突然矢を射たれたことに腹を立てた真莉は少女と戦闘を始めた。
摩訶不思議なモーフィングパワーや形態変化を扱う少女に彩菜はある答えを出す。
この矢は……?。
突然心臓目掛け飛んできた矢をひらりとかわす。
「大丈夫?」
「あっぶねぇな……いつからこの国は道路で弓を射ていいって許可が出たのよ?」
矢が飛ばされた方を見ると、ポツンと一人立つロングヘアの少女が不意に微笑んだ。
「これってさ。どう見てもあいつが放ったってことよね」
「まぁ、矢が飛んできたとこにいてこっち見て笑ってるからね」
分かりやすい構図だ。
「あんた!なんのつもり?喧嘩売るんなら買ってもいいけどー?」
謝った方が得だと思うけどね。と言い龍属性の稲妻を身に走らせる。
彩菜もラ・ロの力を纏う。
「吠えないで所詮あなた達は愚か者なのよ」
「いきなり人に矢を放つ見ず知らずのクソ野郎に言われる筋合いはねぇわよ」
「フフ、自分が何故撃たれるかって考えには至らないんだな」
「はぁ?あんた本当潰すわよ」
あの少女も大概だが真莉も口が悪いな。
クレープ店やプリクラ店に並んで絡まれたくない人間の上位を争いそうだ。
「潰す?お前ごときに?。これは傑作だな」
「あー!ムシャクシャするわ!傑作だかどうだか今からその目に焼きつけろ!古龍の幻影!」
古龍の適合者の固有能力が発動した。
古龍の幻影で場は置換えられグァンゾルムの住み処雲見砦へと切り替わる。
「どうだ小娘!今から泣いても遅いからね」
「ほう、適合者は少々オツムが足りないように見えたが中々モンスターの方は立派なんだな。景色からして神聖さが滲みでているもの」
「なによこの挑発大会選手権の出場者は、まぁいいわ。いきなり人の命とろうとした奴が話合いで理由語るとも思えないし……潰させてもらうから」
『出来るものならな……』
ゆっくり発言した台詞に二人の身体に寒気が走る。
不気味だな…いやいやこんなとこでひけないわ。せっかく互いの勇気で仲直りした友達も見てることだし……友達として彩菜の助けになって支えなきゃ。
「真莉!一人で大丈夫!?」
「えぇ!痕跡探しに協力までしてくれた彩菜の手を患せられないよ。それに喧嘩売られてんの私だからね」
さーて、どうしようかしら。
「来ないのだな。こちらからいかせてもらおう」
少女の目の色が水色になり首にかけてある装飾品を1つむしり長い薙刀のような物に変化した。
なんだあの能力……古龍でも聞いたことない。
「モーフィングパワーによる物質変化を見たのは始めてのようだな。この薙刀は私のラギアクルス希少種の力がこもった武器だ。私の形態も変化し『俊敏体』となった。これも全てあの方のおかげ」
「ラギアクルス希少種?……なんで陸で戦えてるのよ」
老いた個体が海底遺跡に行って住み着いた個体が冥海竜となって陸と無縁の種となるのに原種や亜種ならともかく希少種が普通に陸で行動してると言うのが信じられない。
「お前のような不躾な奴に語る道理はない」
ムカつくな、聞くだけ無駄ってか。
「そう。物質変化だとか、形態変化だとか、よく分からないけど全力で叩きのめしてやる」
爆音と共に、地を砕きながら進むブレスが放たれた。
「ふん」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
その驚きは絶叫に近い。
古龍の、グァンゾルムの一撃を少女は片手を前に突きだし空中でピタリと止めたのだ。
少女が放るような仕種を取ると止められたグァンゾルムのブレスは彩菜目掛け激突した。
砂煙が舞い上がる。
いったぁ、攻撃受け止めて跳ね返すとか……。
もうここまでくるとラギアクルス希少種に扮した古龍と言われる方がまだ納得出きる。
有り得ない特殊能力が多すぎるのだ。
でも確信したわ。あのラギアクルス希少種の適合者はモーフィングパワーと自ら口にしたし今攻撃を止めたのは念動力の類の可能性が高い……あの適合者、禁忌から力を受けとったんだ。
かつて暴走した、政敏や杏奈のように……。
真莉に伝えるべきかしら?。
正直伝えたから事態が好転する情報じゃない。
でも真莉が今どれだけの脅威に対峙してるか言えば限界が来る前に撤退または彩菜と戦闘を交換しやすくなる。
力を格付けする感じがしていやだが第7形態に破れたグァンゾルムでは素体が古龍級の希少種であるラギアクルス希少種には勝てない。
原種のベリオロスやデュラガウアでさえあんな並外れた強さとなるのだ。
「まさか今のが全力とか言わないよね?」
少女が目にも見えぬ速さで移動し一瞬で間合いを詰め、薙刀の振りを腹部に命中させた。
身体をくの字に曲がらせ後退してしまう。
「真莉!」
「海竜種が……!」
「その海竜にあなたは押されている。古龍なのにね」
「なめるな!」
龍属性を纏った腕を力づくで少女に叩きつける。
この攻撃は炎ブレスと違い少女に直撃した。
「くっ……」
踞り、少女の手から離れた薙刀は装飾品の勾玉に戻った。
「どうよ?。お見舞いしてやったわよ!」
「図に乗るな。俊敏体は私の形態の中で3番目に防御が低い、むしろこれだけしかダメージを与えられないとはな」
少女の瞳が紫色に変わる。
さっきこいつが言ったようにまた形態変化したのかしら?。
間合いを取ろうとする瞬間、腹部に蹴りを食らい身体が宙をとぶ。
さっきより……力が強くなってる……!。
薙刀を食らった時と比較にならない力だ。
「……ゲェッ!……ガホッ……ゴホッ……」
喉を競り上がる不快感を味わったあと……たまらず、血を吐いた。
「真莉!無理しないで!そいつ禁忌の力を持っているわ!」
禁忌……の力……禁忌のモンスターって都市伝説の類だと思ってたのに、本当にいたの?。
「よく気付けたな」
「あなたがベラベラ喋ってくれたおかげでね。禁忌の適合者の知り合いが話してたこととあなたが用いた力の特徴は一致する」
「そうか…ふんっ!」
真莉を拳で彩菜の方に殴り飛ばした。
「容赦ないわね」
暴風の威力を弱めたものを発生させ、真莉の吹っ飛ぶスピードを抑え彩菜はキャッチする。
「真莉…!」
その姿はかなり痛々しい、今の一撃で意識を刈り取られ顔は吐血で赤くなり身体中傷だらけ特に服の上からでも分かるように腹がズタズタになって臓器か骨でも盛り上がったのか異様な突起まで出来ていた。
「再生が間に合ってない!」
「落ちつきなさい。その程度で私達が死ぬわけないだろう」
「よくも真莉をこんな目に、許さない!」
「これはおかしなことを言う。藤沢彩菜。そもそもあなたは結城真莉…いや、クラスほぼ全員からいじめられていた……その一因を担ってた女がボロボロになったのに……そんな無理して仲直りなんてせず喜べばいいじゃない」
「禁忌の力が渡されたあなたが私の過去を知ってるってことは他の禁忌なら他人の記憶を読むのなんて造作無いんでしょうね。……報復は一度きりでいい。踏み込めば踏み込むだけ泥沼に悪化する。だから私は一度報復すればもう相手を攻めない。力を使わずして理解出来るのが一番だけど」
つくづく自分の考え方は変わったんだと今話してる中で彩菜自身が感じていた。
あんなに酷いことをされた真央と詩織にいたっては力を行使してないけど別に鬱憤や後悔もない。
あの試練が成立したのは真央と詩織にも彩菜に謝る気持ちがあったからだろう。
力を持つことは悪くないが、力を使わずとも物事は解決できると体験した場面だ。
「なるほど、藤沢彩菜。あなたは神を信じる?」
「突然なに?」
「信じる方が少ないかもしれないけど私はあのお方を尊敬してる。あのお方は選らばれし人なんだから……あのお方とその素晴らしい意思に賛同する者以外粛清の対象よ!」
首の装飾品をまた1つとり、今度はおっきな大剣を手にした。
「あのお方ってのは禁忌ね。海竜種に関係がある……つまり海に関連がある禁忌はグラン・ミラオス」
「当たりよ、あなたは悪い行いをしたから粛清されるわけじゃないってことは言っておくから。その刻竜の力があの方を脅かす懸念の一種なの。喜びなさい愚行で殺されるじゃないと分かっただけでもあなたの魂は救われた。聖なる海に流してあげるわ」
気味が悪い台詞をすらすらと発するその姿は異様だ。
もうその事柄にハマって絶対の正義と信じて他のことは手つかず、そんな印象を覚える。
「……なにそれ、愚行かどうかは、グラン・ミラオスの適合者が決めるの?」
「当然でしょう?選らばれし方なんだから」
「ふざけないで、私達の運命を勝手に決められるなんてごめんよ!」
亮、残念だけどグラン・ミラオスの適合者は味方になることはないわよ。
自分の信念を実力行使で他人に押し付ける、黒邪達と同等かそれより質が悪いかも。
「なんだと……あのお方を愚弄するのか?……あのお方を愚弄するのかぁぁぁぁ!一介の適合者の分際でぇぇぇ!」
突然怒りで吼えた。
少女のまわりにラギアクルス希少種特有の黒い稲妻が走り目の色が紫から金色に変わる。
「神の力その身に刻むといいわ」
雷を纏った竜巻が目に見えて十数個超速で彩菜に突っ込む。
第7形態へ移行し、一本一本すんででかわす。
続いて彩菜は旋回突進を繰り出すが、少女は身体を一ミリも動かさず突っ立ったまま受け止め……フィールド全体を覆う黒い大放電を起こした。
「…………っ!」
悲鳴すらあげる間もなく彩菜は気を失った。
「思い知ったか……神により強化された私の力を……」
冥海竜ラギアクルス希少種の適合者……冥沙は纏身を解きゆっくり彩菜の頭を撫でる。
「あなたも感じるでしょう。だんだんと自分の鼓動が弱くなってるって……でもそれは愚かにも神に背いたあなたへの罰だと思うがいいわ。死んだら私が迎えに来てあげる……それまでせいぜい残された時間を楽しみなさい、救われし者よ」
冥沙は自身の雷属性の力で気を失ってる真莉の脳波を操り幻影を解除し外へでた。
脳波の操りは無抵抗な者にしか使えないため気絶は都合がいい。
……彼女は無意識にラ・ロとやり取りをしていた。
はぁ……負けちゃった。しかもあの適合者の雷のせいで心臓がもう少しで完全に止まってしまうかもしれない。
-私の最高形態第7形態すら禁忌には遠く及ばんようだ。力になれずすまない。
しょうがないよ。でもほとんどの人と試練が出来て良かったかな。打ち解けられたりもしたし。
-彩菜、これは私の推測だが聞いてくれ。
なに?。
-あの冥海竜の電撃を帯び、私の中で変化が起きているのだ。このままいけば死ぬかもしれないがもう一度強大な電気を帯びれば……第7形態を越える力が手に入るかもしれない。
じゃあ本来ない第8形態の力を宿すかもしれないの?。
-あぁ。私も新発見だ。まさか電気を浴び変化が起きるとは……。
本当ね。煌輝君のアルバトリオンあたりに電気をもらえばいけるかも!。
ここで会話は途絶え彩菜は目を覚ます。
くぅ!……心臓が焼けそうなくらい痛い。
真莉も傷は修復してるし大丈夫だろう。
なんとか激痛をこらえて歩くその背中にまた新たな激痛
が走る。
もう立つのがやっとの彩菜はストンとひざまづいた。
「やあ……彩菜。その様子だと強敵と戦い死にかけってとこだね。君の敵に感謝しなきゃ。今なら僕のネルギガンテで君を葬れるよ」
「裕……也」
立っていたのは3年3組学級委員長山瀬裕也。
纏ったその棘には見おぼえがあった。
旅行の時旅館で風翔の命を奪った棘だ……。
僕はやっと苦しみから解放される。彩菜のあとは両親だな。
……母さん見ていて。