自宅のインターホンが鳴り玄関に駆け付けた彩菜を待っていたのは意外な人物だった。
……禁忌対策のため白咲研究所に付いていった煌輝の口から放たれた一言により、巨悪が暴かれようとしていた……。
……警察署は、数時間前に発生した……白咲署署員虐殺事件の捜査がなされていた。
皆、活気を失い暗い空気が場を満たす。
これは人間の業じゃない。
刑事の福島は、眉を潜めながら署員達がどのように虐殺されたのかファイルに目を通していた。
今回の事案、目撃者もいるが揃って犯行の内容について口を閉じている。
大まかな犯人の特徴と犯行については掴めているのだが……とても人間に出来る所業でないのだ。
そこから察するに目撃者達はその於曾ましき所業の一端を目に焼きつけてしまったが故に恐怖で言えなくなってるのではないか。
現場で確認された焼死体に、脳や心臓が潰された死体、燃えたパトカー……。
外側から刺された外傷は1つもない。
人の格好をした化け物が、我々(人間)と同じ姿をして混ざってると言うのか……。
「福島刑事、お顔が優れませんよ」
若い警官が、湯呑みにお茶を入れ置いていった。
「あぁ、すまない……」
警官は息抜きも大切ですよ、と立ち去る。
……あんな警官居ただろうか。
「やれやれ、警察官になるのはクウガの世界以来だな。この世界にゃライダーもグロンギもアンノウンもいないが戦うべき対象は存在してやがる。暫く情報収集だな」
=====
『もしもし、彩菜ちゃん?』
「もしもし、氷崋ちゃんだよね。電話待ってたよ」
電話が掛かってきて無事氷崋が戻れたのを確認して安心した。
『研究所の方でも町の保安の為に禁忌の適合者達を追う準備をしているわ。禁忌の適合者達は膨大なエネルギーを放出してるからそれを感知できるレーダーを開発中なの』
「凄い…でも驚いた。氷崋ちゃんが勾玉について研究してる人だったなんて」
結子の幻影から出てきたあと、氷崋は研究員であることを告白し、場に居る全員に研究所で対策を出して後で電話すると言って帰った。
煌輝は氷崋に、俺も連れていってくれ。俺も奴等と同じ禁忌だから身体を研究すれば弱点が分かるかもしれないと言って彼もついて行った。
『私はまだまだ若手だよ。こんなに研究が進んだのは煌輝君がデータをくれたから。今も彼の身体を機械が分析してる最中なの』
「そうなんだ、そのレーダーが早く出来るのを祈ってるからね」
『ありがとう。彩菜ちゃんこそ試練が達成出来るのを祈ってるからね!それじゃあ』
電話が切れた。
何故氷崋が試練のことが分かるのか気になるが大方恵美あたりが言ったんだろう。
そう、試練。
こちらも彩菜が避けて通れない道だ。
次はやはり、真央か詩織だ。
もしくは両方。
早いとこ、作戦を立てなくちゃ。
玄関からインターホンが鳴った。
母親が出るだろうと、思い作戦を考えようとしたがまた2回、3回とインターホンが押される。
「お母さん、いないのね」
少し面倒臭いと感じながらはーいと返事し駆けながら玄関の前へ立った。
「どなたでしょうか?」
「……いい家に住んでるのね。流石あの男の家と言ったところかしら」
「……真莉」
彼女とこうして会話をしたのは、あの貴志の一件以来だ……何故自分の家の前に居るのだ……いじめのリーダー格が。
「あんたが家に居るって分かって安心した。単刀直入に言うわね。あんたのこと殺しにきたから、もう全てを終わらせてあげる」
「……あなた一人なの?」
「私しかいないわ。元から詩織と真央を巻き込む気はないし、あんたは……絶対殺さなきゃいけない。こんなとこでドンパチしたら近所迷惑だし場所を変えましょうよ」
ドアを開けると、白と金が混ざった色の髪をおろした真莉が立っていた。
異様な雰囲気を感じる。
とてつもない力を秘め、第7形態とも張り合えそうな。
「何よ。ジロジロ見て、見とれたかしら?」
頭の後ろに手をのせ腰を曲げる真莉、スタイルでも自慢したいのか。
「誰が……まさか今日あなたと戦うことになるとはね。本来ならあなたの友達二人を優先したかったけど、敵の方から来てくれたんじゃ断るすべもない。受けてたつわよ、真莉!」
「嬉しいわあんたを潰せる時がついに来たんだもの……あんたが最近の自信に満ちた様子が私には癪でしかなかった!。あんたは……あんたは……私が絶対倒すんだぁ!」
互いに激昂しあう二人。
真莉も彩菜も炎を扱うモンスターだったため、周囲の温度が急激に上昇した。
二人の身体にそれぞれオーラが纏われていく。
「古龍の幻影!」
その一言で両者は姿を消した。
=====
アルバトリオンの適合者煌輝は、氷崋の指揮の元行われている対禁忌のための実験に自ら声をあげて協力し自身の皮膚を提供していた。
「痛まない煌輝君?」
「大丈夫だ、特に問題ない」
10cm程度の皮膚なんていくらでも提供してやれる。
7~8秒で傷は修復するし。
それよりも、煌輝は氷崋に伝えたい重要なことがある。
「氷崋……俺も中学生の頃、研究所で見習いとして働き高校の今でもちょくちょく勾玉研究所の本部がある東京に手伝いに行くことがあるんだ」
「そうだったんだ。じゃあもしかしたら私以上に適合者の特性や体質に詳しかったりする?」
裏の事情にもな、と答えると氷崋の顔から笑顔が消えた。
「もしかしたら氷崋も気付いてるかもしれないけど、あったよな東ヶ原高校の爆発事故……表向きはそう処理されたが東京の本部では裏まで掴めてる」
「……なんの話なの?」
「君はその事故があった前後にかけて身体の怠さを覚えなかったか?」
怠さ……そう言えば、なにか身体の中に変な感覚が走った気がした力を吸われるような。
「力を吸われるような感覚があったかもしれないわ」
「そうか……やっぱり禁止行為をやってたんだなここの研究所―――
適合者の皮膚から勾玉を持たずして適合者を作る研究を」
えっ……と、声をあげ彼女は完全に固まる。
研究所の所長は静かに首を動かしこちらを睨みゆっくり歩みよってきた。
「煌輝君と言ったか、憶測でものを語るのはやめてほしいのだがな。我々は研究員として勾玉の研究にただ尽力してるだけだ」
「言質は今彼女の口から取れた……前にも愚かに同実験をした研究所があってな。そこの適合者も彼女と同じことを言ったよ」
充血した目を見開き、小刻みに所長の身体が震えだした。
「その様子じゃろくにデータの処分も出来てないようだな。もっとも殺せばお前達は人殺しだがな」
ドクン、と氷崋の身体が揺れた。
以前、恵美に手を出した大輔を自分が殺した記憶を思い出す。
証拠は何もないが、紛れもなくやったのは自分だ。
「私をどうする気だ……」
「あんたを本部に報告する。その上でどんな処分になるか上は判断するだろう。協力した者もな」
力が抜けるような声をだし、数人の研究員が地べたへへばりついたり頭を抱えたりした。
「氷崋すまないが本部に連絡してくるよ。こいつらは君のディスフィロアの力で見張っててくれ」
「……うん」
どうすればいいのかな……。煌輝君に言った方がこのもやもやした気持ちは消えるのかもしれない。
煌輝の一言に揺らぐ心……。
「あと、数時間で本部から到着するってさ」
「煌輝君、私ね……」
耐えきれなくなり、戻ってきた煌輝に氷崋は全て話した。
「そうか……人を殺めてしまったんだな」
「正しく人だね。私が彼の身体から勾玉を抜いたんだから、行動も操ったし」
勾玉が抜ければ、短時間で効力を失うのは研究に携わるものなら誰でも知ってることだ。
彼女も法に裁かれるべきだろう……そして今の彼女にはその意思がある。
本部から人が来たら、罪を白状すると言った。
「気休めになるかどうか分からないけど、国いや、世界はなるべく適合者の存在を隠したがってる。しかも氷崋の犯罪は証拠がない……不問になる可能性は限りなく高い」
「だとしても、私は自分の罪を忘れることは出来ないよ……法で裁かれなくても、私は一生人を殺めた罪を背負って生きていくわ。……恵美ちゃん達にも話す」
「……あいつらならどんなお前も迎えてくれるさ。仲間の為に手を染めたんじゃ尚更さ。罪を克服した上で胸を張れればいいな……」
笑いながら肩を叩く煌輝にめいっぱい泣きながら、コクりと頷いた。