試練13人目
孤独だ。
家と家族を失って風翔は一人になった。
自分の町の役所に説明したところ町には高校在学中までの未成年であれば引きとってくれる養護施設があるとのことだ、ちょうど良かった。後卒業までの4ヶ月はここに通うと決めた。
親が亡くなり、悲しく無いと言えば嘘になるが凹んでもいられない。
火事の週は、事後処理のため登校出来なかったが翌週からは普通に登校してみせた。
変わらない日常に俺は溶け込んでるんだな。
家と家族が無くなってもクラスの日常は崩れはしない。
ある意味では悲しいがある意味では何の変化もなく落ち着ける場所としてクラスに通えて幸せだ。
忙しない現実が自分の悲観を埋めてくれる。
どう生きるか考える日々を探す彼はある土曜日の昼……一人の男に呼ばれた。
「やぁ。待ってたよ風翔君」
「……真面目なお前が俺になんのようだ。慰めようってか?」
「僕は意味がないことはしないよ」
風翔は発言した男の胸ぐらを掴んだ。
「テメェ、死ぬか?」
「やめてくれむやみやたらに戦うのは嫌いなんだ……それに君のクシャルダオラの風だって僕の龍は弱める力を持ってるんだよ?」
「……ちっ」
掴んだ手を離した。
「風翔、君だって学年テストの順位20位常連の生徒だ頭はいいはずだろう?今回の火事……裏があるとは思わないかい?」
「裏だと……。特にねぇし思いつきもしねぇ」
男は溜め息をつく。
「君は前日ある生徒と言い争いになり吹っ飛ばしたのを忘れたか?」
「……あぁ、直人のことか。直人が俺の家に火をつけたと言いてぇのか?」
「可能性は高い。現にあの日彼は学校を休んだじゃないか」
確かにあの日直人は休みだった。
だが、あんな臆病な奴にそんな真似が……。
風翔はまだ信じられないでいたが、男の言葉が限りなく確信に到らせた。
「彼は屈折しながらも愛情を向けていたからね彩菜に。あの時彼の精神は……君に攻撃された彩菜のことを浮かべ敵を討つのに執着しそれこそ、古龍の適合者の君には絶対に勝てないから、君の家族を狙ったんじゃないかな」
もしかして俺は高をくくっていたのか、あの臆病な奴が人様の家に火をつけられる度胸なんて持ってないと。
彩菜を攻撃し直接的な原因を作ったのは間違いなく自分だ。
……だがこの報復は両親の手向けに自分がきちんととらねばならない……直人に両親と同じ死をもたらせて。
「野郎を殺す。肉塊1つ残らず風で分解してな」
「血を血で洗うか……君の意見はもっともだがその直人が歪んだ直接の原因は放っておくのかい?」
「なに?」
「僕にはむしろ彩菜が直人へ指令を出したんじゃないかとも思えるんだが、なんたって直人は彩菜の彼氏、なんだからな」
「あの女か。指令出したかは完全な憶測に過ぎねぇが狂った要因としては的を得てるな。俺の不始末は俺で着けてやる。彩菜と直人を殺す」
「おや、直人がやったように家族は殺害しないのか?」
「適合者以外なんざ道端のゴミと何ら変わらねぇよ。テメェがくれた情報のおかげで気分もいいしわざわざゴミ処分するほど暇じゃねぇ」
「そうか、彩菜は今週友達と旅行に行くそうだ。直人はあの後行方知らず……どちらを殺る?」
「お前にのせられたようで癪だが元凶の彩菜を殺す。場所はどこだ?」
「県でも有数の火山の近くの温泉街と言えばいいか。年配の方々が集う場で若い者が行くんだ。嫌でも目につき分かるだろう」
「ハッ、苦労せず見つけられそうで安心した……しかしお前なぜ俺に情報を流した?」
「……つまらない自分の人生を楽しくするためさ」
男は笑顔でそう語った。
翌日早速行動に移した風翔は錆びたクシャルダオラの翼を生やして温泉街へと飛んだ。
飛行中、山の中を探索中の彩菜達を見つけクシャルダオラの能力をフルに活用し攻撃を開始した。
「おらおら、電話してる暇なんてねぇぞ」
「桜花!後ろから折れた木が飛んでくるわ!」
「はぁ!?、風で木を折って飛ばすとか無茶苦茶じゃない!!」
なんとかリオレイア亜種のサマーソルトで木を粉砕した。
「チクショウ……火のブレスを放っても奴の纏う風が消し去りやがる打つ手無しかよ……!」
「テメェらみてぇなワイバーンが古龍に勝てると思ってんのか、生物としての格が違うんだよ」
身体から彩菜達一人ずつに凝縮した風を手から放った。
悲鳴を挙げ、みな吹っ飛ばされる。
「まるで歯応えがねぇな。つまんねぇしもう殺してやる」
ギュンと風を纏い高速で移動し彩菜の首を片手で抑え持ちあげた。
「う、ぅぅぅぅ……」
「さあてどう殺すか、大好きな新しい彼氏の前で藻屑にするってのもありだな、なぁ亮?」
「ふざけんな!、彩菜を返せ!」
亮の背中から電気を帯びた球が放たれるも纏った風がやはり攻撃を打ち消してしまう。
「ふ、無様だな。蓮の野郎だったらここでこの女にエロいことでもしてお前が苦しむのを見て喜ぶんだろうがあいにく俺にそんな趣味はねぇ。今殺してやる」
「させるかいボケェ!」
蛍光色の電流、地面を凍てつかせながら進む氷の楔、バインドウェーブ。
3つの攻撃が同時に風翔の方に放たれた。
「ライゼクス、キリン亜種、ティガレックスか……」
彩菜を放り、軽々とかわし空中でホバリングしながら攻撃された方に目を通した。
「次から次へと邪魔が入りやがるな。ちまちまやったら面倒だ一気に殺す」
雨足と風が更に強くなり殆んど視界が見えなくなった。
仲間が他の仲間の身を案じ呼掛ける声も聞こえなくなるほどに……そして徐々に風翔を中心に渦が形成されていき……彩菜は最後に唸るような風の音とクシャルダオラの咆哮を聞いて意識を失った。
=====
「おい大丈夫かこの天気……」
旅館では天候の急激な悪化に不安を顔に浮かべる客がたくさん出てきた。
恵美と結子も窓から様子を見てみんなを心配している。
「彩菜達帰ってこれるかな……」
「適合者だから大丈夫よ……って言いたいけどこの嵐じゃ不安ね。電話かけて見るわ」
スマホから彩菜の番号を押すが繋がらない。
「やだ……あの子達なにを……」
「ゆ、結子!あれを見て!」
「なっ……!」
恵美が指差す先には彩菜達が向かったと思われる山から真っ黒な竜巻が天まで届かんとばかり暴れ回っていた。
「まさか彩菜達はあれに……!」
「あれは明らかに自然に発生した竜巻じゃない、古龍よ……恐らくクシャルダオラだわ!彩菜達が危ない!」
結子はすぐさま陽太を呼びに言った。
「陽太!みんなが危ないわ!」
「あぁ!、俺も今気付いた。このまま行こうぜ!」
二人は部屋の窓を開け、テオとナナの翼を生やして山へと向かった。
「くっそ、すげぇ雨だな」
「風もね……」
間もなく竜巻の発生源につく。
「どこ……彩菜達は何処にいるの……?」
突然竜巻が分散し消滅した。
そして……目を覆いたくなる光景が写し出される。
「い…や…、な、にあ…れ……。あぁぁぁ……いやぁぁぁぁぁ!」
四肢が切断された者、腕や足が千切れた者、木に潰された者、顔が潰された者……みな悲惨な姿となり横たわっていた……。
「おーおー。随分おーげさな声挙げやがるなぁ学級委員長さんよぉ。ま、俺も殺す気でやったが木が邪魔で風を分散して殺すには至らなかったらしいな。人間だったら即死だったがな」
「テメェェェッ……!なんてことしやがるんだこのクソ野郎がぁ!」
炎を纏い、陽太は風翔に襲いかかる。
「おもしれぇな。古龍対古龍か」
炎と風がぶつかり衝撃派が発生した。
「この野郎……焼き付くしてやる!」
「あっつい奴だな。風で冷やしてやろうか?」
陽太の態度とは裏に風翔はいたって冷ややかだ、同時に攻撃を放つも、炎と風が互いを食って消え去るだけだった。
結子はみんなが無事か確認していた。
「瑠奈ちゃん、瑠奈ちゃん!……桜花ちゃん、聞こえる?桜花ちゃん!……駄目か、彩菜!彩菜!聞こえる?」
「う……ん……ゆ、うこ……?」
「彩菜!無事なのね!」
抱きしめられる彩菜。
唯一傷が少なかったのは彩菜だけだった。
「私……確か風翔に……」
「大丈夫よ。今私と陽太があなた達を助けに来たから……」
「ありがとう……結子達が来なかったら私達全員あいつに殺されてたかも……」
結子の胸で恐怖と悔しさの涙を流した。
その裏で風翔に対する怒りが沸いてくる。
「あいつはみんなを攻撃した。今この場で奴に試練を行うわ!良いよね?ラ・ロ」
-好きにするがいい。道を切り開くのはお前だ。
「分かったわ……」
早速手を翳し、青い炎を放った。
「がっ……!……冗談だろ?あのクソ女のブレス攻撃が当たっただと……」
「クラスメイトが相手の場合はあんたみたいな男が相手でもいつもリミッターがかかってんのよ……今は無いけどね」
なんだと?。
そう言えば、彩菜はさっき攻撃らしい攻撃をしていなかった……本気を出して居なかったというのか……。
ブレスが普通に当たったように……もし本気を出されて攻撃されたら俺は……。
「ふざけんじゃねぇぞ!……全力を出してなかったってのか!」
「ワイバーンが古龍にはどうのこうの言ってたよね……本当かどうか確かめてあげる」
エスピナス亜種の打ち上げ溜めブレス攻撃を手を翳し、上空に放った。
「忌々しい技だな……太古の樹海でクシャルダオラと戦った飛竜の技を出しやがるとは」
「亜種の技だけどね」
風を放つが炎は吹き飛ばない。
「ちっ!」
ギリギリでかわした所に超滑空で彩菜が暴風を纏い風翔に突っ込む。
「……ガァ!、避けられるわけねぇ……速すぎる……」
超滑空の大ダメージに加え附属効果の毒状態に陥った。
風の鎧は力を失う。
超滑空により傷ついた腹からドクドクと血が流れる。
「とどめ、力を貸してくれる結子?、陽太君?」
「ええ」「おうよ!」
ナナ・テスカトリの炎、ラ・ロの炎、テオ・テスカトルの炎それぞれ燃やし1つに集め大きな炎が形成されていく……。
「これが、みんなの仇よ!」
「「「はぁぁぁぁぁぁ!」」」
2匹の古龍と1匹の飛竜の合体技が直撃し風翔は気を失った。
「良かったみんな命に別状は無いから回復するわ」
「え、手や足も?」
「うん。また新たにね。千切れてしまった部分は完全に再生した瞬間また地球のエネルギーに還元されるはずよ」
「へぇ」
「ところでこの馬鹿はどうする?」
「聞きたいことがあるわ。でもその前に……」
「グッ……」
「勾玉は抜かないと、暴れられたら厄介だし」
「名案だ。それじゃみんなをテオとナナに乗っけて帰るとするか」
曰く付きの館探しから始まり風翔の奇襲を受けて大変な思いをしながらも日は終わろうとしていた。