待合せ後、彩菜と真莉は二人の服が路上に落ちてるのを発見した。
……白咲町のデパートではカップルを見つけた透子が暴れ始め、直人と黒夢は狙われてしまう。
マジ……かよ……。
倒れた身体がピクリとも動かない。
鏖魔ディアブロスの最終形態の狂暴走状態になっても、目の前の怪物……ミララースの適合者深灼焔紅には敵わなかった。
だが蓮も焔紅にダメージを与えられなかったわけではなく、ほんの一瞬の隙を狙い決死の覚悟で折られた角を掴み彼の右目には荒々しい鏖魔の片角が突き刺さっていた…。
激痛で少しの間動けなくなった隙に戦闘から離脱しようと思ったのだが彼は目に角が刺さった程度では全く行動の支障にならないようだ。
寧ろ彼は、蓮が決死の覚悟で角を刺した際、『ははは!やはり雑種にしては貴様は出来る方だ』と称賛とも馬鹿にしたとも思わせる発言をし圧倒的な焔で蓮の身を焼きつくした。
現在、自分の身体は勾玉の再生も間に合っていない。
……くそったれ。あんなデケェこと叩いといて俺は街どころか人の命守れるかどうかもあやしいとはな。
紅い焔を纏い焔紅が歩いてくる。
マジに……こんなところで俺の人生は終わりなのかよ……まだ彩菜を襲ったことで奴にブッ飛ばされてねぇのに。
そうだ、自分は彩菜から報復を受けなきゃいけないんだ。
好きだからと素直になれず一真と大輔を使って犯してるところを撮っていると嘘をつき彼女を傷付けた罪の報復を……。
クソが……こんなところでへばってたまるかよ!。
「ぐぐがぁっ……」
全身から小刻みに痛みが襲う。
だが立って彩菜に報復されなければならない。
それが蓮の使命だ。
「ほう、その傷で立ち上がるとはな。貴様からでは土手っ腹に風穴が開いてるのは見えないのだな」
「……感覚なんてもうねぇ。テメェをどうにかしてぶっ倒すだけだ」
ボロボロの様子での強がりは誰の目から見てもハッタリに過ぎなかっただが蓮ももちろんソレを踏まえての発言である。
力の差は絶対的、どうあがいても焔紅には勝てないだろう……だから隙をつきどうにか脱出するしかない。
「ふん、また豪語か。容易く砕いてやる」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
蓮の身体の回りに水蒸気が発生していく。
身体を覆い尽くすばかりの水蒸気を纏った蓮は焔紅へ突っ込む。
「来い!正面から焼きつくしてくれるわ!」
そっちじゃねぇよ。
蓮は真っ直ぐ進まず脱線した車両の壁に軌道を変更し水蒸気爆発を起こした。
爆音と共に一瞬視界が真っ白になり爆発の余波は焔紅にも容赦なく襲いかかる車両も更にずれた。
……水蒸気が晴れると車両の半分が吹き飛び蓮は外に出ることに成功したようだ。
「なかなか粋な脱出ではないか。助かった命……精々楽しめ。次の俺との邂逅は貴様の死と思え」
破壊された穴を見ながら呟き焔紅は電車を後にした……その強靱な肉体は鏖魔ディアブロスの水蒸気爆発を受けても傷ひとつついていなかった。
=====
「お待たせ」
「来たわね、じゃあ行きましょうか」
喫茶店で合流した二人は早速痕跡が残っていないか探し始める。
「彩菜に謝って……へこんだとも優々とした気になったはずだから……ここらを通ったとみたわ。ついてきて」
あの二人の行動範囲はだいたい読めると言った真莉に従い町中を歩いていく。
っていうかよく場所を読めるわね、すごいな……。
あれ!と真莉が前方指さし叫んだ。
無数の尖ったモノが刺さったような穴がアスファルトと壁にあって濡れた二人分の衣服がポツリと落ちている。
……その服は彩菜に見おぼえがあるものだった。
「これ…真央と詩織の服だわ」
「……マジ?」
二人の服と無数の穴……状況をある程度推測できた真莉を怒りが包み身体から第二形態の龍属性の稲妻が駆け巡った。
「嘘よそんな嘘でも現に詩織のセルレギオスの放った千刃は消えちゃってるじゃない!。二人の姿もない……どうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
爪を齧りながら抑揚がなく読み上げるように言葉を発する様子に彩菜は恐怖を覚えた。
「真莉……」
「ごめん……ちょっと落ちつけそうにないわ。だってこの場の状況が示してるんだもの―――
あの二人が殺されたことを、ね」
真莉の話によれば、この無数の穴は詩織のセルレギオスが放ってできたものらしい。
生きていたのならまだ突き刺さってるのに全て消滅している。
極めつけはやはり服か。
殺った奴は変態野郎かも、と苦々しく漏らす。
「亡き骸すら見せずに殺すなんて完全に二人の両親に喧嘩売ってるじゃない!クッソ……犯人分かったらこのグァンゾルムの力で焼きつくしてやる」
炎と龍と憎悪が渦巻く……。
二人の親友のため絶対敵を取るという執念を燃やして……。
「自分から水になりにくるとはな」
次は愚かにも、朱煉様と同じ火属性の力を扱うあいつら二人だ。
弦が引かれ、真莉の心臓に矢が向けられた。
=====
白咲町のあるデパートは混乱に巻き込まれた。
清楚な床は真っ赤に染まり、黒触竜ゴア・マガラの適合者黒夢は蝶のような真っ黒な翼を広げ地面に横たわる。
楽しかった直人と黒夢のデートは、瘴気を纏う適合者によって地獄の底に叩き落とされた。
「はぁはぁはぁはぁ……あはぁ♪」
「おねが……やめ…て…死んでまで直人君を辛い目にあわせないで……!」
彼女は泣きながら透子にいたぶられ殺された直人のことを案ずる……奇襲を受け戦闘した際にこの適合者は頭の螺が何本か外れてることに気づいた。そもそもこんな人がいっぱいいる場所で戦闘しようとすること事態おかしいが。
自身を庇って前に出た直人は透子の圧倒的な力に直ぐ様殺される。
そして攻撃の手は黒夢にも襲いかかり、これも圧倒的な力の差で一方的にやられてしまった。
大ダメージとそれに伴う傷が身体中に出来て全く身体が動かない時、この女は攻撃の手を更に苛烈にし、彼と同じくあんたも死ね!。あんたらムカつくのよリア充が!と罵声を浴びせられ胴体の骨が折られるほど踏みつけられたりした。
攻撃の手がピタリと止み、一旦彼女は黒夢から離れた……何故離れたんだろうと見てみると……顔を赤らめ興奮した様子で自分が殺したギギネブラの適合者、直人の首を手にしてニタリと笑いながら見せつけるように瘴気で腐らせていった。
愛をこれから育むと予定だった彼の頭は僅か10秒で無惨な骸と化し粉になり崩れ落ちてしまう。
「あ……なお、とくん……」
「はははは…あーはっはっはっは!死んで正解だわこんな馬鹿男!」
もう彼と触れ合うことも出来ない……。
無意識の内に涙が頬を伝う。
「はぁっ!?好きな男死んだから泣こうっての?ウッザ!あんたも死ね!」
両手を広げ瘴気の渦が透子を取り巻くように形成され始める。
あれをこちらに撃ってくるんだ……。
黒夢は避ける気はなかった。
どうせ怪我で避けられはしないし、力の差も違い過ぎる、逃げ道もないのだ。
このまま死んで直人君の元にいくしかないね。
それは絶望の中のほんの僅かな希望……直人に会えるなんて……幻想かもしれないが今はこの希望(虚構)にすりつくしかない。
少しだけみじめな思いはせずに死ねるかな。
最後の抵抗も兼ねて黒夢は優しく微笑んだ。
「笑ってんじゃないわよ!」
透子の手からヴァルハザクの瘴気ブレスが放たれる。
黒夢はそっと目を閉じる。
当たって塵になるのだと覚悟して。
「危ない!」
「……っ!」
身体が抱えられ、ゴロゴロ転がる。
「ふぅ、大丈夫か君?」
「あ……ありがとう」
死にかけの自分を間一髪で救出してくれた少年に礼を述べる。
撃たれる寸前で助けてくれたってことがこの少年も適合者であることを示していた。
「亮!無事か!?」
「禁忌やら町の異変捜査しとったらえらいもんにでくわしたな……あの女勾玉も性格も相当ヤバイで」
「怖がるな健太郎、そんな中でも俺のライゼクスは反逆するのさ」
後ろから少年の仲間と思われる3人の姿が見えた。
「仲間?めんどいけど、リア充っぽいし一気につーぶそっと」
「何がリア充だ。端から見ていたがお前のやってることは八つ当りで人を殺してるだけだ。俺のクラスメイトの命まで奪いやがって、絶対許さねぇ!」
―アォォォォォォン!
ジンオウガの遠吠えが響いた。