「千鶴!。アンタ本当に歌手になれるって!。」
友人に誉められ、思わず顔を下げた。
菅原千鶴と三輪楓は今夜の仕事の前に、カラオケで気分転換がてら時間を潰している。
「ちょっと……!。」
驚く千鶴をお構いなしに、後ろから手を回し、楓はうっとりとした顔で告げた。
「マジ、千鶴には運命感じてんの……。例え高校終わってもさ、ずっと遊ぼうね。」
「大げさだなぁ……楓は……。」
そろそろ仕事の時間が迫ったので二人は店を出た。
二人の行う仕事とは……出会い系サイトの匿名で、相手と会う約束をし、行為をするためホテルに入る前写真を撮り相手から金をぶんどるというものだ。
これが中々、成功する。
相手は自分の生活が掛かってるし、何よりネットに晒せば、噂がまとわりつく可能性が高い。
だから恐れて容易に金を渡してしまうなんとも分かりやすい。
「ふふふ!、大の男がさ。ネットにあげますね~。って言っただけで金差し出すんだもん!。こんな楽な商売ないって。」
腹を抱えながら笑う楓を見て、千鶴は少し複雑な気持ちになった。
……確かに楽だ。
だが学校で私達の噂が囁かれたこともあったじゃないか。
高校の卒業だって近いんだ。
ここら辺が引き時なんじゃ……。
「あのさ、もうやめない……。今日のはやるけどさ、なるべくトラブルに発展しそうなこと続けたくないっていうか……。」
「千鶴……。」
神妙な顔をして告げた親友の言葉に、楓は向き合い暫し沈黙が起きた。
「そうだよね……。結局私らがやってる行為は悪質なボッタクリや恐喝と変わんない。しかも私は写真を撮るだけだけど、千鶴は見知らぬ男と話してホテルの前まで歩くんだし……。不公平で千鶴にばっか迷惑かけてたね私……。」
楓は泣き出した。
「ちょっ……。別に怒ったわけじゃないから泣かないで楓。私は平気だよ。あと楓がそこまで考えられてて感心した!。」
「なによ!、人のこと泣かせといて!。もう~。」
楓は千鶴の意見に賛同し、今日でオヤジ狩りをやめることにした。
しかし、眈々と自分達を狩ろうとしてる凶禍を宿した狩人の存在にまだ気づけていない。
何処からともなく赤黒い風が流れた……。
相手との待ち合わせ5分前。
「今日で最後か。」
最悪な行為だとしても感慨深い。
最後の相手の名はタク、ありきたりな名前だが一生の記憶になりそうだ。
「タク、タク……。初めてだけど最後だしタっ君ってでも呼ぼうかな。」
馴れ馴れしいかもだが、どんな反応をとるか考えたら笑えてくる。
自分に近付く足音が聞こえる。
来たか……。と振り向くと、フードを相手側から見えないように目元まで隠し手にコップを持った男が立っていた。
「あなたが……タクヤ?。」
「違うね……!。テメェ達に騙され金を取られた哀れな男だ!。」
「きゃっ!!。」
コップの中の液体をかけてきた。
この変態!。何の液体だろう……。
思考を急な熱さが無理矢理中断させた。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!。あつい!。顔があつい!」
皮膚が溶ける……手当たり次第に千鶴は顔をかきむしった。
「うぅぅぅぅ!。あああああ!!!。」
地面に千鶴の顔の皮膚が、ベチャ、ベチャと汚ない音をたて落っこちる。
男はその姿を恐ろしいと思いながらも……喚起した。
「ざ、ザマアミロぉ!。ガキの癖に大人をなめた罰だ……はははは!。」
どうせ、抱かせてももらえず金だけはぶんどられたと警察に話しても笑われて終わりだ。
それに相手は未成年の女子、連行されたってどうせ軽い罰、だから男は行動した。
自分で報復するために。
踞る千鶴の姿を見て、興奮と怒りが同時に沸き上がった。
唾が自分の口から溢れるのが止まらない。
私刑で死刑に。
「ひひ、ひひひ……。お嬢ちゃん、何だか俺さ今の君の姿見て興奮してきちまったよ。なぁ、ガキ。せめて最後はな……楽に首を後ろからブスリとやって逝かせてやるからなー!。」
興奮し、変な走り方をしながら、私刑、死刑……。と呟き銀の刃を千鶴めがける。
貫通し、赤い血が飛び散った。
……男の腹に胸部から下腹部まで到達する丸い穴を開け。
「え?。……ちょっとこれは、想定がふっ!。」
空中を動き回る。
自分の腹部を貫いてるなにかにより。
「おぇぇぇぇ……えぐぅ!。」
「感謝しなクソ野郎。心臓は貫いてねぇから即死は避けてやったぞ。」
「な……な……んで……。」
死んでないのはしょうがない。
何故……顔が元通りになりかけているんだ……。
千鶴の現在の顔には、美しい結晶が硫酸をかぶり火傷を負った部分に集中的に形成され、火傷を完治していった。
結晶を纏う甲殻種のモンスター、尾晶蠍アクラ・ヴァシムの力によるものだ。
「さて、クソ野郎。アンタが中々粋なやり方をしてくれたから私も御返ししないとね……
爆散なんてどう?。」
瞬時に男の身体に結晶が粘りつき、爆発した。
四肢が分裂し吹き飛ぶ。
通行人達は騒ぎ逃げ惑う。
「はぁ~~~マジか~~……。殺っちゃった……てか顔キッモ。証拠は隠滅、隠滅と。」
吹っ飛んだ男の肉体と自分の皮膚を結晶を纏わし爆破させ塵同様まで分解させた。
この騒ぎでは、タクは来そうにない。
せめて楓に謝った方がいいな。
騒ぎを駆け付けて警察が来る前に場を移動しながら楓に電話をした。
「もしもし、楓?。」
『なにぃ!。千鶴!ちょっと今立て込んでてヤバイの!。もし今男と一緒に居んならさもうパスしていいよ!。』
誰かと戦ってるようだ。
「ちょうど、そのこと言おうとしたの。色々あって男は今日来ない。」
『なら、いいわ!。千鶴!。援軍要請よ!。』
楓のアクラ・ジェビアが手子摺るとは……強敵らしい。
「分かった今……。」
スマホに赤い棘が刺さった。
赤黒い風が吹く。
あいつだ……。
「アンタかぁ~……。まぁ、薄々こんなこと起こすんじゃないかっては思ってたけどさ……。」
「あら、それは私がクラスでの立ち振舞いを変わったことに対する称賛と受けていいのかしら?。」
「まぁもう遅いかもだけど一応謝っとくよ。いじめに漬け込んで酷いことしてごめん。だけど……それと私が殺られんのは別問題。来るならこっちだって全力で叩き潰して散り散りにするわ。彩菜ぁ!。」
「こっちだって、今更謝られたって迷惑でしかないわよ。屍にしてあげるわ……千鶴!」
ラ・ロの翼爪が彩菜の手から数本千鶴に打ち込まれる。
しかし……千鶴は尻尾から圧縮した体液を放ち全て撃ち落とした。
なかなかやるわね。
高速で千鶴は手足と尻尾に結晶を精製した。
両者とも接近の構えだ。
拳と拳がぶつかり合い、結晶と炎が飛び散る。
「かた……!。」
あまりの痛みに拳を手で押さえた。
「防御になら、自信があんのよ私は!。」
「ぐぅ……!。」
名が示すサソリのように長い尻尾で激しく彩菜をぶっ飛ばした。
確かに、攻撃はそんなでもない。
それでも余裕で中の上ぐらいはある。
短期決戦をと、凶禍の力を溜めオーラを発生させ爆炎を巻き起こそうとまたも千鶴に近付く。
「あれ……。目眩が……。」
……なんだこの疲労感は……。
急に頭がフラフラし膝がつく。
「あーあ、ハマっちゃったね。」
千鶴は笑みを浮かべた。
ハマった……?、なにに……?。
とにかく短期決戦だ。
無理矢理身体を動かし再度近づこうとした。
「くふっ!?。」
……『何の攻撃も受けてない』のに自分の身体が爆発を起こした。
「……っ!。なにが……!。」
またも地面にひれ伏す。
「力がないから……攻撃力が弱いから……つって、破壊力を持たないわけじゃないのよ。ヴァシムの戦闘の質は力にあるんじゃない……その状態異常で敵を翻弄するところにある!。」
倒れる、自分の頭をアクラ・ヴァシムのでかい尾が捉えた。
透かさず彩菜は避けた。
アクラ・ヴァシムの容姿も相まってサソリの毒に翻弄されてるみたい……。
こんな戦闘初めてである。底知れぬまやかしと戦うようだ。
だが少しだけ分かったこともある。
今の……尋常ならざる疲労と爆発が起きた時……アクラ・ヴァシムの結晶が自分の身体にまとわりついていた。
……確証は持てないが、あの結晶が今の状態異常を引き起こしたと考えると納得はいく。
尻尾を当てられた時ね。
「まだやるかしら?。」
「……当然よ。下手に細々と攻撃したのが間違いだったみたいだわ。」
笑いながら言うと、爆炎を宙に放った。
最初千鶴は何をされたか分からなかったが足元が明るく光り攻撃を理解した。
「……エスピナス亜種みたいなメテオか!。」
メテオ……隕石を落とすわけではないが、溜め打ち上げブレスを宙に放ち威力を増加し相手に落とす技である。
エスピナス亜種の中でも特異な個体だけが使う技だと思ってただけに突然使用され驚いた。
避けてる千鶴を尻目に、彩菜は花火のように溜め打ち上げブレスを放つ。
そのたびに反撃もままならず避けるしかない。
「これで千鶴は……暫く避けに徹底せざるを得なくなった。」
グッ、と力を込め、最近到達したラ・ロ第6形態の必殺技チャージブレスの態勢に入る。
赤い爆炎が彼女の身体から溢れ、どんどん力を溜めていく……。
「チクショウ!、彩菜の奴エスピナス亜種みたいな打ち上げブレスを放ちやがって……え、なによあの体勢……まさか……。」
遠くに逃げたいが、メテオのせいで思うように移動できない。
「はぁぁぁぁぁ!。」
彩菜の叫び声が聞こえた時には、既に限界まで溜まったチャージブレスの爆発に飲み込まれた。
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「もうギブゥ!。やめてよ結子!。」
泣きながら灰晶蠍アクラ・ジェビアの勾玉使い……三輪楓は騒いだ。
「ヘルフレアが焼きたりないんじゃないの?。」
「そんなんで焼かれ続けたら、焼きジェビアになるからやめて!。」
「じゃあ、警察に行くのね。」
「分かったわよ!。行くわよ!。彩菜にも謝るから命だけはって言っといて……。」
楓と結子の戦闘も決着がついていた。
=====
「うん……あれ、私……。」
「起きたかしら?。」
「あ、彩菜!?。そうか私達戦って……!。」
チャージブレスを食らった後千鶴は纏ってた結晶事黒焦げになって気を失った。
試練を達成するため彩菜は彼女に語りかけていく。
「あんたと楓がオヤジ狩りをやってた事は分かってた。だから今日を狙ったのよ……。今日会う相手とは私があんたらと相手との中間に入って日時を操作するつもりだったけど『あんな事』が起きれば相手も来なくなるわよね。」
「見てたんだ……私が殺すとこ……。ふふ、今までの復讐として私が殺ったのを警察に言うの?。」
「証拠がないから言っても無理でしょうね。……だけどオヤジ狩りの方は立派に証拠もある。そのことを警察に自白しにいきなさい。」
「退学確定……か。ま、今まで好き勝手やってきたからしゃーないな。あんたの復讐効いたよ。」
何故か千鶴は晴々とした顔だ。
どこかで彼女もケジメをつけたかったのだろうか。
「一人じゃない。結子に負けた楓もいくはずよ……。」
「ありがたいわ。一人じゃ心細いもの。それじゃあ色々と迷惑かけたわね彩菜。あんたの強さならクラス全員倒せるかもね。」
ヒラヒラと手を降り千鶴は消えた。