「遅かったな」
「ごめんね。生徒会長の仕事が忙しくて」
夜の街で待ち合わせをしていた同じ高校の制服を着た二人の男女は歩き出した。
「黒龍と紅焔龍の力を持つ者達が動き始めたらしいぜ。奴等の狙いは世界を滅することだ。黒龍を冠する名の本能の赴くままにな」
「あら野蛮ね。世界を壊すなんて世を壊すぐらいなら楽しんだ方が得なのにね」
少女の台詞に少年は笑う。
絵に描いたような美男美女に道行く人々は目を奪われる。
「おいおい、お前と俺も黒龍の力を持つけどな。だが世を破壊する気は更々ないぜ。そんな下らねぇことに労力を費やすとか……馬鹿のする行為だ」
冷えきった目で少年は放つ。
「そう。ところで、モンスターの勾玉の中には私達以外にも特殊な能力を持つ物が居るのを貴方は知ってる?」
「特殊な能力……いや知らんな」
「ある適合者と戦った時に聞いたのだけど、捕食したモンスターの力を扱えるようになったり、吸血する力を扱えたり、果てには現実を改変する者までいるみたいよ」
現実改変だと。
自分が思うままに世界を変えてしまうのか。
「あとは、他のモンスターに擬態する能力を持つ勾玉とか」
「それは面白いな。擬態の範囲に俺達まで含まれているのであれば。中々楽しめそうだ」
他の禁忌の適合者のように世界を滅するのが面倒臭いと思ったところで……他者を壊す楽しみまで持ち合わせてないわけじゃあない。
それが黒龍の本質なのだ。
「でも貴方を失望させちゃうかも、強さまで擬態出来るかは分からないから」
「いや祖雷有意義な話を聞かせてもらったわ。俺もそんな奴等と是非戦いたてぇし。やっぱ適合者の数を減らす必要がありそうだな」
薄ら笑いと共に赤黒い翼が生えた。
俺の虐殺で死ねばそれまで、強ければ……それなりに生き残るだろう。
そして、戦いを楽しめばいい。
=====
棘竜エスピナスの適合者吉永翔太と惨爪竜オドガロンの適合者越智一真が決闘する街外れの廃ビルに10分前に彩菜はたどり着いた。
「淋しい場所だわ……」
この近くには白咲山があり、本当に周囲は何もなく静かだこの廃ビルが心霊スポットと言われても何も違和感はない。
「彩菜さん。もう来ていたんだね」
翔太が現れた。
「うん。約束通りあなたの試練をみたいからね。一真はまだ……」
「ここにいるぜ」
廃ビルから降り立つ一真、既に強化状態になっており血管が赤く浮かび上がっていた。
「彩菜か……黒幕と一緒とはな。時間までまだ少しあるが始めるとすっか。翔太俺はテメェがどんなに強かろうとテメェに負けたのが本当に気に食わねぇんだ!……だからどんな手ぇ使ってもテメェに勝つ!」
周辺に黄金の稲妻が走る。
「この稲妻の色はベルキュロスね」
「当たり。ダチの一真に頼まれたんだ張り切っちまうぜ~」
廃ビルの中にもう一人の男が現れた。
「最初っから一人で戦う気はなかったんだなこの卑怯者め」
地面を咆哮の衝撃波が駆け抜け浮かび上がるエスピナスの怒りの紋様。
怒りに燃える眼差しは一真をしっかりと捕らえている。
明確な殺気を向けて。
「これは本来、翔太と一真のサシの勝負の筈よ。だからあんたは私が食い止める」
赤く光る目が残像を引き彩菜は一瞬で舞雷竜ベルキュロスの適合者がいる高さに到達し、超滑空を繰り出した。
「なんだよこの技!こんなの見たことねぇよぉぉぉぉ!」
硝子やコンクリを紙のように簡単に破壊し衝撃波がベルキュロスの適合者を外へ放りだす、適合者はなんとか態勢を立て直し空でホバリングする。
「クソったれ……ベルキュロスのブレスを食らえ!」
放たれる雷弾と雷属性のエネルギーを凝縮された光線。
難なく彩菜はかわす。
「うん?」
居ない、ベルキュロスの適合者の姿が消えてる。
「ここだ!」
上空にて静止しこちら目掛け身体に電気を大量に纏い高速で落下してくる。
ライゼクスやラ・ロの急降下攻撃と同じか。
確かに強力に違いないが……その攻撃動作を行ってる時は満足な回避行動もとれない。
暴風を起こし高速で後ろに下がる彩菜。
この時点で攻撃の回避には成功している後は急降下攻撃の放電が終わったところを超滑空で狩るだけだ。
「なっあぁぁぁぁぁ!容易にかわされてるー!」
ベルキュロスの適合者もこの事実に気付いたが攻撃動作は途中でやめられない。
……だからどんな反撃が待ってようと下に落ちるしかないのだ。
「あの態勢は……さっきの……!」
「大丈夫死にはしないから」
適合者は激しく吹っ飛び意識を失った。
廃ビルの外では死闘が繰り広げられていた。
「あの衝撃音は……!」
「また彩菜さんが技を放ったんじゃないかい?それ!」
頭を少し下げた態勢で一真に突進を繰り出す。
「グゥッ!!」
踏ん張って無理矢理長く延びた爪で翔太の腹に突き刺して威力を減らして突進を止めようとするが堅すぎて腹に突き刺さらない。
呆気なく吹っ飛ばされる。
最早一真に打つ手はない。
ベルキュロスの適合者と甚振る予定が一緒に来た彩菜に潰され結局タイマン張る破目に追いやられた。
どうする……どうする!こんな木偶の坊に頭下げるなんざ恥以外のなんでもねーだろが、どうすりゃ……!……あれだ!。
偶然近くを通り掛かった制服を着た学生を盾にした。
「なっ……赤の他人を!」
「このクソガキ殺されたくなけりゃ俺に頭下げろや翔太ぁ!」
鋭利な爪が学生の目に入ろうとしてる。
しかし学生は別段驚いた様子を見せない。
「どうしたぁ!このガキ殺されたくなけりゃ―――
「殺されるのはお前だよ。弱いクセに吠えやがって」
声を発した少年の身体に赤い稲妻が走り一真にダメージを与えた。
ぎゃああああと騒ぐ一真。
「蛮勇って言うか愚かって言うか。お前頭悪いだろ。一般人だから襲おうみたいな」
「うるせぇ!」
「危ない!」
爪を前に向け跳躍し一気に襲おうとした。
「狂犬、いやオドガロンは牙竜種だから狂狼。いずれにせよ獣となんら変わんねぇな」
拳に蒼白い稲妻を纏い、一真の腹にお見舞いした。
「ほーら、雷が大好物なんだろ。たんとお食べ」
感電してるからか、悲鳴は途切れ途切れに発せられる。
「んでもってお前みたいな奴はこうしてやる」
少年は勾玉を引っこ抜いた。
これで一真は1分程で適合者の力を失う。
「お前みたいに適合者の戦いに赤の他人人質に取ろうとする奴がこんなの持つな。分かったらさっさと消えるんだな」
何も言わず一真は走って消えた。
「あの」
「ん?」
「ありがとう。君のおかげであの馬鹿はもう愚かな行動はしないと思う」
「私からも礼を言わせて。ありがとう殺すことなく無力化してくれて」
「あー、別に殺すのは簡単だけどあんな奴殺したってな勿体ないっつうか馬鹿みたいっつうか。その一真って男もあんたらも同じ高校の生徒なのか?」
「まぁね。ここにいる翔太と一真が今日1vs1で戦う約束してたんだけどあいつがズルしてね。君の活躍見てたらスッキリしちゃった。私、藤沢彩菜白咲高校3年よ」
「僕は吉永翔太。彩菜さんと同じく3年さ」
「おー、みんな3年か。俺は深色煌輝、北ヶ原高校の3年生宜しくな彩菜、翔太」
「えぇ、宜しく」
「宜しく煌輝君」
3人はそれぞれ、ラインのアカウントを交換し別れた。