……馬鹿なことをしたと北ヶ原高校の3人の男女は暗い路地裏で後悔していた。
センター試験が最近と迫る中での臨時休校で気分転換を含め気が立って憂晴らしの相手を求めて町中を歩き回っていた。
歳が同じぐらいの別の高校生でも見つけたらからかってやろうと軽い気持ちで。
自分達は白咲で一番偏差値が高いんだ。それぐらい許せるだろう。
コンビニに入ると、ちょうど得物がいた。
自分達の高校では見かけない、そばかすがある女子と、顔の片方を隠した短髪の女子。
ストレス発散できるいい玩具だな。
リーダー格の体格がいい男子がにやにや笑いながら二人に詰め寄る。
「ねぇ君らさ、北高の生徒じゃないよね?。困るんだよね~偏差値低いとこの生徒がコンビニなんかにいたら俺ら優秀な生徒の迷惑だから、どっか行けよ」
「そうさ。偏差値が低いならこんなとこいないで勉強したらどうなんだい?」
北高の女子は後ろで隠れクスクス見下したような顔で笑っていた。
やっぱりこれは最高のストレス発散方法だな。
「黙っちまったよ、帰ろうぜ」
「正論過ぎていい返せないのさ。じゃあな馬鹿高校の生徒」
女子も口を手で抑えながら続きコンビニから出ていった。
彼らはこの時点で自分達が大きな思い違いをした事実に気づけていない。
急に煽られた、そばかすの女子……渋谷真央はゲネル・セルタスが強くなる過程に手に入れた時間加速を使用して一瞬で姿を消した……。
「殺すなよ、真央。私もすぐ行く」
詩織は笑いながら真央を案じた。
先ほど3人が通過した自動ドアはまだ開いており、外から3人の驚く声が聞こえた。
突如、気配もなく自分達の前に出現した真央に3人は身体を震わせた。
恐怖で動けない3人を据わった目がジィと見つめてくる。
身体が動けないでいると真央は、口元をあげながら静かに話しをはじめた。
「なぁ、私お前らが言うように馬鹿だから分からないんだけどよ……いつからあのコンビニは頭いい奴しか入れなくなったんだ?分かりやすく教えてくれるよな」
「ひぃっ……」
リーダー格の男子の身体がすくむ。
「おいおいおいおい……なにビビってんだよ。お前らが好きそうな話してんだぜあたしは?なぁ、頭いいなら教えてくれよ」
「あ……あぁ……」
「に、逃げよう!」
男子はリーダー格と女子の手を引き、真央の横を通り抜けた。
「逃がすかよ」
またも姿を消し、彼らをサイドタックルでぶっ飛ばし暗い路地裏へ放り込んだ。
設置してあるドラム缶に激突したりアスファルトを滑り怪我を負う。
「痛い……痛いよぉ……お母さん……」
女子は泣きながら、踞る。
なんだよこれ…人間のなす技じゃねぇよ……なんなんだよあの女!……俺達はとんでもない化け物に声をかけちまったんだ……。
トッと足音がすぐ前で響く。
顔を見上げた瞬間、蹴られ音を立て脇の建物に思いっきり頭を叩きつけられ気を失った。
「ごめん!許してくれ!勉強でイライラしてて……それで君にちょっかいを出してしまったんだ!許してくれ!」
土下座する男子。
いいことを聞いた。
笑いが止まらない。
「ならよぉ、私がお前らにちょっかい出すのも、イラついてるからしょうがねぇよな」
男子は土下座したまま顔を挙げ、なにを言われたか分からない様子である。
ポカーンとしていたが段々、真央の発言の意図が分かり表情が恐怖に塗られていった。
「ちが……あれは……」
「あんたらの考え方でやるんだから喜べよ」
拳があがる。
「ひぃぃぃぃ!」
「バーカ」
拳は男子の寸前で、ピタリと止められたのだった。
「テメェみてぇな臆病な奴殴る価値もねぇよ。あそこで延びてる仲間連れてさっさと消えろ」
はい!、と恐怖が入り交じった返事をし倒れたリーダー格の男子を担ぎ逃げるように帰った。
「おっ、終わったみたいだな」
後を追ってきた詩織はボロボロになった彼らに擦れ違い様に、ざまあないわねと声をかけてあげた。
足を進めると満足気な顔で真央が立っている。
「一人伸ばしたんだな」
「あんたにも、セルレギオスの千刃の的になるような奴残しとけば良かったかしら?」
「荒い針治療だな」
詩織の勾玉は千の刃を持つ竜と称される千刃竜セルレギオスだ。
この飛竜は普段は前脚を地につけるレックス骨格のような姿だがレックス骨格の飛竜に比べ前脚は手の形状になっておらず鋭利な爪はない、いざ戦闘が始まるとリオレウスやライゼクスに比類する空中での動きを可能とする。
空中での暴れる様は正にワイバーンであり、地にいる時はレックス骨格の特徴を持ち、飛べばワイバーンの特徴を持つ飛竜種なのだ。
「それよか真莉だよな。あのメールどういう真理なんだか……」
「だな。本当に彩菜と和解したってのかな」
昨日の夜、真央と詩織の携帯に真莉からあの彩菜と和解したとメールが来た。内容を見た時とても信じられず騙そうとしてるのかと思ったが、聞いてると嘘じゃないらしい。
「なぁ、詩織。あたしらの役目も終わりかな?」
ポツリ真央は呟く。
今回の彩菜をいじめる件は真莉の復讐という事実に違いはない。だけど自分達も、当初、家庭を壊されて彩菜が藤沢総一朗の息子だと知っても尚、真莉は心を汚したくないし彩菜は関係ないと言って拒んでいた彼女を最終的に復讐への鬼道を歩ませた責任がある。
彩菜を死に追いやるようで、逆に彩菜から恨みを書い寧ろ真莉の方が殺されてかねない危険を孕むことだったのだ。
溜め息を吐き真央は頭を手で抑える。
真のクズってのは私のことだな。
敵視して嵌めた挙げ句、関係ねぇ奴等何人も巻き込んで彩菜をいじめぬいた。
……ははは、何人に頭下げていいか分からないわ。
「おいおい、謝ること考えて頭抱えてやがんのか?あんたらしくもない」
「あんたは怖くねーの。謝ることが」
「怖いに決まってるじゃない」
壁によりかけ、腕を組みながらまっすぐ真央を見つめながら詩織は話す。
「実際、あんたと同じく逃げ出したいぐらいよ。でも同時に真莉が親父さんの件を彩菜に打ち明けた上で彩菜と和解したって事実の方が私は嬉しいからさ。中学で意気投合して親友になった真莉の苦しみがようやく解放されるんだぜ」
優しい表情で、壁に挟まれた青空を見上げた。
こんなに青かったか空って……。私も随分と自分や他人を狭く見て生きて来たんだな。
「行くか、彩菜のとこに」
「言うと思ったよあんたなら、うちらは幼稚園の時からの腐れ縁だからな。あんたの行動は読める」
「うるせぇやつ…許してもらえなかったら腕の一本でも差し出すか?」
「何かの呪いか」
冗談を交え彼女らは路地裏を抜け、彩菜の自宅を目指した……以前に自宅に嫌がらせをしようと企んだ時があったので彩菜の住所は分かる。
様々な思いを浮かべながら二人は足を進めた。
……自分達を見つめる影に気づかないで。
藻屑と帰す時だ、母なる海から産まれし者ども。
=====
「話してごらんなさい彩菜、どうして泣いていたの?」
彩菜の母、雪は総一朗と彩菜が言い合いをして玄関で泣きじゃくっているのを見つけた。
今はソファに座らせ話を聞いてる最中だ。
「ほら、ココアを淹れてあげたから飲みなさい。落ち着いて温まるわ」
ゆっくり頷き、ひと口ココアを飲んだ。
「落ち着いたかしら、お父さんと何があったの?」
「……お父さんに運命を狂わされた友達の伝言を言ったの。そしたら、何が言いたい。とか、ふざけてるのかとか言われて……」
「うん」
「私カッとなってお父さんがやってることは生活を奪ってるようなものじゃん!って言ったら、この世は犠牲で成り立って弱き者は搾取される運命だ。とか平気で言われて私やるせなくなって泣いたの」
思いだしまた涙を浮かべる。
「そう。それは嫌よね。見境なく下請けの町工場から技術者を引っこ抜いてお父さんの会社の利益は出しても他の会社は苦しくなり最悪破産になる。ましてやあなたの友達の会社なら尚更よね」
「……分かってるよ私も。綺麗事じゃ経営なんて出来やしないんだって……でもそんな小さな町工場を狙う必要もないと思ったの。もっと皆の被害が少ないやり方選べないのかなって……こんなのあんまりだよ」
あなたは人の痛みが知れる子で良かった。私やあの人と違って……。
……力づくで沙弥から総一朗を奪った私と違ってね。
「お母さん何か言った?」
「なんでもないわ……」
少し口が動いていたらしい。
「無意味かもしれないけど私からもあの人に言ってみるわね。でもあなたは気に病まなくてもいいのよ」
「それはそうだけど……あの人のやり方は嫌だよ。非力だけど現実でどうにか出来ないか私考えてみる」
「あら自分で考えるのはいいことよ。応援してるわ」
にこやかに雪は話す。
「ありがとう」
インターホンが鳴り、私が行くと彩菜が駆けつけた。
「はい」
「彩菜……私達よ」
「許してくれるか分からないけど謝りに来たの……」
詩織と真央だ。
真莉から、自分と和解したとでもメールを受けてここに来たのだろうか。
「……詩織と真央だよね。取り敢えず上げるから待ってて」
鍵を開けると、少し怯えた顔の二人が立っていた。
そのまま二人を2階の部屋に招く。
彩菜と向かい合うように二人は座った。
真央が口を開いた。
「まず入れてくれてありがとう。あたしらあんなこと彩菜にしたからさ正直門前払い覚悟してたよ」
「真莉を唆したのは私と真央よ。藤沢総一朗の恨みを彩菜にぶつけようってね。私達は真にあんたにぶん殴られなきゃいけない。本当にすまなかった」
「ごめん彩菜。どうとでもしてくれ」
二人は土下座した。
どんな攻撃がとんでくるのも覚悟している。
数々の悪行が許されるわけもない……自分達は真莉と違い表立って積極的に彩菜をいじめたのだから。
……しかし彩菜の反応は予想外のものだった。
「確かにさ……私はあなた達のことが謝られた今でも殺したいほど憎いよ。服を剥がされたり、殴られたり……でもその憎む気持ち以上に互いに全て曝け出して友情を築くことはとっても素晴らしいことだと思うの」
意外な言葉に二人は顔をあげると彩菜は涙を流しながら優しく微笑んでいた。
つられ、二人も涙を流す。
「真莉から私のお父さんのことも聞いた。凄く迷惑かけたんだって……でも彼女は謝って反省してくれたの。あなた達もこうして謝って涙を流してくれている……許すよ。卒業までさ短いけど仲良く出来ればいいね」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「こちらこそ……あたしら馬鹿だけどさ宜しく」
彩菜は2人と強く握手し完全では無いが、蟠りを少し水に流せた。
ラインを交換し、2人は謝辞を言いながら彩菜の家をあとにした。
「真莉に伝えなきゃ。あんたの親友二人も謝りに来たよって」
スマホを操作する。
詩織と真央の試練も終わった。
残るは二人……山瀬裕也と常盤蓮だ。
「しかし、許せてもらえて良かったな私達」
「本当ね。……けど彩菜は強い人だわ。私だったらあそこで私を痩けにした奴等を許せやしない……ましてや彩菜は勾玉だってあんな強いのに」
強大な力に頼らず、見事彩菜は両者の顔を持ち上げて見せた。
……私達が復讐しようなんて提案せず最初から彩菜に真実を話してればこんな憎悪を孕み禍根を残す道を誰も歩まずすんだんだ……本当に馬鹿すぎる私は。
後悔しながら俯く詩織。
ヒュンと矢が放たれる音が聞こえた。
なに、今の音?。
トスッと何かに突きさる……真横から呻き声がした。
「真央!」
矢が真央の心臓に深々と突き刺さっていた。
血をドクドク流し苦悶の表情を浮かべるが、適合者はこれぐらいじゃ死なない。
「弓道なら的狙えやボケ!……」
早速引っこ抜き、反撃しようとしたが足に力が入らない。
無理矢理動かすと今度は転んでしまった。
「嘘だ……そんな」
詩織が青ざめていた。
……当然だ、真央の身体がだんだん溶けて水になっていくのだから。
「なっ!……嫌だ……嫌だぁぁぁぁ!」
悲鳴と共に彼女の身体は水になって地べたに服と染みを残した。
「流石冥弓エルクエスタ……物を武器に変質させるモーフィングパワーを与えてくれた朱煉様にも感謝しないと」
前方から歩いて来たのは、160cmぐらいの身長で蒼い弓を手に持った少女だ。
「貴様みたいに、邪悪な奴は母なる海に流れる資格はない……藻屑と化しなさい」
弦に矢が触れ引く動作に入る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
恐怖のあまりパニックになり、セルレギオスの千刃を乱発した。
「愚かな……」
手を翳し、千刃を一端中に止め詩織に返した。
「ぐっぁぁぁぁぁ!」
自分の千刃が至るところに突き刺さる。
「なんで……!?」
「禁忌のあのお方の力よ。愚かな自分を恥じ藻屑に帰りなさい」
少女のエルクエスタから矢が放たれ心臓に直撃し詩織も水になっていく。
みんな……勝手な都合で振り回してごめんなさい……彩菜、真莉……本当にごめんなさい……。
水になる数秒の間、彼女は自身が迷惑をかけた者達を思い浮かべ水となり無に還った。
冥弓エルクエスタは如何なる者だろうと水に変えてしまう。海に還されなかった理由を踏みしめ天に向かうといい。