焼けて廃墟と化した工場跡に一人の少女は花を添えた。
「最後のお父さんの忘れ形見だったのに……。工場まで天国に行っちゃったね、ふふ、でもその方がお父さん的には嬉かった?……工場もお父さんが恋しくなったのかな」
父の工場。
小さいながらも心血を注ぎ切り盛りしてた大切な場所で父が賢明に生きた証だ。
小6から中3にかけて度々お邪魔しては父や従業員達が楽しく迎えてくれた少女にとっても第二の家も同然だ。
……だがその工場は壊された。
あの娘の父親が父の会社からヘッドハンティングで引き抜き忽ち経営出来なくなったのだ。
「……やはり真莉か。相当な思い入れがある場所じゃなければ廃墟に花束を置いたりはしないからな」
身長が高くボーイッシュな髪型の女子が……真莉を見て話し掛けた。
「久しぶりじゃん。あき」
あき……中山明江は、真莉が小さい時から近所柄みで供に育った仲だ。
真莉の親友の真央や詩織に出会い高校が変わる前まではよく明江に悩みを打ち明けて相談に乗ってもらったりしていた。
白咲町で一番偏差値が高い北ヶ原高校に行ってから会う機会は激減していてこの再開も凄く久しぶりだった。
「泣いてたか……すまない」
「あきが謝る必要ないわよ……。しょうがないわ隕石だもの。自然に私達は敵わないから」
涙を拭いながら笑ってみせる。
「お前の父親は本当にお前に愛情を持って育ててたからな。……ウチとは大違いだよ」
彼女の拳がギュっと締められる。
「ちょっとあなたまで辛気臭くなってどうするの、あきのお母さんが居ないぶん、あきが頑張って支えてかなきゃ駄目じゃない。私もだけどさ!」
「それは……そうだが。私に出来るかな?」
「出来るよ!あきなら。頭もいいし、適合者だし、だから頑張りましょ私達!」
「あぁ。そうだ、再開を祝して喫茶店にでも寄ろう」
久々に再開した幼馴染みは仲良く話をしながら帰り道を歩いた。
=====
snsは便利だ。
検索すれば知りたい情報を得ることができ、アカウントを見ればその人が何をやってるかも分かる。
『今、彼氏の家にいるよー!』
『人生つらい。生まれなきゃ良かった』
『大学受かったー!』
『また今度遊ぼうね~』
その言葉を発信した側は深い意図はないのかもしれない。
だが、それで他人に対して憎悪が沸く者もいた。
自分の人生はつまらないのに……なんでこいつらばかり……ずるい……ずるい……。
『ズルい』
鹿音透子はテレビでニュースを見ていた。
専門科が次々と意見を述べていく。
『こんな偶然が有り得ますか?。何れも地方はバラバラですが日本各地で10代、20代前半の若者の不振な壊死が発生してるのです。しかも全員sns利用者、裏に確実にこの殺人劇を繰り広げてるものがいるのです』
台詞が終わった後、犯罪なんとかの肩書きを持つ専門科は一口水を飲んだ。
「いい線してるなこのおじさん。絶対立証は無理だと思うけどね」
感心しながら自分が掴んでる腐った生首をバスケのシュートのようにゴミ箱に放り込み見事入る。
ナイッスシュート、と一人で喜んだ。
しかし何故プロフに態々特定されるような情報を書き込むんだろう?。
高校生なら分からなくも無いが大学生でも書いてる者がいる。
……おかげで容易に特定出来て楽に殺せてしまう。
今この部屋の持ち主もその一人だった。
この少年の場合、恋愛も上手くいき、勉強も順調のアピールが透子の心を歪ませた。
家を見つけ後を着けて家の中に入ったらまず、瘴気を送り込む、瘴気は空気よりも細かく硝子で密閉したぐらいの透き間は普通に入り込む。
中の人物が苦しんだ時にはもう手後れで、10秒と待たずヴァルハザクの瘴気が取りついた宿主を食らいつくしてしまうのだ。
『確かに作山さんの言う通り現場には鍵穴が溶けたりした痕跡が見られる事件も数件確認されています。これは犯人が中に進入し殺された遺体の傍に居たことを現すのかもしれません』
瘴気で指紋や足跡は消える。
無意味でしかない。
「また殺しに行かなきゃ」
抑揚がなく呟き玄関の方を目指すと、ドアが開いた。
あぁ、面倒臭い。家族か友達か……何れにせよ瘴気の餌食になるのに変わりない。
死人にくちなしは今も昔も同じだ。
ドアを開けて入って来たのは、白で統一した服を着たいたって普通の少女だった。
「家族の線は外れね。まぁいいや……死んで」
手の平から濃縮された瘴気が直線上に放出される。
直撃すれば一瞬で侵食され崩れる……そう思った。
「は……?」
有り得ない。
目の前の女は今何をしている。
身体に瘴気を食らいながら少女は特に苦しむこともなく普通の速度で此方に歩み寄ってくる。
距離はどんどん詰められ、前までくると透子の腕を強く掴んだ。
「……ぅああぁぁぁぁぁっ!」
バギバギと掴まれた場所の骨が破壊されたとんでもない力だ。
少女はその手を放し透子は腕を抑えながら床で踞る。
「古龍の力を用いて他人を殺しまくってるからどんな子なのか見にきたけど……なんてことないわね」
腐食された死体の上に腰掛け、笑いながら透子を見下ろした。
間違いなくこの女は適合者だそれも並の強さではない。
「何者……。随分強い勾玉を持つじゃない……」
「さぁ?なんのモンスターかしらね。こんなことも出来るのよ」
プツッと音をたて部屋のコンセントが全て抜かれはじめた、独りでに勝手に抜けていく。
更には抜かれたコードが意志を持ったようにピーンと延びながら床に踞る透子の身体に次々巻き付いた。
「くぅぅぅ!」
苦しみながらコードを力付くで千切り、また床に倒れてしまう。
「なんなの……あなたは?」
「禁忌の祖龍の適合者……。ねぇあなたもっともっと人を殺したいんでしょう」
『手伝ってあげる』
=====
喫茶店に入った二人は同じ紅茶を頼み積もった話をしながらゆっくりしていた。
「しかし昨日の大規模停電で白咲山から半径数百メートルの地域では未だに電気が復活してないらしい。寒いこの時期だ下手したら死人が出てしまうかもしれない」
昨日白咲山の周りで大規模な停電が発生し、インフラや交通が止まった。
如何に人間が電気に頼って生きてるか再確認出来たようなことだった。
明江の言うようにまだ本格的な冬は訪れて無いが、暖房器具はもう必須レベルだ。
確か町の広報では学校の体育館や町民センターを開放したと言っていた。
「あき。この大規模停電裏があると思うの。天気も昨日は快晴を示してたのに……突然数百メートルとはいえ限定的な場所で停電が起きるなんて私は信じられない」
「……私もだ。町全体で起きたならまだしも山の周りと言うのが気になる。それに昨日山で発光現象があったのをお前は知っているか?」
「知らない」
「私の個人的考えでしか無いが昨日山で大規模な雷属性のエネルギーを放出した者がいるんじゃないかと考えてる」
そうか。
停電を起こすエネルギーの発生源として考えれば明江の考えは当たっているかもしれない。
しかし適合者の仕業だとすれば傍迷惑な行為をする者もいるものだ。
「雷のモンスターの適合者ね……何処の馬鹿かしら」
「さあな。私もお前も適合者だ、私達に戦う意志があればいつか会えるかもな」
「いいわねあんたは……。確固たる意志があってぶれないって感じぃ?。こちとら揺らぐもんがいっぱいよこの世は不合理が多すぎる」
明江は笑う。
「気にしすぎじゃないか?あるいは自分から率先して揺らぐ道を歩いてるとか」
「自分から茨道なんて歩くか。……この世にどうしても不合理なことが起きるのは仕方ないわ。現実でも変える力があれば別なんだろうけど」
「確かにそんな力があれば私達の人生から苦難はなくなるかもな。だが存在しない幻の力を追い求めても現状は変わらない」
充分自分の頭でも理解してる。
だが……。
「分かってるわよ。でも幻だろうと思い浮かべて現実逃避したくなっちゃうのよ……こんなクソッたれな運命だと特にね」
大丈夫。
あの女への復讐は茨の道なんかじゃない。
……決して。