「銀陽さん……」
白咲街のあるホテルの中……快楽に身を委ね甘い声で彼氏の名前を口にする瑠奈。
彼女の身体は今銀陽と激しく交わっていた。
その声と長髪の火照った後ろ姿は更に銀陽を興奮させる……。
「やはりお前は美しい……もっと綺麗にしてやらなくてはな」
「んあぁぁ……」
体全体が熱くてとろけそうだ。
二人には性的な快楽の他、更に快楽を満たす手段がある。二人だけの秘密、二人だけの嗜好、銀陽はおもむろにカッターナイフを取り出し瑠奈の右腕の手首に刃を立て横に裂いた。
「ふぅあああああ……」
赤く温かい血が流れ今まで以上に瑠奈は快楽に満ちた表情になり、銀陽の心も益々満たされていく。
瑠奈が傷つけば傷つくだけ自分の欲求が満たされる。
傷つけたいから嫌いだから憎いから殺したいから傷つけてるんじゃない……。
愛するが故に壊してしまいたくなる、傷をおった際の彼女の反応がたまらなく愛おしいから傷を彼女の綺麗な身体に傷をつけるのだ……むろん敵にやられた時などはまた別だ。
銀陽が瑠奈を傷つけたくなったのは中学3年生の頃だ。
当時、銀陽は自分の人生に嫌気がさしていた……体育もでき勉強も出来て学年一の成績だった銀陽。
教師からは歓迎され、女子もよく彼に告白したりしてきた。
お前は我が校始まって以来の秀才だ。
ねぇ、銀陽君。休日遊ばない?。
だからなんだ
誰も本当の自分を知ろうとせず、外面だけで接し投げ掛けられる聞こえがいいコトバに彼はいつしか腹立たしさを覚え段々感情がなくなっていった。
なるべく誰とも触れず冷たく過ごした銀陽が3年にあがり最後のクラス替えを迎える。
これが俺の最後のクラスというわけか……どうせつまらぬ一年を迎え終わりと言ったところか。
「あの、白照銀陽さんですか?」
クラス替えで隣になった女子が自分に話かけてきた。
また、上辺だけの誘いでもされるのか。
少し鬱屈な態度で、そうだがと返す。
「やっぱりそうでしたか。私、伊里愛瑠奈と申します」
伊里愛瑠奈……どこかで見た名前だ。
瑠奈は続ける。
「中学1年の時から学年1位をキープするって本当に凄いですよね。私達の年代って勉強なんか手につかないぐらい遊びの誘惑が多いのに立派ですわ銀陽さん」
明るく笑顔で銀陽を誉める瑠奈。
銀陽が思い浮かべたように自分を誘惑するような内容でもただただ偉いと評価を下すというわけでもなく……瑠奈は同じ年代からの立場として銀陽を敬ったのだ。
……初めてだこんなこといわれたの。
「瑠奈さんと言ったか……ありがとう」
「いえいえもっとご自分を気遣ってくださいね!あなたは私の尊敬すべき人ですから」
既視感の正体は成績順位が壁に貼り付けられた際の自分の下の名前の蘭だった彼女はいつも2位なのだ。
この件以降銀陽も次第に瑠奈に心を開いていくようになり学年1位の彼が学年2位の瑠奈と一緒に勉強することも多くなった。適合者ということも互いに告白し触れ合いが多くなり互いの苦労話も聞ける仲になった二人はだんだん惹かれあっていく……。
……その一方でまた別な感情も銀陽の中に形成され始める。
そして3年の1学期が終わる日……銀陽は瑠奈を誰もいない図書室に呼び寄せた。
「お話ってなんでしょう銀陽さん?」
「瑠奈。俺はお前が好きだ。前を向き健気に生きる陽のように眩しい姿がな、まさしく俺の銀火竜リオレウス希少種のようだ」
瑠奈は目を見開き、口に手をあて暫くこちらを見つめていた。
「……本、当ですか?」
信じられないと言った様子だ。
かなり間があいて彼女は聞き返す。
銀陽は首を縦にふる。
「俺のモノになってくれるか」
ゆっくりと銀陽は手を差し出した。
「……はいっ!」
頬を赤く染め少女はその手を固く握る。
この美しい笑顔を越えられる表情をこれから俺が作り出してやる。
「ところで以前俺に話したな。昔現実に苦難しリストカットを自分の腕に施したと」
「えぇ……小5の頃から中2にかけてちょっと、そのあと叔父さんからこの子を貰いなんとか安定してきたのです」
瑠奈は金火竜リオレイア希少種が眠る胸を撫でた。
リストカットに行うようになった原因は小5の時、ある同級生に恐怖を覚えたことから始まる。
名前はソラで女子……漢字は思い出せないがそんな名前だ。
何故恐怖を覚えたか。
彼女の振る舞い方がたまらなく異質だったのである。
小学生にしては酷く大人びた物言いをし、同級生に接する際も友達とのそれではなくまるで召使いのように接していた。
でも、誰も彼女には物言い出来ない、生徒だけではなく教師も……瑠奈の目でも分かるほど皆彼女のことを恐れあまり怒らせないようにしてたのを覚えてる。
瑠奈もある時彼女に。
『人間っていいわよね。簡単に死ねて苦から逃げられるんだから』
ね、瑠奈ちゃんと笑いながら言われたことがあった。
小5の自分にはソラが恐怖の対象で彼女はどうしようもなく、のどを駆け巡るような恐怖から逃げるためリストカットに手を染めた。
いけないと分かっていたが切ってる間は苦難を忘れられた。
家族になんとか隠しながらリストカットは小学校を卒業してから叔父から御守りとして金火竜の勾玉を貰う中学2年の頃まで続く。
「後天的な適合者か、天然の勾玉なのか?」
「はい、そう言っていました。入手した場所までは教えてくれませんでしたが」
「そうか……瑠奈俺はもうお前へのこの感情が抑えきれそうにない」
「きゃっ!」
銀陽は瑠奈を抱き引き寄せ髪を撫でた。
やだ……銀陽さん、凄く興奮しているわ……でもこんなとこで教師が来たら……。
「んんっ!」
吸うように銀陽が口を吸ってくる。
最初、少し抵抗感があったが快楽に負け瑠奈も銀陽に舌を絡めあわせた。
「……っはぁ!、誰かきたらどうするんですの?」
唾を垂らし笑いながら少し怒った口調で尋ねる瑠奈に、教師共の動く時間は計算してあると話した。
「だから今は大丈夫だ……瑠奈、俺はお前の美しい身体に傷をつけたいのだ。この白い手首に」
「……悪い冗談ですよ。そのカッターナイフで切ろうと言うの?」
彼の手には銀に輝く刃物がこちらを向けた状態で握られている。
「冗談ではない。頼む数秒でいいから動くな」
いやっ!と拒否しようとしたが身体はすんなり銀陽の言葉を受けつけ彼のされるがまま手に赤い筋が走った……。
何故痛くないの?。
深々とナイフが自分の腕を裂いたにも関わらず全く痛みを感じない……リストカットしてた時でさえ痛みはあった。
むしろ……どうしようもなく心地良い。
私は今どんな顔をしてるのでしょうか。
ふと疑問に思ったが銀陽は興奮しながら腕を切ってるから悪い顔ではないはずだ。
二人は満足いくまで歪んだ嗜好を楽しんだあと、図書室で若さに身を任せセックスをいっぱい楽しみ晴れてカップルとなる。
この歪んだ関係を二人は高3に至る今まで続けてきた。
「凄く気持ち良かったです。久々にするとやっぱりいいですね」
火照った身体でベッドに倒れながら上目で銀陽に視線を向ける瑠奈の頭を銀陽は撫でる。
「あぁ。俺にはお前だけだ……お前以上の女はいない」
「私もです銀陽さん」
本当なら禁忌の適合者への対策を練らなくちゃならないが二人とも気分転換を求めていた。
静かに二人は抱き合い深くキスをした……もう帰る時間だ。着替えをしてドアの前に立ち銀陽がドアノブに手をかけドアを開ける。
「ハーイ」
「何者だ……?」
見知らぬ白いドレスを着た女子が待ち構えるかのように部屋の前へ立っていた。
……この人なんか見覚えがあるような。
瑠奈は記憶を辿る。
「祖雷様!このリア充共を殺しましょう!」
物騒な台詞を吐き頭に紫の花飾りとガーターを装着した女子も乱入してくる。
祖雷……まさかこの目の前にいる女性はあの深天祖雷……!。
瑠奈は完全に思い出した。
なんでこんなところに祖雷がいるかは分からない。
祖雷の方も瑠奈が自分の正体に気付いたのを察したのかにこにこと瑠奈を見て笑う。
「久しぶりね、瑠奈ちゃん」
「祖……雷さん、何故ここに……」
「知りあいなのか?」
「まぁ……」
知りあいたくない知りあいだ。
「あら、そんなに怖がらなくてもいいのに、積もる話もしたいし迎えに来てあげたのよ。早く外へ行きましょ」
廊下の方へ足を進めた。
「待て、どうやって俺達の動向を探った?友達にすら俺達は今日の予定を話しちゃいない」
ゆっくり祖雷は銀陽の方を振り向く。
「なんでかしらね。考えてみたら?」
「おちょくってるのか……」
怒りの感情がわき祖雷の肩を掴もうと背中に迫った瞬間、発光と共に焼け死ぬような感覚が身体に走った。
経験したことがない激痛に銀陽は床に倒れる。
「銀陽さん!」
駆け寄るも完全に気を失ったようだ。
「あらあら、リオレウス希少種は雷に弱いのに食らってしまって大丈夫なの?…私のデフォルトで発生してる雷属性のエネルギーのバリアに触れるからよ…まぁ、私の話を聞かないならあなたも彼氏と同じ運命を辿らせてもいいんだけどね」
昔と変わらぬ振る舞い。
馬鹿にしたような目でチラリとこちらを見て笑っている……。
「聞かないなら……どうするのです?」
フッと笑う。
「このホテルに男の焼死体が1つ転がることになるわ」
「私はどうなっても構いません。銀陽さんだけは解放してください!」
「あなたのその犠牲精神も昔から変わらないのね。小学の時も誰かのことかばったり……本当馬鹿みたい。透子最初の指示通りでいくわよ」
「はい」
返事をした透子と呼ばれた女子は、自身の身体から白いもやを噴出した……。
このもやは一体……?。
疑問に思ううちに直ぐ様ホテルの廊下全体にもやが広がった。
「うっ……!」
吸った瞬間激しく咳き込んだ。
気体にしては重く生きてるかのように身体に内外問わずへばりついてくる。
「あなたはなんのモンスターの力を扱ってるんです……」
「ワイバーンごときが小生意気な、まぁ分からないでしょうけど言ってあげる。屍套龍ヴァルハザクよ」
「ヴァルハザク……?」
聞いたことのないモンスターだ。
次第にもやは増幅され、何も見えなくなる……白きヴァルハザクの瘴気の中祖雷はゆっくり瑠奈に語りかけた。
『あの雷の破壊力からあなたは察したかもしれないけど私は禁忌の祖龍の適合者よ。この子は預かるわ、次に銀陽君にお目にかかる時は感動の再会を貴女に届けてあげる。またね、瑠奈ちゃん』
「祖雷さんが禁忌の適合者……。待って!」
靄の中に赤い稲妻が走り、3人は消えた。
……適合者がいなくなりヴァルハザクの靄も次第に消滅していった。
靄が晴れるにつれ透子がもたらした状況が明らかになる……廊下に居た人間は全員死亡し部屋に居た人間達も壁を容易に通り抜けた瘴気で絶命した。
「やだ……銀陽さん。何処に行ってしまったの……?」
絶望を目の辺りにした瑠奈は力なく、壁にもたれ泣きながら膝を崩す……瑠奈にとり銀陽は歪みながらも確実に愛しあった大事な恋人とあり拠りどころなのだ。
「必ず貴方を取り返して見せますわ銀陽さん」
様々な感情が渦巻く中揺るぎない自分の正義を固く誓う。