家を動く気配を察知した黒霧は狂竜ウイルスをばら蒔き敵の正体を感知しようとした……。
真夜中黒霧は……微かな這いずる音を聞いて目を覚ました……。
泥棒……?、おじいちゃんとおばあちゃんが危ないかも。
すかさずゴア・マガラの力を纏身させ自身の視力の他に狂竜ウイルスの感知能力を発動。
翼脚を羽ばたかせ家中にウイルスを散布した。
この狂竜ウイルスは人間が感染すれば確実に助からない代物だが黒霧の意思で感染者を選ぶことが可能である。
「散布完了……何かしら、この白く濡れた痕は?」
家中に無数に見つかる白い痕跡。
何かが確実に家の中に入り込み動き回ったことを表す同時に泥棒や物取りの可能性も頭からなくなる。
……これはもっと危険な存在だ。
祖父と祖母の部屋を覗いた瞬間彼女の危惧は現実となった。
狂竜ウイルスが感知したのはおおよそ30匹の肉を求め今にも二人に襲いかかろうと口から涎を垂らすギィギの集団だ……。
「なに……これ……。感染させて奴等を追払わないと!」
自身が狂竜ウイルスを感染させたものを操れるようになる能力もゴア・マガラの勾玉は持っている。
毒怪竜ギギネブラの幼体とは言え、小型モンスターだ。
容易に感染出来るだろうしあとは息絶えるまで其処らに置いておけばいい。
「だれっ!」
突然自室の窓からコンコンとノックする音がした。
駆け寄りカーテンを開くも誰もいない……だが窓にはベッタリと白い粘液が手形を型どった跡が無数ある。
「ふざけた真似を……!何処にいるの!出てきなさい!」
姿を隠すギギネブラの適合者に意識を向けているとギィギが360度に牙が展開された口を開け祖母の頭を食おうとしていた。
急いで狂竜ウイルスを感染させ事なきを得るが今度は黒霧自身が窓を突き破った毒液に身を曝された。
「あぁぁぁぁああああっうぁぁぁぁぁあ!」
「おやおや仮にも古龍の幼体の適合者がこんなに愚弄されるなんて。やっぱ強いだけじゃダメだよね相手を出し抜ける策がなきゃさ」
眼鏡を掛け得意気に話すこの男がギギネブラの適合者か……。
でもこの男が言うことも当たってる。
黒霧は父親を殺害した時以降全く戦闘経験がない。
祖父と祖母と安らかな時間を過ごしてきた……人間にとっては幸せな時間だが、適合者から見れば技や能力の手入れもせずただただ安寧を貪り、堕落した時間を過ごしたも同然だ。
「モンスターが如何に強くてもこんな程度のことでパニクり挙げ句格下飛竜の毒を食らうんじゃ世話もないな」
「くっ……!」
「今受けた毒により家中に張り巡らされた狂竜ウイルスの感知も弱まり祖父と祖母の部屋も認識出来なくなったようだね。実は屋根に卵塊を5個作った……また埋め尽くすだろうなあの夫婦の部屋を」
あの二人がギィギに食べられてしまう……。
「やめ……て。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは私の希望なの……だか……ら。やめて!」
涙目で懇願する黒霧。
くくくと笑いながらギギネブラの適合者直人は彼女にどんな無理強いをさせるか考えた。
やはり僕の予想通りだ守るもののために黒霧は自分を犠牲にしてでも守ろうとする。
美しいが……話が通じない相手の前では弱さにしかならない悪手だ。
「黒霧って名前だったよね。僕は綺麗事や御託が嫌いだある出来事が更にそれを加速させた……」
黒霧に近づき胸を掴んだ驚愕し声をあげる。
「あなた……」
「最低な行為とでも言いたいか。僕はもうこの世の色んなことに絶望してるんだよ、君を犯すくらいわけない」
「違うわ」
「なんだ?」
「何故……泣いているの?」
「え?」
僕が泣いてる……。
目を擦ると手に水がついた。
頬も伝うこれはまごうことなき涙だ。
「なんで涙なんか……僕は泣きたくなんてないのに」
「君が泣きたくないと思っても本心では違うんじゃないかな?良ければ私に話てくれる。君に何があったか」
「君を犯そうとした男の話を聞く?なに言ってんだよ!……そんなのおかしいだろ」
「そうだね。だけどこのままじゃ君が無くなってしまいそうで……なんだか君はそんなに悪い人じゃ無い気がするの。話してもらえる?」
「ふっ……御人好しも世の中には居るんだな」
直人は自分の素姓から何故こんな行動に出たのか、そしてそれに至った経緯を彼女に話した。
「笑っちゃうだろう。もう殺していいよ僕なんて」
「いっぱいつらかったんだね直人君」
直人の思いと裏腹に黒霧は優しく抱き締め頭を撫でた。
「黒霧さん、なんでこんな真似が出来るんだよ。君を犯そうとした男を撫でるとかさ」
「う~ん、やっぱり直人君が泣いたからかな。本当に酷い人だったら人を犯す時涙なんて流さないと思うし……それでさお祖父ちゃんとお祖母ちゃんには手を出さないでくれるあの二人は私の希望なの……お願い」
「もうそんな考え失せたよ。迷惑かけてごめんじゃあ……」
「ちょっと待って今直人君は…その…フリーなの?」
「まぁ、そうだね……フリーじゃなかったらこんな真似をしないよ」
最低な行為だけどな。
「良ければ私と付き合わない?」
思わず、はぁと声が出た。
「愛情を向けてくれなくてもいいよ。でも貴方が心配だから近くで見守りたいの、それに彼氏が出来たと分かればお祖父ちゃんとお祖母ちゃんも喜ぶかもしれないし……どうかな?」
ドが付く御人好しだ。
「君は本当に御人好しだ……襲っておいてなんだが僕も君が心配だよ。いいよ互いに守り黒霧ちゃんとの間に真の愛を築けるなら」
ありがとう!とまたも黒霧は抱きつく。
ギィギも全部戻し卵塊も破壊した。
ラインを交換し外に出る。
「学級閉鎖が終わったらちゃんと学校行くんだよ」
「分かったよ」
風翔の両親を殺害したことと行方不明期間にギィギを使い殺害したことは話せなかった。
でも幾分か気分は晴れた。
僕の行き着く先は地獄に違いないだろうが時間が許すならば黒霧を守りたい。