黒霧は自分の過去を思い出す。
遊び感覚で殺戮を繰り返す禁忌の適合者や憎悪を孕んだ適合者の存在により白咲町の治安は悪化の一途を辿る。
「最近どうなってるのかねぇ。この街は」
老いた女性がため息をつきながら、3人分の湯飲みに茶を注いでいく。
「まったくじゃな。ワシは黒霧が心配でたまらん!」
「おじいちゃん、私は大丈夫だよ。其処らの人間に負ける気はしないから」
祖父に黒霧と呼ばれた少女は笑いながら語る。
それを聞いて心配そうに本当かと祖父は聞き返す。
だが其処らの人間には負けない。
自分は適合者として産まれたんだ。モンスターも古龍とまではいかないがそこそこ強い種。
「あなた、黒霧は昔から強い子じゃありませんでしたか。小さい時いっぱい困難があったのに必死に耐えてこんなに可愛く強く育って本当に凄い子ですよ」
あとは歩んできた人生の中で最悪な出来事を味わい今この場に自分が居ることだろうか。
彼女も産まれた時は両親が存在して父と母に育てられ過ごした。
……しかし彼女が産まれてから2年後両親の仲は急激に悪化していった……。
父親が仕事を辞め家に居座り母親に暴力を奮い、血だらけになるまで痛めつけるのだ。
2歳の子供にとってそれは恐怖を与える対象以外の何者でもなく毎日怯え涙を流す。
更に父親は妻だけでは飽きたらず、幼い彼女にも暴力となり向けられたのである……。
顔面を本気で殴り、悲鳴をあげる黒霧に母親は守る為に必死で駆け付け大の男の暴力から自分を守ってくれた姿は目から離れない……いや離してならない。
ある晩、母親は黒霧に父親に見つからないようにゆっくり告げた。
「黒霧…。このままじゃあなたは殺されてしまうわ!。私の両親の家に行きましょう」
自分を抱き寄せる母。真剣な瞳に怖く感じたがお母さん(この人)は自分を守ってくれる人だと心の中で理解していた。
「うん!」
「良かった。今準備するから待ってて」
仕事を辞めてから父親は昼から晩までの時間帯は家を開けることが多くなっていた。
つまり今がチャンス。
だが物事はそう上手くは進まない―――
父親の気まぐれか……正しく運命の気まぐれだろうか。
その日早く帰って来た父親と玄関でバッタリ遭遇し
父親は妻と娘の格好を見るや激昂し妻の髪を手で激しく掴み無理矢理家に押し戻した。
「やめて!お母さんをいじめないで!!」
「黙れクソガキ!、テメェはこいつの後でたっぷり可愛がってやる」
実の娘を蹴り飛ばし、父は妻を実の娘が見てる前で………。
犯し殺害した。
「お母さん…いやだよ……。お母さん……お母さん!」
裸で横たわる母親にいつもの温もりは存在しない。
「黒霧…。次はお前がパパを気持ちよくしてくれ」
お母さんが死んだこの男がお母さんを殺した。お母さんが死んだお母さんが死んだお母さんが死んだお母さんが死んだお母さんが死んだお母さんが死んだお母さんが死んだ……………………コノオトコガコロシタ。
「オカアサン。イマコノオトコヲジゴクニオクルカラネ。ダカラテンゴクデハシアワセニスゴシテネ」
「なに、ぐだぐだ言ってやがんだ。俺に従え!」
突如、周囲が暗くなった。
停電と思ったが電気はうっすらついている。
…何故照明がぼやけてる?。
まるで夜道の街灯みたいな明りだ。
今度は急に喉が苦しい……インフルエンザや風邪をひいたみたいに父は咳き込む。
「なんだ……埃でも舞ったか?」
「埃じゃないよ」
娘の瞳が妖しく紫色の発光を放っていた。
「病原菌だよ」
表情1つ変えずに言う黒霧。
病原菌……娘の発言に考えが纏まらない父。
だが意味をこの後身体で味わうこととなる。
「ん……ウガァァァァァァァ!」
なんだ……なんなんだ。
血じゃない得体の知れない物質が不快感と共に自分の身体を走り回ってる。
気持ち悪い吐きそうだ。
「発症しちゃったね。狂竜症を」
苦しさのあまり喉をかきむしる姿に、母の苦しみをもっと味わえと願う黒霧は笑みを浮かべた。
だんだん皮膚の色が黒ずむ父。そんなにしない内に死ぬだろう。
「ガァ…………」
死んだ。
真っ黒に染まり血を一面に吐き散らし憎い父が死んだ。
黒霧に後悔は一切なかった。
「ありがとう……ゴア・マガラ」
その後、警察は妻の死因は夫の暴力と特定し父の死因を調べあげようとしたが捜査は中断した。
方針を決めた上層部に納得出来ない警官が何人か駆け寄ったがみな左遷や退職の目に合い騒ぐ者はいなくなった。
黒霧は亡き母親の願い通り、母型の祖父と祖母に引き取られる。その際にスーツに身を包んだ男が二人に何から何まで話をしてたのを覚えている……当時から検討はついていたが勾玉(ゴア・マガラ)の力のことだ。
普通の人間と違い人を殺す力を持つ存在として私は生まれたんだ。一般人から見れば立派な化け物なのにおじいちゃんもおばあちゃんも私を育ててくれたんだ……どんな理由があれ人を殺した存在だったとしても……それ以来私はゴア・マガラの力を人に向けたことはない。
けど……私の大切なおばあちゃんとおじいちゃんの生命を脅かすのであれば全力で排除するけれどね。
「ではそろそろ寝ようかしらね」
「うん。おやすみ。おじいちゃん、おばあちゃん」
この空間だけは絶対守らなきゃいけないんだ。
「お母さん……今度はちゃんと守ってみせるから、見ていて」
居間ではまだ二人がお茶を飲み天気予報を見ていた。
「あなた。私には信じられないわ。如何にあの子が凄惨な理由があったといえ……自分の父を殺したなんてね」
「それだけ追い詰められていたのじゃろう。じゃが今の黒霧は大丈夫じゃよ。あの子は優しさと思いやりがある可愛いわしらの自慢の孫だ。娘も喜んでるじゃろ」
「そうですね。では、今度こそ寝ましょうか」
祖父の耳に……這いずる音が聞こえた。
「なんだ……今の音は」
「音なんてしましたか?」
「あぁ、なにかが地面を這いずる音がな。気のせいか……」
まだ呆けるには早いですよ。と祖母に言われ二人は寝室へ向かった。
自身が産み出したモンスターギィギと聴覚を共有しこの団欒を聞いてる者が一人……。
「彼女とまでは行かないけどあの黒霧って子も可愛いな。なにより昔酷い目にあったのにあんなに楽しそうな表情ができるなんて」
-パパ、羨ましいの?。
「凄くね。本当に羨ましいよ。羨ましくて殺気が湧いて彼女を絶望に落としたくなるほどに……僕の物にしてみせよう。どんな手を使っても」
黒霧。君の希望の祖父と祖母が危機に瀕した場合君はどんな行動が取れるんだ?。
是非、僕に見せておくれ。