら乗ったことのない私によくそんな言葉が出てきますわね」
一見トゲのある返しだが、セシリアの表情はこれ以上ない程上機嫌、ニコニコである。
「時間の問題でございます、オルコット様がISの操縦を始めればブリュンヒルデなど容易く追い越し必ずや貴女様の前に膝を付くことでしょう」
セシリアは想像する、最強のIS操縦者として世界に名を馳せる織斑千冬を地に這わせ、自身が最強のIS操縦者として世界から賞賛される光景を。
「あまり適当な事を言うものではなくてよ」
「とんでもありません、ただ事実を述べたまでです」
上機嫌な声色で返してくるセシリアに、イスラは恐ろし眼力でセシリアを見つめ自身の本気をアピールしていた。
「オホホ……お話はわかりました、その態度に免じて私直々に貴女方への助力を考えて差し上げても宜しくてよ」
セシリアは偉そうな態度で腕を組むと、上から目線な言葉でイスラに語りかけた。
「心より感謝致します……先程話したことに一切嘘は御座いません、しかし組織内でオルコット様に求めているものが他にもございまして……それを聞いてから結論をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
「と、いいますと?遠慮せずおっしゃりなさい」
「寛大なお心に感謝致します」
セシリアの頭の中では完全に女権団体が下、自分が上という図式が完成し始めているのか再び偉そうに聞き返す。
イスラもそれが当然とだと思っているのか何事もなく話し始めた。
「オルコット様はご両親が亡くなられてからISの適正検査を受け、国内最高の適正A+判定を受けておられますよね、そして政府から最新装備の試験者として直々に嘆願されたとも聞いております」
言外にイギリス政府に組織の構成員がおり機密情報を流していると言っているようなものだが、セシリアはあえて触れず話しを進める。
「随分詳しく知っておりますわね……その通りですわ、お母様の遺産を狙う不届きな者達が余りに多く、うんざりしていた所に政府から頭を下げられましたの、IS適正、新兵器の適正共に国内最高ランク、余程協力して欲しかったのでしょうね、かなりの高待遇を約束してきましたわ、不満もありませんでしたから申し出を受けて差し上げましたの」
「はい、我々の上層部でも次期代表候補生は確実と噂されております」
「ふふ……当然ですわね」
適正A+、その数値は世界的に見ても希少なものであり、適正=ISの操縦技能といって過言ではなく、適性の高いものは生まれながらのエリートととして扱われる、当然セシリアもそのことを知っており、他者と自身を隔絶するステータスの一つと考えていた。
「はい、次期代表候補生、高ランクのIS適正、組織全体にとってオルコット様のそれはとても大きな意味を持つのです、恐らく貴女様が女権団体へとして助力していただけるのであれば、上層部を含め組織の全勢力を持って貴女様に惜しみない献身を約束することでしょう」
セシリアはイスラの話した内容に耳を疑った。
なんだそれは、余りも見返りが大きすぎると。
「ふふ、驚いておいでのようですね、ですが組織の内情を知っている者からすれば驚くようなことでもないのですよ、我々は女尊男卑を生み出したISという存在を何よりも信奉しております、それこそISの生みの親である篠ノ之博士などより余程……」
答えが見えないイスラの話ににセシリアは無言で話の続きを促した。
「篠ノ之博士自体は我々の思想を広めるのに非常に有効活用出来ますが、やはり肝心なのはISです、男が絶対的に敵わない女だけが持ち得る力の象徴、博士自体はもうこの世から消えていれも問題はありません、しかしISは違います、この力が無くなれば世界は再び無能な弱小生物である男どもが蔓延る地獄に変わります」
組織内で篠ノ之束がそれ程重要視されていないという話にセシリアは少し驚いた。
だが理解も出来た、殆ど姿を見せない、今現在この世にいるのかすら分からない人物よりも、今もこの世界に確実に存在し、例え使用者が女尊男卑の思想を持っていなくともただ存在しているだけで思想は広められ、尚且つ男という明確な敵対者を跡形も無く捻り潰せる力、そのISという存在に信奉が向くのは別におかしな話ではない。
しかしこれも答えになっていない、セシリアは更に続きを促した
「組織の構成員は勿論ですが上層部へ近づくほどISへの信仰は凄まじいものになります……そして団の共通認識としてISを操縦する代表候補生や国家代表を神格化……オカルト的な例えですがISとIS操縦者を神、我々がそれを信仰する信者、といったところでしょうか」
「ISは分かりますが、操縦者まで崇めていますの?」
「はい、我々の理念は女尊男卑の思想で世界を染め上げることです、今の様な生易しいものでは無く徹底的にです、しかしそれを実現するには優れた技術を持つIS操縦者が必ず必要になってきます、我々の様なISの威を借りるだけの存在の言葉では無く、ISの力を十全に使いこなす存在の言葉がです」
「……つまり私の優秀なIS操縦者としての潜在能力を買っていると?」
優れたIS操縦者を求めているのは理解できた。
しかしセシリアにはその答えが全く腑に落ちないでいた。
いくらIS操縦者を確保したいからといっても先ほどの条件は破格を通り越して異常である。
「仰るとおりでございます……我々は国家代表、代表候補生、または将来大成しえるであろうISに対して高い適正を持つ方を探し求めているのです」
「それにしても見返りが余りにも破格過ぎるのではありませんこと?」
「それは当然のことです、我々が数年探し求め漸く理想と言ってもいい唯一人のお方なのですから」
恍惚した瞳で見つめられるセシリアは、自身が前提からして間違えていることに気がついた。
「……まさかとは思いけど、貴女方に力を貸してくれる代表候補生や国家代表の方々が一人もおりませんの?」
まさか、とほんの冗談のような質問であるが、イスラは大真面目な表情で”いない”
と答えた。
セシリアは既に数十人は居るであろうと踏んでいたが、それがまさかのゼロ、しかも自身が組織の理想とする人物と言われれば唖然とするしかない。
「いえ、正確には国家代表であろうと金銭を積めばある程度簡単に集められます、しかし、そうではなく我々が本当に必要としているのは我々の理念を共にしてくれるIS操縦者なのです」
つまり、極めて優秀なIS操縦者または素養のある人物、そして強い女尊男卑の思想を持ち、現代表か次期代表候補生、国家代表になり得る人物しか認めないと言っているのだ。
この時世であれば別段一人二人いても不思議でもないような条件、しかし組織が勢力を伸ばしてから数年、そういった人物は未だに一人も現れる事が無く構成員が増えるばかり。
不思議なことに代表候補生や国家代表、有名とされる操縦者に成れば成る程女尊男卑の思想は根付いておらず、寧ろ否定的傾向があり組織として到底認めるに値しない人物ばかりであった
「それが私であると……」
「はい、国家代表でもなくブリュンヒルデもなくセシリア・オルコット様ただ一人でございます、ISに選ばれておきながら少しでも男を擁護するような腐った良心を持った下賤の女などでは絶対にありません」
後半は余程嫌な体験でも思い出しているのか言葉に宿る実感が凄まじいものになっていた。
「それは……つまり、私一人の為に貴女方が動くということですの……?」
未だ衝撃から立ち直れていないのか一つ一つ確認しながら問いかけていく。
「先に説明したとおり惜しみない奉仕をお約束できます、これは既に組織内の共通認識でございます、神に従う謙虚な使徒のようにオルコット様に付き従います」
女権団体は思想を広めるという意味では宗教と言ってもいいかもしれない組織であり、内部の組織構造も一般的宗教団体と似たものになっている、そのためか宗教の基本である洗脳と構成員の意思統一も無自覚ながら当然の如く行われていた。
崇める対象から神託が降れば疑問も抱かず喜んで従う、それが組織内部の常識である。
「私が貴女方の理念と何の関係もない我儘を言いだしたらどうするつもりですの?」
「何も変わりありません、我々には貴女様以外に頼れるお方がいないのです、宗教に神が必要なようにオルコット様こそが我々の神、叶える以外の選択はありえません」
セシリアは帰ってきた返答の内容に嘘無いか調べるがようにイスラの顔を見た。
大真面目に語る顔は到底嘘を付いている様子には見えない。
つまりこの話は本当で、協力の申し出を受ければセシリア一人だけが世界規模の組織から無償の奉仕を受けることが出来るという事。
ゾクゾク……ッ
セシリアはそのことを頭で理解した瞬間再び背筋を震わせた。
規模、権力、資金力、その全てがスケール違いの強大な組織が自身の足元に頭を垂れ跪いているのだ、優越感を感じずにはいられなかった。
「どうして其処まで私が女尊男卑主義者だと言えますの?もしかしたら貴女方が嫌う男を擁護する存在かもしれませんわよ?」
「それは絶対にありえません、貴女様は我々が理想とする人物そのものです」
はっきりとそう断言するイスラ。
「随分と自信がありますのね?」
「勿論です、確認致しますがオルコット様は我々から届いた書状を自身の目でお読みになりなりましたか?」
それがどうかしたのか、とでも言いたげに首を傾げるセシリア。
自身が直接判を押したのだから読んでいないはずがない、断言する様に”読んだ”と答える。
「そして快く我々を面会の許可を下さった、これに間違いはありませんか?」
「えぇ、間違いありませんわ」
この質問にもYESと答えたセシリアは数日前に読んだ書面の内容を思い返していた。
女尊男卑について、男がどれ程世界にとって害になりえるのか、セシリアは頭の中に入り込んでくる心地いい言葉の羅列を今でも鮮明に思い出せる。
死後の父親に完全に見切りを付けれたこと、胸に残った小さな疑問としこりが綺麗さっぱり消えたのもアレを読んだ直後からだ。
「でしたら何も問題はございません」
「意味がわかりませんわ?」
「簡単に説明致しますと、実はアレに書かれた内容は我々が専門家と相談し練に練って作り上げた物でして……我々にとっては非常に有益であり素晴しい内容となっているのですが、少しでも古い価値観が残っているような人間には恐ろしく強い不快感を与えるものとなっており、贈る相手にも厳格な基準が設けられているモノなのです」
古い価値観、つまりISが世界に広まる前まで普通にあった男女平等という概念。
それを聞き成る程……と言った様子で首を振るセシリア。
「心血を注ぎ思考の末作り上げました、だからきっとこれで我々の理想とする方々が見つかると期待しておりました、しかし期待に反して帰ってくるその殆どが罵声とクレーム」
疲れきった表情で語るイスラ、しかしそれも次の瞬間には明るい表情で眼をキラキラと輝かせていた。
「そして今回も諦め掛けていたその時……アレを見て尚我々に接触を許そうという人物が現れた……っ」
「それが私ですの?」
「はい、セシリア・オルコット様……貴女様でございます」
イスラはオルコット家との面談が叶った時の感動をこれでもかと言う程噛み締めていた。
イスラの理想とする由緒正しき家柄、そして少女とは思えぬ女神の様に美しい美貌。
組織の基準には関係ない部分だがイスラにとってはこれでもかと言う程魅力的な要素であった
恐ろしく厳しい選別がなされているとはいえ世界各国で幾度と無く試されているにも関わらづ快い返事を貰えた試しなどなく、今回もダメかと諦めかけていた時の面会許可である、組織内では感極まって涙を流す者、セシリアを女神様と言い出す気の早い者まで現れ始め歓喜に包まれていた。
イスラも大概だが、組織全体の必死さはセシリアの想像を遥かに超えていた。
そして言えることを全て言い切ったイスラは椅子から立ち上がるとセシリアの前に跪き頭を下げた。
「なんですの?それ」
土下座という存在を知らないセシリアはイスラに対して問いかけると、イスラはISが生まれた極東での高貴な者に対する謝意や嘆願を示すものであると説明し、一層深く頭を地面に付けた。
「オルコット様、どうか我々にお力添えを……ッ、生まれながらにISに選ばれた貴女様の恩恵を卑しくも嘆願する我々にお与えください」
事のあらましを全て聞いたセシリアは目の前で縮こまり懇願するイスラに目を向ける。
齢十三の小娘に対して情けなく頭下げる間抜けな女にセシリアは心底愉快とでも言いたげな笑みを浮かべた。
私はこんなことで心から笑える人間だっただろうか……?そんな疑問が頭に浮かぶもすぐに消える。
誰かを支配し隷属させる感覚、人間なら誰しもが持つ暴力的な黒い感情、良心など容易く塗りつぶす自分勝手な欲望、それがセシリアの内側から溢れ出す、そしてその感覚が心地よくて――気持ちよくて堪らない。
無条件に賞賛され、認められる事がこれほどまでに気分がいいものだとセシリアは知らなかった。
「ふふふ……よろしくてよ、この私セシリア・オルコットが貴女方の神になって差し上げますわ、ただし条件がありましてよ」
セシリアは自身が内面が徐々に変わっていくのに気づいていた。
しかしもう戻ることなどできない、肯定され、崇められ、支配し従わせる、大凡子供と言える年で経験してはいけない麻薬のような快感。
イスラとの会話の中だけとはいえ、両親を亡くし録に日が経っていない脆い子供の精神に影響を与えるには十分過ぎるほどであった。
「なんなりとお申し付け下さい」
「貴女方は私に隷属し私の為だけにその力を使いなさい、そして崇めるのはこのセシリア・オルコットただ一人ですわ!ISでなくこの私です!」
セシリアの出した条件は、セシリアの為の権力の行使、そしてこの先女権団体にとって素養のあると判断出来るIS操縦者が現れてもセシリアのみを崇拝し続けること、ISではなくセシリア・オルコットという一人の人間を信奉しろ、聞けないならそれまでと半ば脅しに近い要求である。
子供のわがままを体現した要求、しかしイスラは其処まで問題はないと考えていた。
そもそもセシリアに奉仕するのは理念的に当然、そしてセシリアのみを信奉をする、こちらも特に問題無くイスラ自身にも上層部に意見を通せる考えがあった、それに最終的には数年も探してようやく見つけた存在を手放す位なら容易く天秤は傾く、それ程までには組織全体はIS操縦者というものに対して拗らせきっていた。
「かしこまりました、オルコット様のお言葉を速やかに団内全体に行き渡らせます」
その全肯定の言葉にセシリアは今日だけで何度目か分からない驚きの表情を見せる。
セシリアは此処からどう交渉するかを考えていた、初めに大きい要求を吹っかけるのは交渉の基本、そんなある程度譲歩前提の自身に都合の良すぎる要求である、全て通るなどとは微塵も考えていなかったのだ、驚くのも当然である。
そしてその結果大きなインパクトと共にセシリアの精神は更に悪い方向へとねじ曲がっていっく。
「私直々の要求なのですから当然ですわね!」
「重ね重ね感謝を申し上げます、それでは私は本日件を上に伝えて参りま――
そう言い立ち上がろうとするイスラにセシリアは黙って脚を組みイスラの前に差し出す。
?マークを頭に浮かべるイスラに対し、セシリアは”何をしているの、早くなさい”とばかりに足先をプラプラと揺らす。
するとイスラは目を丸く見開きながらセシリアの要求を察したかのように数カ所に順序よくキスを落とした。
意味は「崇拝」「隷属」「服従」
「ふふ、ご褒美ですわ……お舐めなさい」
「感謝致しますオルコット様……」
ピチャ……ピチャ……と足元で聞こえる水音を聞きながらセシリアは優雅に冷め切って紅茶を飲み、自身の本当の価値を再認識した。
思わず出そうになる笑みを噛み締める、しかし我慢する必要など何処にもないと気づく、足元に這っている人間にとってセシリアは神同然の存在、淑女としてはしたないなどという事を気にする必要もない存在なのだ。
その考えに思い至ったセシリアは少し唇を震わせると、腹の底から大きな声で笑い始めた。
「ふふっ……ふふふッ……オ~ッホホホホホ!!」
部屋中に甲高い高笑いが響き渡る、隠しきれない傲慢さと喜色がこもった笑い、しかし今のセシリアにはこれ以上無い程までに美しく似合っていた。
神様の所までいけるのか……このセシリアを早く抹殺してもらわないと
それまで続くのか…?